法人破産にかかる弁護士費用の相場は?その他の費用と併せて解説

専門家監修記事
法人破産は、会社経営が立ち行かなくなった場合の最後の救済手段です。しかし、法人破産をする場合、弁護士費用その他の費用がかかります。この記事では、法人破産の弁護士費用の相場およびその他の費用について解説します。
富士パートナーズ法律事務所
德安 勇佑
監修記事
事業再生・破産・清算

会社経営が立ち行かなくなってしまった場合の、最後の救済手段が「法人破産」です。

しかし、法人破産の手続は複雑なので、弁護士に依頼をして手続を進める必要があります。その際、会社経営が苦しい状況であっても、何とか弁護士費用を捻出しなければなりません。また、法人破産には弁護士費用以外に、裁判所に納める予納金その他の費用もかかります。

法人破産をする場合には、手続き全体としてかかるこれらの費用がどのくらいになるのかについて、あらかじめ見当をつけておきましょう。この記事では、法人破産の弁護士費用の相場、および法人破産にかかる予納金その他の費用について詳しく解説します

【アンケートに答えて無料モニター応募!】2022年4月施行のパワハラ防止法についてのアンケートにご回答いただいた企業様へ、抽選で「パワハラ防止法対策ツール(当社新サービス)」の無料モニターへご案内させていただきます。アンケートはこちら

法人破産にかかる費用について

法人破産では、会社が裁判所に対して破産手続開始の申立てを行い、公的な破産手続の中で会社の清算が行われます。法人破産の手続は大掛かりになることから、申立てを行う前にある程度の費用を準備する必要があります。

まずは、法人破産にかかる費用にはどのようなものがあるかについて解説します。

弁護士費用

法人破産にかかる費用の中でもっとも大きな金額になるのが、弁護士費用です。法人破産はきわめて専門的な手続であるため、弁護士への依頼はほぼ必須となります。弁護士に依頼をせずに法人破産を申し立てる場合、書類の作成・債権者対応・破産手続の遂行などをすべて会社に所属する人だけで行う必要があり、到底手が回りません。

また後で解説するとおり、弁護士に依頼をせずに法人破産の申立てを行うと、特定管財事件として取り扱われます。特定管財事件の場合、破産法人が支払わなければならない予納金(主に破産管財人報酬)の金額が高額になります。そのため、弁護士に依頼をしなかったからといって、トータルで見れば大きく費用を節約できることにはなりません。

したがって、法人破産を申し立てる際には、弁護士に依頼することを前提として弁護士費用を見積もっておくのが良いでしょう。

裁判所へ納める予納金

法人破産の手続では、主に弁護士などが就任する「破産管財人」が、会社財産の換価・処分などを行います。法人についての破産手続を行う場合、この破産管財人への報酬を破産する法人が捻出しなければなりません。

そのため、主に破産管財人報酬に充てることを目的として、破産する法人は裁判所に対して事前に予納金を納める必要があるとされています(破産法22条1項)。

(費用の予納)
第二十二条 破産手続開始の申立てをするときは、申立人は、破産手続の費用として裁判所の定める金額を予納しなければならない。
2 費用の予納に関する決定に対しては、即時抗告をすることができる。

引用元:破産法22条

予納金の納付は、破産手続開始決定の要件とされています。つまり、納付がない場合には、破産手続開始の申立てが却下されてしまいますので注意が必要です(破産法30条1項1号)。

(破産手続開始の決定)
第三十条 裁判所は、破産手続開始の申立てがあった場合において、破産手続開始の原因となる事実があると認めるときは、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、破産手続開始の決定をする。
一 破産手続の費用の予納がないとき(第二十三条第一項前段の規定によりその費用を仮に国庫から支弁する場合を除く。)。
二 不当な目的で破産手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき。
2 前項の決定は、その決定の時から、効力を生ずる。

引用元:破産法30条

なお、予納金がどうしても支払えない場合には、国庫からの仮支弁を受けられる制度が破産法上存在します(破産法23条1項)。しかし、仮支弁制度は主に個人破産(自己破産)のケースを想定したものです。

そのため、法人破産のケースではまず適用が認められないと考えておいたほうが良いでしょう。

(費用の仮支弁)
第二十三条 裁判所は、申立人の資力、破産財団となるべき財産の状況その他の事情を考慮して、申立人及び利害関係人の利益の保護のため特に必要と認めるときは、破産手続の費用を仮に国庫から支弁することができる。職権で破産手続開始の決定をした場合も、同様とする。
2 前条第一項の規定は、前項前段の規定により破産手続の費用を仮に国庫から支弁する場合には、適用しない。

引用元:破産法23条

その他実費

その他、破産手続開始の申立てを行う際には、裁判所の定める以下の費用を納める必要があります。

破産手続き予納金

参考:裁判所

なお、以下の金額は、東京地裁への申立てのケースであることを前提としています。

  • 収入印紙1000円分
  • 郵券4100円分
  • 官報広告費1万4786円

法人破産にかかる弁護士費用の相場は?

法人破産にかかる弁護士費用は、依頼する弁護士や会社の状況などによってケースバイケースです。以下では弁護士費用がどのように決まるかについての大まかな基準を紹介しますが、詳しい金額は実際に弁護士へ相談に行って確認してください。

報酬額は弁護士が自由に決定

法人破産の案件に限りませんが、現在では弁護士費用の金額は、案件を受任する弁護士が自由に決めていいことになっています。

以前は日本弁護士連合会(日弁連)が弁護士の報酬規程を定めており、弁護士は基本的に日弁連の報酬規程に従って弁護士費用を定めていました。しかし、2004年4月に日弁連の報酬規程は撤廃され、弁護士報酬は各弁護士が自由に決められることになりました。

日弁連の報酬規程が撤廃された後も、そのままの報酬規程を用いている弁護士事務所も比較的多くあります。一方で、経営努力を反映した独自の報酬体系を設定している弁護士事務所も、同様に数多く存在します。

いずれにしても、法人破産にかかる費用には弁護士ごとにかなり幅があると理解しておいたほうがよいでしょう。

相場は50万円~300万円程度|会社の規模などにより変動

法人破産にかかる弁護士費用の相場は、事案の内容などによって、だいたい50万円から300万円程度までかなりの幅があります。よって、会社に関する具体的な事情を詳しく調べてみないことには、どのくらいの弁護士費用がかかるかを見積もるのは難しいといえるでしょう。

なお弁護士費用の金額は、以下の要素などを考慮して、個別の事案ごとに決定されます。まずは無料法律相談を利用するなどして、弁護士に見積もりを依頼してみると良いでしょう。

  • 会社財産の規模
  • 従業員の有無と人数(労務処理が必要かどうか)
  • 債権者の数
  • 営業所の数
  • 少額管財か特定管財か

裁判所に納める予納金の金額は?

弁護士費用ほどではありませんが、裁判所に収める予納金についても、ある程度まとまった金額が必要になります。

予納金として必要になる金額は、いわゆる「少額管財」と「特定管財(通常管財)」で異なりますので、その理由とそれぞれの場合の予納金額について解説します。

少額管財と特定管財(通常管財)で異なる

法人破産において、破産管財人は破産法人の財産の換価・処分や債権者への配当を中心に、さまざまな業務を執り行います。破産管財人の業務量が多くなる場合、当然破産管財人に対して支払うべき報酬額も高額になります。

しかし、破産をしようとする会社の財務状況は危機に瀕しているため、高額の予納金を捻出することのハードルはかなり高いといえます。もし高額の予納金を嫌って、法人破産を行うべきなのに行わないという企業が増えてしまうと、法人破産の制度の存在意義が危うくなってしまいます

少額管財の効果

このような懸念から、多くの裁判所では「少額管財」という運用が行われています。少額管財の扱いとなる破産事件では、破産管財人の業務を大幅に簡略化し、手続を簡易・迅速化して破産管財人の負担を軽減します。

その分、少額管財における破産管財人報酬は比較的低額に設定されるため、破産手続がより利用しやすくなる効果が期待できます。

少額管財は、破産管財人の業務を簡略化したとしても大きな問題が起こりにくいと考えられる事件であることを理由に、実務の運用として認められているものです。

そのため、少額管財の取扱いが適用されるのは、シンプルで定型的な破産事件に限られます。

特定管財(通常管財)の効果

逆に、定型的な処理ができない破産事件については、破産管財人がフルパッケージで業務を行う必要があります。この場合は「特定管財(通常管財)」の取扱いとなり、予納金(破産管財人報酬)は高額に設定されます。

なお、少額管財の運用が採用されている裁判所では、実務上少額管財が原則的な手続形態となっています。例外的に特定管財(通常管財)の取扱いとなるのは、以下のような場合です。

①大型事件(債権者数300名以上が目安)

債権者の数が多い大型事件では、会社の規模が大規模であるケースが多く、財産の換価処分と債権者への配当作業だけでもかなりの手間がかかります。また、債権者への個別の質問対応などが発生すると、債権者の数が多い分破産管財人の手間もますます増えます。

そのため、大型事件については特定管財(通常管財)の取り扱いとされています。

②保全管理命令などにより財産を保全する必要がある場合

破産手続開始決定前に保全管理命令が行われるケースでは、破産手続開始の時期を予測することが困難です。そのため、定型的な進行になじまないことから、特定管財(通常管財)の取扱いとされています。

③特別清算・民事再生・会社更生が失敗した場合(牽連破産)

特別清算・民事再生・会社更生の手続が失敗した場合、裁判所が職権で破産手続開始決定をすることになります。これを「牽連破産」といいます。牽連破産のケースでは、通常の破産事件とは手続の流れが異なるため、特定管財(通常管財)の取扱いとされています。

④本人の申立てによる事件

弁護士を代理人に立てず、破産者本人が破産手続開始の申立てを行う場合には、破産者代理人である弁護士のお膳立て・サポートが期待できません。したがって、相対的に破産管財人の業務負担が重くなる傾向にあります。

そのため、本人申立ての事件については、特定管財(通常管財)の取扱いとされています。

⑤その他複雑な事件

上記以外にも、定型的な処理になじまない破産事件であると判断される場合には、特定管財(通常管財)の取扱いになります。

少額管財の予納金

少額管財の予納金は、東京地裁への申立ての場合、原則として20万円とされています。

参考:裁判所|破産手続開始申立事件に関する予納金等基準表

特定管財の予納金

特定管財の予納金は、東京地裁への申立ての場合、負債の金額と事案の内容に応じて決定されますが、以下がおおよその目安となります。

負債の総額

予納金の金額

5,000万円未満

70万円

5,000万円以上1億円未満

100万円

1億円以上5億円未満

200万円

5億円以上10億円未満

300万円

10億円以上50億円未満

400万円

50億円以上100億円未満

500万円

100億円以上250億円未満

700万円

250億円以上500億円未満

800万円

500億円以上1,000億円未満

1,000万円

1,000億円以上

1,000万円以上

法人破産は経営者の連鎖倒産に注意|別途費用が発生

会社が金融機関などから借金をする際、経営者が会社の債務を連帯保証することを求められる場合があります。このようなケースで法人破産をすると、会社が払えなくなった債務を、経営者個人が支払わなければなりません。

会社の債務が巨額の場合、経営者個人も債務を支払えないのが通常ですので、会社と連鎖的に経営者個人も自己破産せざるを得ない状況に追い込まれてしまします。

この場合、会社についての法人破産の手続とは別に、経営者個人についての自己破産の申立てを行う必要があります。弁護士費用や予納金などの必要な費用も別途かかることになるので、総額での費用の見通しを立てておくべきでしょう。

法人破産は弁護士に依頼した方が良い3つの理由

法人破産をする際には、弁護士のサポートを受けることが強く推奨されます。法人破産を弁護士に依頼する場合、以下のようなメリットを受けられます。

少額管財は弁護士(代理人)申立ての場合のみ

少額管財は、比較的シンプルな破産事件について予納金を低額に抑えられ、かつ簡易迅速に手続を進められる便利な制度です。しかし、少額管財を利用できるのは、弁護士を代理人として破産手続開始の申立てを行う場合に限られます。

弁護士に依頼をすることにより少額管財を利用できれば、弁護士費用がかかったとしても、予納金が安くなることによってかなりの部分がカバーされます。また、破産法人・経営者側としての手続き負担が軽減されることも大きなメリットです。

準備の手間や精神的な負担が軽減される

法人破産はほとんどの経営者にとって初めての経験になるでしょう。そのため、ご自身で一から破産手続について調べて準備し、手続きを遂行することは大きな負担です。

この点、専門家である弁護士に法人破産の処理を任せることで、破産法人・経営者側の準備の手間や精神的な負担がかなり軽減されます。

法的な観点から万全のサポートを受けられる

弁護士に依頼をせずに破産手続を進めようとすると、法律で定められた手続に漏れが生じる場合があります。この場合、裁判所からの指摘に対して逐一対応しているうちに、手続が遅延してしまうおそれがあります。

破産手続の経験が豊富な弁護士に依頼をしておけば、準備や手続きをスムーズに進めることができるため、非常に安心です。

弁護士費用を準備できない場合の対処法は?

会社・経営者ともに経済状況が逼迫している状態では、法人破産にかかる弁護士費用を事前に準備することが困難という場合もあるでしょう。

その場合でも、弁護士に依頼して法人破産を行う方法はあります。

以下では、法人破産の弁護士費用を準備できない場合の対処法を紹介します。

会社財産を処分する

破産手続を行うために必要な費用に充てるためであれば、破産手続開始申し立ての直前であっても、会社財産を処分して現金化することが認められます。弁護士費用は破産手続を行うために必要な費用にあたるため、弁護士費用の原資がない場合には、会社財産の処分を検討しましょう。

ただし、会社財産を処分して得たお金を一部の債務の返済に充てたり、浪費したりすることは厳に慎まなければなりません。

親族や知人などに頼んで用立てる

会社が苦境に陥っている場合、経営者自身も経済的に困難な状況になりがちです。その場合、親族や知人に頼ってお金を作ることもひとつの手段になります。

弁護士に分割払いをお願いする

どうしても弁護士費用を一括で支払うことが難しいという場合には、弁護士に分割払いを認めてもらえるようお願いしてみましょう。破産事件では、依頼者が経済的な苦境に陥っているケースの方がむしろ多いため、弁護士費用の分割払いに応じている弁護士事務所も数多く存在します。

ただし、弁護士の側としても、分割だとしてもしっかりと支払ってくれる依頼者だという信頼ができなければ、分割払いの交渉に応じてくれることはありません。

そのため、分割払いの交渉の際には、今後の収入の目途を説明するなど、支払能力と意思があることを弁護士にアピールすることが大切です。そうすれば、弁護士としても会社の苦境を助けてあげたいという気持ちになり、分割払いを認めてくれる可能性が高くなるでしょう。

まとめ

法人破産は複雑かつ専門的な手続ですので、弁護士への依頼が事実上必須となります。したがって、法人破産を行うために必要な費用として、弁護士費用を当初から念頭に置いておくべきでしょう。

弁護士費用の金額は、会社の状況や事案の性質などにより、かなり幅があります。そのため、複数の弁護士事務所から見積りを取り、弁護士費用の比較検討を行った上で依頼先を決定することが望ましいといえます。

もし弁護士費用を一括で準備できない場合には、分割払いなどの方法を含めて、弁護士に相談してみましょう。いずれにしても、会社が経済的な苦境に陥ってしまった場合には、経営者だけで悩まずに一度弁護士に相談してみることをおすすめします。

ページトップ
貴社の課題解決に最適な
弁護士とマッチングできます
契約書の作成・レビュー、機密性の高いコンフィデンシャル案件、M&A/事業承継など、経営者同士でも話せない案件も、
企業法務弁護士ナビでは完全非公開で相談可能です。貴社の課題に最適解を持つ弁護士、最大5名とマッチングできます。