2018年4月、東京商工リサーチは、2017年度介護事業者の破産件数が115件となり、この数字は過去最高となったと発表しています。
深刻な人手不足や、介護報酬のマイナス改定、経営力のない介護事業者の撤退などにより、このような結果になったと分析されています。
ここでは、社会問題となりつつある介護施設の破産手続きに目を向け、その流れと注意点についてご紹介します。
介護施設の経営難は、「終の住処」として生活している介護施設の利用者に多大な迷惑をかけることになるので、早急な弁護士への相談が必要です。
介護施設の破産手続きにおける注意点
介護施設の破産手続きがその他業態と異なるのは、介護施設で生活をする利用者がいるという点です。
有料老人ホームなどはそこを終の住処にしている方が多く、入居者たちにとっては施設の破産は、人生を左右する大きな問題となるのです。
介護施設の破産手続きは慎重に検討しなければなりません。
利用者様の次の受け入れ先を早期に検討する
たとえば、介護施設の経営が困難となり「事業譲渡」もされない場合、介護施設は閉鎖となります。
すると、そこで生活をしている利用者は、介護施設から退去を余儀なくされ、次の介護施設を探さなくてはなりません。
このような事態となれば、ケアマネージャーや施設全体で次の居住先となる介護施設を探すこととなります。
次の介護施設が見つかったとしても、紹介された介護施設が、これまでまったく縁のなかった土地であれば、入居者の大きな負担となるでしょう。
利用者のその後の人生を大きく左右する事態にならないよう、早急かつ慎重に次の介護施設を探さなくてはなりません。
入居者生活保障制度等の保全措置を講じること
有料老人ホームが倒産した場合は、すでに施設側へ支払ってしまった入居一時金はどうなってしまうのでしょうか。
これについては、平成18年4月以降に有料老人ホームの設置届出を提出した有料老人ホームが、入居一時金の保全措置を講じる義務があります。
平成18年3月以前に設置届を提出した有料老人ホームに関しても、保全に務めることが努力目標となっています。
義務ではないから講じる必要がないというわけではなく、入居者の今後における最善の措置を講じなければいけません。
保全措置とは、有料老人ホームが破産となり、未償却部分が返還されない場合に、有料老人ホームに代わり、損害保険会社や銀行、公益社団法人有料老人ホーム協会等が、500万円を上限として未償却部分の金額を利用者に支払う制度です。
公益財団法人有料老人ホーム協会は、「入居者生活保障制度」という制度も設けています。
介護事業者の倒産により、有料老人ホームからやむを得ず退去しなければならない場合には、登録された利用者へ最大500万円の保証金が支払われます。
入居者を退去させなければならない状況が生じた場合には、このような保全措置を早急に講じる必要があります。
介護施設の破産手続きの流れ
ここでは、介護施設における破産手続きの流れについてご説明します。基本的には、通常の事業破産手続きと同様に破産手続きを開始することとなります。
それでは、詳しい介護施設の破産手続きの流れと注意点をみていきましょう。
事前打ち合わせ
介護施設の破産手続きに詳しい弁護士や、再建・破産専門の法律事務所に相談をしましょう。
できるだけ介護施設の問題に詳しい弁護士に相談する方が、その後の打ち合わせを円滑に進められます。
初回の法律相談や打ち合わせについては、多くの法律事務所が無料で対応してくれます。無料相談を利用して状況に合った弁護士を探しましょう。
介護施設の破産に向けてどのような手続きをとればよいのか、期間はどのくらいかかるのかなど、弁護士が説明してくれます。説明内容に納得ができれば正式な依頼となります。
経営者が会社の債務を連帯保障していることがほとんどでしょう。その場合は、介護施設と同時に破産申立をします。
正式依頼になると、介護施設の破産手続きに関する「委任契約書」を交わし、委任状を弁護士へ送付します。
受任通知
委任契約を交わした後は、代理人弁護士が「受任通知」と呼ばれる、介護施設が破産申し立てをしなければならない状況にあることを記した通知を債権者に発送します。
債権者に受任通知が届くと、債権者から債務者へ支払い請求や連絡ができなくなり、その後のやりとりはすべて代理人弁護士が担当することとなります。
破産申立
まず、破産を申し立てる前に、弁護士のサポートの下、申立書や添付書類等を用意します。それと同時に、介護事業所の残務整理や従業員の解雇を行います。
それらが済んだら、裁判所へ「破産申立」を行います。破産申立にあたっては裁判所へ「予納金」を納める必要があります。
予納金の大部分は、「破産管財人」に支払われる予定報酬です。また、「官報公告費」を支払う必要もあります。
官報とは、法律や政令、条約等の公布などを中心に、国や特殊法人等の資料を公表することを目的とした新聞のようなものです。
すべての手続きは代理人弁護士が対応してくれるので、依頼者は裁判所に出向く必要はありません。
破産手続開始決定
「破産申立」が裁判所に受理されると、介護施設の「破産開始決定」がなされます。
通常、破産の申し立てから破産手続き開始決定までは、1週間程度です。
また、破産開始決定と同時に裁判所によって、「破産管財人」という、介護施設とはまったく関係のない第三者の弁護士が選任されます。
破産管財人が選任されると介護施設の財産は破産管財人の管理下におかれ、経営者は財産の処分や管理を行えなくなり、債権者も、財産の差し押さえや強制執行ができない状態になります。
破産管財人との打ち合わせ
破産手続きの依頼者と、代理人弁護士、さらに破産管財人の三者での打ち合わせを実施します。
破産管財人との打ち合わせは1回で終了する場合もありますが、状況により数回開催される場合もあります。
第1回債権者集会
破産管財人との打ち合わせが終了すると、裁判所にて第1回債権者集会が開催されます。
第1回債権者集会は、「破産手続開始決定」から約3ヶ月で開催されます。
債権者集会には、裁判官や書記官、破産管財人、旧経営者、代理人弁護士などが出席し、破産管財人から管財業務の進捗状況が報告されます。
なお、債権者集会は破産管財人が財産の換価、債権の調査などの業務を終了するまで、数ヶ月に1度開催されます。1回の開催で終了する場合もあります。
配当手続
債権者集会が無事に終了すると、破産管財人によって配当手続きが行われます。
なお、配当手続きは破産管財人がすべて行うため、旧経営者が協力する必要はありません。
また、配当される財産が残っていない場合には、配当手続きは行わずに終了となります。
旧経営者の免責決定
旧経営者も破産手続きを行なっている場合が多く、配当手続きが完了する頃には、旧経営者も免責決定となり、債務が消滅します。
終結および廃止決定
これにてすべての破産手続きが完了となります。介護施設の破産申し立ても、通常の手続きと特別変わりはありません。
しかし、介護施設にはそこで生活している利用者がいるため、破産手続きは最終手段だと認識し、できる限り破産以外の事業再生方法を模索することが重要です。
破産しない方法も検討してみよう
ここでは、介護施設における破産手続き以外の再生方法についてご紹介します。
事業譲渡により介護サービスの安定化
介護施設の倒産が増加している背景と関連し、事業譲渡についても活発化しています。
事業譲渡であれば介護施設を運営する会社が代わるだけなので、介護施設の利用者様の生活を守ることができ、破産による最大のリスクを回避できます。
運営会社こそ代わりますが、そこで働く従業員はそのまま引き継がれるため従業員の不安解消にもつながります。
<介護施設の事業譲渡事例>
複数のグループホームを首都圏に展開する株式会社Aは、他事業での投資に失敗し、その影響から短期的な資金繰りが悪化したため、早期に経営状況を改善するべく、運営する複数のグループホームのうち1施設を売却することとなりました。
幸い、グループホームの買収を積極的に検討する介護企業が複数手を挙げ、相場を上回る売却に成功しました。
すべての介護施設でこのようにスムーズな事業譲渡に移行できるわけではありませんが、介護事業は他業種に比べると一定のニーズがあります。
これらの背景から、事業譲渡をすることで、資金繰りの確保が期待できます。
介護施設の民事再生について
事業再生の種別には「清算型」と「再生型」の手続きがあります。
本記事で取り扱った破産手続きは、清算型にあたりますが、あくまでも清算型手続きは事業に再建の可能性がない場合に行う最終的な手続きです。
民事再生手続きは、再生型手続きで、裁判所の監督下において、経営者が自社の再建計画を立て、裁判所が債権者集会を開きます。そこで再生計画が認められれば、過剰な債務をカットできる可能性があります。
できる限り介護施設で生活をする利用者を守るためには、再生型手続きを行うことが重要でしょう。何よりも、現経営者のもと事業を継続できるので、利用者の生活は守られます。
実際に、介護施設を運営する社会福祉法人の民事再生事案も存在します。
早い段階で会社破産に詳しい弁護士へ相談しよう
介護施設における破産手続きは、利用者の今後の人生を大きく左右するものなので、
清算型手続きは避けたいものです。
ぜひ、早い段階で会社破産に詳しい弁護士に相談してください。
早期であれば、多くの場合事業再生における清算型手続きではなく、再生型手続きができます。
まとめ
基本的に、介護施設における事業破産は、通常の破産手続きと同様です。
しかし、介護施設の場合には、サービスを受ける利用者がいます。
このことを踏まえ、事業破産という清算型ではなく、再生型を選択できるよう早期に事業破産の専門家に相談しましょう。
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