取引先との契約時は、電子契約書を導入することで印紙税削減や作業効率化などが望めます。
電子商取引を推進するJIPDECが2018年に発表した『電子契約の導入状況』によると、電子契約書を採用する企業は年々増加しています。今後、さらに多くの企業が導入していくことが予想されます。
(参考元:IT-Report|JIPDEC P21)
なお、手続きにあたっては電子署名やタイムスタンプなどが必要となりますが、書面契約書と異なりそれぞれ有効期限が設けられています。さらに契約内容によっては作成不可能なケースもあり、メリットだけでなくデメリットについても知っておきましょう。
この記事では、電子契約書の仕組みやメリット・デメリットなどを解説します。
電子契約とは?
電子契約とは、インターネット上で契約書作成から契約締結までを済ませる手段を指します。書面契約と異なり、製本や郵送などを行わずに契約手続きを完了できるという点が特徴的です。
ここでは、電子契約の仕組みについて解説します。
電子契約書の仕組み
電子契約の仕組みとしては以下の通りで、契約書のやり取りは電子メール(PDF)やクラウドサービスなどにて行われます。また、契約書を作成する際は「印紙は不要である」という旨を示しておくと良いでしょう。
なお契約書に十分な法的効力を持たせるためには、電子署名やタイムスタンプなどが必要となります。
電子署名とは
電子署名とは文字通り電子的な署名を指し、印鑑やサインなどの役割を果たします。
手続きを行うためには、まず認証局へ電子契約書の届け出を行います。届け出を行うことで秘密鍵と公開鍵が発行され、これらを用いることで電子契約書が暗号化されます。暗号化された文書は鍵がなければ解くことができないため、偽装や改ざんなどの不正防止が望めます。
タイムスタンプとは
タイムスタンプとは、付与時刻が記載されたスタンプを指します。
手続きを行うためには、電子署名同様に認証局へ届け出を行います。タイムスタンプが押されることで、「当該時刻まで契約書データが存在し、それ以降は改ざんなどが行われていない」ということが証明でき、十分な法的効力を担保できます。
電子契約書と書面契約書の違い
書類媒体・署名方法・交換方法など、電子契約書と書面契約書は以下の点で異なります。
電子契約書 |
書面契約書 |
|
書類媒体 |
電子データ(PDFなど) |
紙 |
署名方法 |
電子署名・タイムスタンプ |
署名・押印 |
印紙 |
不要 |
必要 |
交換方法 |
Web上での交換 |
郵送・持参 |
保管方法 |
サーバー・クラウドへの保管 |
倉庫・書庫への保管 |
電子契約書のメリット
電子契約書を導入することで、コスト削減や作業効率化など、さまざまなメリットが見込めます。ここでは、電子契約書のメリットを解説します。
印紙税を削減できる
書面契約書の場合は、収入印紙が必要となるため印紙税がかかります。一方、電子契約書の場合は収入印紙が不要となるため印紙税を削減できます。
一例として、請負契約にかかる印紙税は以下のように契約金額ごとに異なり、大規模な取引であれば数十万円に及ぶケースもあります。例として、1件あたり600万円の請負契約を年間300件交わす企業を想定した場合、すべての契約書を電子契約書へ移行することで約300万円の印紙税削減が望めます。
<請負契約にかかる印紙税>
契約金額 |
税額 |
1~100万円 |
200円 |
100~200万円 |
400円 |
200~300万円 |
1,000円 |
300~500万円 |
2,000円 |
500~1,000万円 |
1万円 |
1,000~5,000万円 |
2万円 |
5,000万円~1億円 |
6万円 |
1~5億円 |
10万円 |
5~10億円 |
20万円 |
10~50億円 |
40万円 |
50億円を超える場合 |
60万円 |
契約金額の記載がない場合 |
200円 |
事務作業を効率化できる
書面契約書の場合、製本・郵送・返送などの事務手続きが必要となるため物理的・人的コストがかかります。また、契約内容が変更された場合などは一から作業をやり直す必要があり、大きな労力がかかります。
一方、電子契約書の場合、電子データのやり取りのみで完結するため、手続きにかかる手間を大きく削減できます。さらに保管時はサーバーやクラウドにデータ保存するだけで済むため、物理的な保管スペースを確保しておく必要がないという点もメリットです。
コンプライアンスを強化できる
書面契約書の場合、管理漏れや紛失といったリスクが考えられます。また火災や台風など、自然災害によって破損する可能性もあるでしょう。
一方、電子契約書の場合、クラウドなどにデータを一元管理しておくことで、管理漏れなどのリスクを軽減できます。また、データベース上でアクセス履歴が把握できるよう管理しておくことで、データ改ざんなどの不正防止も望めます。
電子契約書のデメリット
電子契約書の場合、契約内容によっては作成不可能なケースがある上、有効期限なども設けられているため、導入にあたっては注意が必要です。ここでは、電子契約書のデメリットを解説します。
作成不可能なケースもある
定期借地契約や定期建物賃貸借契約など、契約内容によっては書面契約書が求められるケースもあり、以下に該当する場合は電子契約書が導入できません。取引時は、「電子契約書が導入可能な契約か否か」という点を確認しましょう。
・定期借地契約(借地借家法第22条) ・定期建物賃貸借契約(借地借家法第38条1項) ・投資信託契約の約款(投資信託及び投資法人に関する法律第5条) ・労働条件通知書の交付(労働基準法施行規則第5条3項) ・訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売取引における書面交付義務(特定商取引法第4条 など) |
社内外へ説明・理解を得る必要がある
電子契約書を導入するには、取引先から理解を得る必要があります。
取引先によっては「これまで電子契約書を交わしたことがないため導入するのが不安」ということも考えられます。また、利用するサービスによっては「取引先もサービス加入しなければならない」というケースも考えられるでしょう。
導入にあたっては、以下のポイントを押さえた上で、誤解やトラブルが起きないよう注意して説明しましょう。
・電子契約書の仕組み(締結までの流れ・電子署名やタイムスタンプの必要性など) ・電子契約書を導入するメリット・デメリット ・システムの具体的な操作方法や手順 |
また自社の契約業務も変更されるため、社内にも説明をして従業員から理解を得る必要があります。その際は、業務フローや変更点を記載したマニュアルを作成したり、パソコン実習や質疑応答などを交えた研修を行ったりするのが良いでしょう。
有効期限がある
書面契約書の場合、有効期限に関する記載・押印(署名)を行うことで、契約内容ごとに期限を定めることができます。
一方、電子契約書の場合、電子署名やタイムスタンプについて有効期限が規定されています。有効期限は「電子署名だけが記載されている場合」と「電子署名+タイムスタンプが付されている場合」で、以下のように異なります。
・電子署名のみ…1~3年 ・電子署名+タイムスタンプ…10年 |
なお契約期間が10年を超える場合については、有効期限内にタイムスタンプを新しく押すことで期限延長することができます。
まとめ
電子契約では、インターネット上のやり取りのみで契約書が交わされ、手続きの際は電子署名やタイムスタンプなどが必要となります。電子契約書を導入することで、印紙税の削減や業務の効率化、コンプライアンスの強化などさまざまなメリットが見込めます。
ただし、契約内容によっては作成不可能なケースもあり、また社内外へ説明して理解を得なければならないというデメリットもあります。また契約書作成にあたっては、「記載内容に漏れはないか」「法的に問題はないか」などの点も注意しなければなりません。
契約内容に適した契約書を作成できる自信がない場合は、弁護士にサポートを依頼することをおすすめします。弁護士であれば、契約内容に応じて法的に妥当かどうか、リーガルチェックを受けることができます。トラブルなくスムーズに契約を済ませるためにも、まずは相談すると良いでしょう。