会社の経営が悪化してしまい、立て直しが困難な場合、最終的には『法人破産』をして会社を清算することになります。
法人破産を行う場合、破産手続の開始に先立って、裁判所に対して予納金を納付する必要があります。この予納金は、事件によっては高額になってしまうため、会社・経営者としては捻出に苦労するかもしれません。
具体的に、予納金はどのくらいの金額で、またどのような使途に用いられるのか気になる方も多いでしょう。
この記事では、法人破産に必要な予納金の金額や、その使い道などについて解説します。
法人破産の予納金とは?使途と支払いのタイミングについて
まずは、法人破産の予納金とはどのような用途に用いられるお金なのか、またいつ支払うのかについて解説します。
破産手続に必要な費用に充てるためのお金
法人破産の予納金は、破産手続に必要な費用に充てるために用いられます。破産手続の費用は、破産者である会社が支払う必要があります。
しかし、会社の財務状況が悪化している状況では、会社財産を処分しても必要な費用が捻出できるという保証はありません。そのため、事前に予納金を納付させて、破産手続にかかる費用の原資を確保しておくことになっています。
なお、破産手続にかかる費用の内訳としては、破産管財人報酬が大部分を占めています。したがって、予納金もほとんどが破産管財人報酬に充てられることになります。
予納金を裁判所に納付するタイミングは?
裁判所に対して予納金を納付するタイミングは、破産手続開始の申立てから2週間から1か月後です。裁判所は破産手続開始の申立てを受理した後、申立ての内容を精査したうえで、具体的な予納金額を決定して申立人に通知します。
予納金の納付期限は特に定められませんが、後述のとおり、予納金を納付しなければ破産手続開始の決定が行われません。そのため、裁判所からの予納金額が通知され次第、速やかに予納金を納付する必要があります。
予納金の納付は破産手続開始決定の要件
破産者である会社が予納金を納付することは、破産手続開始決定の要件となっています。
予納金の納付がない場合、破産手続開始申立ては却下
法人破産を申し立てた会社は、破産手続の開始に先立ち、裁判所に予納金を納める必要があります(破産法22条1項)。予納金の納付がない場合には、破産手続開始の申立てが却下されてしまいます(破産法30条1項1号)。
(費用の予納)
第二十二条 破産手続開始の申立てをするときは、申立人は、破産手続の費用として裁判所の定める金額を予納しなければならない。
2 費用の予納に関する決定に対しては、即時抗告をすることができる。
引用元:破産法第22条
(破産手続開始の決定)
第三十条 裁判所は、破産手続開始の申立てがあった場合において、破産手続開始の原因となる事実があると認めるときは、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、破産手続開始の決定をする。
一 破産手続の費用の予納がないとき(第二十三条第一項前段の規定によりその費用を仮に国庫から支弁する場合を除く。)。
二 不当な目的で破産手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき。
2 前項の決定は、その決定の時から、効力を生ずる。
引用元:破産法第30条
国庫からの仮支弁制度も存在するが、法人破産の場合にはまず認められない
破産手続の予納金については、破産法上、仮支弁制度(破産法23条1項)が設けられています。仮支弁制度とは、以下の条件をすべて満たす場合に、破産手続の費用を国庫から仮に支弁する制度です。
- 申立人に資力がないなどのケースであること
- 申立人や利害関係人を保護するために破産手続を行うことが特に必要と認められること
しかし、予納金の仮支弁制度は、本来個人の生活保護受給者などを救済するために設けられた制度です。そのため、仮支弁制度の適用が法人破産のケースで認められる可能性はほぼありません。
したがって、予納金は会社や経営者が自力で捻出する必要があります。
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予納金の金額を紹介|東京地裁のケース
法人破産の予納金は、「少額管財」のケースと「特定管財(通常管財)」のケースで料金体系が異なります。一般の方にとっては、「少額管財」と「特定管財(通常管財)」の区別についてはあまり馴染みがないかもしれません。
以下では「少額管財」と「特定管財(通常管財)」の区別について解説するとともに、東京地裁への申し立ての場合に、それぞれのケースにおいてかかる予納金の具体的な金額について紹介します。
少額管財と特定管財(通常管財)について
東京地裁をはじめとする一部の裁判所では、法人破産を含む破産手続について、「少額管財」の運用が行われています。少額管財とは、破産管財人の業務を簡略化する代わりに、破産管財人報酬を低額に抑えて予納金の負担を小さくする破産手続の運用方法です。
破産法に基づく破産管財人の業務をフルパッケージで行う場合、破産管財人の業務量は膨大になります。当然、それに伴って破産管財人報酬も高額になってしまうため、申立人が予納金を捻出するのは大変です。
しかし、破産事件の内容や複雑さにはかなり幅があるため、すべての事件についてフルパッケージの破産管財人業務が必要というわけではありません。そのため、定型的な処理が可能と考えられる破産事件では、破産管財人の業務を簡略化して予納金を低額に抑え、破産手続をより利用しやすくする運用方法が取られています。
これが「少額管財」です。
東京地裁では、少額管財が原則的な運用とされており、特定管財(通常管財)の取り扱いになる場合は例外的です。たとえば以下のような場合には、特定管財(通常管財)として取り扱われるものとされています。
①大型事件(債権者数300名以上が目安)
債権者の数が非常に多い大型事件のケースでは、債権者への質問対応などだけでも、破産管財人には大きな手間がかかります。
さらに、大型事件ではそもそも会社の規模自体が大きいケースが多いため、財産の換価処分や債権者への配当にもかなりの労力が必要となります。このように、大型事件では破産管財人の負担が重くなりがちであることから、特定管財(通常管財)事件となります。
②保全管理命令などにより財産を保全する必要がある場合
破産手続開始決定前に保全管理命令が行われる場合、破産手続開始決定の時期が流動的になります。保全管理命令などが行われる破産事件は、典型的な破産事件とは異なる流れをたどるという理由で、特定管財(通常管財)事件とされています。
③特別清算・民事再生・会社更生が失敗した場合(牽連破産)
特別清算・民事再生・会社更生の手続が失敗すると、裁判所が職権で破産手続開始の決定を行います(牽連破産)。牽連破産(けんれんはさん)のケースも、やはり典型的な破産事件とは異なる手続きを取るため、特定管財(通常管財)事件になります。
④破産者になる本人が破産手続開始の申立てを行った場合
弁護士に依頼をして法人破産の申立てを行うケースでは、申立て前に弁護士が事案を整理しているため、破産管財人は代理人弁護士による整理をある程度参考にすることができます。
しかし、弁護士を代理人とせず、破産者となる本人が破産手続開始の申立てを行う場合、破産管財人はゼロから事案の内容を整理・把握する必要があります。
そのため、弁護士が代理人に付いていない本人申立て事件のケースでは、破産管財人の業務負担が重くなることが想定されます。
したがって、本人申立て事件の場合は特定管財(通常管財)事件として取り扱うとされています。
⑤その他複雑な事件の場合
上記の各パターンの他にも、定型的な処理を行うことができない破産事件については、特定管財(通常管財)として取り扱われます。少額管財を利用できるかどうかについては、事前に弁護士に相談をして見通しを確認しておくと良いでしょう。
【関連記事】法人破産にかかる弁護士費用の相場は?その他の費用と併せて解説
少額管財の場合の予納金額
少額管財のケースでは、東京地裁へ申立てを行う場合、予納金は原則として20万円です。
特定管財の場合の予納金額
一方特定管財のケースでは、予納金の金額は、会社の負債総額とその事案の内容に応じて決定されます。東京地裁へ申立てを行う場合、特定管財の予納金の目安はおおよそ以下のとおりです。
負債総額 |
予納金の金額 |
5,000万円未満 |
70万円 |
5,000万円以上1億円未満 |
100万円 |
1億円以上5億円未満 |
200万円 |
5億円以上10億円未満 |
300万円 |
10億円以上50億円未満 |
400万円 |
50億円以上100億円未満 |
500万円 |
100億円以上250億円未満 |
700万円 |
250億円以上500億円未満 |
800万円 |
500億円以上1,000億円未満 |
1,000万円 |
1,000億円以上 |
1,000万円以上 |
予納金額を抑えるには弁護士に依頼|少額管財は弁護士申立てのケースのみ
上記のとおり、少額管財の場合の方が、特定管財(通常管財)の場合よりも予納金の金額はかなり低額になります。そのため、予納金の額を抑えたい場合には、少額管財事件として取り扱ってもらう必要があります。
少額管財の取り扱いを受けるためには、弁護士を代理人として立てて破産手続開始の申立てを行うことが必要です。もちろん、弁護士に法人破産を依頼する場合には、弁護士費用を支払う必要があります。
しかし、予納金の減額分を考慮すると、弁護士に依頼する方がトータルで得になるケースもあります。また、弁護士に法人破産を依頼することには、以下のとおり数多くのメリットが存在します。
- 専門的かつ複雑な手続を安心して任せられる
- 法人破産以外の債務整理の方法を含めたアドバイスをもらえる
- 債権者に対して受任通知を発送すると取立てが止まる など
以上のことから、法人破産を行う際には弁護士に依頼をすることを強くおすすめします。
予納金以外に法人破産にかかる費用は?
法人破産をする際には、裁判所に納付する予納金以外にも一定の費用がかかります。予納金以外の費用は大きく弁護士費用とその他の費用の2つに分かれますので、それぞれについて解説します。
弁護士費用
法人破産の弁護士費用の相場は50万円~300万円程度となっています。
法人破産にかかる費用の中でも、大きな金額になるのが弁護士費用です。現在では、旧来の日本弁護士連合会(日弁連)の報酬規程は撤廃されているため、弁護士費用の金額は各弁護士が自由に決定しています。
弁護士費用をできるだけ安く抑えたいという場合には、複数の弁護士事務所から見積もりを取得して、比較検討のうえでコストパフォーマンスの良い弁護士を選ぶと良いでしょう。
もっとも、弁護士費用が安ければ良いというものではなく、あくまでも信頼できる弁護士を選ぶべきであることは言うまでもありません。事案の内容・複雑性や依頼する弁護士によっても変わりますので、相談時に確認してください。
裁判所に支払うその他費用
予納金以外にも、破産手続開始の申立てを行う際に、裁判所が定める各種費用を納付する必要があります。東京地裁への申し立てのケースでは、以下のものを納めなければなりません。
- 収入印紙1000円分
- 郵券4100円分
- 官報広告費1万4786円
ときどき裁判所の運用が変更され、納付すべき費用の内容が変化する場合があります。そのため、直近の取り扱いについては、申立ての前に裁判所に確認してください。
予納金の分割払いは認められる?
予納金を支払う余力がない場合、何とかして予納金に充てるお金を捻出しなければなりません。しかし、どうしても予納金を支払えない場合、裁判所は予納金の分割払いに応じてはくれないのでしょうか。
分割払いを認めている裁判所は少ない
この点、予納金の分割払いが認められる裁判所は少ないのが実情です。予納金の分割払いは、法律で禁止されているわけではありません。しかし、予納金全額が支払われなければ破産手続開始の決定は行われないため、分割払いを認める実益はあまりないといえるでしょう。
東京地裁では、少額管財のみ4回までの分納が認められる
ただし、東京地裁では、少額管財のケースに限って、4回までの分納が認められています。なお、予納金を完納するまでは破産手続開始の決定は行われないことは、通常の場合と同様です。
予納金の分納とは、あくまでも裁判所が申立書をすぐに却下することはせず、しばらく預かってくれているというだけの状態に過ぎません。いずれにしても、破産手続を開始するためには、予納金を全額納付しなければならないということを理解しておきましょう。
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予納金を支払うお金がない場合の対処法は?
予納金を納付しないことには法人破産の手続を進めることはできませんので、会社や経営者にお金がない場合でも、何とかして予納金を捻出しなければなりません。
具体的に、どのような方法によって予納金を捻出すれば良いかについて解説します。
会社財産を処分する
法人破産を行う場合、破産手続開始前であっても、会社財産の処分はかなり制約されます。しかし、予納金などの破産手続を実施するための費用に充てる目的であれば、破産手続開始前の会社財産の処分が認められます。
予納金に充てるお金がない場合には、まず会社財産をして捻出することを検討すると良いでしょう。
ただし、予納金の支払いに充てることを理由に処分した会社財産の対価を、別の用途に使用することは厳禁です。会社財産を処分する際には、弁護士に相談をしながら、破産法の規定に注意してすすめましょう。
家族・親戚を頼る
法人破産は、会社や経営者にとって非常に切羽詰まった場面といえます。そのため、恥を忍んで家族や親戚に対する無心を行うことも考えられます。
破産手続終了後は、借金に関する悩みから解放され、生活を立て直すことが可能になります。そのことを家族や親戚によく説明すれば、お金を工面してくれる可能性もあるでしょう。
弁護士費用の分割払いをお願いする
弁護士費用の負担が重いために予納金を捻出できないという場合には、弁護士費用の分割払いを弁護士に相談しましょう。予納金は納付しなければ破産手続が開始しないという制約があるのに対して、弁護士費用にはそのような制約はありません。
つまり、予納金の方が弁護士費用よりも、納付の優先度が高い費用であるといえます。法人破産のケースでは、依頼者が弁護士費用を準備できる経済状況にない場合も多いため、多くの弁護士事務所が弁護士費用の分割払いに対応しています。
もし弁護士が分割払いに応じてくれない場合には、別の弁護士に相談することも検討しましょう。
まとめ
法人破産の予納金は、破産管財人報酬を中心に、破産手続において必要となる費用をまかなう原資となります。
そのため、予納金が完納されることが、破産手続開始の要件とされています。予納金の金額を抑えるためには、弁護士を代理人として法人破産の申し立てを行い、裁判所に少額管財事件として取り扱ってもらうことがポイントになります。
少額管財のケースであれば、予納金の金額を20万円程度で済ませることが可能です。どうしても予納金を捻出できないという場合には、裁判所に分納の交渉をする、弁護士費用の分割払いを弁護士に頼んでみるなどの方法を試してみましょう。
とにかく予納金を納付しないことには手続きが始まらないので、あらゆる手段を尽くして予納金を捻出しましょう。
予納金の点も含めて、法人破産について不明点・疑問点などがある場合には、弁護士にご相談ください。
【参考文献】