顧問弁護士とは、会社が事業を進めていく上で発生するさまざまな法律問題について、その会社と顧問契約を締結することにより、継続して相談を受けたり、問題解決のために助言したりする弁護士のことです。
顧問弁護士は、その会社のことを熟知することになるので、問題発生の都度、個別の弁護士に依頼するよりも、柔軟かつ迅速に対応してもらえる可能性が高くなります。
この記事では、顧問弁護士を雇うことのメリットや、選び方のコツをご紹介していきます。
中小企業が顧問弁護士をつけるべき6つの必要性
顧問弁護士をつけると、さまざまなメリットがあります。
債権回収トラブルへの期待
売掛債権などを回収・資金化しようとする際、弁護士への相談が遅れてしまうと、回収不能という事態に陥りかねません。そうすると債権者、つまり会社が倒産することにもつながってしまう可能性があります。入金が遅れそうならばすぐに弁護士に相談し、適切な法的対応をとる必要があります。
内容証明による対応
債権を回収するためには、まず催告をする必要があります。この催告の一形態として内容証明郵便があります。内容証明郵便とは、ある内容を記した文書を郵送した事実を公的に証明することができる郵便です。この内容証明郵便は、債権回収においてそれなりに有効です。
内容証明郵便での督促は、その記載内容が重要です。記載内容に不備があると、後日訴訟をした場合に、主張と矛盾が生じているとして、不利な判断を受けるリスクがあるからです。
回収の代行業務
債権を回収するにも、催促・訴訟・強制執行という手続きを経なければなりません。裁判となると高度な法的知識が必要となります。経営の最重要課題といえる債権回収を実現するためには、これらの手続きを迅速かつ適切に行い、確実に回収を図ることが肝要です。
このような複雑な法的手続きを適切に行うためにも、日ごろから相談しやすい顧問弁護士が身近にいるということには、大きなメリットがあるといえます。 弁護士が顧問契約をしている場合、顧問先から相談や依頼が来た場合は、優先的に対応してくれます。
法務トラブルへの優先的な対応
弁護士が顧問契約をしている場合、顧問先から相談や依頼が来た場合は、優先的に対応してくれます。
契約書作成・リーガルチェック
契約書を作成するにあたっては、高度な法的知識が求められます。紛争になった場合の管轄裁判所はどこにするのか、判決を取っても執行ができるのかなど、さまざまなことを記載しておく必要があります。顧問弁護士を雇うことによって、契約書の作成から最終チェックに至るまで、弁護士に相談することができます。
人事・労務トラブルへの対応
今日、労働問題が大きな社会的課題となっています。従業員の雇用時から退職後まで、企業と従業員との間には、人事・労務問題が発生するリスクがあります。特に中小企業においては、従業員が少ないため人事・労務問題が起きた場合、会社運営に与える影響は比較的大きいといえます。
顧問弁護士を雇うことで、就業規則・雇用契約書などが適切かチェックしてもらうことにより、トラブルを未然に防ぐことができ、トラブルが発生した際にも、迅速に従業員との交渉や裁判に臨むことができます。
法務トラブルへのスピーディーな対応
トラブルが発生する度に弁護士に依頼するとなると、まず予約を取り、その後面談をし、企業の概要・トラブルの内容を伝えるという手続きを経た上で、ようやくトラブルの解決に動き出すので、どうしても時間的なロスが出やすくなります。
これに対して、顧問弁護士の場合、電話やメール一本で相談することができ、中には休日に対応してくれる弁護士もいます。また、顧問弁護士はその企業の特徴を把握できているため、こちらから企業の概要について改めて伝えることなく、スピーディーにその企業の要望に沿った形で、トラブル解決にあたってくれます。
トラブルの事前予防アドバイス
顧問弁護士がいれば、問題が具体化する前に相談できるので、トラブルを未然に防いだり、迅速に解決したりすることができます。
多くの場合、訴訟に至ってから初めて弁護士が介入しても、勝訴・敗訴の判断に影響を与えるような対応は難しいとされています。
一方、訴訟に至る以前の段階(例えば、契約締結時や交渉時)で弁護士が介入すれば、まずは訴訟にまで問題が発展するリスクを減らすことができます。さらに、仮に訴訟に至った場合でも、自社のさまざまな事情を踏まえて対応してくれるため、有利に訴訟を進められる可能性が高いです。
このように、問題の発生以前から弁護士のサポートを得ることで、トラブルの事前予防やトラブル発生時のリスク低減に役立つのです。
顧問弁護士の費用(顧問料)の相場
顧問弁護士を雇う際には、事業者と弁護士の間で、顧問契約を結びます。そのときに唯一のデメリットになり得るのが、固定費用がかかることです。
基本月額顧問料の相場
日本弁護士連合会のアンケートによる基本月額顧問料の相場 | |||
10万円 | 5万円 | 3万円 | 2万円 |
5.7% | 45.7% | 40.0% | 6.7% |
出典:アンケート結果にもとづく中小企業のための弁護士報酬の目安|日本弁護士連合会
顧問弁護士を雇うと、実際の相談や事件処理があったかどうかにかかわらず、基本的に月々の固定顧問料が発生します。この表を見ると、月額3~5万円で受任している弁護士が多数のようです。
「相談や事件処理をお願いするかわからないのに、毎月必ず3~5万円の顧問料を支払うのは高すぎる」と感じる方もいると思います。しかし、顧問料が安いからといって安易に飛びついてしまうのも危険です。顧問料そのものは安くても、その他の費用が大きな負担になるケースもあり得ます。顧問契約を結ぶ際には、きちんとその契約内容を弁護士に確認しましょう。
タイムチャージ制
顧問弁護士をつける際、タイムチャージ制という報酬制度があります。タイムチャージ制とは、例えば、時間単価で料金を設定し、弁護士がその仕事に従事した時間分、報酬を支払う、といった方式です。
タイムチャージ制のメリットは、月極めの顧問料を払わなくてよいことです。月極めの顧問料は、弁護士に仕事を依頼しない月には、単なる出費となってしまいます。これに対し、タイムチャージ制は弁護士が働いた分だけお金を払えばよいため、無駄を少なくすることにつながります。
しかし、このタイムチャージの怖いところは、解決まで時間がかかれば、費用もそれだけ膨らむ、という点です。タイムチャージでの依頼をする際は、きちんと、リスクも踏まえたうえで、慎重に判断するべきであるといえます。
その他の費用
月額の顧問料を支払っていても、無制限に仕事をしてもらえるわけではありません。 あるアンケートによると、月3時間程度の相談(調査時間等を含む。相談方法は面会に限らない)を、月額顧問料でカバーできる範囲内とする回答が60%近くになっています。一方で、電話、FAX、メールなどを通じた相談で、回答に時間のかからないものであれば、時間の長さにかかわらず顧問料の範囲内とする回答が35%ほどになっています。
月額顧問料内での対応は弁護士次第
月額顧問料でどのぐらいの仕事をしてくれるのかは、弁護士やその契約内容により異なります。事前に弁護士よく説明を受けた上で、顧問契約を結びましょう。
もっとも、何か問題が発生し、顧問料での対応範囲外の依頼をしなければならなくなったとき、ほとんどの顧問弁護士は通常の費用より割安で仕事を引き受けてくれます。
また、法律事務所によっては、毎月の顧問料の一部をポイント還元しており、月々の顧問料でカバーできる範囲外の事案を依頼したいときに、お金の代わりに使うことが可能です。このポイント制度がある法律事務所に依頼することで、将来的に発生する顧問料を安くできる可能性があります。
どのような弁護士を選ぶべきか
では、どのような弁護士を顧問弁護士として選ぶべきなのでしょうか。顧問弁護士選びのポイントについて紹介していきます。
業界・事業への理解が高い
世の中には多種多様な業界・事業があり、それぞれに応じたたくさんの法令が存在します。 ですので、弁護士であってもすべての分野に精通しているわけではなく、それぞれ得意な分野が異なります。もちろん、弁護士は法律のプロですので、初めて受任する業界・事業分野であっても、一定の対応は可能ですが、その分野に関する受任経験や知識の豊富さが、サービスのクオリティにも影響するのは否定できないところです。
したがって、顧問弁護士を選定する際にも、自身の業界・事業分野についての知見や経験があるかどうかは、重要なポイントになります。また、貿易などで海外との取引があるような場合には、顧問弁護士にも英語力があることが望ましいでしょう。
ご自身の業界・事業分野に合った弁護士を選ぶことで、より適切なアドバイスやサービスが受けられるでしょう。
費用が明快
顧問弁護士をつけるためには報酬を払わなければならず、顧問契約を締結する上で重要な関心事になると思います。弁護士事務所によって料金体系はさまざまであるため、それが明快であることはとても大事なことです。何をどうしたらいくらかかるのか、契約の際にしっかりと説明してくれる弁護士を選びましょう。
説明がわかりやすい
顧問弁護士とは長い付き合いになります。その間には多くのトラブルが発生することが考えられます。トラブル解決の際に、弁護士からの説明がわかりやすいか否かは、企業の利益にも直結する重要なポイントであるといえます。
顧問契約を締結する際には、その説明のわかりやすさも判断材料にしましょう。
柔軟な対応姿勢
大事な顧問先からの依頼に対しては、素早く対応する、という弁護士は多いと思います。新しく弁護士に依頼する場合はまず予約を取り、その後面談することから始めなければなりませんが、顧問契約を結んでいれば、電話やメールでも柔軟に相談に乗ってくれるでしょう。
メールや電話といった方法で相談することができれば、休日に急なトラブルが発生したとしても、迅速に対応してもらえるかもしれません。
まとめ
顧問弁護士を雇うことにはさまざまなメリットがあります。月額固定顧問料など、費用はどうしてもかかってしまいますが、ご自身に合った弁護士を顧問とすることで、総合的にみれば事業にとって有益となる可能性は大きいといえるでしょう。
より安心で円滑な経営のために、顧問弁護士の導入を検討してみてはいかがでしょうか。