顧問契約(こもんけいやく)とは、月額やタイムチャージなどの顧問料を支払うことで幅広い知識や経験、判断能力を有した人物から、専門的な相談・一定の処理、助言を受けることで、その能力を企業の経営に活用することを目的に締結される契約のことをいいます。
企業の不正や不祥事がニュースに取り上げられるようになった昨今では、企業の法令遵守がより一層要求されています。
一方で、社会情勢の変化や法律の改正によって、契約や書類作成の複雑化、法律問題や紛争の発生、予防など、専門家による法的サポートのニーズも高まっています。
この記事では、弁護士を中心に、専門家との顧問契約をするメリットや、その費用、選び方についてご説明します。
顧問契約とは|業務委託契約との違い
企業が円滑に経営を進めていくためには、法的な知識を要する専門性の高い業務にも対処していかなければなりません。
そこで企業は、弁護士や税理士などの専門家と顧問契約を結び、法的業務や税務についてサポートやアドバイスを受けることがあります。ここでは、顧問契約と業務委託契約の違いについてご説明します。
顧問契約
冒頭でもお伝えしましたが、顧問契約とは、幅広い知識や経験、判断能力を有した人物から、専門的な相談・一定の処理、助言を受けることで、その能力を企業の経営に活用することを目的に締結される契約をいいます。
顧問契約の内容については様々なものがあり、例えば、顧問料なら月額やタイムチャージといった複数の報酬制度がありますし、その中で相談だけができるのか、実際のトラブルの対応にまであたってくれるのかなども、契約内容によって異なります。
したがって、契約の際には、顧問料や業務の範囲をよく確認しておくことが大切です。
また、企業の経営に関するアドバイスや専門的調査を依頼する際には、企業内部の機密情報を取り扱う場合があります。弁護士などのように法律上守秘義務を負う場合はともかく、そうでない場合は事前に秘密保持契約も締結しておく必要があります。
業務委託契約
業務委託契約は、企業が行う業務を外部の第三者に委託する場合に用いる契約です。事務の処理を目的とする場合には、委任(準委任)契約としての性格を有するのに対して、例えば物の製造などを目的とするような場合には、請負契約としての性質を有します。
顧問契約も業務委託契約の一種ですが、通常、顧問契約は継続的な契約を前提としているという特徴があります。
弁護士と顧問契約を結ぶ6つのメリット
企業が事業活動を行うにあたっては、さまざまな法律問題が発生することがあります。各種契約や労務管理、債権回収、他企業や消費者との紛争などがこれにあたります。
また、企業の法令遵守が重視される現在、コンプライアンス強化やリスクマネジメント(危機管理)といった対策についても考えていかなければなりません。
弁護士と顧問契約をすれば、日常からこうした問題について相談をすることができ、実効的なアドバイスやサポートを受けることができます。
さまざまな法的トラブルを気軽に相談できる
弁護士と顧問契約をしている場合、いつでも電話やメール等を用いて、法律問題について相談することができます。また、顧問弁護士は会社の内情や業務について深い理解があるので、緊急の場合であっても、迅速かつ適切なアドバイスをすることができます。
法的トラブルへの事前予防が可能
法令違反などの不祥事や消費者との紛争といった法的トラブルの発生は、企業イメージの悪化や大規模な損失につながります。
こうした事態を回避するためにも、法的トラブルの事前対策は非常に大切です。
顧問弁護士は法的知識や経験だけでなく、日頃からの会社とのかかわりを通じて、業務や時期、経営方針に見合う適切な方法でトラブルの予防策を提案することができるでしょう。
法務部を設立するよりも安価
法務部とは、企業活動に伴う法的業務を担う部署を言います。近年では、企業の法令遵守重視の傾向から、大企業では法務部を設置するケースも多くあります。
もっとも、法務部の新設には人材確保や運営費用などの点で費用がかかるため、中小企業などにとっては現実的な手段とはいえない場合もあります。
一方で、弁護士との顧問契約は、多くの場合、法務部の新設よりも費用を抑えることができます。
また、顧問弁護士は、社会的信用が高いだけでなく、法務部では処理が困難な事案についても対応することができます。
したがって、中小企業にとって顧問契約は、費用対効果の点でもメリットのある選択であるといえます。
弁護士を探す手間が省ける
企業が活動する際には、一分一秒を争う重大な法的トラブルが発生することもあります。初期対応が遅れたために、大きな損害を被ったり、最悪の場合には倒産の危機にまで発展したりする可能性もないとは言い切れません。
顧問弁護士がいれば、具体的な事案ごとに毎回弁護士を探すという手間が省け、緊急の場合にも迅速に対応することができます。
自社のニーズに即したアドバイスが受けられる
顧問弁護士は、日頃からの企業とのかかわりを通じて、企業の経営方針や業務内容、内部システムなどに対して深く理解をすることができます。
時期や状況に応じて、企業が求めるニーズに即したアドバイスをすることができるでしょう。
コンプライアンスへの対応
近年では、企業のコンプライアンスに対する意識が高まってきています。コンプライアンス強化の一環として、顧問弁護士に、社内規定作成やその運用、コンプライアンス関連文書の管理、企業内部でのコンプライアンス教育の計画・実施を依頼することができます。
また、危機管理やリスクマネジメントについても具体的な相談をすることができます。
【関連記事】顧問弁護士には何を相談できる?会社が受けられるサポート内容
顧問弁護士の相場と内訳
日本弁護士連合会が実施したアンケート調査によると、一般的な顧問弁護士料の相場は月額3〜5万円といわれています。
また、一般的に、顧問料の範囲には、月3時間程度の相談や、調査を要せずすぐに回答できるものが含まれているとされています。
したがって、日常的な相談や電話やメールでの相談には、顧問料以外の費用が不要であるという場合が多いです。一方で、契約関連業務や交渉、紛争処理等の具体的な法律相談には別途費用が必要になります。
顧問契約をしている場合には、こうした弁護士費用について、一部免除や割引といった優遇を受けられる場合もあります。
参考:アンケート結果にもとづく中小企業のための弁護士報酬の目安|日本弁護士連合会
弁護士以外の顧問契約という選択肢もある
弁護士以外にも、司法書士、税理士などの専門家とも、顧問契約を行うことができます。ここでは、弁護士以外の専門家との顧問契約についてご紹介します。
司法書士の場合
司法書士は、登記又は供託に関する手続についての代理や、法務局・裁判所等に提出する書類の作成などをすることができ、これらに必要な限度で相談に応じることができます。
登記に関する業務
新しく会社を設立する場合や、企業が経営を進める場合に、会社・法人に関する登記申請手続や、不動産の権利に関する登記に関する登記申請手続をすることがあります。
司法書士は、企業の代理人として、登記申請書類の作成や法務局への登記申請手続を行うことができます。
法律相談
法務大臣の認定を受けた司法書士については、簡易裁判所における訴額140万円以下の訴訟、民事保全、民事調停等の代理及びこれらに関する法律相談を受けることができます。
税理士の場合
税理士は、税務に関する専門家であり、税務処理や経理についてサポートを行うことができます。税理士は「税金のプロフェッショナル」として、税務代理、税務書類の作成、税務相談などの業務を行います。
税務代理
税務代理とは、租税に関する申告・申請・請求・不服申立てや、調査・処分に関し税務官公署に対してする主張・陳述について代理することをいいます。具体的には、確定申告や青色申告の承認申請、税務調査の立ち合い、税務署の決定に対する不服申立てなどがあります。
税務書類の作成
税務書類の作成とは、税務官公署に対する申告に係る申告書・申請書・請求書・不服申立書等を作成することをいいます。確定申告書の作成や相続税申告書の作成、その他税務署に提出する書類の作成などがあります。
税務相談
税務相談とは、税務官公署に対する申告等に関し、租税の課税標準等の計算に関する事項について相談に応ずることをいいます。顧問税理士であれば、税金のことで困ったとき、わからないとき、知りたいときに、気軽に電話やメールで相談や質問をすることができます。
顧問契約先の選び方|自社に合った弁護士を選ぶ際に大切なポイント
顧問先の選び方として最優先すべきことは、依頼したい業務と各専門家の専門分野や得意分野が合致していることです。
例えば、法律相談を中心に依頼することが多い企業にとっては弁護士を、登記申請を中心に依頼することが多い企業にとっては司法書士を、税務相談を中心に依頼することが多い企業にとっては税理士を、顧問先として選択するのが適しているといえます。
このように、顧問契約を考える際には、各専門家の扱うことのできる分野や業務の範囲を確認しておくことが大切です。
最後に、顧問契約として長くつき合っていくには、自社の経営方針やビジネスに対して理解のある専門家を選ぶことも大切なポイントです。自社にとって最も適切な専門家を顧問先とすることで、経営を円滑に進めていくことができるでしょう。
まとめ
企業の円滑な経営にとって、法律のプロである専門家との顧問契約は、企業の利益追求と危機管理の双方で、必要不可欠だといっても過言ではないでしょう。
弁護士などの専門家との顧問契約を検討する際には、自社が専門家に何を求めるのか、利用する頻度や費用、各専門家の業務分野、自社ビジネスへの理解など、あらゆる要素を総合的に考慮して、自社に見合った専門家を選ぶことが重要です。