M&Aが得意な弁護士の選び方と事務所で違う特徴の見極め方|弁護士費用についても解説

専門家監修記事
M&Aを弁護士に依頼する際に、どのような基準で弁護士を選べば良いのか、M&A案件に実績のある弁護士の選び方や相談メリットなどを徹底解説します。近年中小企業やスタートアップ企業が対象となるM&Aも増えていますので、知見のある弁護士選びの一助となれば幸いです。
ベンチャーラボ法律事務所
淵邊 善彦
監修記事
M&A・事業承継

日本では、大企業が実施するものと思われてきた『M&A』。しかし、現在は少し事情が異なります。中小企業を中心にM&Aが事業承継に利用されることもあるのです。

 

2025年には、6割以上の中小企業で経営者が70歳を超えると予想されています。これにより、事業経営は好調にもかかわらず、廃業を余儀なくされるケースもあるほどです。

 

また、技術革新が進む中、大企業によるスタートアップ企業のM&Aやスタートアップ企業同士のM&Aも増えています。M&Aは、そのような時代背景に伴い、広く中小企業間やスタートアップ企業で、積極的に実行されています。 ここでは、M&Aを実際に依頼する場合の、弁護士の選び方やメリットをご紹介します。

 

 

この記事に記載の情報は2021年05月07日時点のものです
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M&Aを弁護士に依頼するメリットと依頼の必要性

日本では、経営者の高年齢化が深刻化しています。そのような状況でも、後継者にうまく事業承継できればよいのですが、後継者がなかなか見つからない場合、M&Aにより外部に事業を譲渡・承継することを検討すべきです。

 

また、スタートアップ企業は株式公開(IPO)を目指しますが、そこまでビジネスが成長しなかったり、市場環境が悪化したりすることにより、株式公開を断念することもあります。そのような場合は、株式公開に代わる出口戦略(エグジット)としてM&Aによる売却が検討されています

 

ただ、このような場合、法律・会計・税務の観点から事業を精査すべき場合もあり、弁護士、会計士、税理士等の専門家のサポートが必要となることもあります。

デューデリジェンス(DD)への対応

デューデリジェンスとは、売り手や対象企業に対する詳細な調査のことを指します。デューデリジェンスは法務、財務、ビジネスを中心に、さまざまな面から調査が行われます。専門的な調査を行う性質上、弁護士や税理士といったさまざまな専門家の協力が必要になります。

 

専門家によって、株式関係や人事労務関係、取引先との契約などにおける法務・知的財産関係の諸問題や、設備投資や事業収益といった財務上の問題点の洗い出しを行っていきます。このほか、ITデューデリジェンスも存在しますが、費用を判断材料としての情報価値などと比較しながら、どの内容に対して行う必要があるのかを検討します。

契約書の作成に不安がない

M&Aでは、『秘密保持契約書』『アドバイザリー契約書』『基本合意書』『最終契約書』など、さまざまな書類が必要となります。これらはすべて法的な書類ですので、1つとして不備があってはいけません。これらの書類を法律家の目線から正しく作成してくれるのは、弁護士に依頼する大きなメリットです。

相手企業とのトラブル対応・法的知識の補完

M&Aを進める中で、買い手企業とトラブルになってしまうこともあり得ます。その際、断片的な知識や義理人情で解決を図るのと、法的な知見からのサポートがあるのとでは、雲泥の差があります。M&Aを進める上では、ある程度の専門知識が必要です。

十分な知識もない状態で手続きを進めてしまうと、相手先企業とトラブルが発生したり、裁判沙汰となってしまったりすることが考えられます。知識・経験のある弁護士であれば、法的トラブルの未然回避も望めます。

各手続きのサポートが受けられる

株式譲渡契約書・事業譲渡契約書などの作成や価格交渉、相手先企業へのアプローチなど、M&Aを行うためにはさまざまな手続きを踏む必要があります。その際、弁護士に相談することで正確かつスムーズに手続きを進められることが期待されます。

潜在債務への的確な指摘

対象企業が認識していない潜在債務についても、弁護士であれば的確に指摘してくれるでしょう。例えば、未払いの残業代があった場合、それが今後、顕在化し、請求される可能性が高いのか、訴訟を起こされる可能性があるのか、もし裁判になった場合はどの程度の解決金が必要かについて、日ごろから裁判実務を行っている弁護士でなければ正確なアドバイスは不可能です。

 

 

M&Aを扱う法律事務所の見極め方|事務所で違う特徴や強み

M&Aを弁護士に依頼するといっても、弁護士個人に依頼するわけではなく、まずは法律事務所単位でどこにすべきかを決める必要があります。企業法務を扱っている事務所といえど、M&Aの実績がほとんど無いという場合もありますから、下記の点に注意しましょう。

大手法律事務所に依頼する場合

大手の法律事務所は、M&Aの実績があるだけでなく、クロスボーダーM&Aという、海外企業とのM&Aの実績もあるのが一般的です。ただし、取り扱う案件としては、50~100億円以上という大型案件が多いです。その際、数千万円の弁護士費用がかかる場合もあります。大手事務所への依頼を検討する際は、事務所の解決実績と、ご自身の相談したいM&Aの規模が近いかを確認しましょう。

外資系法律事務所の場合

外資系法律事務所には、外資系とあるようにクロスボーダーM&Aにおける実績が豊富です。クロスボーダーM&Aは、以前は大手企業や海外ビジネスの経験値が豊富な企業が行うことが多かったものの、昨今では国内のみ事業展開をしてきた会社や、内需型の事業を手がける企業がM&Aの検討をしていることが多いです。クロスボーダーM&Aを検討される場合には、実績の豊富な外資系法律事務所がよいかもしれません。

中堅法律事務所の場合

中堅法律事務所とは、ごく一般的な各種企業法務案件を取り扱う、法律事務所のことを指します。企業法務に関しての実績は豊富ですが、M&Aにおける実績は少ない事務所もあるでしょう。その代わり、大手や外資系に比べて費用が安く、小回りが利くというメリットがあります。中堅事務所への相談を検討する際は、M&Aの解決実績があるかどうか、必ず確認するようにしましょう。

小規模な法律事務所の場合

個人事務所などの小規模な弁護士事務所は、そもそもM&Aを取り扱っていないことも多いです。ただし、M&Aを得意とする事務所から独立して、新しく事務所を立ち上げたというパターンもあるでしょう。そのような場合、M&Aの経験豊富な弁護士から、小規模な案件でも専門的なアドバイスが受けられるメリットがあります。

 

規模が小さいからとはじめから対象外にせず、どのような事務所か調べてみることをおすすめします。  

 

法律事務所の中でもM&A経験や実績のある弁護士の選び方・担当してもらうには

M&Aを取り扱う弁護士・法律事務所の選び方この項目では、弁護士・法律事務所の選び方を解説します。

M&Aの経験・解決実績が豊富である弁護士かどうか

『弁護士・法律事務所であればどこでもよい』というわけではないことは、すでにお伝えした通りで、M&Aの実績がある事務所でも、事務所内においても経験豊富なプレイヤーである弁護士を選ぶべきです。個別案件での関わりなど、問題解決実績は弁護士紹介ページで記載をしている方を選ぶのが良いでしょう。

 

HPに掲載している事務所や企業法務弁護士ナジに掲載のある事務所に問い合わせて、弁護士単位で見比べて検討するのが望ましいといえます。事業承継に関するM&Aとスタートアップ企業に関するM&Aでは注意すべき点が異なるので、どのようなM&Aが得意な弁護士かについても着目すべきです。

幅広いネットワークを持っている

外資系企業が関わるM&Aについては、海外の法律知識が必要なケースもあります。そのような場合、現地事務所とのパイプを持つ大手法律事務所や外資系法律事務所の弁護士などが、選択肢として考えられるでしょう。

 

またM&Aを行うためには、弁護士だけでなく、税務・会計・ビジネスなど多角的な視点からチェックを受けた上で進める必要があります。その際、M&Aに関する幅広いネットワークを持つ事務所に相談することで、確実な取引の実現が望めます。

M&A以外の分野にも対応している

M&Aは事業拡大だけでなく、知的財産権の移転や不動産の流動化、事業再生・破産などを目的に行われることもあります。さらに契約が締結した後も、従業員との間で雇用問題に関するトラブルが発生することも考えられます。そのような場合、M&Aのみに注力する事務所では対応しきれない可能性もあります

 

知的財産・IT関連や不動産流動化案件、事業再生・破産など、M&A以外の分野にも幅広く対応している弁護士を選ぶのがよいでしょう。

最後は弁護士との相性|合わなければ担当替えも検討

意外と大事なポイントですが、M&A案件を預ける弁護士との相性も重要です。M&Aの初動から具体的な形になってくるまで、場合によっては日に何回も連絡を取り合うことがあります。迅速かつ正確なコミュニケーションが求められます。

 

密な関係値を築くわけですから、信頼できる相手であること以上に、人間的に相性が合う相手を選ぶべきです。そうでないとM&A自体が苦痛なものになりますし、コミュニケーションに齟齬が生じる可能性もゼロではありません。

 

M&Aを弁護士に依頼した場合の費用

M&Aを弁護士に依頼した場合の費用についてご紹介します。費用については、事務所によって料金体系が異なるため一概にいえませんが、下記では一般的な弁護士費用に関してご紹介します。

相談費用

初回相談を無料に設定している事務所も最近は多いですが、「法律相談料」が発生する場合、1時間5,000円〜10,000円に設定しているケースが一般的です。ただ、M&Aといった専門性の高い法律相談の場合は無料で行っているケースは少ない傾向です。

着手金・報酬金

着手金は弁護士に依頼した時点で支払う手数料です。M&Aの場合、案件規模に応じて100万円〜200万円程度の着手金が発生すると思っていて良いでしょう。成功報酬はM&Aが成功した段階で発生しますが、M&Aによって得られる経済的利益の10%〜20%、規模によっては1000万円以上になることもありますので、実際にどの程度の着手金・報酬金が発生するかは、個別の弁護士に問い合わせてみましょう。

タイムチャージ制

タイムチャージ制は、弁護士が案件に費やした時間に応じて金額が決まる報酬決定方法です。多くの場合、弁護士ごとに時間単価が決まっていて、これに実稼働時間をかけることにより弁護士費用が決定されます。弁護士ごとの時間単価は、大手法律事務所でだいたい2万5000円~8万円程度で、経験年数などによって異なります。

 

タイムチャージ制の場合、弁護士費用の請求は月締めで行われることが多いようですが、きりの良いタイミングでまとめて支払うケースもあります。

契約書作成・デューデリジェンス費用

M&Aに関する契約書作成も専門的なサービスのため、契約書作成費用だけでも50万円〜100万円が発生すると考えていただければと思います。契約周りからDDまでのトータルサポートを依頼した場合、着手金が高額になりますがその中に含むケースもあります。

 

M&A相手企業へのデューデリジェンス費用単体で考えた場合、これもピンキリですが100万円〜1000万円程度の幅があります。案件の規模、業種、法的リスクの大きさなどにもよりますが、調査対象(スコープ)をどう絞り込むかによって大きな違いが生じます。

顧問契約・リテイナーフィー

リテイナーフィーとは、一定期間の継続的な業務に対して支払われる定額顧問料のことです。M&Aは場合によっては数年以上かかる長期戦ですので、成功報酬とは別に、一定期間の調査や相手先訪問などの業務に対してリテイナー契約(顧問契約)を結ぶことがあります。

 

M&A仲介会社の場合は30~200万円程度で、弁護士・法律事務所の場合もそう違いはないでしょう。

 

M&Aにおける売り手側のメリット

次に、M&Aのメリットについてご紹介します。売り手側と買い手側で事情が異なります。まず売り手側のメリットをご紹介します。売り手側のメリットとしては、主に3つのポイントがあります。

後継者問題の解決

近年深刻化している中小企業の後継者問題。

 その内容もさまざまで、

 

  1. 後継者が見つからない
  2. 事業承継するご子息がいない
  3. 巨額の債務を後継者に引き継がせたなくない
  4. 従業員の中に経営を引き継げる人材がいない

 

など、あらゆる問題が存在しています。

 

このような問題をM&Aを通じて解決できる可能性があります。例えば、法人債務を解消したいという場合、M&Aの対価を弁済資金にあてるということもあり得ます。また、社内に適切な事業承継先がない場合にM&Aで適格な承継先を選定するということもあり得るでしょう。

従業員の雇用を守る

事業の先行きが不透明であり、このままでは解散・清算もあり得るということもあるかもしれません。仮にそうなった場合、従業員は突如として生活の糧を失うことになります。そのような状況は、従業員を守るという側面からも、経営者はできる限り避けたいはずです。

 

M&Aで体力のある優良企業に事業を承継できれば、従業員の雇用を守ることも可能となります。雇用が守られ、従業員にとっては給与・福利厚生・賞与が改善するチャンスでもあります。

売却資金を活用できる

スタートアップ企業の創業者にとっては、M&Aによって得られた売却資金により、成長分野や新規分野への投資を行うことができます。技術や産業の変化が激しい今日、M&Aによって起業を繰り返す連続起業家(シリアル・アントプレナー)も増えています。

 

M&Aにおける買い手側のメリット

M&Aにおける買い手側のメリットをご紹介します。買い手側には、主に3つのメリットが存在します。一つひとつ見ていきましょう。

規模とシェアの拡大

M&Aを行うことで、対象会社の売り上げなどの経営資源を取り込めます。それによって、買い手自体の規模の拡大を図ることが可能です。最近の傾向としては、大手のドラッグストアなどが、調剤事業、医療介護などの福祉事業に参入し、規模拡大を図る事例が散見されるようです。

企業の多角化を促進する

M&Aによって、これまで自社だけではリソースを割り当てることが不可能であった業種へも、買収という形で参入できます。つまり、企業の多角化が促進されて、業務範囲も広がります。 自ら新規事業を始めるより、リスクを抑えて短期間に進出できます。例えば、楽天は当初ネット小売り企業としてスタートしましたが、銀行やカード会社などを買収し、事業規模の拡大と事業の多角化を促進させました。

 

このように、現在においてはIT企業を中心に、関連業種の買収が促進されているという背景があります。

弱い部分を補完する

M&Aでは自社にはない、対象会社のノウハウや技術を取り入れることが可能になります。これにより、自社事業の基盤を強化し、さらに弱い部分を補完できるため、事業全体の底上げを行えます。それによって、新たな市場開拓も参入しやすくなるでしょう。  

 

 

まとめ

M&Aは、後継者問題を抱える中小企業や株式公開に代わるエグジットを探すスタートアップ企業において、今後も需要が高まるでしょう。事業承継や出口戦略をできるだけ早く計画し、適切な対策をすることが必要です。M&Aを弁護士に依頼する際は、案件に応じて十分な実績のある弁護士事務所へ依頼しましょう。

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