独占禁止法(どくせんきんしほう)とは、市場競争を促進させるための法律 (正式名称:私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)のことで、公正で自由な競争を促進し、事業者の創意工夫によって、より安く優れた商品を提供して売上高を伸ばすことを目的としています。
独占禁止法では、市場の私的独占や不当取引などが禁止されており、違反した場合は、課徴金や罰金などの罰則が科せられる可能性があります。
この記事では、独占禁止法の規制内容や罰則、法適用に関するポイントを解説します。
独占禁止法の基本概要
この項目では、独占禁止法とは何かについて解説します。
独占禁止法の基本概要について、図で示すと以下のようになります。
引用元:独占禁止法の概要|公正取引委員会
目的
独占禁止法は、消費者の利益確保や、国民経済の健全な発達などを最終到達地点に置いた上で、『事業者による、公正かつ自由な競争の促進』を目的に制定されました(独占禁止法第1条)。
つまり、競争の妨げになる行為や不正な取引、不公平な取引を禁止することで、経済全体がうまく回るようにするためのものです。
例えば、自動車を製作するメーカーが集まり、自動車の価格を100万円に固定するという取り決め(価格協定)がなされた場合、本来行われるべき価格競争が失われてしまいます。そのため、こういった価格協定行為は独占禁止法によって規制され、入札談合も禁止されています。
規制内容
独占禁止法の規制内容としては、以下のものが挙げられます。
- 私的独占の禁止
- 不当な取引制限(カルテル)の禁止
- 不公正な取引方法の禁止
- 企業結合の規制
- 事業者団体の規制
- 独占的状態の規制
- 下請法に基づく規制
ここでは、中でも主要項目にあたる、『私的独占』『不当な取引制限』『不公正な取引方法』『企業結合』『下請法』について、取り上げて解説します。
私的独占
私的独占とは、『事業者が、販売価格を不当に低く設定するなどして、他の事業者を排除したり、新規参入を妨害したりする行為』を指します(独占禁止法第2条5項、独占禁止法第3条)。
私的独占が行われると、価格・品質などに優れる新規参入者などが排除されるため、競争相手がいなくなります。その結果、品質向上のための工夫など、消費者のための企業努力が行われなくなる恐れがあります。
<判例> 2002年6月~2004年3月の間、通信会社であるA社が、提供するサービスの料金を、他社との競争を意識して低価格に設定した事件です。東京高裁は、これを『独占禁止法違反にあたる』として、違法宣言審決を下しましたが、A社はこれを不服として上告。最高裁にて、「A社の行為は、独占禁止法で定められている『私的独占』に該当する」と判断され、上告は棄却されました。 |
参考元:平成22年12月最高裁の判決|文献番号2010WLJPCA12179001
不当な取引制限
不当な取引制限とは、『複数の事業者が、他の事業者との競争を回避するために、カルテルや入札談合など事業者同士で合意を結び、実質的に競争を制限する行為』を指します(独占禁止法第2条6項、独占禁止法第3条)。
不当な取引制限によって、特定の商品の価格がある一定まで引き上げられた場合などは、消費者が『これまで購入できていた金額では購入できない』というデメリットを被るケースも考えられます。
<判例> 1987年、樹脂製品を製造販売する8社が、それぞれ情報交換を行うなどして、合意の上で価格の引き上げを行った事件です。一審では、この行為について『独占禁止法違反にあたる』として違法宣言審決が下され、一度は審決取消請求が行われたものの、東京高裁にて、「対象行為は、独占禁止法で定められている『不当な取引制限』に該当する」として、請求は棄却されました。 |
参考元:平成7年9月東京高裁の判決|文献番号1995WLJPCA09250002
不公正な取引方法
不公正な取引方法とは、『取引の際、不当な対価を用いたり、他の事業者を差別して扱ったりするなどして、市場競争を制限する行為』を指します(独占禁止法第2条9項1号~5号、独占禁止法第19条)。
不公正な取引方法によって、安値で販売する販売店への商品供給が禁止された場合などは、『不当な取引制限』と同様、消費者にとってのメリットが失われるケースも考えられます。
<判例> 2009年、コンビニエンスストアのフランチャイズチェーンを運営するA社が、他店に対して、見切り販売(販売期限の迫った商品を値引きして販売する行為)を取りやめるよう命じた事件です。裁判所は、「A社の行為は、他店の経営に大きな影響を及ぼすものであり、独占禁止法で定められている『不公正な取引方法』に該当する」として、被告に損害賠償として、約1,100万円の支払いを命じました。 |
参考元:平成25年 8月東京高裁の判決|文献番号2013WLJPCA08306002
その他不公正な取引として独占禁止法が規制する主な行為 |
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参考:図解で早わかり最新版会社法務|元榮太一郎 監修|三修社
企業結合
企業結合とは、『複数の企業が、合併を行うなどして結合すること』を指しますが、ケースによっては、企業結合によって市場が独占状態となり、他の事業者による競争がなくなってしまうことも考えられます。
その場合、消費者は、特定企業の商品しか購入できなくなり、これまでのメリットが失われる可能性もあります。
そこで、独占禁止法では、市場競争の促進のため、『他の事業者による競争を制限するような企業結合』について禁止しています(独占禁止法第10条、独占禁止法第13条~17条)。
下請法による規制
事業者による市場活動を規制する法律として、下請法もあります。
下請法とは、『親事業者による、下請事業者への対応について規制する』法律で、『下請事業者の利益保護』や『経済の健全な発達』などを目的に制定されました(下請法第1条)。
下請法の主な規制内容としては、以下の通りです。
- 下請代金の支払遅延の禁止
- 下請代金の減額の禁止
- 返品の禁止
- 買いたたきの禁止
- 購入・利用強制の禁止
参考リンク:下請法第4条
独占禁止法に違反した場合の罰則と処分
独占禁止法に違反した場合は、民事上の処分・行政処分・刑事処分などによって、制裁が科される可能性があります。
民事上の損害賠償処分
民事上の処分としては、違反行為を止めるよう命じる『差止請求権の行使』(独占禁止法第24条)や、損害賠償金の支払いを命じる『損害賠償請求権の行使』(独占禁止法第25条)などが挙げられます。
これは、故意や不注意がなくても責任を負う『無過失責任』になります。
無過失責任とは |
不法行為で損害が生じた際、加害者に故意・過失が無くても損害賠償責任を負うこと。 民法第117条、民法第570条、会社法第428条などが該当 |
行政処分
行政処分としては、違反行為を止めるよう命じる『排除措置命令』や、国庫に課徴金を納めるよう命じる『課徴金納付命令』などがあります。
課徴金については、違反行為が行われた期間の売上額を基に、企業規模や業種なども考慮した上で算出され、算定率については以下のように示すことができます。
また、『違反行為を繰り返した場合』などは算定率50%の増額措置、『違反行為を早期に取りやめた場合』などは算定率20%の減額措置などが適用されることもあります(独占禁止法第7条の2)。
引用元:課徴金制度|公正取引委員会
刑事処分
刑事処分については、法人としてだけでなく、個人として責任が問われる場合もあります。
罰則内容は、ケースや違反行為によって異なりますが、私的独占や不当な取引制限などについては、法人は『5億円以下の罰金』(独占禁止法第95条)、個人は『5年以下の懲役または500万円以下の罰金』が科せられる可能性があります(独占禁止法第89条1項1号、2号)。
また、『排除措置命令』に背いた場合は、法人は『3億円以下の罰金』(独占禁止法第95条)、個人は『2年以下の懲役または300万円以下の罰金』が科せられる可能性があります(独占禁止法第90条3号)。
独占禁止法の適用判断時のポイント
独占禁止法をめぐるトラブルについては、違法性を明確に判断できるケースもありますが、なかには、過去の判例などを参考にした上でも、独占禁止法にあたるか判断が難しいケースもあります。
例えば、一つの視点として『該当行為が、競争回避型または競争排除型にあたるか否か』という観点で該当行為を評価するという考え方もあります。
競争回避型
競争回避型とは、『他の事業者との競争を回避する行為』を指します。
例えば、事業者が単独での経営戦略で他業者との競争回避を図る場合は違法性が低いといえそうです。
しかし、複数の事業者が、合意の上でカルテル・入札談合などを行って競争回避を図る場合などは、違法性のある競争回避型行為として、違法性を帯びる可能性があります。
競争排除型
競争排除型とは、『他事業者を市場から排除しようとする行為』を指します。
例えば、事業者がその経営努力で高品質の商品を開発・提供し、市場原理に基づいて他の事業者を市場から排除しようとする場合は、違法性が低いといえそうです。
しかし、取引相手に他の事業者の製品を取り扱わないよう条項を定めたり、他の事業者が商品開発できないよう仕入先に他業者との取引を拒絶するよう求めたりする場合などは、違法性を帯びる可能性があります。
独占禁止法について弁護士に相談するメリット
独占禁止法をめぐるトラブルについては、ケースごとに適切な対応が異なると考えられます。
「どのような対応を取るべきか判断が難しい」という場合などは、知識・経験のある弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談することで、トラブルごとの取るべき対応についてサポートが受けられるだけでなく、コンプライアンス・プログラムの策定など、トラブルの未然防止に関する助言なども期待できるでしょう。
また、弁護士に相談する際は、企業法務を取り扱っており、特に独占禁止法に関する相談解決実績のある事務所を選ぶとよいでしょう。『具体的にどのような案件実績があるか』については、事務所HPに掲載しているところも多く、事務所ごとにHPを見比べて検討するのも1つの手段です。
なお、具体的な相談料については、企業規模や案件などによって大きく異なることもあるため、実際に事務所に確認するとよいでしょう。
まとめ
独占禁止法では、私的独占や不当な取引制限など、市場競争の促進を妨げるような行為を禁止しています。
もし違反した場合は、差止請求や損害賠償などの民事上の処分だけでなく、罰金や懲役などの行政・刑事処分を受ける可能性もあります。
独占禁止法をめぐるトラブルについては、弁護士に相談することで、迅速かつ適切に対応してもらうことが期待できます。なお、弁護士に相談する際は、独占禁止法に関する相談解決実績のある事務所を選ぶことをおすすめします。