懲戒解雇を検討すべき6つの理由|解雇する際の注意点

専門家監修記事
従業員の懲戒解雇を検討すべき理由は主に6つです。しかし、この理由に該当すると直ちに懲戒解雇処分を下すと、従業員から不当解雇として訴えられるリスクがあります。この記事では、懲戒解雇検討すべき理由やその際の注意点を分かりやすく解説していきます。
牛島総合法律事務所
猿倉 健司
監修記事
人事・労務

従業員が犯罪行為や重大なコンプライアンス違反などにより社内の秩序・風紀を著しく乱すような場合では、懲戒処分のなかで最も重い処罰である「懲戒解雇」の処分がなされるケースがあります。

しかし、十分な理由がないままに、また適切な手続きを経ないままに安易に懲戒解雇をしてしまうと「不当解雇」として当該従業員から解雇無効等の訴訟や損害賠償請求訴訟が提起されてしまう可能性もあります。

 

この記事では、コンプライアンス違反等を犯した従業員に対して「懲戒解雇」処分を科して正当に解雇するための理由や、解雇後のトラブルを解消するための方法をご紹介します。

従業員の解雇でお悩みの方へ

正当な理由で解雇しても従業員から「不正解雇」と訴えられる可能性があります。その場合、会社の懲戒処分が無効であると判断されるケースが多く、大きなリスクを抱えることになります。

従業員の解雇を検討している方は、会社内の決定だけで進めるのではなく、弁護士と相談の上、慎重に進めることをおすすめします

 

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懲戒解雇の特徴|普通解雇との違い

普通解雇と比較して、懲戒解雇とはどのようなものなのかについてご紹介します。

普通解雇との違い

「解雇」には、「整理解雇」「普通解雇」「懲戒解雇」等の種類があります。「整理解雇」はリストラのように、企業が経営不振で従業員等の人員を削減しなければならない場合の解雇です。

 

また、「普通解雇」は経営不振などの理由以外で雇用契約関係を解消する解雇です。これに対し、「懲戒解雇」は企業秩序違反を犯した従業員に対する秩序罰として契約を解消する際の解雇です。

 

「普通解雇」と「懲戒解雇」はペナルティ(秩序罰)として行われるか否かという点で決定的に違います。この違いから、両者の取扱いは、就業規則でたとえば以下のように区別されています。

 

 

普通解雇

懲戒解雇

解雇になる

理由

  • 能力不足
  • 勤務態度不良
  • 病気やケガで働く事が難しくなった など
  • 不正・不祥事
  • 業務命令違反拒否
  • 長期の無断欠席 など

解雇予告義務

  • 30日以上前に解雇予告が必要
  • 解雇予告をしない場合、解雇予告手当の支払いが必要

普通解雇と同じであるが、労働基準監督署長の認定があれば解雇予告及び予告手当不要

退職金の支払い

支給あり

全部又は一部が不支給となる場合あり

懲戒解雇の特徴

懲戒解雇は、上項の表のとおり退職金の支給やり、解雇予告手当が不要となるため、会社としては結果的にコストを要することがなくなりますが、他方で、労働者側は大きな不利益を受けることになります

 

また、懲戒解雇歴があると、再就職しようと思っても採用を見送られる可能性があるなど、退職後の就職活動にも悪影響を及すこともありえます。

 

その意味でも、懲戒解雇処分を行うことは、当該従業員から不当解雇を理由に訴訟を提起されるなどのトラブルに発展するリスクがあります。そのため、従業員の行為が、懲戒解雇が認められる事由にあたるか否か、その手続きは適正かについて、弁護士等にも相談の上で慎重に検討することが必要となります。

懲戒解雇を検討すべき6つの理由

以下のような理由がある場合、懲戒解雇を検討すべきでしょう。

では、具体的な項目について確認していきましょう。

①深刻な不正行為

会社の信用を裏切る深刻な不正行為は、懲戒解雇の対象となり得ます。例としては、横領や着服など刑事責任を問われるような行為が挙げられますが、このような不正行為(犯罪行為)を行った従業員については、懲戒解雇が有効とされたケースが多くあります。

 

また、このような不正行為(犯罪行為)により会社に損害が与えられた場合、会社としては、当該従業員に対し、懲戒解雇処分と併せて損害賠償請求や刑事告訴を検討することになります。

不正行為により懲戒解雇に至った事例

2019年|A信用組合 2億円を着服した元支店長を懲戒解雇

信用組合において、預金などから約2億円を着服した元支店長を懲戒解雇としたうえで、業務上横領の罪で刑事告訴の手続きを進めていることが報道されています(参考:UTY)。

②会社の信用・社会的評価を著しく害する行為

従業員が私生活において会社の信用や社会的評価を大きく損なわせるような行為を行った場合、懲戒解雇が認められることがあります。

 

もっとも、従業員による職場外の行為(私生活における行為)については、それが会社の信用や社会的評価を損なわせるような行為であったとしても、直ちに懲戒処分ができるわけではないということに注意が必要です。懲戒処分は、企業内の秩序を維持する目的で行われるものであることから、業務とは関係ない私生活上の言動を理由に処罰することは原則として許されないと考えられています。

 

たとえば、住居侵入罪で2,500円の罰金刑を受けた従業員を懲戒解雇した処分が無効であると判断された裁判例がありました(最高裁昭和45年7月28日民集24巻7号1220頁)。

 

しかし、従業員の私生活上の言動により、企業イメージを大きく損なわせるほど重大な影響がある場合は、懲戒解雇が認められることがあり得ます。

 

たとえば、私生活上の行為(SNSやブログへの投稿)であっても、投稿内容が会社の業務内容に関することであり、投稿内容が悪質で会社の信用・社会的評価を大きく低下させてしまうようなケースでは、懲戒処分が有効になることが多いと考えられます。

③複数回の懲戒処分を受けたが、改善が見られない場合

従業員の問題行為に対してどれだけ注意・懲戒処分を行っても態度を改めないような場合には、最終手段として、その従業員を懲戒解雇することも検討せざるを得ません

 

一つ一つの問題行為だけを見れば軽微なものでも、注意や懲戒処分(訓告や減給など)を行った後も同様の行為を繰り返されてしまうと、企業内の秩序が乱され、他の従業員のやる気や業務を妨げる可能性があります。

④長期の無断欠勤・音信不通等

従業員が正当な理由なく、無断で欠勤・遅刻・早退を繰り返している場合、懲戒処分の対象とされることがあります。しかし、このような欠勤や遅刻も、その態様、程度等によって悪質性にはかなりの差異があるといえます。一般的には、長期の無断欠勤等が相当悪質であるという場合に限り、遅刻・欠勤による懲戒解雇が認められることになると考えられています。

 

裁判例において、精神的不調で欠勤していた従業員が、有給休暇を消化した後も届けを出さないまま欠勤を続けていたというケースがあります。

このケースで裁判所は、会社は、かかる従業員に対して精神科医による健康診断などを受診させ、その結果次第で休暇などの措置を執るべきとし、このような措置を執らずに解雇したことは適切でないとして、解雇を無効としました(最判平成24年4月27日労判1055号5頁)。

 

したがって、無断欠勤等を理由に懲戒処分を検討する際は、その態様、程度等について十分に精査し、懲戒解雇等の処分に値するのかどうかについて、弁護士等とも相談の上で慎重に検討しなければなりません。 

⑤学歴や資格などの経歴詐称

労働者が採用の際に学歴や資格、職歴、犯罪歴などの経歴を偽っていた場合、「経歴詐称」として懲戒解雇の対象になる可能性があります。

 

裁判例でも、経歴は企業秩序の維持に係わる重要な事項であるとして、経歴詐称は懲戒事由となりうる(ケースによっては懲戒解雇も可能である)と判断した例があります(最判平成3年9月19日労判615号16頁)。

 

もっとも、懲戒対象になる経歴詐称は、「重要な経歴」に限られると考えられています。この「重要な経歴」とは、学歴や職歴、専門資格の有無、犯罪歴など、労働者の能力・人物評価に誤りを生じさせ、労使間の信頼関係を損なうような経歴を指します。

 

人物評価等に影響がない些細な経歴の詐称について懲戒処分を行った場合、処分が無効であると判断される可能性があるため、懲戒処分に値するのかどうかについて、弁護士等とも相談の上で慎重に検討しなければなりません。

⑥深刻なハラスメント行為

1回のハラスメント行為をもって直ちに懲戒解雇処分がなされることはほとんどないように思われます。しかし、ハラスメント行為が、傷害、脅迫、恐喝、強制わいせつ等の犯罪行為に該当し、もしくはこれに類似するような行為であった場合、1回の行為でも懲戒解雇処分がなされる可能性があります。

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懲戒解雇をする際の注意点

懲戒解雇は、前述のとおり従業員に大きな不利益を生じさせるものであるため、慎重な検討が必要となります。懲戒解雇すべきかどうかを検討する際には、以下のような3つの注意点を確認することになります。

懲戒解雇の正当性を十分に説明できるか

懲戒解雇の有効性が争われた場合、無効であると判断されるケースも多く見受けられます。そのため、懲戒解雇を選択するのであれば、これを立証するための証拠を集めた上で、解雇事由として十分であるかどうかを確認する必要があります。

 

万が一、解雇の効力が争われて訴訟となった場合にもその正当性を十分に説明することができるように、証拠の保全及び慎重な検討が必要不可欠となります。後の紛争を意識した検討が必要となるため、弁護士とも相談の上で進めていくことが重要です。

就業規則に懲戒解雇の規定はあるか

懲戒処分を行うためには、「あらかじめ就業規則において懲戒の種類や程度・事由を定めておく」必要があります。就業規則には、通常、従業員の不正・不祥事を想定して複数の懲戒事由が定められていることが多いように思われます。 

 

まずは、就業規則において、どのような行為を行えばどのような懲戒処分が科せられるかについて適切に記載され、あらゆる事態が十分にカバーされているかどうかについて、確認することが必要不可欠となります。

 

また、就業規則に定められているかぎり懲戒処分がすべて有効になるというわけではありません。懲戒事由に該当しても、行為の態様、程度、結果によっては、会社の行った懲戒処分が重すぎるとして処分が無効であると判断される可能性があります。就業規則の懲戒事由に該当することと、当該懲戒事由を理由とする具体的な処分が有効かどうかは別問題であることに注意が必要です。

就業規則が「周知」されているかも確認する

就業規則に懲戒事由、手続等が規定されているという場合であっても、就業規則が従業員に「周知」されていなければ、懲戒処分が無効とされる可能性も否定できません。

 

ここでいう「周知」とは、従業員が就業規則の存在を認識しており、これを見ようとすればいつでも見られる状態に置かれていることを意味します。そのため、必ずしも従業員が規則の内容を認識・理解していることまでは求められません。 

解雇予告手当等の適正な手続きを踏んだ上での解雇であるか

就業規則において、懲戒解雇を行う場合に解雇予告、または解雇予告手当の支払いを不要とする旨が規定されるケースもあります。

 

もっとも、その場合であっても、労働基準監督署長による除外認定手続(解雇予告等を行わずに解雇するための認定手続)を得る必要があり、当該手続きを経ずに解雇予告や解雇予告手当の支払いを行わない場合には労働基準法違反となることに注意が必要です。

 

 

従業員を懲戒解雇する前に検討すべき点

懲戒解雇をする前に、以下のようなことができないか検討してみましょう。

退職勧奨を行うことを検討する

懲戒解雇のほか、併せて、退職勧奨により従業員へ退職を促すことを検討するケースもあります。退職勧奨とは、従業員に退職を勧め、従業員の意思で任意に退職することをすすめるものです。退職勧奨については、法律上、解雇のような厳格な制限は規定されていません。

 

従業員が任意に退職するものであるという意味では、会社にとって法的なリスクは低いということができます。そのため、普通解雇、懲戒解雇を検討するのと併せて、従業員を説得し、任意に退職してもらうために退職勧奨を行う例は、実務ではよく見られます。

普通解雇を検討する

普通解雇も解雇の一種であり、そのハードルは低くありませんが、懲戒解雇に比してその有効性が認められる場合は多いといえます。したがって、コンプライアンス違反その他の不祥事を起こした従業員に対して、懲戒解雇を選択するのと併せて、普通解雇で対応できないかどうかを検討することも考えられます

弁護士に相談する

退職勧奨を行うに際しては、後になって従業員から「脅迫された」「無理矢理退職を強いられた」などとして、退職勧奨の有効性を争われて訴訟提起がなされるほか、損害賠償請求までなされるケースもあります。

 

そのようなトラブルを回避し、法的に問題なく退職勧奨を実施するためには、事前に弁護士に相談のうえで、必要な手続きや退職勧奨の進め方を慎重に検討することが必要となります。

まとめ

ここでは、不正行為・コンプライアンス違反等を理由にした懲戒解雇・懲戒処分について簡単に解説しました。仮に従業員の解雇等を検討している場合は本記事が参考になれば幸いです。

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正当な理由で解雇しても従業員から「不正解雇」と訴えられる可能性があります。その場合、会社の懲戒処分が無効であると判断されるケースが多く、大きなリスクを抱えることになります。

従業員の解雇を検討している方は、会社内の決定だけで進めるのではなく、弁護士と相談の上、慎重に進めることをおすすめします

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