会社設立のメリットとデメリットとは

専門家監修記事
独立と一言で言っても、会社を興して独立するのか、それとも個人事業主として事業を始めるのか、どちらを選択すべきか悩まれることでしょう。この記事では、独立における会社設立(株式会社)のメリットとデメリットをご紹介します。
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
監修記事
会社設立・新規事業

「独立して好きな仕事をしたい」、「独立すれば自分の思いどおりに仕事ができる」とお考えの方は少なくないのではないでしょうか。実際、独立して自由に仕事ができれば、会社勤めの頃よりも大きな満足感や達成感を得ることができるでしょう。

しかし、独立すると一言で言っても、会社を興して独立するのか、それとも個人事業主として事業を始めるのか、どちらを選択すべきか悩まれることでしょう。実際、独立する際には多くの方がこの悩みを抱いています。

この記事では、独立における会社設立(株式会社)のメリットとデメリットをご紹介します。

 

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会社設立の9つのメリット

会社設立には、以下の9つのメリットがあります。
 

  1. 法人税の面でも節税に有利
  2. 欠損金が9年間繰越し可能
  3. 助成金で有利
  4. 資金調達で有利
  5. 人材の確保で有利
  6. 社会的信用が得やすい
  7. 取引先の幅が広がる
  8. 決算月の自由度が高い
  9. 将来的に事業承継がしやすい

 

それぞれについて解説していきます。

①法人税の面でも節税に有利

独立をした場合、個人事業主を選択するか、それとも会社設立を選択するかは大きな決断です。特に、税金の面で大きな違いが出てきます。

サラリーマン時代は所得税などの税金が源泉徴収のため、税金に触れたこともないという方も多くいるのではないでしょうか。もし、税金のことを何も知らずに独立してしまうと、予期せぬ資金のショートが発生したり、廃業に追い込まれる恐れもあります。


ここでは、会社設立をした場合に受けられる税金面でのメリットをご紹介します。
 

給与所得控除の利用ができる

『給与所得控除』とは、会社から給料を貰うサラリーマンに対して、給料の一部を必要経費として計上することができる控除制度の一種です。

個人事業主の場合、事業で得た売上はそのまま自身の収入となり、この収入から必要経費を除いた金額が、課税対象となります。

これに対し、会社を設立した場合には、事業を行う上で支払った経費はそもそも売上から差し引かれ、さらに給料からも一定割合が給与所得控除により課税対象から差し引かれます

その結果、個人事業主と会社設立の場合とでは、税金面で大きな損得の差が発生するのです。

 

相続税がかからない

相続をする場合、個人事業主の事業用財産は相続税の課税対象です。一方、会社は法人格を有しているため、社長など個人が死去した場合も会社の財産それ自体は相続対象にはならず、相続税がかからないという仕組みとなっています。
 

消費税の免税措置がある

消費税とは、一定の消費に対して所定の税金を徴収するものです。しかし、実際の納税は消費者本人ではなく、事業者が行う仕組みとなっています。そのため、個人事業主や会社経営者などの事業者は、顧客から消費税を一時的に預かり、自分が支払った消費税との差額を納めなければなりません。

独立時に資本金が1,000万円を下回る額であった場合、設立・開業した初めの2年間は、「免税点」として、消費税を納めなくてもいいとされています。また、消費税課税の基準期間の売上高が1,000万円未満であれば、この場合もまた納税義務が免除され、消費税を納めなくていいのです。

 

役員報酬を経費で賄える

会社を設立し、配偶者や家族に給与を支払った場合、そのお金はすべて経費として計上することができます。さらに、その給与の金額が103万円以下であれば、38万円の配偶者控除まで受けることができます。

また、収入が103万円以上で114万円以下という配偶者がいた場合、「配偶者特別控除」という税金控除制度を適用することもできます。

一方、個人事業主は配偶者に一度でも給与を支払うと、その金額に関わらず配偶者控除や扶養控除の対象から除外されてしまい、税金の負担も大きくなります。

 

②欠損金が9年間繰越し可能

個人事業主や会社経営者は、「繰越控除」という制度が利用できます。この制度は、赤字が発生した場合に、その赤字分を来年度以降に持ち越し、黒字だった決算期に相殺することができるという制度です。

ビジネスには波があり、いつでも利益を上げ続けることは現実的に困難ですので、こうした控除制度を活用することが重要になってきます。

繰越控除できる期間は、個人事業が3年間であるのに対し、会社の場合は最大で9年間繰り越すことができます。さらに、平成29年4月1日以降に開始する事業年度に生じた欠損金については、繰越期間が10年となります。なお、この繰越は国税と地方税の両方に適用されます。

③助成金で有利

国や地方自治体が行っている補助金・助成金の制度には、対象を法人に限定しているものもあります。会社であればこのような制度の対象となりますが、個人事業主は対象とはなりません。

④資金調達で有利

会社は、個人事業主と異なり、株式の発行による資金調達が可能です。このように資金調達の幅が広いという意味で、会社の方が個人事業主よりも有利といえるかもしれません。

⑤人材の確保で有利

近年、雇用状況は回復傾向にあるものの、かつての芳しくない雇用状況を覚えている市民は、まだまだ雇用に安定や安心を求めています。個人事業のもとで働くよりも、会社に入って正社員として働きたいという方は多いと言えます。

そのため、個人事業主として事業運営をするよりも、法人として事業運営をする方が、人材の確保がしやすいという側面はあるかもしれません。

⑥社会的信用が得やすい

現代社会を生きる人の中に、株式会社という名称を聞いたことがないという人は、一体どれだけいるでしょうか。それほどまでに、株式会社という名称は全国に浸透し、世間の高い認識率を誇っています。

つまり、株式会社という看板を掲げているだけで、社会からの一定の支持が得られる可能性は全くないとは言えないでしょう。

 

ただ、株式会社が出資金1円からでも設立できるようになった現代社会では、このような信用は幻想かもしれません。したがって、この点はあくまで感覚的なものでしょうね。

⑦取引先の幅が広がる

社会的信用を得やすいというメリットは、取引先の幅が広がるというメリットにもつながります。そもそもビジネスは、「信用」を得ることからスタートします。顧客は信用できる相手でなければ継続した取引に応じません。

信用はすぐに生まれるものではありません。長い時間をかけて、ゆっくりと形成されていくものです。しかし、初めて取引をする場合には、信用が全くない状態からスタートします。個人事業よりも会社の方が信用されるかもしれないのであれば、法人化して損はないでしょう。

なお、株式会社には法人登記制度がありますので、自身の身元を公的に証明することができるという意味では使い勝手がよいかもしれませんね。

⑧決算月の自由度が高い

会社の場合、決算月は自由に設定することができます。一般的には、3月を決算月としている会社が多いですが、1月でも4月でも9月でも、自由な月を決算月として設定することが法律で認められています。決算月を自由に設定できるという性質を利用することで、税金対策を講じることができます。

利益が一番出てしまう月を決算月にしてしまうと、会社に利益が多く残った状態で決算し、それだけ多く課税されてしまいます。

売上のピークを過ぎて、経費もある程度支出できた頃に決算月を指定していれば、上手く利益を配分した後に課税となりますから、税金対象となる額が減少します。

こうした点を踏まえて決算月を設定するとよいでしょう。

⑨将来的に事業承継がしやすい

個人事業の場合、事業用に使う口座とプライベートな口座を分けて所有していたとしても、どちらも個人の資産として扱われます。そのため、個人事業主が死亡した場合、相続税が多額となったり、相続処理がそもそも困難であったりということはあり得ます。

結果、個人事業の場合、事業を継ごうとしていても、事業承継処理が上手くいかず結局廃業となってしまうというケースも、なくはありません。

他方、会社は、オーナー社長(代表)が亡くなった場合でも、法人と個人の資産は明確に区別されますので上記のような問題は生じにくいです。もちろん、法人の株式は相続の対象となりますが、法人資産は直接影響を受けないため、オーナー社長が死亡しても会社自体の運営は可能です。

オーナーの死亡に伴い、株式の処理を行いつつ、経営権をどのように承継させるのかをじっくり考えるという対応もあり得ますので、個人事業主よりは相続による影響は少ないと言えるかもしれません。

しかし、法人の場合でも株式の帰属で紛糾すれば、当然、経営の支障となりますので、法人だから相続の問題は生じないということではありません。
 

会社設立のデメリット

一方、会社設立には以下のようなデメリットもあります。

開業コストがかかる

個人事業主として独立する場合と、会社を設立する場合とでは、開業にかかるコストに若干の違いがあります。

個人事業を開始する場合には、納税地の税務署に「個人事業の改廃業等届出書」を提出すれば、事業をスタートできます。もっと詳細に言えば、事業をスタートしてからでも、1カ月以内に書類を出せば構いません。それだけ簡単に手続きはでき、コストもほとんどかかりません。

しかし、会社の場合は事業を始めるために、少なくとも25万円がなければなりません。これは資本金の額を抜いた手続き上、必要となる金額です。

会社設立にはさまざまな面でお金がかかり、例えば会社のハンコ(代表印)を用意するだけでも数千円以上かかります。社名や住所、事業目的などを規定した定款は、公証人役場にて認証を受ける必要があるため、その際に約9万円が必要となります。電子認証を行うのであれば、費用は5万円程度です。

定款の認証が終われば、次に法務局で設立登記をします。この登記では、登記免許税という印紙を貼らなければならず、株式会社の設立登記では、最低でも15万円の印紙が必要となります。

 

こうした諸々の経費を合計すると、おおよそ25万円程度のお金がかかります。司法書士などの専門家に作業を代行してもらう場合は、そのぶん、報酬金を支払わなければなりませんので、より費用は増えてしまうのです。

 

このように、開業にあたってのコストが大きいという点が、会社設立のデメリットの1つです。

赤字でも税金の支払い義務がある

会社を設立する場合、固定費として毎年かかる税金があります。それは、法人住民税のうちで利益に関係なく、赤字決算でも課税となる「均等割」という税金です。この「均等割」という税金は、簡単に言うと会社の家賃のようなもので、会社が存在する自治体に支払うことになります。

この「均等割」は、市区町村や会社の資本金額、従業員数などによって変わってきます。ただ、どんなに赤字であったとしても、7万円以上は毎年課税されますので、税金の支払いには注意しましょう。

事務負担が増加する

会社の場合、厳しい経理上の制約が経営者に課せられます。その最大例とも言うべき存在が、複式簿記での記録です。

そもそも、事業に関わるお金とモノの出入りを記録する簿記には、単式簿記と複式簿記の2種類が存在します。個人事業であれば、事業で発生した収入と支出さえ明らかにすることで、確定申告を済ませることができます。この売上と経費の記録だけをする方法のことを単式簿記といいます。

一方、会社の場合は複式簿記での記録が義務付けられています。複式簿記では、1つの取引がもつ原因と結果という2つの要素を同時に認識して記録に残すため、単式簿記と比べてかなり複雑な記録方法となります。

そのため、会社の方が経理業務で負担が重くなり、全体的な事務負担が増加するのです。
 

個人事業主と会社(法人)の違い|どちらを選ぶべきか?

権利や義務の違い

会社と個人事業主の場合、権利や義務に大きな違いがあります。
 

例えば、事業の中で売掛金が発生した場合、個人事業主であれば事業主本人に売掛金の請求権が帰属します。つまり、個人がもつ権利となるのです。しかし、会社であれば、そうした権利はすべて会社という法人が持つことになります。

 

会社というのは法律によって一種の人格と有していると規定されています。だからこそ、「法人」と称されるのです。その結果、事業に関して発生した権利や義務といったものは会社自体に帰属することになり、会社の財産と代表の財産が区分されて取り扱われるのです。

事業の拡大を望むかどうか

個人事業の場合、個人資産と法人資産を区別できない点、資金調達の幅が狭い点、社会的信用の点で、事業規模の拡大には向いていないかもしれません。

これに対し会社は、上記のような問題がない、または少ないため、ビジネスチャンスも多く生まれます。事業を拡大する意思があるのならば、会社を選択すると良いでしょう。

合同会社を設立するのもよい

2006年の会社法改正により、日本に新たな会社の種類ができました。それが『合同会社(LLC)』です。

合同会社は、個人事業主が法人成りする際や、比較的小規模な事業を法人化する際の選択肢として、非常に有用です。そのため、昨今では起業の際に合同会社という形を選択する方が増えてきています。

合同会社は株式会社と同じく法人税の課税対象となり、登記申請も行う必要があります。そのため、一般に登記情報は公開されており、社会的な信用が得やすい状況にあります。

株式会社と違って、意思決定などに株主総会を経る必要もないため、迅速な意思決定ができ、利益分配なども自由に行うことができます。

さらに、合同会社は決算公告の義務がないため、ランニングコストを非常に安く抑えることができます。資金力に不安がある小規模事業者にとっては最適な会社の形なのです。

もし起業をお考えの場合は、合同会社という会社の形も考慮に入れ、検討してみてはいかがでしょうか。
 

まとめ

個人事業主と会社設立、どちらの方法にもメリットとデメリットが存在するため、甲乙つけがたい状態です。

既にある程度の人材や資金、取引先が確保できているのであれば、会社設立を選択した方がいいでしょう。人材が確保できていない、具体的な事業の拡大予想が見通せていないといった場合は、個人事業主を選択することをおすすめします。

独立は、会社を興すことだけが選択肢ではありません。個人事業主という道もありますし、その場合のメリットも数多く存在します。起業した当初は個人事業主として事業を展開し、軌道に乗った後で、法人化しするという手段もあります。

その際は、いきなり株式会社という形ではなく、合同会社というステップを経てみるのもよいでしょう。さまざまな選択肢を検討したうえで、自分に適したものを選択することが重要です。ご自身だけでは判断に迷うという場合は、弁護士に相談することもおすすめします。

 

もっと具体的な費用を知りたい方へ

株式会社と合同会社で会社設立にかかる費用も変わってきます。具体的にいくらになるのか、予め確認しましょう。

 

株式会社と合同会社の費用は?

 

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