就業規則の周知方法|効力を発揮する正しい周知方法とは

専門家執筆記事
就業規則が実際に効力を発揮するためには、作成した就業規則を正しく周知する必要があります。周知の方法が間違っていると、無効になる可能性がありますので注意しましょう。この記事では就業規則の周知についてご紹介します。
Ad Libitum(フリーランス人事)
松永 大輝
執筆記事
人事・労務

会社員の中には、「就業規則なんて今まで見たことない」という人もいるかもしれません。

 

単に就業規則などには興味がないということであれば問題はありませんが、会社で気軽に就業規則が閲覧できる状態になっていない場合は注意が必要です。

 

そのような状態を放置していると、トラブルがあった際に就業規則の効力そのものが否定される可能性があります。

 

それほど「就業規則を閲覧できる状態にすること=会社全体に周知すること」は重要なことです。今回はこの就業規則の周知について解説します。

 

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就業規則の周知に関する法律上の定め

まずは就業規則を周知することについて、法律ではどのように定められているのかを確認しましょう。

 

周知の義務

・労働基準法第106条1項

  使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則を、(中略)常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない。

 

要するに就業規則はきちんと周知しなければならない旨が定められています。

 

周知方法の定め

周知方法については以下の通りです。 

 

・労働基準法施行規則第522

法第106条第1項の厚生労働省令で定める方法は、次に掲げる方法とする。

一 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること。

二 書面を労働者に交付すること。

三 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。

 

 上記の通り、省令では周知の方法について3つの方法が定められています。詳しい方法は下記で説明していきます。

 

周知する方法

 ここからは、周知の方法について、「具体的なケースごとに法律が求める水準を満たすかどうか」について考えてみたいと思います。

 

ここで挙げられる3つのうち該当しないものがあれば、労働基準法が求める周知にならないという点に注意しましょう。

 

常時確認できる状態にする

就業規則は確かに社内に存在はするが、実物は社長など上席者のデスクの中などにあり、許可を得なければ閲覧することができないという場合はどうでしょうか。

 

この場合、許可を取れば見ることができる状態が周知に該当するかどうかが問題となります。会社内に就業規則そのものは備え付けられているため、一見すると周知義務を果たしているように思えますが、法令では「常時確認できる」状態にすることが求められています。

 

このケースでは、就業規則の閲覧にあたり上長の許可という条件が付されている以上、常時確認できる状態という状態ではありません。よってこれでは周知がなされたということにはなりません。

 

このように就業規則の存在は社内で知られているものの、周知が十分でないため、内容が社内で伝わっていない場合の就業規則の効力については別途解説します。

 

入社時に雇用契約書と併せて就業規則を交付する

 これは省令に列挙されている「書面を労働者に交付する」をそのまま満たすため正しい周知の方法と言えます。

 

このように、就業規則の全文をそのまま印刷して労働者に交付するのが省令上望ましい方法ですが、印刷コストや手間などを考慮して一人一人に書面交付するのが難しい場合は、入社時研修などの場面で就業規則を見せながらその内容について説明するという形を取る方法でも構わないでしょう。

 

その場合は以後見たい時に就業規則がいつでも閲覧できるような形で保管されている必要があるという点には留意が必要です。

 

共有フォルダに最新の就業規則が保存されている

これは省令のうち、

磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。

を満たすケースです。

 

社内のネットワークなど、社内の端末であれば誰でもアクセスできるフォルダ内に就業規則が保管されている場合は、誰でもすぐに閲覧できる状態になっていると言えるため、周知義務は果たされているということになります。

 

その際、パスワードで閲覧制限がかかっているような場合は周知をしたことにはなりませんが、情報漏洩対策として印刷に制限をかけたり、就業規則のファイルに編集制限などをかけることはまったく問題ありません。

 

就業規則が無効になる可能性のあるケース

周知したはずの就業規則が無効になるケースにはどのようなものがあるでしょうか?

 

『労働基準監督署に届け出た事実』のみを周知したケース

『就業規則を届け出た』という事実のみが周知され、就業規則の内容が周知されていない場合には、その就業規則は無効になる可能性があります。

 

  1. 就業規則の作成
  2. 作成した就業規則の周知
  3. 周知した就業規則を所轄労働基準監督署へ届け出

 

届け出には上記の3ステップを踏む必要があります。ただし、②と③はどちらが先になっても問題ありません。

 

古い就業規則しか周知されていない場合ケース

作成時の就業規則はしっかり周知されているものの、その後変更した就業規則が周知されていないという場合、変更後の就業規則は無効になる可能性があります。就業規則の周知は作成時だけでなく変更時にも必ず必要となることに留意しておきましょう。

 

周知を怠った場合のリスク

 

労働基準法が要請する周知に該当するケース、しないケースは上述の通りですが、就業規則の周知を怠っていた場合や周知が十分ではなかった場合にはどのようなリスクが想定されるのでしょうか。

 

労働基準法違反として罰則が課せられる

就業規則には作成する義務、労働基準監督署へ届け出る義務、そして周知する義務と3つの義務がありますが本記事のテーマである周知を怠っていた場合や周知が不十分であった場合には労働基準法違反として罰則が科せられる恐れがあります。(労働基準法第120条)

 

実務上、いきなり罰則が課せられることは稀で、まずは是正勧告や指導が行われ、それらを受けた上でも状況が改善されない場合は、「30万円以下の罰金」が科せられることになります。

 

周知を完全に怠った就業規則は無効

全く周知されていない就業規則は効力がありません。内容を知ることができなければ労働者としてもルールを守ることは不可能だからです。

 

判例でも、「使用者において内部的に作成し、従業員に対し全く周知されていない就業規則は労働契約関係を規律する前提条件をまったく欠くというべきであるから、その内容がその後の労使関係において反復継続して実施されるなどの特段の事情がない限り、効力を有しない」(関西定温運輸事件)と述べられています。

 

例えば労働者を懲戒解雇する際、全く周知されていない就業規則を引っ張り出してきて、「会社のルールとしてこの条文に違反しているから懲戒解雇だ」と主張しても、社内にそのルールが周知されていなければ懲戒解雇は無効とされる可能性が高いでしょう。

 

周知が十分でない就業規則の効果はケースバイケース

一方、周知が十分でない就業規則の効力については裁判例でも意見が分かれるところです。

 

最高裁の判例では「就業規則が拘束力を生ずるためには、その適用を受ける事業所の労働者に周知させる手続きを要する。」(フジ興産事件)と判示されていますが、一方で、「労基法106条1項の周知手続の履践義務は、就業規則の効力要件ではなく、使用者において、その事業場の労働者に対し、就業規則の存在および内容を周知せしめ得るに足りる適宜な方法により告知されれば足り、同法90条所定の手続を経て就業規則を定めている以上、有効である。」(大洋興業事件)と、周知の手続きをした事実の有無のみでは、必ずしも就業規則の効力の有無を判断しないとしている裁判例もあります。

 

 就業規則の作成プロセスでは、

 

  1. 労働者への意見聴取
  2. 労働基準監督署への届出
  3. 作成した就業規則の社内周知

 

という3つの重要手続きがありますが、この3つの手続きのどれかが欠けてしまうと、就業規則の効力が完全でなくなることは確かです。

 

実務上の注意点としては意見聴取、届け出、周知の3つのプロセスは確実に押さえておき、特に周知については労働基準法が求める方法として①見やすい場所へ備え付ける、②個別に交付する、③PCなどでいつでも閲覧できる状態にしておくのいずれかの方法を必ず実施するように注意しましょう。

 

まとめ

以上、就業規則のうち周知について解説してきました。周知はその内容を社内に共有するだけでなく、就業規則の効力発生にも関わる重要な作業です。

 

作成したはいいが周知するのを忘れてしまっていたり、不十分な周知を行った結果罰則を課されたりすると、就業規則の効力がなくなってしまいます。まずは法令が要請する周知を確実に実施することが大切です。

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