知的財産権を侵害すると、特許の場合で10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金に処される恐れがあります。
権利を侵害してしまわないよう、特許情報プラットフォームで事前に調査をするなど対策をしておきましょう。
今回は、知的財産の種類をお伝えした上で、各権利の罰則などについてご説明していきます。
1.知的財産権の種類
知的財産権は産業財産権と著作権等の2つに大別できます。
産業財産権は、産業において生産される製品の知的財産権を保護するための権利で、特許、実用新案、商標、意匠の4つがあります。
一方著作権等は、思考や感情を表現したものを保護するための権利です。
産業財産権を得る際は出願や登録をしなければいけませんが、著作権の場合は著作物が作られた段階で権利が発生します(無方式主義)。
各権利が保護する対象や具体例、保護期間は次の通りです。
権利 | 保護の対象 | 具体例 | 保護期間 | ||
知的財産権 | 産業財産権 | 特許 | 自然法則を利用(※1)した技術的思想の創作のうち高度のもの(特許法第2条) |
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出願から20年 |
実用新案 | 自然法則を利用した技術的思想の創作(実用新案法第2条) |
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出願から10年 | ||
商標 | 文字、図形、記号、立体的形状もしくは色彩又はこれらの組み合わせ(商標法第2条) |
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登録から20年 | ||
意匠(デザイン) | 物品(物品の部分を含む)の形状、模様もしくは色彩又はこれらの組み合わせ(意匠法第2条) |
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登録から10年 | ||
著作権等 | 著作権 | 思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(著作権法第2条) |
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著作者の死後50年 | |
著作隣接権 | 実演家、放送事業者、有線放送事業者、レコード製作者(著作権法第89条) | 実演後50年 |
※1 自然法則の利用とは、自然の力を利用すると一定の結果を得られるという経験則のことを言います。
例えば、エレベーターは下の階に下がるときは重力に従って移動しますが、これは自然法則を利用しているといえます。
2.知的財産権を侵害した際の罰則
知的財産権を侵害した際の罰則を確認していきましょう。
特許権を侵害した場合
特許権を侵害すると、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金に処される可能性があります。
特許権又は専用実施権を侵害した者(第百一条の規定により特許権又は専用実施権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
引用元:特許法第196条
実用新案権を侵害した場合
実用新案権を侵害したものは、最大で5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処されます。
実用新案権又は専用実施権を侵害した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
引用元:実用新案法第56条
商標権を侵害した場合
商標権を侵害すると、10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金です。
商標権又は専用使用権を侵害した者(第三十七条又は第六十七条の規定により商標権又は専用使用権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
引用元:商標法第78条
意匠権を侵害した場合
意匠権を侵害した場合は10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金です。
意匠権又は専用実施権を侵害した者(第三十八条の規定により意匠権又は専用実施権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
引用元:意匠法第69条
著作権を侵害した場合
著作権や著作隣接権を侵害すると、10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金です。
著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者(第三十条第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。第三項において同じ。)に定める私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者、第百十三条第三項の規定により著作権若しくは著作隣接権(同条第四項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第百二十条の二第三号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者、第百十三条第五項の規定により著作権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者又は次項第三号若しくは第四号に掲げる者を除く。)は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
引用元:著作権法第119条
このように、産業財産権を侵害すると1,000万円以下の罰金が発生する場合があります。
ただ、罰金を払えば終わりというわけではありません。
権利者から損害賠償請求や不当利得返還請求などをされると、場合によっては億を超える請求をされることもあります。
気づかない間に産業財産権を侵害しないようにしましょう。
3.知的財産権を侵害した事例
ここでは、知的財産権を侵害した事例をお伝えします。
事例1|特許を侵害した事例
VirnetXの特許を無断で利用したとして、約740億円の支払いがアップルに命じられました。
iPhoneに搭載されるFaceTimeやiMessageにおいてVirnetXの技術が許可なく使われていたようです。
世界では特許に関する訴訟がよくあります。
この例では740億円もの支払いが命じられていることからもうかがえるように、特許侵害で支払いを命じられる金額はかなり高額です。
一般人がここまでの額の請求をされるのは考えにくいですが、「知らなかった」では済まなくなりえます。
特許に関する調査は事前にしておきましょう。
事例2|著作権を侵害した事例
海賊版サイトで発売前の漫画「ONE PIECE」を公開したとして、埼玉県在住の男性(70)が逮捕されました。
被告は配送業に従事しており、販売前の漫画を手に入れられる状況だったようです。
日本のアニメや漫画をインターネットで違法に公開するサイトは後を絶ちませんが、この事件でも被告は中国人と共謀し犯行に及んでいます。
4.気づかない間に知的財産権を侵害してしまわないためにやるべきこと
知らないうちに知的財産権を侵害してしまわないためできる対策は次の2点です。
調査をする
特許情報プラットフォームを使うと、これまでに登録された産業財産権を自分で調べることができます。
これから産業財産権を得ようとしている対象に関係がある技術用語や出願人の名前で検索すると、他の人が既に取得した権利について確認ができます。
弁理士に依頼する
特許や商標などを取ろうとしており、なおかつ自分でリサーチするだけでは不安な場合は弁理士に特許申請等を依頼しましょう。
弁理士に依頼すると、個人で申請や登録をするよりも失敗が少なくなるだけでなく、権利の及ぶ範囲を適切に決定してもらえます。
例えば、世の中に丸い鉛筆しか無かったとしましょう。
あなたが六角形の鉛筆を最初に発明した場合、権利の範囲を「六角形の鉛筆」と定義するよりも、「多角形の鉛筆」とした方が、カバーされる範囲が広くなります。
特許に関して専門知識がなければ、このように適切な請求範囲を決めるのは難しいでしょう。
まとめ
知的財産権を侵害すると重い罰則があるだけではなく、権利者に損害賠償請求や不当利得返還請求をされる恐れがあります。
また金銭の支払いが無かったとしても、差止請求をされると収益源になっていたサイトが閉鎖に追い込まれるなど、これまでの努力が無駄になってしまいます。
知的財産権を侵害してしまわないよう注意しましょう。