下請取引を行う際は、下請法に違反しないよう注意を払うべきでしょう。
ただし「下請法の適用対象となるか否か」は取引内容や資本金によって異なり、必ずしもすべての取引において適用対象となるわけではないため、ケースごとに判断する必要があります。
この記事では、下請法の対象となる取引や条件などを解説します。
下請法の対象となる事業者
下請法では、下請取引における親事業者の義務や禁止行為などが定められています。
これまで不利益を被ることが多かった下請事業者の利益保護や、下請取引の公平化などを目的に成立しており、下請法において親事業者は規制対象、下請事業者は保護対象となります。
「下請法の違反行為に該当するかもしれない」と思われた場合、できるだけ早い段階で弁護士に判断を仰ぎ、迅速な対応を行う必要があります。
親事業者の場合、円満に解決できるよう交渉し、訴訟されるのを回避するような対応を行い、下請け業者であれば、状況に応じ損害賠償請求や契約書の変更が必要です。
下請法の違反行為に該当しているか、まずはご相談ください。
下請法の対象となる取引
下請法の対象となる取引は以下の4つに分類されます。ここでは、それぞれの取引内容について解説します。
・製造委託 ・修理委託 ・情報成果物作成委託 ・役務提供委託 |
製造委託
製造委託とは、物品の製造販売を行ったり、製造を委託されている事業者が、品質・規格・ブランド・デザインなどを定めた上で、ほかの事業者へ製造加工などを任せることを指します(下請法第2条1項)。なお製造委託については、さらに3つの類型に細分化されます。
類型1
物品を販売する事業者が、物品・部品の製造をほかの事業者へ任せるケース
- 例:大規模スーパーが食品加工業者に対して、自社ブランド製品の製造を依頼する
類型2
物品の製造を受注した事業者が、物品・部品の製造をほかの事業者へ任せるケース
- 例:精密機器メーカーが部品メーカーに対して、部品製造を依頼する
類型3
自社で用いている物品を自社内で製造している事業者が、製造をほかの事業者へ任せるケース
- 例:自社で用いている工具を自社内で製造している工作機械メーカーA社が、工作機械メーカーB社に対して製造対応を依頼する
修理委託
修理委託とは、物品の修理を受注した事業者がほかの事業者へ修理対応を任せることや、自社で用いている物品を自社内で修理している場合に、ほかの事業者へ修理対応を任せることなどを指します(下請法第2条2項)。なお修理委託については、さらに2つの類型に細分化されます。
類型1
物品の修理を受注した事業者が、修理対応の一部または全部をほかの事業者へ任せるケース
- 例:自動車販売業者が修理業者に対して、修理対応を依頼する
類型2
自社で用いている物品を自社内で修理している事業者が、修理対応の一部をほかの事業者へ任せるケース
- 例:工場設備について自社内で修理している工作機械メーカーが、ほかの修理業者に対して修理対応を依頼する
情報成果物作成委託
情報成果物作成委託とは、情報成果物(映像コンテンツやプログラムなど)の提供作成を自ら行う又は受注した事業者が、ほかの事業者へ作成を任せることを指します(下請法第2条3項)。なお情報成果物作成委託については、さらに3つの類型に細分化されます。
類型1
情報成果物を提供する事業者が、作成対応の一部または全部をほかの事業者へ任せるケース
- 例:ソフトウェアメーカーA社がソフトウェアメーカーB社に対して、アプリケーションソフトの開発を依頼する
類型2
情報成果物の作成を受注した事業者が、作成対応の一部または全部をほかの事業者へ任せるケース
- 例:広告会社がCM制作会社に対して、CM制作を依頼する
類型3
自社で用いる情報成果物を自社内で作成している事業者が、作成対応の一部または全部をほかの事業者へ任せるケース
- 例:ソフトウェアメーカーA社がソフトウェアメーカーB社に対して、自社用経理ソフトの作成を依頼する
役務提供委託
役務提供委託とは、サービスの提供を行う事業者が、ほかの事業者へ対応を任せることを指します(下請法第2条4項)。なお、役務提供委託については以下の1類型のみです。
類型1
サービスの提供を行う事業者が、提供対応の一部または全部をほかの事業者へ任せるケース
- 例:運送会社A社が運送会社B社に対して、運送業務の一部を依頼する
下請法の対象となる条件
下請法の対象となる条件は、製造委託・修理委託の場合と情報成果物作成委託・役務提供委託の場合の2つに分類されます。
またなかには「下請法の適用を逃れるために、子会社(トンネル会社)を介して下請事業者へ再委託する」というケースもあるようですが、そのようなケースについては別途規制が設けられています。
ここでは、それぞれの条件内容について解説します。
製造委託・修理委託の場合
製造委託や修理委託の場合(※)、以下のいずれに該当すれば適用対象となります。
※一部の情報成果物作成委託(プログラムの作成に限る。)、役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理に限る。)もこちらの適用対象となります。
情報成果物作成委託・役務提供委託の場合
情報成果物作成委託や役務提供委託の場合(※)、以下のいずれかに該当すれば適用対象となります。
※一部の情報成果物作成委託(プログラムの作成)、役務提供委託(運送、物品の倉庫における保管及び情報処理)は除きます。
子会社を介して行う場合
下請取引の中には、以下のように「子会社を介して下請事業者へ再委託する」というケースもあります。
このようなケースについては、「製造委託・修理委託の場合」や「情報成果物作成委託・役務提供委託の場合」には該当せず適用逃れとなる恐れがあり、そのような事態を防ぐための制度としてトンネル会社規制が定められています。
トンネル会社規制とは、上記のようなケースにおいて適用される規制制度であり、以下の2点を満たす場合は、資本金がいくらであっても子会社と下請事業者の間で下請法が適用されます。
・親事業者が子会社を実質的に支配している ・子会社が受けた取引の相当部分または全部を下請事業者へ再委託している |
まとめ
「下請法の適用対象となるか否か」を判断するには、取引内容や資本金について確認する必要があります。
取引内容が製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託のいずれかに該当している場合は、次に双方の資本金について確認しましょう。以下①~④のいずれかに該当する場合は適用対象となります。
<製造委託・修理委託の場合>
①親事業者の資本金が1,000万円~3億円で下請事業者が1,000万円以下
②親事業者の資本金が3億円超で下請事業者が3億円以下
<情報成果物作成委託・役務提供委託の場合>
③親事業者の資本金が1,000~5,000万円で下請事業者が1,000万円以下
④親事業者の資本金が5,000万円超で下請事業者が5,000万円以下
また自力で判断することに不安がある場合や、相手先とトラブルが発生した場合などは、企業法務に注力している弁護士に相談すると良いでしょう。知識・経験の豊富な弁護士のサポートを得ることで、ケースに応じて有効なアドバイスが望めるため、速やかな問題解決が見込めます。