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弁護士監修記事
M&A・事業承継

M&Aのメリット・デメリットとは?売り手・買い手・手法別にわかりやすく解説

2019.12.25
2026.10.29
M&Aには、資本の移動を伴う買収や合併のほかに、資本の移動を伴わない業務提携なども含まれます。今回の記事では、M&Aの中でも『買収』に焦点を当て、買い手と売り手それぞれの視点から見たメリットとデメリットについて解説します。
監修弁護士
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貴和法律事務所
弁護士 藤井 宏平
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M&Aとは、会社や事業の合併・買収を通じて、経営権や事業を他社に譲り渡す、あるいは譲り受ける手法の総称です。後継者不在の解消や事業拡大の手段として、中小企業から大企業まで幅広く活用されています。

一方で、簿外債務の発覚や統合作業の混乱、想定外の費用負担など、見落とすと後悔につながるデメリットも少なくありません。M&Aを検討する場合は、自社に適した進め方かどうかを、慎重に見極めましょう。

本記事では、売り手・買い手それぞれの立場から見たM&Aのメリット・デメリット、手法別の特徴を解説します。従業員・取引先への影響や、国内外の成功・失敗事例も解説するので、ぜひ参考にしてください。

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この記事に記載の情報は2026年10月29日時点のものです

【売り手側】M&Aのメリット・デメリット

M&Aの売り手側のメリット・デメリットは、以下のとおりです。

メリット デメリット
・後継者不在の問題を解決できる
・従業員の雇用を維持できる
・取引先や顧客との関係を継続できる
・売却代金相当の現金を確保できる
・経営者個人の連帯保証や自宅の担保を解除できる
・買い手側の資金やネットワークを活用した事業発展が期待できる
・希望条件に合う買い手探しが難しい
・会社を手放すことに心理的な抵抗を感じることがある
・従業員の離職や取引停止を招くおそれがある
・売却額に対して仲介手数料などの諸費用が割高になる場合がある

M&Aの売り手側のメリット

M&Aにより、売り手側は後継者不在の問題解決、従業員の雇用や取引先との関係維持などを望めます。事業譲渡などでは、売却代金相当額の現金の確保、経営者個人の連帯保証解除など、経済的なメリットも複数あります。

後継者不在の問題を解決できる

M&Aは、売り手側の後継者不在問題を解決する有力な手段のひとつです。親族や社内に適任者がいない場合でも、M&Aを通じて外部から事業を引き継いでくれる相手を広く探せるためです。

実際に、事業承継・引継ぎ支援センターを通じた第三者承継の成約件数は、令和7年度に2,265件(過去最多)に達しています。民間M&A仲介機関と合わせると年間数千件規模で活用されており、第三者承継は、現実的な選択肢として着実に広がっています。

マッチング支援を活用すれば、自社の経営理念や従業員への処遇を重視した条件で譲り受け先を探せるでしょう。

【参考元】令和 7 年度 事業承継・引継ぎ支援センターの実績について|独立行政法人中小企業基盤整備機構

従業員の雇用を維持できる

M&Aにより、売り手側は従業員の雇用を維持できます。実務でも、従業員の引継ぎ・譲渡後の雇用継続が、重要な契約条件として盛り込まれるケースが多いです。

M&Aであれば従業員はこれまでのキャリアを活かし、新しい体制のもとで働き続けられます。買い手企業の経営基盤が強固な場合には、待遇改善や福利厚生の充実につながる可能性もあります。

取引先や顧客との関係を継続できる

M&Aにより、売り手側は取引先や顧客との関係を継続できる可能性があります。株式譲渡などの手法では法人格が維持され、契約関係や商流が原則として継続されるためです。

廃業すれば、取引先は代替先を探す必要が生じる可能性があります。M&Aによって事業を引き継ぐことで、廃業に伴う混乱を防げます。

帝国データバンクの調査によれば、2025年の全国企業の休廃業・解散件数は67,949件に上り、過去10年で2番目に多い水準となりました。地域経済や業界全体への悪影響を抑えられる点も、M&Aの社会的な意義のひとつです。

【参考元】全国企業「休廃業・解散」動向調査(2025年)|株式会社 帝国データバンク[TDB]

売却代金相当の現金を確保できる

M&Aにより、オーナー経営者は売却代金相当の現金を確保できます。一定の収益が見込める事業を関連する資産とともに譲渡すれば、個々の資産を単に売却する場合に比べて、まとまった金額が得られるでしょう。

事業譲渡により得た資金は、ほかの事業への投資や会社が抱える負債の返済に充てられます。事業の一部を譲渡して得た資金を元手に、新たな事業の立ち上げも検討できます。

経営者個人の連帯保証や自宅の担保を解除できる

M&Aにより、経営者個人の連帯保証や自宅の担保を解除できる可能性があります。買い手企業が十分な資金力・信用力を持つ場合、金融機関の承諾を得て保証を引き継がせられる場合があるためです。

個人保証が解除されれば、経営者は精神的な重圧から解放され、身軽な状態で引退生活に入れるでしょう。廃業は個人資産からの返済を迫られるリスクが残りますが、M&Aは保証債務のリスクを根本的に解消できる手段となり得ます。

買い手側の資金やネットワークを活用した事業発展が期待できる

M&Aにより、売り手側は買い手側の資金やネットワークを活用した事業発展が期待できる可能性があります。大手や優良企業の傘下に入ることで、自社単独では困難だった規模の成長や事業拡大が可能になるためです。

中小企業白書の調査でも、M&A実施企業は非実施企業より売上高成長率や労働生産性が高い傾向にあります。設備投資の実施や新商圏への進出によって業績が向上した事例も、多く報告されています。

【参考元】2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要|中小企業庁

M&Aの売り手側のデメリット

M&Aで売り手側が直面しうる主なデメリットは、大きく4点あります。希望条件に合う買い手探しの難しさ・会社を手放す心理的な抵抗・従業員の離職や取引先の離反リスク・仲介手数料など諸費用の負担です。

希望条件に合う買い手探しが難しい

M&Aでは、売り手側にとって希望条件に合う買い手探しは難しい場合があります。譲渡価格・雇用維持・経営方針の継続など、全ての条件を満たす相手を見つけるには時間を要するためです。

買い手側は投資効果を冷静に評価するため、売り手側の思い入れと市場での客観的な評価額には乖離が生じやすくなります。相手が見つかるまで数ヵ月から1年以上を要するケースも少なくありません。

会社を手放すことに心理的な抵抗を感じることがある

M&Aでは、会社を手放すことに心理的な抵抗を感じる経営者が少なくありません。長年心血を注いで育てた会社を第三者へ譲ることに、身売りのような負の感情を抱くためです。

会社を家族のように捉える経営者もおり、抵抗感から決断を先延ばしにするケースが見られます。決断が遅れれば適切な承継タイミングを逃しかねないため、事業と従業員を守る前向きな選択として捉える姿勢が求められます。

従業員の離職や取引停止を招くおそれがある

M&Aでは、従業員の離職や取引停止を招くおそれがあります。検討事実が成約前に漏れると、組織の混乱や信用の毀損を引き起こしかねないためです。

従業員は会社が売られるという情報に不安を感じ、離職を検討する場合があります。取引先も取引を縮小する可能性があるでしょう。クロージングまで秘密保持を徹底し、秘密保持契約を早期に締結するのが欠かせません。

売却額に対して仲介手数料などの諸費用が割高になる場合がある

M&Aでは、売却額に対して仲介手数料などの諸費用が割高になる場合があります。譲渡価格が少額な案件ほど、手数料の負担割合が大きくなるためです。多くの仲介会社は、最低手数料を500万円〜2,000万円程度に設定しています。

そのため、小規模企業の場合は、売却代金に占める諸費用の割合が大きくなるケースもあります。事業引継ぎ支援センターなどの公的機関を活用し、複数の支援機関・仲介会社の手数料体系を事前に比較検討するのが有効です。

【関連記事】M&Aにかかる費用とは?買収・売却側別に解説

【買い手側】M&Aのメリット・デメリット

M&Aの買い手側のメリット・デメリットは、以下のとおりです。

メリット デメリット
・新規事業への参入期間を短縮できる
・売上拡大や仕入コスト削減などの相乗効果(シナジー)を得られる
・自社にはない優秀な人材や技術・ブランド・販売網を獲得できる
・事業規模の拡大により業界内での競争力や市場での影響力を高められる
・買収後に未払残業代などの見えない債務が発覚するおそれがある
・買収後の統合作業(PMI)の不備により組織が混乱する
・キーパーソンの離職や市場環境の変化で期待した利益が得られない

M&Aの買い手側のメリット

M&Aで買い手側が享受する主なメリットは、大きく4点あります。新規事業への参入期間の短縮、売上拡大などの相乗効果、優秀な人材やブランドの獲得、競争力や市場影響力の向上です。

新規事業への参入期間を短縮できる

M&Aにより、買い手側は新規事業への参入期間を短縮できます。新規事業を一から立ち上げる場合は、顧客基盤や販路の獲得・設備投資などに多大な時間とコストがかかるでしょう。

既存の事業を譲り受ければ、立ち上げ期間を大幅に短縮できる可能性があります。株式譲渡では、従業員や取引先との関係、ノウハウなど無形資産も包括的に承継可能です。事業譲渡では譲渡対象を個別に選別できるため、契約により必要な資産のみを取得できます。

売上拡大や仕入コスト削減などの相乗効果(シナジー)を得られる

M&Aにより、買い手側は売上拡大や仕入コスト削減などの相乗効果(シナジー)を得られる可能性があります。自社と譲受企業の経営資源が融合し、単独では得られない経済的利益を生み出せる場合があるためです。

2026年版中小企業白書では、M&Aを実施した企業の付加価値額増加率は22.8%でした。実施していない企業の18.5%を4.3ポイント上回っています。経営統合プロセス(PMI)に取り組む企業ほど、M&Aの効果を実感している傾向です。

【参考元】2026年版「中小企業白書」第2部第2章「中小企業の『稼ぐ力』の強化に向けた取組」|中小企業庁

自社にはない優秀な人材や技術・ブランド・販売網を獲得できる

M&Aにより、買い手側は自社にはない優秀な人材や技術・ブランド・販売網を獲得できる可能性があります。売り手側が保有している人材・技術・ブランド・取引先との関係を、契約を通じて引き継げるためです。

株式譲渡では、雇用契約や取引関係が原則そのまま維持されます。事業譲渡では、従業員の転籍や契約上の地位の移転に個別の同意や手続きが必要です。

事業規模の拡大により業界内での競争力や市場での影響力を高められる

M&Aにより、買い手側は事業規模の拡大を通じて業界内での競争力や市場での影響力を高められる可能性があります。他社の事業を譲り受けることで、自社単独で拡大するよりも短期間で事業規模を広げられるためです。

同業種のM&Aでは、顧客基盤と販売チャネルの拡大が望めます。異業種のM&Aでは、事業の多角化による経営リスクの分散が期待できるでしょう。

M&Aの買い手側のデメリット

M&Aで買い手側が直面するデメリットの多くは、契約前のデューデリジェンスや交渉段階での確認不足に起因します。

買収後の簿外債務の発覚・統合作業(PMI)の不備による組織の混乱が代表例です。キーパーソンの離職や市場環境の変化で、期待した利益を得られないケースもあります。

買収後に未払残業代などの見えない債務が発覚するおそれがある

M&Aでは、買収後に未払残業代などの見えない債務が発覚するおそれがあります。たとえば、株式譲渡では会社の権利義務を包括的に引き継ぐため、把握しきれなかった簿外債務も買い手に承継されるリスクがあります。

中小企業では、未払残業代や社会保険料の未納など、簿外債務が潜在しているケースが少なくありません。法務・労務デューデリジェンスの実施と、表明保証条項の交渉が重要な対策となります。

買収後の統合作業(PMI)の不備により組織が混乱する

M&Aでは、買収後の統合作業(PMI)の不備により組織の混乱を招くおそれがあります。給与体系や業務プロセスが異なる二社を短期間で統一する必要があり、対応が後回しになりやすいためです。

現場の従業員への配慮を欠くと、不信感やモチベーション低下を招きます。人材流出により、業績悪化や成長力の低下を招くおそれもあるでしょう。PMIの計画は、M&Aの検討段階から準備を並行して進めておくことが欠かせません。

キーパーソンの離職や市場環境の変化で期待した利益が得られない

M&Aでは、キーパーソンの離職や市場環境の変化により、期待した利益を得られない場合があります。買収時の収益計画は、売り手側の現状(顧客との関係や技術力・既存の市場環境など)を前提に策定されているためです。

中小企業は、経営者や特定の従業員の能力に支えられていることも珍しくありません。キーパーソンの離脱は、事業価値の致命的な毀損につながります。

【M&Aの主な手法別】メリット・デメリット

M&Aには複数の手法があり、手法ごとに法的な手続きの煩雑さや承継されるリスクの範囲は大きく異なります。M&Aの主な手法ごとのメリット・デメリットは、以下のとおりです。

手法 メリット デメリット
株式譲渡 手続きがシンプルで、契約・許認可を維持しやすい 簿外債務などを包括的に引き継ぐリスクがある
事業譲渡 譲渡範囲を選べ、不要な負債を遮断できる 契約・許認可の個別手続きが多く負荷が高い
合併 スケールメリットを追求できる 制度統合の負荷や社内の摩擦が生じやすい
会社分割 従業員の雇用契約が原則維持される 官報公告など法定手続きに時間を要する

M&Aの手法①|株式譲渡のメリット・デメリット

株式譲渡は、事業譲渡と並んで中小企業の事業承継で広く利用される手法です。売り手企業の株式を買い手が買い取ることで、手続きが完結します。

メリットは、法人格が維持される点です。取引先・従業員との契約や許認可が原則そのまま引き継がれ、手続きがシンプルでスピーディに成約できます。

デメリットは、包括承継である点です。事前の調査で見落とした簿外債務・法的トラブル・不要な余剰資産も、丸ごと引き受けるリスクがあります。株式譲渡のリスクを回避するには、法務・財務にわたる詳細なデューデリジェンスと表明保証条項の活用が欠かせません。

【関連記事】株式譲渡とは|会社の売買・簡単ポピュラーなM&A手法

【関連記事】M&Aとは|M&Aの手法・形態や一連の流れなどを解説

M&Aの手法②|事業譲渡のメリット・デメリット

事業譲渡は、会社そのものではなく特定の事業や資産を選んで売買する手法で、譲渡範囲を自由に指定できる点が特徴です。

メリットは、必要な事業や資産のみを選んで取得できる点です。不要な負債を遮断でき、リスクを抑えながら必要な経営資源だけを手に入れられます。

デメリットは、包括承継ではない点です。従業員の雇用契約の結び直し・取引先への個別同意・不動産の名義変更・許認可の再取得といった手続きの負荷が高くなります。手続きの過程で取引先との契約がうまく引き継がれず、事業価値が毀損するリスクも残ります。

【関連記事】事業譲渡とは|メリット・デメリットや手続きの流れを解説

M&Aの手法③|合併のメリット・デメリット

合併は、複数の会社をひとつの法人に統合する手法です。資産・負債・従業員の全てをひとつの組織に溶け込ませ、経営効率化を目指します。

メリットは、スケールメリットを最大限に追求できる点です。拠点の統廃合・仕入交渉力の一本化・重複投資の削減などが可能になります。

デメリットは、異なる給与体系・評価基準の一律調整が困難を極め、従業員の不満や派閥争いに発展しやすい点です。事務処理やITシステムの統合コストも膨大になります。現場が本来の業務に集中できなくなるリスクへの対策も求められます。

【関連記事】吸収合併・新設合併の手続きの流れとは?スケジュール・必要書類・費用を解説

M&Aの手法④|会社分割のメリット・デメリット

会社分割は、特定の事業部門を切り出し別の会社に包括承継させる手法です。事業譲渡と株式譲渡のメリットを併せ持った性質があります。

メリットは、労働契約承継法により対象事業に従事する従業員の雇用関係が原則として維持されたまま承継される点です。従業員の権利を守りつつ、スムーズな移行が可能になります。

デメリットは、会社の権利義務を強制的に分ける点です。債権者の利益を害さないよう、官報公告や個別通知などの手続きが法律で義務付けられているため、時間と手間を要します。

手続きを誤ると分割が無効になるおそれもあるため、法務の専門家による徹底したサポートが欠かせません。

【関連記事】会社分割とは|種類や手続きの流れ・活用例などを解説

M&Aが従業員に与えるメリット・デメリット

M&Aは、譲渡企業の株主や経営者だけでなく、従業員の雇用条件や職場環境にも大きな影響を及ぼします。M&Aによって従業員が得られるメリットと、注意すべきデメリットは、以下のとおりです。

メリット デメリット
・廃業による失業を回避・雇用が継続される
・買い手側の教育プログラム・福利厚生・経営インフラを利用できる
・組織の規模拡大や新事業への参入により昇進や活躍のチャンスが広がる
・買い手側の社風・経営方針との不一致に精神的なストレスを感じる
・給与体系・人事評価制度の変更によって処遇が変わるおそれがある
・業務内容や人間関係が大きく変わり適応に苦労する場合がある

M&Aが従業員に与えるメリット

M&Aが従業員にもたらすメリットは、雇用の継続や労働条件の向上など多岐にわたります。以下で、代表的な3つのメリットを紹介します。

廃業による失業を回避・雇用が継続される

後継者不在などで廃業のおそれがある企業がM&Aを選択すれば、従業員は廃業による失業の回避・雇用の継続が望めます。従業員の雇用継続は、中小M&Aの契約条件として重視される傾向にあるためです。

帝国データバンクの調査では、売り手となる可能性がある企業の78.7%が「従業員の処遇」をM&Aで重視する項目の1位に挙げています。買い手企業の経営基盤が強固であれば、待遇改善や福利厚生の充実も期待できるでしょう。

【参考元】M&Aに対する企業の意識調査|株式会社 帝国データバンク[TDB]

買い手側の教育プログラム・福利厚生・経営インフラを利用できる

M&Aによって大手企業や体制の整った企業の傘下に入ると、福利厚生などが向上する可能性があります。売り手企業単独では整備が難しかった研修制度やキャリア形成の仕組みが導入されれば、スキルアップの機会も広がるでしょう。

買い手企業の資金力を背景に、福利厚生の充実や給与体系の改善が図られる可能性があります。基幹システムや業務フローといった経営インフラが刷新されれば、業務の効率化にもつながるでしょう。

組織の規模拡大や新事業への参入により昇進や活躍のチャンスが広がる

M&Aによって組織の規模が拡大したり、新たな事業分野へ参入したりすると、従業員には昇進や活躍の機会が広がります。譲受企業の傘下でより大きな組織を任されたり、新規事業の立ち上げメンバーに抜擢されたりするケースもあるでしょう。

事業の幅が広がると、従来携わってこなかった業務に関わるチャンスも生まれます。意欲のある従業員にとっては、M&Aがキャリアアップの契機になる場合もあるでしょう。

M&Aで従業員が受けるデメリット

一方で、M&Aは従業員に負担やストレスをもたらす場合もあります。以下で、代表的な3つのデメリットを紹介します。

買い手側の社風・経営方針との不一致に精神的なストレスを感じる

M&Aによって譲受企業の傘下に入ると、従来と異なる社風や経営方針への適応を迫られます。長年慣れ親しんだ企業文化と異なるルールやマネジメント方針のもとで働くことになれば、精神的なストレスを感じる従業員も少なくありません。

トップダウン型の経営方針へ急に切り替わった場合、意思決定のプロセスに戸惑う従業員も出てくるでしょう。会社側が説明会や個別面談を通じて丁寧に情報共有をおこなうかどうかで、従業員の不安の大きさは変わってきます。

給与体系・人事評価制度の変更によって処遇が変わるおそれがある

M&Aによって給与体系や人事評価制度が買い手企業のものに統一されると、従業員の処遇が変わるおそれがあります。評価基準が変更されれば、従来評価されていた実績や役割が正当に反映されない可能性もあります。

年功序列型の制度から成果主義型の制度へ移行する場合などには、給与や役職に大きな影響が出るケースもあるでしょう。契約内容によっては、雇用条件の変更について労働者の同意が必要になる場合もあるため、事前に説明を受けておくと安心です。

業務内容や人間関係が大きく変わり適応に苦労する場合がある

M&Aによって組織体制が変わると、担当業務や上司・同僚といった人間関係が大きく変わる場合があります。異動や配置転換によって、従来の経験を活かしにくい部署に配属される場合もあるでしょう。

新しい上司やメンバーとの関係を一から築き直す必要が生じ、適応に苦労する従業員も少なくありません。変化への不安が大きい場合は、買い手側の人事担当者や労働組合に相談しながら、働き方を調整していくのがおすすめです。

M&Aが取引先に与えるメリット・デメリット

M&Aは、買収された企業だけでなく取引先にも影響を及ぼします。M&Aによって、取引先が得られるメリットと注意すべきデメリットは、以下のとおりです。

メリット デメリット
・安定したビジネス関係を維持できる
・新たな取引や商機の獲得が期待できる
・株主交代を理由とした契約解除条項によって取引が終了するおそれがある
・買い手側の経営方針により既存の取引条件が悪化する可能性がある

M&Aが取引先に与えるメリット

M&Aは、取引先にとって事業基盤の強化につながる複数のメリットをもたらします。以下で詳しく解説します。

安定したビジネス関係を維持できる

吸収合併や株式譲渡といった手法でM&Aがおこなわれた場合、取引先との契約関係は原則としてそのまま維持されます。合併では、消滅する会社の権利義務が存続会社へ包括承継されるため、取引先があらためて契約を結び直す必要はありません。

株式譲渡の場合は、対象会社の法人格そのものに変更がなく、契約の当事者も変わらないため、原則として既存の契約に影響は生じません。担当窓口や取引条件が急に変わる心配がなく、既存のビジネス関係を安定して続けられる点は、取引先にとって大きなメリットです。

新たな取引や商機の獲得が期待できる

M&Aにより、取引先は新たな取引や商機の獲得が期待できます。買い手企業の強力な経営資源が、取引先にとっても新たな利益をもたらすチャンスとなるためです。

資本力のある親会社からの大規模な発注や、買い手のネットワークを通じた販路拡大も有望です。M&A後の事業規模拡大により発注量が増加し、取引先の売上向上につながるケースも珍しくありません。

M&Aで取引先が受けるデメリット

M&Aは、契約解除や取引条件の悪化といったデメリットを取引先に及ぼすおそれもあります。

株主交代を理由とした契約解除条項によって取引が終了するおそれがある

M&Aによって株式の過半数が買い手企業に移転すると、取引先との契約が解除されるおそれがあります。

継続的な取引基本契約には、株主構成が変わった場合に契約を解除できる条項が定められているケースがあります。チェンジ・オブ・コントロール条項(COC条項)と呼ばれる条項です。

競合他社がM&Aの買い手となった場合は、情報漏えいや競業を懸念した取引先が契約解除に踏み切るケースも少なくありません。契約が突然終了すれば、代替の仕入先や販売先を探す負担が生じます。

買い手側の経営方針により既存の取引条件が悪化する可能性がある

M&Aでは、買い手側の経営方針により既存の取引条件が悪化する可能性があります。従来の担当者や取引条件がそのまま引き継がれるとは限らず、価格の引き下げや発注量の削減を求められる可能性があるためです。

グループ全体の購買力を使って仕入先を絞り込むなど、以前の経営者との特別な配慮が通用しなくなるリスクも無視できません。

M&Aの成功事例・失敗事例

本章では、国内外のM&Aの成功事例と失敗事例を紹介します。事例から読み取れる要因も併せて解説するので、参考にしてください。

M&Aの成功事例

M&Aの成功事例として、近年話題となった国内事例3件を紹介します。

マツモトキヨシホールディングスとココカラファインの経営統合

ココカラファインとマツモトキヨシホールディングスは、2021年10月1日に経営統合しました。統合により、マツキヨココカラ&カンパニーが誕生しています。

ドラッグストア業界では他業種の参入や商圏縮小によって競争が激化しており、単独での成長には限界があるとの指摘があります。両社の統合によって売上高は1兆円規模となり、2025年3月期には1兆616億円に達しました。

売上高ランキングでは、ウエルシアホールディングスに次ぐ業界2位の水準を維持しています。店舗数は3,000店規模に拡大し、2024年3月末時点で3,464店舗となりました。収益の柱である美と健康カテゴリーのなかでも、化粧品は高い競争力を持ち成長を牽引しています。

【参考元】沿革 | マツキヨココカラ&カンパニー

ニトリホールディングスによる島忠のTOB(株式公開買い付け)

家具・インテリア用品大手のニトリホールディングスは、ホームセンター事業を手がける島忠にTOB(株式公開買い付け)を実施しました。

当初は同業大手のDCMホールディングスが1株4,200円で友好的TOBを先行させていましたが、ニトリが1株5,500円とより高値を提示。最終的に島忠はDCMへの同意を撤回し、ニトリ傘下に入ることを決定しています。

統合直後、顧客がニトリと島忠を使い分ける実態が明らかになり、想定したシナジーはすぐには表れませんでした。プライベートブランド開発の強化や物流機能の共同利用へと方針を見直した結果、島忠事業は2026年3月期に黒字転換。

ニトリホールディングス全体でも物流効率化の効果が寄与し、同期の営業利益は前期比6.7%増の1,255億円となっています。

【参考元】株式会社島忠との経営統合について|ニトリホールディングス

ベネッセホールディングスによるプロトメディカルケアの買収

教育・介護事業を展開するベネッセホールディングスは、2021年6月1日付でプロトメディカルケアの全株式を取得しました。プロトメディカルケアは、介護・医療分野の情報メディア運営、人材派遣、介護用品レンタルを手がける企業です。

買収の狙いは、利用者目線でのサービス拡充と介護エリアの拡大。買収後、プロトメディカルケアはベネッセグループ内での機能統合を進めています。2021年12月には社名を「ハートメディカルケア」に変更しました。

2024年10月には、グループ3社を吸収合併し「ベネッセキャリオス」に商号変更しています。グループ内の統合により、人材紹介・人材派遣・介護情報メディア・福祉用具レンタルの機能がひとつの法人に集約されています。

【参考元】株式会社プロトメディカルケアの株式取得に関する株式譲渡契約締結のお知らせ|株式会社ベネッセホールディングス

【関連記事】企業買収とは?メリット・デメリットやM&A成功のためのコツも解説

M&Aの失敗事例

M&Aの失敗事例として、国外事例3件を紹介します。

マイクロソフトによるノキア買収

アメリカのマイクロソフトは2014年、フィンランドのノキアのデバイス・サービス部門を72億ドルで買収しました。狙いは、Windows Phone事業のてこ入れです。

しかし、すでに市場を席巻していたiOSやAndroidとの競争に太刀打ちできず、シェア獲得には至りませんでした。買収から約1年後の2015年には76億ドルもの減損損失を計上し、7,800人規模の人員削減にも踏み切っています。

競合環境や市場動向の見極めの甘さが、失敗の要因のひとつとして指摘されています。

【参考元】米マイクロソフト、7800人削減 携帯事業で追加再建策 - 日本経済新聞

AOLとタイム・ワーナーの合併

2000年1月、アメリカの大手プロバイダーAOLと総合メディア企業タイム・ワーナーが合併を発表。「世紀の大型合併」として、大きな注目を集め、インターネット企業と伝統的メディア企業の融合による相乗効果が期待されました。

しかし、ITバブル崩壊による事業環境の急変や、両社の企業文化の違いが障壁となり、期待した成果は得られませんでした。2002年12月期には987億ドルという巨額の純損失を計上し、合併は失敗に終わっています。

【参考元】10年目の独白「世紀の合併」はなぜ失敗したのか - 日本経済新聞

ヒューレット・パッカードによるオートノミー買収

ヒューレット・パッカード(米HP)は2011年、英ソフトウェア企業オートノミーを111億ドルで買収しました。しかし、買収後、内部通報をきっかけとした社内調査で、財務諸表の数値を水増しするなどの不正会計の疑いが浮上。

翌2012年、HPはオートノミーに関する減損費用として88億ドル(約7200億円)を計上しました。うち50億ドル以上は不正会計処理に起因するとHPは説明しています。買収前のデューデリジェンスが不十分だったために、深刻な損失を招いた事例です。

【参考元】米HPが7200億円の減損計上 買収先の不正会計発覚で - CNN.co.jp

M&Aを弁護士に依頼するメリット・デメリット

M&Aを弁護士に依頼する主なメリットは、経営者が見落としがちな法的論点を網羅的にカバーできる点です。具体的な支援は、以下のとおりです。

  • デューデリジェンスにおける法的リスクの洗い出し
  • 契約書の適正チェック
  • 表明保証条項の交渉
  • COC条項への対応
  • 交渉の代理

一方、デメリットとして弁護士費用が発生します。契約後にトラブルが発覚すれば、対応コストは大きくなりがちです。事前に弁護士へ依頼する費用は、合理的な投資といえるでしょう。

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M&Aのメリット・デメリットに関するよくある質問

本章では、M&Aのメリット・デメリットに関して、読者が抱きやすい疑問をQ&A形式でまとめます。

Q. M&Aはやめとけと言われている理由は?

M&Aが「やめとけ」と言われる背景には、複数のリスクが重なっています。代表例が、事前調査の甘さによる想定外の損失と、統合(PMI)の失敗によるシナジー不発です。

事前調査で見落とされやすいのが、不動産の含み損益や許認可の承継可否といった確認事項です。不動産は帳簿価額と実勢価格が乖離しやすく、含み損を見落とせば買収後に想定外の損失を招きます。

許認可も、事業譲渡と同時には引き継げないケースがあります。再取得の手続きに時間がかかれば、営業を一時的に止めざるを得ません。ただし、事前調査の見落としは、M&Aに詳しい弁護士などの専門家を交えて財務・法務の両面から精査すれば防げます。

Q. 事業承継型M&Aのメリット・デメリットは?

事業承継型M&Aでは、後継者が不在でも買い手企業への事業譲渡によって廃業を避けられます。オーナー自身も、売却の対価を引退資金に充てられる点がメリットです。買い手企業の経営資源を取り込むことで、単独では難しかった事業拡大につながるケースもあります。

一方で、希望条件を満たす買い手探しには数ヵ月から1年以上かかるケースも珍しくありません。交渉過程で秘密保持が不十分になると社内に動揺が広がり、従業員の離職を招く場合もあります。

Q. M&Aの評価方法とそれぞれのメリット・デメリットは?

M&Aの企業価値評価には、資産・収益力・市場価格という3つの異なる視点があります。算定手法ごとに一長一短が存在します。M&Aの主な評価アプローチは、以下のとおりです。

評価アプローチ メリット デメリット
コストアプローチ
(純資産法)
貸借対照表の純資産をもとに算定するため、客観性が高い 将来の収益性を反映しにくい
インカムアプローチ
(DCF法)
将来のキャッシュフローを反映できる 前提となる事業計画の精度に結果が左右される
マーケットアプローチ
(市場株価平均法、マルチプル法)
類似企業や市場の取引実態を反映できる 非上場の中小企業では比較対象が少なく適用が難しい

Q. M&Aで気をつけるべきリスクは?

M&Aで注意すべき代表的なリスクは、デューデリジェンスで見落とした簿外債務の発覚と、情報漏えいによる信頼失墜です。

中小企業では管理が不十分な労務や法的トラブルが潜んでいる場合が多く、成約後に表面化すると経営に致命的な打撃を与えます。成約後の統合(PMI)に失敗すれば、期待したシナジーは得られません。

Q. 中小企業のM&Aで検討すべき課題は?

中小企業がM&Aを進めるうえでは、情報不足・コスト負担・経営者の心理的抵抗という3つの課題に直面します。主な課題と対応策は、以下のとおりです。

課題 内容 対応策
情報不足 身近な相談先が少なく、売却を身売りと捉える後ろめたさから決断が遅れやすい 事業引継ぎ支援センターなどの公的支援制度で相談先の少なさを補う
コスト負担 仲介費用が売却益に対して割高になりやすい 複数の支援機関・仲介会社の手数料体系を事前に比較する
心理的抵抗 売却の決断に抵抗感を持ちやすい 早期に自社の価値を高める磨き上げに着手し、買い手候補の選択肢を広げる

Q. M&Aの交渉で用いられるノンネームシートとは?

ノンネームシートとは、自社が特定されない範囲で業種・規模・強みなどを要約し、買い手の関心を引くための匿名の概要書です。ノンネームシートを見て興味を持った買い手候補とのみ、秘密保持契約(NDA)を結びます。

契約締結後は詳細な交渉段階に進み、情報開示も段階的です。ノンネームシートで開示する情報の範囲を誤ると、情報漏えいにつながるおそれがあります。業種・規模などをどこまで開示するかは、案件ごとの判断が欠かせません。

まとめ

M&Aは、会社や事業の合併・買収を通じて経営権や事業を譲り渡す、または譲り受ける手法です。売り手には売却代金の確保や個人保証の解除、買い手には新規事業への参入期間短縮などのメリットがあります。

一方で、簿外債務の発覚や統合作業の混乱といったデメリットも軽視できません。株式譲渡・事業譲渡・合併・会社分割は、手続きの負荷や承継されるリスクの範囲が手法ごとに異なります。

従業員や取引先にも、雇用の継続や取引条件の変化など多方面の影響が及びます。契約書の精査やリスクの洗い出しには専門知識が欠かせません。M&Aを検討する際は、「企業法務弁護士ナビ」で弁護士に相談してみてください。

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監修者
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藤井 宏平
債権回収/契約書のリーガルチェック/労務問題を中心に企業法務を幅広くサポート。AIの導入に際した予防法務にも注力しております。
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本記事は企業法務弁護士ナビを運営する株式会社アシロ編集部が企画・執筆いたしました。

※企業法務弁護士ナビに掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。

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