ストックオプションは退職後も行使できる?行使条件と行使する為のポイント

専門家監修記事
会社からストックオプション(新株予約権)をもらっても、行使条件によっては退職後は行使できない場合もあります。そのため、ストックオプションを保有する場合、退職後も行使可能かどうか、きちんと行使条件を確認することが大切です。
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
監修記事
IPO

上場会社や上場予定の会社では、従業員に対してストックオプションを付与する場合があります。

 

ストックオプションは、会社法上は「新株予約権」と呼ばれ、あらかじめ決まった価格(行使価格)で会社の株式を購入することができる権利のことです。

 

会社の株価が上がった状態で新株予約権を行使して株式を取得すれば、行使価格と株価の差額について利益を得ることができます。

 

この性質を利用して、従業員の仕事へのモチベーションをアップさせるなどの理由からストックオプション(新株予約権)の付与が行われることがあります。

 

では、従業員が会社を退職した場合でもストックオプションは行使可能なのでしょうか?

 

従業員が退職後もストックオプションを行使できるかどうかは、ストックオプションの「行使条件」次第です。退職後にストックオプションが行使できるかどうか不安な方は、まずは行使条件がどうなっているかを確認しましょう。

 

この記事では、ストックオプションの行使条件について法律の専門的な観点から詳しく解説します。

 

 

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ストックオプションの行使条件とは?

ストックオプションの「行使条件」とは、ストックオプションを行使するために満たす必要がある条件をいいます。

 

ストックオプションは、会社法上は「新株予約権」であり、あらかじめ定められた金額の払込と引き換えに株式を取得することができるのが基本です。

(会社法第三章記載)

 

しかし、ストックオプションは会社と新株予約権者との間の取引行為であるため、取引条件については法令や定款に違反しない範囲で自由に定めることができます。そのため、会社がストックオプションを発行する場合、細かい取引条件(行使条件)を定めることが一般的です。

 

行使条件の例

ストックオプションの行使条件の例としては、以下のようなものが挙げられます。

 

①地位に関する条件

権利者が特定の地位にあることを行使条件とするものです。「社員のモチベーションアップ」というストックオプションの趣旨から、会社の役員または従業員であることを行使条件とする例がよく見られます。

 

表:ストックオプション(SO)の行使条件例

1個あたりの発行価額

●●●円

1株あたりの権利行使価額

●万円

権利行使期間

2019年●月●●日から20●●年●月●●日まで

行使条件

以下①又は②を満たし、かつ③及び④の条件を満たす場合に本新株予約権を行使できるものとする
 

  • ①当社の普通株式が東京証券取引所、大阪証券取引所、その他国内外の金融商品取引市場において取引銘柄として上場されることが決定した日以降で当社の取締役会が定める日以降
     
  • ●●投資事業有限責任組合が当社の普通株式の全部を、●●投資事業有限責任組合の当社に対する投資総額の4倍以上相当の対価で第三者に譲渡する契約を締結した日以降で当社の取締役会が定める日以降。

  • なお、対価が投資総額の●倍以上であることは、当社が発行する新株予約権が行使された結果発行される株式による希釈化を考慮しても維持されていなければならないものとする
     
  • ②当社の●●事業における有効契約数が20●●年●月末日までに●●件を上回っていること
     
  • 新株予約権の行使時に当社の役員又は従業員の地位を保有していること
     
  • ④新株予約権者の相続人による本新株予約権の行使は認めない

 

詳しくは後述の「2-2. 在職に関する行使条件の文言例」で説明いたします。

②単位に関する条件

新株予約権は、1新株予約権単位での行使が条件となっていることが通常です。この場合、たとえば「10個の新株予約権のうち5.5個分だけ行使する」というような行使の仕方はできません。

③株式数の端数処理に関する条件

1新株予約権あたりの取得株式数は、必ずしも整数になるとは限りません。そのため、新株予約権の行使によって発行される株式が端数となる場合も有り得ます。

この場合、端数部分の処理についての条件が定められます(切り捨てる、金銭で交付するなど)。

④相続時の処理に関する条件

権利者が死亡した場合に新株予約権がどのように取り扱われるかを行使条件として定める場合があります。たとえば相続人への新株予約権の承継を認めるパターンや、一身専属として相続を認めないパターンなどがあります。

⑤その他

上記以外にも、

 

  • 上場完了を行使条件とする場合
  • 一定の営業利益を上回った場合のみ行使を認める場合

 

など、ストックオプションの行使条件は千差万別です。

 

 

在職を行使条件とするストックオプションについて

会社の役員または従業員のポジションにいる間でなければストックオプションを行使できない、いわゆる在職を行使条件とするストックオプションは、実際に多くの会社で採用されています。

 

在職要件が定められている理由や、在職要件の詳しい内容について見ていきましょう。

在職が行使条件とされる理由

在職がストックオプションの行使条件とされる一番の理由は、会社がストックオプションを付与する目的にあります。会社が社員にストックオプションを付与する目的の一つに役職員の会社への貢献度を高めることがあります。

 

役職員が退職してしまった場合、それ以降はもはや会社への貢献は困難となります。そのため、ストックオプションの行使は在職中に限ることが多いのです。

 

ただし、退職した瞬間に一律でストックオプションを行使できないとすると、社員の退職に対する不当な制限であると評価される可能性がゼロではありません。また、会社への十分な貢献が認められる場合には、退職後のストックオプションを認めることに問題はないはずです

 

そのため、退職後一定期間については行使を認めている場合もありますし、定年退職等の場合には行使を認めている場合が通常と思われます。

在職に関する行使条件の文言例

新株予約権の在職に関する行使条件の一般的な文言例を見ていきましょう。

 

新株予約権者は、当社の取締役、監査役もしくは従業員、当社の関係会社の取締役、監査役もしくは従業員、またはこれらの地位に準ずるものとして当社の取締役会が認めたものの地位にある限りにおいて、新株予約権を行使することができる。ただし、任期満了または定年退職による退任その他の正当な理由があるとして当社の取締役会が認めた場合にはこの限りでない。

 

上記の文言を詳しく分析してみましょう。

第一文では、新株予約権の行使は在職中に限ることを規定しています。

 

ポイント

一方で、第二文(但し書き)では、例外的に、任期満了や定年退職による場合には退職後の行使を許容しています。

また、これ以外にも取締役会が正当な理由があると認めた場合にも退職後の行使を認めています。任期満了や定年退職による退職については既に相応の貢献が認められるために退職を理由に行使を制限する必要はないという趣旨によるものでしょう。

また、取締役会の承認については、会社において退職後の行使を特別に認めるのであれば、これを制限する必要はないという趣旨によるものです。

 

退職後のストックオプションの行使に関する裁判例

退職勧奨に応じて会社を退職した元従業員が、退職後にストックオプションを行使する権利を主張して争った裁判例として、東京高裁平成28年11月10日を紹介します。

主な要約

同裁判例の事案では、元従業員Xが退職後のストックオプションの行使を求めて、Y会社を提訴しました。

 

Xが保有していたストックオプションの行使条件の中には、在職要件が定められていました。

XはY会社から退職勧奨を受けて退職をすることになったのですが、退職勧奨通知書の中には、ストックオプションの行使について「両者合意の上有効とする」との記載があったのです。

 

しかしXの退職後、Yは取締役会において、Xによるストックオプション行使を承認することはありませんでした

 

この裁判例において、Xの主張は以下の2つでした。

主位的請求

Xは主意的請求として、退職勧奨通知書中の「両者合意の上有効とする」との記載によって、自分は退職後もストックオプションを行使することが可能になったと主張しました。

 

しかし裁判所は、退職後にストックオプションを行使するには、あくまでも取締役会決議が必要と判示しました。退職勧奨通知書は取締役会決議によって発行されたものではなかったため、Xの主意的請求は棄却されました。

予備的請求

さらにXは予備的請求として、Y会社は取締役会にXのストックオプション行使を承認する決議を求める義務があったところ、Y会社はこれに違反したと主張しました。

この違反を根拠として、XはY会社に対して、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償を請求しました。

 

この点について裁判所は、円満退職の場合には、Y会社は取締役会に承認決議を求める義務を負うとしました。しかし一方で、取締役会が退職後のストックオプションの行使を認めるかどうか判断する際には、承認決議の時点までに生じた一切の事情を考慮することができるとも判示しました。

結果

そしてXとY会社の間で争いが生じている状況では、退職後のストックオプションの行使を認める必要はないとして、Xの主張を退けたのです。

 

このように東京高裁平成28年11月10日の裁判例では、Xの退職後のストックオプションの行使は認められず、かつY会社に対する損害賠償請求も認められないという従業員側にたいへん厳しい判決となりました。

 

裁判年月日 平成28年11月10日

裁判所名 東京高裁

裁判区分 判決

事件番号 平27(ネ)994号

事件名 地位確認請求控訴事件

裁判結果 控訴棄却、追加請求棄却

上訴等 確定

文献番号 2016WLJPCA11106013

 

退職後でもストックオプションを行使するためのポイントとは?

退職後にストックオプションを行使できるかどうかは、結局は、予め定められた行使条件を充足するかどうかにかかっています。行使条件を満たさない場合には、どのような理由があれストックオプションの行使はできないと考えるべきです。

 

なお、原則からすればストックオプションを行使できないものの、会社の承認があれば行使可能という場合でも、会社には基本的に承認の義務はなく、承認するかどうかは会社側に裁量があります。

 

会社が承認するかどうかは従業員側で直接コントロールすることはできませんので、「自分には承認規定が適用されるはず」と盲信することは危険です。

 

退職後のストックオプションの行使は弁護士に相談

このように、社員が退職後にストックオプションを行使するためには、行使条件を充足するかどうかにかかっています。

 

そのため、退職を企図しているがストックオプションが行使できるかどうか不安という場合、弁護士に行使条件を見てもらい、リスク分析をしてもらうことを推奨します。

 

まとめ

ストックオプションを行使できるかどうかは行使条件次第です。行使条件について独自的に解釈して軽々と退職した場合、結果的にストックオプションが行使できないということも十分考えられます。このようなトラブルを避けるためには、弁護士への相談など慎重な対応が必要でしょう。

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