新型コロナウイルスの影響により、多くの会社の業績が悪化しています。業績悪化により債務が支払えなくなってしまい、立て直せる見込みも立たないという場合には、破産をして事業を畳むことを検討する必要があるかもしれません。
帝国データバンクの調べによると、新型コロナウイルス関連による倒産(法人および個人事業主)は、9月9日16時現在で全国に506件判明しているという発表がなされています。
・法的整理434件(破産403件、民事再生法31件)、事業停止72件
・業種別上位は「飲食店」(72件)、「ホテル・旅館」(53件)、「アパレル・雑貨小売店」(35件)、
「建設・工事業」(33件)、「食品卸」(30件)、「アパレル卸」(21件)など
会社の破産には一般的にネガティブなイメージがあるでしょうし、どのような手続きで行われるかについて馴染みがない経営者の方も多いでしょう。また、会社が破産した場合に、経営者個人の財産にどのような影響があるのかについても知っておきたいところです。
この記事では、会社破産の手続きやメリット・注意点、経営者個人の財産に与える影響などについて詳しく解説します。
会社・法人の破産とは
「破産」と聞くと、それだけでネガティブなイメージをお持ちになる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、破産手続の目的を正しく理解したうえで利用すれば、業績が悪化した会社にとって効果的な救済策になり得ます。まずは、会社の破産がどのような手続きであるかということについて、簡単に概要を押さえておきましょう。
支払不能・債務超過の会社を救済する最後の手段
破産手続の目的は、債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることにあります。経営が改善する見込みのない会社をいつまでも自転車操業状態で放置していると、債務はどんどん膨らむばかりです。
そのため所定の手続きを経ることにより、ある段階で債務をすべてリセットして、債務者側の人々に新たなスタートを切ってもらうというのが破産手続の趣旨になります。破産手続では、すべての債務整理手続きの中で唯一債務全額の消滅が認められます。
そのため破産は、全債務整理手続中でもっとも強力な手続きといえるでしょう。
会社財産をすべて処分し、法人格を消滅させる
会社が破産する場合、破産手続の中で会社財産をすべて処分した後、会社が所有している財産を債権者に分配することになります。
会社破産の手続きが終了する際には、会社の法人格が消滅するため、会社の債務そのものも消滅します。それまで会社が行ってきた事業をいったん畳むことになるので注意が必要です。
会社・法人の破産を選択するメリット
会社破産は、経営が苦しくなった会社を救うための非常に強力な手続となっています。経営が苦しくなった会社にとって、会社破産には以下のようなメリットがあります。
会社の債務が全額消滅する
会社がどう頑張っても返しきれない債務を負っている場合であっても、破産をすれば、最終的に債務が全額消滅します。特に借金の金額が多額なケースでは、経営者は債務の問題で日々大いに悩んでいるかもしれません。しかし、破産をすれば会社の債務は帳消しになるため、経営者は債務の問題で悩む日々から解放されるメリットがあります。
取り立てがストップする
破産手続が開始すると、破産財団に属する財産に対する強制執行などの手続きが禁止されます(破産法42条1項)。そのため、個々の債権者から債務者に対する個別の取立ては無意味となりますので、実際上取立てがストップすることになります。
また、会社破産を弁護士に依頼をする場合には、受任した段階で各債権者に対して受任通知が発送されます。受任通知においては、今後破産に関する連絡は弁護士を通じて行うべき旨が記載されます。債権者が受任通知を受け取って以降は、債権の回収については弁護士が窓口となるため、やはり依頼者に対する直接の取立ては行われません。
このように、経営者が会社の借金について過酷な取立てに悩まされている場合には、破産を選択することにより取立てのストレスから解放されることができます。
新しい事業を起こすことに対する法律上の制限はない
破産によって会社を畳むことになったとしても、その後新しく会社を起こして役員に就任することについて、法律上の制限はありません。たしかにせっかく築き上げてきた会社を一度失ってしまうことにはなりますが、財務状態をリセットしたうえでの再出発が可能となることを考えれば、破産も有力な選択肢となるでしょう。
会社・法人破産のデメリットは?
会社破産は、会社を消滅させることで債務を帳消しにするという、非常に大掛かりな手続きです。その反動により、会社・経営者側にとってのデメリットが存在することに注意しなければなりません。以下では、会社破産が引き起こすいくつかのデメリットについて解説します。
取引先との関係が切れてしまう可能性がある
破産をすると、会社の法人格が消滅してしまうため、取引先との契約関係はいったん終了することになります。経営者個人としての繋がりで引き止められる取引先はあるかもしれませんが、取引関係がリセットされてしまうことの方が多いのが実情です。そのため、新たに事業を起こして再出発をする際には、再び一から取引先を開拓していくという覚悟が必要となるでしょう。
経営者個人の信用力・評判が低下する
会社が破産した場合、その事実が信用情報機関の事故情報(ブラックリスト)に、代表者名とともに記録されることになります。各金融機関は、信用情報機関の事故情報(ブラックリスト)も参照しながら、貸付けをして良いかどうかの審査を行っています。
そのため、一度会社を破産させた代表者が新たに会社を起こしたとしても、その会社名義で借り入れを行うことはしばらくできなくなってしまいます。また世間的にも、一度会社をつぶした経営者として認識されると、評判を落としてしまう可能性が高いでしょう。
このように、会社破産をした場合には、代表者である経営者個人の信用力・評判の定価も覚悟しなければなりません。
経営者が連鎖的に破産を強いられる場合がある
経営者が会社の債務を連帯保証している場合、会社の債務について、経営者個人が債権者に対して支払う義務を負います。しかし、破産する会社の債務は巨額に及ぶことも多く、その場合は経営者個人では債務を支払いきれないという事態に陥ってしまいます。
こうなると、経営者個人も連鎖的に破産を強いられることになるでしょう。
経営者個人が破産すると、経営者の所有する財産が処分されてしまい、生活にも影響が生じてしまうので注意が必要です。
会社の破産手続きの流れ
会社破産は、「破産法」という法律に従い、裁判所での破産手続によって進められます。
具体的に会社破産をする際の流れについて見ていきましょう。
弁護士への相談・債権者への受任通知発送
会社破産を検討する場合には、最初に法律の専門家である弁護士に相談をします。会社破産は複雑かつ専門的な手続きなので、弁護士に依頼することが事実上必須となるためです。弁護士に対して正式に依頼をすると、弁護士が破産手続に関して、破産者(債務者)の代理人に就任します。
代理人に就任した弁護士は、破産申立前に受任通知を送付すべき場合には、各債権者に対して受任通知を発送します。受任通知には、今後破産に関する窓口は弁護士が一括して務める旨が記載されますので、破産者(債務者)に対する直接の取り立てはストップすることになります。
破産手続開始の申立て・開始決定
申立ての準備が整ったら、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所に、破産手続開始の申立てを行います(破産法5条1項)。
第五条 破産事件は、債務者が、営業者であるときはその主たる営業所の所在地、営業者で外国に主たる営業所を有するものであるときは日本におけるその主たる営業所の所在地、営業者でないとき又は営業者であっても営業所を有しないときはその普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する。
引用元:破産法第5条
申立てを受けた裁判所は、破産手続開始の要件が満たされているかどうかを審査します。具体的には、以下の要件をすべて満たす場合には、裁判所により破産手続開始の決定が行われることになります。
<破産手続開始の要件>
①会社が支払不能又は債務超過にあること(破産法15条1項、16条1項)
②破産手続の費用の予納があること(破産法30条1項1号)
③不当な目的で破産手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないときでないこと(破産法30条1項2号)
破産管財人と破産手続の進め方についての打ち合わせ
破産手続開始の決定を皮切りに、実際の破産手続が進行していきます。会社の破産手続では、破産管財人(通常は弁護士)が手続きを主導することになっています。そのため、破産手続開始の決定後、破産管財人との間で破産手続の進め方についての打ち合わせが行われます。
会社財産の調査・換価・処分
破産手続の中でも重要な作業の一つが、会社財産の換価および処分です。会社が所有している財産は、破産手続の中ですべて換価されたうえで、各債権者に対する配当の原資となります。会社財産を換価・処分するための前提として、破産管財人により財産の調査が行われます。
そして、会社財産の全貌が把握された後、破産管財人の権限により会社財産の換価および処分が行われます。破産手続が開始すると、会社(経営者)側には財産の処分権限がなくなるため、会社(経営者)が自ら会社の財産を処分することは認められません。
したがって会社(経営者)は、破産管財人から財産の調査・換価・処分に関する協力を求められた場合に、必要に応じて破産管財人に協力する立場ということになります。
債権調査・債権者集会・債権者への配当
破産手続開始の決定後、会社財産の調査・換価・処分の作業と並行して、債権調査が行われます。債権調査とは、破産者に対して債権を持っている債権者が、破産手続において権利を行使するために債権を届け出る手続きです。
原則として、債権調査において債権の届出を行った債権者だけが、破産手続において権利を行使できます。破産手続開始の決定から数か月後を目安として、届出債権者を対象とした「債権者集会」が開催されます。債権者集会では、主に会社財産の換価・処分状況の報告が行われます。
会社財産の換価・処分の手続きが長引いている場合には、債権者集会も複数回にわたって開催されることになります。そして会社財産の換価・処分が終了した後、処分代金などを原資として、届出債権者に対する配当が行われます。
破産手続き終了・会社の法人格は消滅
会社財産がすべて換価・処分され、債権者に配当できる財産がなくなったら、破産手続は終了です。破産手続の終了とともに、会社の法人格は消滅し、会社に債務が残っていたとしても、それらはすべて消滅します。
会社破産以外にも債務整理の選択肢がある
このように、破産は会社を消滅させることで債務が消滅するという点で、きわめて抜本的な債務整理手続きであるといえます。
一方、債務整理手続きには破産以外にも民事再生・特別清算・会社更生といった複数の選択肢があります。それぞれの手続きには特徴やメリット・デメリットがあるため、自社の状況や経営者の意向に合った手続きを選択することが重要です。
以下ではそれぞれの手続きについてのポイントを解説しますので、弁護士に相談しながら適切な手続き選択を行ってください。
会社を存続させつつ債務をカットする「民事再生」
民事再生には、破産とは異なり、会社を存続させながら債務をカットできるというメリットがあります。民事再生手続では、議決権者の過半数の同意及び議決権者の議決権の総額の2分の1以上の議決権を有する者の同意により再生計画案を可決し、さらに裁判所の認可を受けます。
再生計画には、債務の大幅な減額と支払いスケジュールの延長が盛り込まれるため、会社の債務負担は大きく軽減されます。その後会社は、再生計画の内容に従って計画的に残りの債務を支払っていくことになります。再生計画に対する債権者の同意を得るため、債権者との調整を要する点に注意が必要です。
株式会社が自ら清算を進める「特別清算」
特別清算は、破産と同様に会社の法人格を消滅させる手続きです。しかし特別清算の場合、自社で清算手続きを行うことができます。そのため、債権者の了解する範囲で柔軟な処理ができるというメリットがあります。
特別清算を利用できるのは株式会社のみであり、合同会社などの持分会社の形態を取っている場合には、特別清算を利用することはできません。また、債権者の同意が不要である破産とは異なり、出席した議決権者の過半数の同意及び議決権者の議決権の総額の3分の2以上の議決権を有する者の同意などの要件を満たす必要があります。
「会社更生」は大企業向けの特殊な手続き
会社更生は、民事再生と同様、会社を存続させながら債務をカットする手続きです。会社更生においては、担保権者や株主の権利も変更対象となることから、民事再生よりも強力な債務整理手続きといえます。その反面、大掛かりな手続きのために多額な費用が掛かるほか、経営陣の退陣が必須となります。
上記のことから、会社更生は実質的に大企業限定の特殊な手続きとして位置づけられており、一般的な会社であれば民事再生を選択するのが通常です。
会社の破産は弁護士に相談を
会社の経営が立ち行かなくなってしまい、会社破産を検討する場合には、お早めに弁護士に相談することをおすすめいたします。
会社破産において必要となる、裁判所での手続きや破産管財人との調整は、非常に手間がかかる専門的な作業です。そのため、会社破産を専門的に取り扱っている弁護士に任せる方が、確実かつ迅速に手続きを進められるでしょう。また弁護士は、会社の債権者に対する窓口としての役割も果たすことになります。
日常的に債権者からの取り立ての連絡が殺到するような状況であれば、弁護士に依頼をすることによって取り立てが止み、経営者の精神的な負担も大きく軽減されることでしょう。
さらに弁護士は、破産のメリット・デメリットを踏まえたうえで、破産を回避して他の債務整理手続きを行う余地がないかについてもアドバイスを提供します。債務に苦しむ会社について、存続の可能性に賭けたいという経営者の方も、まずは弁護士に相談をして対応策を検討することをおすすめいたします。
まとめ
会社破産は、経営に苦しむ会社・経営者を債務の負担から解放し、新たなスタートを切るための大きな助けとなる制度です。ただし、会社破産は大掛かりな手続きゆえに、無視できないデメリットも存在します。
そのため弁護士に相談をしながら、他の債務整理手続きも視野に入れつつ、自社および経営者ご自身にとってもっとも良い方法を選択することが重要です。弁護士にご依頼をいただければ、どのような観点から債務整理手続きを選択すれば良いかをご提案するほか、実際の手続きについても一括してサポートいたします。
会社破産を検討中の経営者の方は、一度弁護士にご相談ください。