事業の清算を考えている経営者にとって、最も悩みの種となるのは「どんな手順で手続きを進めたらいいのかわからない」ことだと思います。
清算の手順は法律で細かく定められており、複雑です。清算を経験したことがない経営者にとっては、法律の条文を見ただけで難しく感じられるのではないでしょうか?
解散した会社に残っているすべての債権や債務を法的に整理し、残った財産を金銭に換えて処分するのが清算手続きです。
清算手続きには、通常清算と特別清算があり、会社の状況次第でどちらかを選んで行うことになります。
この記事では、通常清算と特別清算の流れをわかりやすく、詳細に記載しているので、ぜひ、参考にしてみてください。
会社の「解散」と「清算」の違い
事業を清算する場合、「解散」と「清算」の両手続きを行う必要があります。では、両者の違いは何でしょうか?
会社の解散とは
会社の解散は、会社組織を解体する手続きです。
あくまで会社組織を法的に解体するにとどまり、組織の人員や取引が直ちにすべて消滅するものではありません。
このような人員や取引の整理行為は、解散後の精算処理のなかで行われます。
会社の清算とは
会社の清算は、会社財産を整理、分配して、会社を消滅させる行為です。
会社の不動産や在庫などの資産を現金化するとともに、売掛金などの債権を回収します。
こうして集めた資金で債務を弁済し、残った財産は株主に分配し、何もない状態にして会社を消滅させます。
会社の資産と負債の状況次第で、通常清算と特別清算という2つの流れに分かれます。
通常清算
すべての債務を弁済しきれるケースで、会社の資産である不動産や在庫のほか、売掛金などの債権を金銭に換えて回収。その資金をもとに全債務を弁済し終えれば、清算手続きは完了します。
特別清算
会社の資産をもってしても全債務を弁済しきれず、債務超過となる可能性があるケースです。この場合は特別清算の申し立てを行い、裁判所の監督下で清算を進めることになります。
この特別清算は株式会社に限られるので、通常は株式会社以外でも申請できる破産手続きを利用することが多いようです。
通常清算の流れ
法律が定めている解散原因があると会社は解散します。その後、通常清算の流れに入ります。
①解散と清算人選任登記
解散や清算人の登記を、解散後2週間以内に法務局へ申請。事業を管轄する税務署には、異動届出書を提出しなければなりません。
清算人の決め方
清算人は、解散時の取締役とするなど、あらかじめ定款で定めておくか、株主総会の決議で決めます。
②債権の届出を求める官報公告
解散したことを債権者に知らせ、債権の届出を一定の期間内に求めることを、国が発行する「官報」に公告します。会社が把握している個別の債権者には、債権の申し出を行います。
③税務署などへ解散を届出
解散すると、税務署や都道府県税事務所のほか、市区町村役場、社会保険事務所、労働基準監督署、ハローワークなどへの届出も必要です。
④財産目録や貸借対照表の作成と株主総会の承認
作成した財産目録と貸借対照表の承認を株主総会で受けます。
⑤資産の売却や債権回収
不動産や有価証券、在庫など会社の資産を売却し、売掛金や貸付金などの債権を回収します。
⑥資産処分の方法を検討
一般的に、資産を個別に処分すると低価格になるので、事業の一部を同業他社や取引先などへ譲渡することも考えられます。
⑦債務の弁済
回収した資金をもとに、全債務を弁済することが重要です。
全債務を完済できないケース
回収した資金ですべての債務を支払えないときには、通常清算の流れから外れ、清算人は特別清算か破産の申し立てを裁判所に行います。
⑧解散確定申告書を提出
解散後、2ヶ月以内に税務署へ確定申告します。
⑨株主へ残余財産の分配
全債務を完済し、資産が残ったときには株主へ分配することになります。
⑩清算確定申告書を提出
残余財産が確定した後1ヶ月以内に、清算確定申告書を提出しなければいけません。
⑪株主総会で決算報告の承認
残った財産額や1株当たりの分配額、支出費用などを記載した決算報告書を清算人が作成し、株主総会の承認を受けると会社は消滅します。
⑫清算結了登記
清算が結了した登記を法務局へ申請し、会社の商業登記簿は閉鎖されます。対外的には、この登記が会社の消滅を公示することになります。
⑬清算結了を届出
税務署や都道府県税事務所のほか、市区町村役場などへ清算結了を届け出ます。
特別清算(協定方式)の流れ
会社を解散すると、事業を清算しなければいけません。
ところが、資産を処分しても、すべての負債を弁済しきれない債務超過の状態だと、通常清算の流れでは処理できません。
この場合は、特別清算や破産などの清算型倒産手続きに移るしかありません。以下、特別清算の流れを説明します。
①解散決議
株主総会の特別決議で会社の解散を決め、清算人が管理することになります。
②清算人や債権届出の官報公告
通常清算の手続きとほぼ同様です。
③特別清算の申し立て
清算人が、本店がある都道府県の地方裁判所へ、特別清算の申し立てを行います。この申し立ては債権者や監査役、株主でも可能です。
④特別清算の開始決定
債務超過などの特別清算を開始する原因に該当し、法律が定める要件も満たせば、裁判所が特別清算の開始を決定。官報に公告、登記もされます。
⑤開始決定の効果
開始決定で裁判所の監督下に入り、清算人が財産を処分するには裁判所の許可が必要です。
⑥負債額の確定
清算人は債権者の債権届出に従って内容を調査し、負債額を確定させることになります。
⑦裁判所に協定案を提出
清算人が債務を処理する方法に関して、集団的に債権者と和解する協定案を作成して裁判所に提出します。
個別の債権者と和解する方法と異なる点としては、協定案が債権者集会で認められると、反対する債権者も従うことが挙げられます。
協定案には弁済期や弁済率をはじめ、担保付債権の処理方法、残債務の免除などが記載されます。
⑧債権者集会で協定案の決議と裁判所の認可
裁判所で行われる債権者集会で、弁済計画となる協定案の認否を決議。認められると、裁判所が認可を決定します。
協定案が否決され、破産原因がある場合には、裁判所は職権に基づいて破産開始の決定をすることが可能になります。
この決定をもって、破産手続きへ移ります。会社自ら、破産の申し立てをすることも可能です。
⑨協定内容の実行
協定案が通り、裁判所の認可決定が確定すると、債権者に支払いを実行します。
⑩裁判所の監督
財産の処分は自由にはできず、100万円を超える場合には裁判所の許可が必要です。
そのほか、事業譲渡をはじめ、借り入れや手形振り出し・裏書き、訴訟の提起、和解、権利の放棄、裁判所が指定する行為には、裁判所の許可が必要です。
ただし、事業譲渡を除いて、100万円以下のケースでは許可は不要です。
⑪裁判所の特別清算終結決定と登記
協定に基づいた弁済がすべて完了すると、特別清算が終わったことを裁判所が決定。確定したら、登記されます。
⑫終結決定確定の効果
終結決定が確定すると、これで会社の法人格は消滅します。
個人事業主の清算はどうなる?
個人事業主が事業を清算する流れでは、次のような廃業届の提出が必要です。
通常の廃業手続き
- 事業の終了日を決める
- 取引先や顧客への廃業の通知
- 廃業届など必要な書類を提出
- 廃業手続きを終えて確定申告
事業の終了日を決めたら、取引先や顧客へ迷惑をかけないように、できれば1ヶ月前までには廃業の通知をしておくとよいでしょう。
そして、下記の必要書類などを税務や都道府県税事務所へ提出します。
- 個人事業の廃業等届出書
- 給与支払事務所等の廃止届出書
- 所得税の青色申告の取りやめ届出書(承認を受けている場合)
- 事業廃止届出書(消費税の課税事業者の場合)
- 予定納税額の減額申請書
廃業手続きの終了で、確定申告を行います。
死亡による廃業手続き
死亡の場合は相続人が個人事業者の死亡届出書を管轄する税務署へ提出します。
明確な期限はありませんが、できるだけ速やかに対応するのが望ましいです。
相続人が事業を継がない場合は、個人事業の廃業等届出書などを、廃業後1ヶ月以内に税務署へ提出する必要があるので、早めに準備しましょう。
事業の清算は法律の専門家へ
通常の事業清算の流れでは、特別清算や破産手続きとは異なり、裁判所の管理下には入りません。
この点では、経営者にとっては精神的には楽となります。
それでも、事業清算は法律に行う必要があり、細かな事務処理のほか、各種の登記申請なども不可欠です。
事業清算を的確に行うには、専門家の弁護士に相談し、サポートを依頼するのがおすすめです。
手続きや流れに詳しく、過去の実績が豊富な弁護士なら、会社の解散や清算だけなく、消滅後の対応に到るまでさまざまなアドバイスを受けられます。
清算手続きを進める際は、事業清算を得意とする弁護士が経営者の強い味方になってくれることでしょう。
事業清算に必要な費用は大きく分けて4つです。事業清算を申し立てる前に、どのくらいかかるのか、まずご確認ください。 |