
経営者の中には、「どうせ廃業するなら、事業を売却したい」と、お考えの方も多いでしょう。
ただし、事業を売却するM&A (合併・買収)には専門家のサポートが不可欠です。
近年、中小企業のM&Aが増加傾向にあります。
日本政策金融公庫総合研究所の調査(2016年)によると、中小企業経営者の2人に1人が、自分の代で廃業を予定しています。
事業を承継する場合、M&Aは有効な手段の1つです。
この記事では、M&Aの流れと、M&Aを得意とする弁護士の探し方などをご紹介します。
M&Aを弁護士に相談する7つのメリット
M&Aを成功させるまでには、さまざまな法的課題があります。
弁護士に依頼するメリットは、それらにすべて対応できる点です。
ここでは、M&Aを弁護士に相談すべき理由をご紹介します。
法的リスクの未然防止とトラブル回避
M&Aは様々な法的なリスクが潜む会社を取得するものであるため、M&Aを成功させるためには会社の詳細な調査を通じた法的リスクの把握とそのリスクに応じた対策が不可欠です。
弁護士は、法務デューデリジェンスを通じて、潜在的な法的リスクを洗い出し、契約書において顕出した法的リスクに対する適切な対応策を講じます。
これにより、将来的な紛争や損害賠償請求のリスクを軽減し、安心してM&Aを進めることができます。
契約書の作成・レビューによる取引の安全性向上
M&Aでは、『秘密保持契約書』『アドバイザリー契約書』『基本合意書』『最終契約書』など、さまざまな書類が必要となります。
弁護士は、これらの契約書を法的に適切な内容で作成・レビューし、M&Aの安全性を確保します。
不備のある契約書は、後のトラブルの原因となるため、専門家の関与が重要です。
交渉力の強化と利益に適合した条件の獲得
M&A交渉では、価格や条件など多くの要素があり、その内容も高度な専門性が要求されます。
弁護士は、依頼者の利益を最大化するために、法的知識と交渉技術を駆使して交渉をサポートします。
これにより、依頼者の利益に適う合意が期待でき、M&Aの成功率が向上します。
相手企業とのトラブル対応
M&Aを進める中で、相手企業とトラブルになってしまうこともあり得ます。
その際、断片的な知識や義理人情で解決を図るのと、法的な知見からのサポートがあるのとでは、雲泥の差があります。
M&Aを弁護士に依頼することで、予期せぬトラブルを回避できるでしょう。
法務デューデリジェンスによるリスクの把握
法務デューデリジェンスは、対象企業に潜む法的リスクを評価する重要なプロセスです。
弁護士は、対象企業の組織、株式、契約関係、資産・負債関係、労務、訴訟リスクの評価、コンプライアンス状況など会社に関わる法的な問題点を広くチェックし、適切に法的リスクを評価します。
これにより、予期せぬリスクを回避し、安心してM&Aを進めることができます。
一貫した法的サポートによる手続きの効率化
M&Aは、計画からクロージングまで多くのステップがあります。
弁護士は、各段階で一貫した法的サポートを提供し、手続きの効率化を図ります。
これにより、時間とコストの削減が可能となり、スムーズなM&Aが実現します。
他の専門家との連携による総合的なサポート
M&Aには、法務だけでなく、財務、税務、労務など多岐にわたる専門知識が必要です。
弁護士は、会計士や税理士など他の専門家と連携し、総合的なサポートを提供します。
これにより、M&A全体の質が向上し、成功に導くことができます。
M&Aの基本的な流れと弁護士が介在する箇所
次に、実際のM&Aの流れはどういうものかをご紹介します。
また、それぞれのタイミングで弁護士によるどのようなサポートがあるのかも、あわせて確認していきましょう。
M&Aには『合併』『会社分割』『事業譲渡』などさまざまな手段がありますが、中小企業のM&Aにおいて、多くのケースでは『株式譲渡』が採用されています。
以下、非上場かつ中小規模の会社でのM&Aの流れについて簡単に説明します。
相談依頼
売り手企業は、M&A仲介会社にM&Aについて相談するケースが端緒として多くあります。
M&A仲介会社は、売り手の事業内容などについて詳細なヒアリングを行い、M&Aの可否を判断します。
M&Aを可とする場合、M&A仲介会社とアドバイザリー契約を締結し、M&Aについて話を進めていくことになります。
買い手の選定
M&Aは買い手企業がなければ成立しません。
M&A仲介会社は買い手候補に対して売却対象会社を紹介し、M&Aについて提案してくれます。
この際、「ノンネームシート」「案件概要書」などと呼ばれるごく簡易な資料が買い手候補に対し提供されます。
M&Aが案件化すると、M&A当事者間において秘密保持契約を締結することが一般的です。
秘密保持契約締結後、対象会社の詳細情報が買い手に対し提供されます。
通常はM&A仲介会社が秘密保持契約書を用意しますが、不安であればこの段階で弁護士への依頼を検討してもよいかもしれません。
トップ面談/意向表明書・基本合意書の作成
提案資料を読み、買い手企業がさらに興味を持ってくれたら、トップ面談を実施します。
買い手企業は、書面では判断できないポイントを確認したいでしょう。
また売り手企業も、買い手企業を知ることで『ここに売却していいのか』を判断します。
両者がM&Aに対し前向きな結論に至った場合、買い手企業は意向表明書を作成したり、M&A成立に向けた基本合意書を作成したりします。
意向表明書は買い手側の事業購入の意向や、購入希望条件などを表明するための宣言文書であり、基本合意書はM&A成立に向けた基本的な事項について合意する文書です。
基本合意書には、M&A取引の交渉を進めていく過程で、想定される買取価格や条件、売り手企業のデューデリジェンスへの誠実な協力、買い手企業の優先交渉権、M&Aの手法(株式譲渡、会社分割、吸収合併、株式交換等)などを定めることが一般的です。
デューデリジェンス
デューデリジェンスとは、売り手企業のリスク把握・評価のために行う企業調査です。
このデューデリジェンスによって発見された、事業に存在・内在するリーガルリスク、会計リスクを踏まえて企業価値を算定することが通常の流れです。
仮に、デューデリジェンスの結果、致命的なリスクが発見されたような場合、この段階でM&Aを中止することもあり得ます。
買い手企業はデューデリジェンスを通じて、売り手企業の実態を把握していくのです。
そのため、デューデリジェンスは弁護士や会計士などの専門家に依頼してこれを実施するのが適切です。
最終契約書の作成/交渉/締結
デューデリジェンスを行い、M&Aを中止すべき問題がなければ、M&Aの条件を詰めた上で最終契約書を作成します。
その際、デューデリジェンスでの情報をもとに、細かな点まで交渉をしつつ、win-winとなるような結果を目指します。
そのため、最終契約書の作成にあたっても、弁護士などに的確なアドバイスを受けながら契約書を作成していくのが適切でしょう。
最終契約書では、取引対象の特定、取引価格といった基本的な合意内容のみならず、対象会社の属性や内容・状況、当事者の属性・信用力、譲渡価格の決定方法、又はM&Aのスキームその他の状況に応じ、M&Aに関する当事者間のリスク分担を実現するための様々な条項やM&Aに付随する各種の取り決めが規定されます。
これらの事項が遵守されなければ、M&Aが実行されなかったり、M&Aの実行後に紛争が発生したりします。
弁護士等の専門家のアドバイスを踏まえながら、確実に合意事項を実践する事が重要です。
M&Aに対する弁護士業界の動向
本来であればどの弁護士事務所に依頼しても、サポート内容に差が出るべきではないでしょう。
実は中小企業のM&Aは、弁護士にとっても比較的新しい分野なのです。
大企業対象だった分野が拡大
もちろん、中小企業のM&Aがまったくなかったというわけではありません。
ですが一昔前まで、M&Aといえば大企業同士で行われることが多く、必然的に、弁護士もそちらへの対応ばかりしていました。
M&Aを得意とする事務所といえば、大企業のM&Aを扱っている事務所という認識だったのです。
しかし、冒頭で紹介したように、近年、中小企業のM&Aが拡大傾向にあります。
かといって、これまであった大企業のM&Aが減少しているというわけでもありません。
つまり大企業のM&Aがメインだった弁護士業界にとって、中小企業のM&Aは比較的新しいジャンルということになるのです。
そのため、大企業のM&Aを扱っている事務所から独立した弁護士が、中小企業のM&Aを中心に請け負うケースなどが増加してきました。
M&Aに不慣れな弁護士に依頼するのは危険
このような背景のため、仮に弁護士事務所としての歴史が長かったとしても、中小企業のM&Aは経験がないということもあり得ます。
大企業と中小企業では、事業規模の違いなどから、M&Aでも注意すべきポイントが異なります。
『M&Aを得意とする弁護士の選び方』を参考に、ご自身に合った弁護士を選んでください。
M&Aを得意とする弁護士の選び方
M&Aは、上記の通り、デューデリジェンス、最終契約書の作成、合意事項の履行とさまざまな面で専門家のアドバイスを受けることが大切です。
特に弁護士は法的な面から総合的なアドバイスを行うことができますし、売り手又は買い手の交渉を代理することもできます。
M&Aを実施する上では信頼できる弁護士に依頼したいですね。
しかし、残念ながら依頼する弁護士によっては、手厚いサポートを受けられないこともあります。
M&Aがよい結果になるためにも、どの弁護士に依頼するかは重要です。
ここでは、M&Aを得意とする弁護士の探し方について、ご紹介します。
複数の解決実績がある
候補となる事務所を見つけたら、ホームページから解決実績を見てみましょう。
M&Aの解決実績が複数あるかどうかは、重要な情報です。
M&Aはそのケースによって対応が変わってくることも多いので、複数の解決実績がある方が安心できるでしょう。
また、その中にご自身の企業と似た企業のケースがあるとさらによいですね。
海外の法律にも知識がある
近年、外資系企業によるM&Aも増えています。
買い手候補の企業が海外にある場合、海外の法律への知識が役に立つこともあります。
コミュニケーションが円滑
上記で説明した流れのとおり、M&Aを成功させるためには、弁護士との密なコミュニケーションが必須となります。
いくら実績がある弁護士だとしても、やりとりの度にストレスを感じてしまっては、よい結果は得られないでしょう。
難しい単語やわからない事態が発生したとき、丁寧に説明してくれる弁護士の方がいいですよね。
これはホームページだけではわかりにくいことですので、特に注意してください。
M&A以外にも相談できる
M&Aの実行後にトラブルが発生した場合、M&Aしか対応してくれない事務所では、改めて別の事務所を探さなければなりません。
M&Aはもちろん、その後の問題にも対応してくれる事務所を選ぶべきです。
M&Aを弁護士に依頼した際の費用相場と内訳
最後に、M&Aを弁護士に依頼した際の費用についてご紹介します。
依頼の範囲、事務所や企業規模によって費用は変わってきますので、あくまで参考程度にご確認ください。
内容 | 金額の相場 |
---|---|
相談料 | 1万円~2万円/1時間 |
日当 | 3万~5万円/1日 |
契約書等作成 | 50万円〜 |
デューデリジェンス | 50万円〜 |
検討の際は、事前にしっかりと料金を確認しておきたいものです。
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弁護士以外のM&A相談先
もちろん、M&Aの相談先は弁護士だけではありません。
考えられる相談先として、主に以下のものが挙げられます。
- フィナンシャル・アドバイザー(FA)
- M&A仲介会社
- 公認会計士・税理士
フィナンシャル・アドバイザー(FA)
フィナンシャル・アドバイザー(FA)は、アドバイザリー契約を締結した買い手又は売り手に対し、M&Aに関する助言・支援を行います。
スキームの策定、交渉、契約など幅広い事項について、助言・支援を行っていますが、その中核となるのは、対象会社の選定(紹介)と企業価値の算定(バリュエーション)、買収価格の提案です。
フィナンシャル・アドバイザー(FA)には、証券会社、投資銀行、商業銀行、M&A専門会社などがあります。
M&A仲介会社
M&Aの買い手・売り手の仲介(マッチング)を行うのがM&A仲介会社です。
買い手・売り手双方に対し助言・指導を行うことから利益相反の問題が内在するため、依頼する会社、特に買い手は真の助言・支援を受けることができるのか慎重な検討が必要です。
万一、法的なトラブルに発展してしまった際は、弁護士などに相談する必要があります。
公認会計士・税理士
公認会計士・税理士は、財務デューデリジェンスの実施、企業価値の算定、スキーム策定に係るタックスプランニングなど、M&Aにおいて重要な役割を担っています。
M&Aに関する会計・税務は複雑です。
また企業の資産や負債を正確に把握するためにも、公認会計士・税理士の専門的な知識が必要でしょう。
ただし、M&Aの流れは会計・税務以外も複雑ですので、法的な問題など、公認会計士・税理士には対応しきれないものもあります。
まとめ
M&Aを検討する経営者は、今後ますます増えていくことでしょう。
そしてM&Aに到るまでには、さまざまな葛藤があったことと思います。
この記事が、M&Aを検討する方の参考になれば幸いです。
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