学校法人の破産手続きも破産法に従って処理される点では一般企業と同じです。しかし、学校法人は教育機関としての側面があり、その側面から特別な検討が必要となります。
例えば、在学生のカリキュラムをどう処理するか、新規学生募集をいつ停止するか、在学生を他校に転校させることはできるかなど、慎重な検討が必要です。
この記事では、学校の破産手続きの流れと学生への対応を中心にご紹介します。
学校法人の破産手続きの流れ
学校法人の破産手続きは基本的に下図のような流れで進みます。
では、具体的な手続きについて解説します。
1:事前打ち合わせ
学校法人の破産実績のある弁護士または、債権、破産専門の弁護士事務所に相談をします。契約までの相談は無料で行ってくれる事務所も多くあるので、現在の経営状況をしっかりと説明してアドバイスを受けましょう。
相談をして、手続き費用や期間、具体的な流れについての説明を受け、納得ができれば正式に委任契約を結びます。
2:受任通知
学校法人の破産手続きにおいて、「委任契約書」を弁護士と取り交わし、委任状を弁護士に送付します。それを受けた弁護士は、正式に債権者へ向けて受任通知を発送します。
受任通知とは、弁護士名で債権者に「学校法人が破産の申立てをせざるを得ない状況にあること」を知らせる通知のことです。
受任通知が債権者に届くと、債権者は学校法人に対して支払請求や連絡ができなくなり、窓口は代理人弁護士となります。
3:破産申立
学校法人の破産申立に必要な申立書や添付書類などを弁護士指導のもと作成します。また、事業継続が必要な旨を十分に協議した上で、裁判所へ破産の申立てを行います。
破産の申立てを行った後でも、学校法人の場合は、裁判所より許可を得て「破産法第三十六条」に則り事業継続をすることができます。
<破産法 第三十六条>
破産手続開始の決定がされた後であっても、破産管財人は、裁判所の許可を得て、破産者の事業を継続することができる。(破産者の居住に係る制限)
【引用元:破産法】
4:破産手続開始決定
裁判所が学校法人の破産手続きの開始決定を行い、破産管財人を選出します。基本的に破産管財人は、学校法人とは全く関係のない第三者の弁護士が選任されます。
この決定により学校法人の財産などは破産管財人の管理下に置かれ、学校法人の経営者は財産の処分や管理を行えない状態となるのです。それと同時に債権者も財産の差し押さえや強制執行が行えない状態となります。
この段階で裁判所が債権者に、破産手続きを開始した旨を開始通知で郵送します。この通知を受けた債権者は、自らの債権を債権届出書に記載した上で、裁判所へ提出します。
5:破産管財人との打ち合わせ
破産管財人と依頼者、代理人弁護士の三者で、学校法人の資産や負債状況などについて詳しく協議します。冒頭で述べた学生の処理については、管財人との協議で詳細を詰めていく必要があります。
6:第1回債権者集会
財産処理や学生処理が大筋で片付いた段階で、裁判所において債権者集会を開催します。
債権者集会では、破産管財人から学校法人の資産状況について報告を行い、債権者から届け出のあった債権の認否の結果もあわせて報告することとなります。
債権者集会は、依頼者と代理人弁護士も出席し、1回で終わらない場合には、2回目を行います。
7:配当手続
法律上の優先順位に基づいて、破産者の財産を債権者に配当します。学生も債権者ではありますが、学生にまで配当が回ることは少ないようです。また、配当できる財産が集まらなかった場合には、配当手続きを行わずに破産手続きが完了となります。
8:旧経営者の免責決定
旧経営者も同時に破産手続きを開始している場合には、配当手続き完了後または破産手続きが異時廃止するタイミングで、旧経営者の免責決定がなされます。
9:終結および廃止決定
以上の流れを持って、学校法人の破産手続きは終結します。
学校法人が破産手続きする際の学生への対応
学校法人が破産となった場合、所属する学生は金銭的被害だけでなく、学生としての生活の場を奪われることになります。その影響が甚大であることからすれば、学生に対しては極力きめ細やかな対応・配慮が必要となるでしょう。
学校法人が行うべき具体的な学生への対応
学生へ破産することになった場合、状況に応じて、学校法人の財務状況、経営破綻の理由、再建が困難な理由、他整理手続を選択できない理由、破産手続の見通し、破産手続における学生の取り扱いの内容、今後の進捗、相談・説明窓口の案内など多岐にわたる説明を学生及び保護者に対して繰り返し行い、理解を得ることがベストです。
全学生が卒業するまで経営を続ける
学校法人としては、破産により学生たちが学業を継続できない状況に陥ることだけは避けなければなりません。
学校法人の破産手続きでは、「破産申立後でも、裁判所へ許可を申請し承認されれば、学校法人としての事業を一定期間継続することが可能」とされており、新規学生募集を停止し、在学中の学生が卒業するまで事業を継続することが可能です。
ただし、私立学校に関しては以下のように記されています。
<私立学校法 第五十条>
学校法人は、次の事由によって解散する。
一 理事の三分の二以上の同意及び寄附行為で更に評議員会の議決を要するものと定められている場合には、その議決
二 寄附行為に定めた解散事由の発生
三 目的たる事業の成功の不能
四 学校法人又は第六十四条第四項の法人との合併
五 破産手続開始の決定
六 第六十二条第一項の規定による所轄庁の解散命令
【引用元:私立学校法】
私立学校の場合、「五 破産手続開始の決定」にあるように、破産手続開始の決定が下されると事業継続を行うことが事実上不可能となります。申立て前に、学生への対応を考えることが必要です。
他の学校法人に買収・吸収される
学校法人としての機能を損なわずに継続したい場合には、他の学校法人へ事業を買収、吸収させる方法もあります。
もし、学校法人として成長が見込めると判断されれば、M&Aを行う方法も十分に考えられるでしょう。ただ、学校法人の事業買収については、受け皿となるスポンサーも学校法人と決められているため、難しい側面も持ち合わせているのです。
破産以外の手段を検討してみよう
学校法人の破産については、在学中の学生の今後の人生に多大な影響を与えることから、できる限り避けなければなりません。
ここでは、学校法人が破産手続きや買収・吸収される以外の手段によって、事業を存続させる方法をご紹介します。
民事再生手続
裁判所の管理下で行われる法的再生手続きの一つである「民事再生」は、裁判所や監督委員の監督のもと、債務者自身が主体的に企業の債権を行うものです。
学校法人に民事再生手続きを適用することで、事業を継続することができ、経営陣を変えずに運営を続けることが可能となります。在学生や教職員の保護、卒業生に対しても柔軟な対応が可能です。
民事再生手続きを行うことで、授業料の全額を回収できないリスクや、転学支援のリスクを回避できます。
特定調停
特定調停とは、民事調停の種類で、事業が傾いている借主に対して、裁判所が貸主やその他の利害関係者との仲介を行い、債務の調整を行ってくれるものです。裁判所が間に入ることで、公正な手続きのもと経済的再生を支援してくれます。
特定調停は、完全合意型の手続きであり、特定調停が成立するためには全ての債権者の同意が必要となります。
事業再生ADR
事業再生ADRとは、訴訟や法的再生手続きのように、裁判所の介入による紛争解決を目指すものではなく、当事者間の話し合いをベースとして事業再生を図る手続きです。
ADR法(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律)の施工に基づき、法務大臣の認証を受けた事業再生ADR事業者が、事業再生をサポートしてくれます。
まとめ|事業資金がなくなる前に弁護士へ
学校法人の破産に関するお悩みは、事業資金が枯渇する前に、早い段階で破産手続き、事業再生に詳しい弁護士に相談しましょう。場合によっては、破産という手段を講じなくても事業再生ができる状況も考えられます。また、学生への対応も相談することが可能です。
破産手続き以外の民事再生手続や、私的整理など解決できるすべての選択肢を弁護士と一緒に話し合いましょう。