時効の近い売掛金の回収を弁護士に依頼することで、時効をリセット・延長した上で、最適な回収方法を提案してもらうことができます。
時効が過ぎてからのご相談は、状況によって弁護士が介入しても回収できないケースがあります。未回収の売掛金を見つけたらできるだけ早くご相談ください。
一定期間を過ぎて時効が成立した、取引先との売買代金などの売掛金については、原則回収できません。未回収の売掛金がある企業は、トラブルなく確実に回収するためにも、時効期間や中断方法など時効のポイントについて押さえておくべきでしょう。
この記事では、売掛金の時効期間や中断方法、時効期間後の対応など時効のポイントを解説します。
営業取引で生じた売掛金の時効期間は、原則5年と規定されています(商法第522条)。
しかし売掛金の種類によっては異なるものもあり、以下のように1~3年に規定されている売掛金もあります。
時効期間 |
債権種類 |
根拠条文 |
1年 |
運送費 宿泊料 飲食代金 |
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2年 |
製造業・卸売業・小売業の売掛金 月謝・教材費 |
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弁護士報酬 |
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3年 |
診療費 建築代金・設計費・工事代金 |
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5年 |
上記以外の売掛金 |
売掛金の時効の起算日は、支払期限の翌日です(民法第140条)。
例として、支払期限を2019年8月31日と仮定した場合、債権種類ごとの起算日と時効成立日は以下の通りになります。
債権種類 |
時効期間 |
起算日 |
時効成立日 |
宿泊料 |
1年 |
2019年9月1日 |
2020年8月31日 |
商品の売買 |
2年 |
2019年9月1日 |
2021年8月31日 |
建築代金 |
3年 |
2019年9月1日 |
2022年8月31日 |
コンサルティングサービス |
5年 |
2019年9月1日 |
2024年8月31日 |
売掛金の時効については、以下の方法によって中断することができます。
ここでは、売掛金の時効の中断方法について解説します。
請求とは、権利法律関係について確定する公的文書である債務名義を、裁判所から取得する手続です。例えば、以下のような手続があります。
上記手続きを行って債務名義を獲得した場合、債権種類に関係なく時効を10年間延長できます。ただし、債務名義が獲得できなかった場合はそもそも権利が存在しないということですので、当然、延長などもありません。
なお債務名義を獲得することで、財産などを強制的に回収する「強制執行手続き」に移行することもできます。
ここでは債務者に対して、債務の支払いを催告する催告書を作成・送付します。なお送付時は、送付記録などが残る「内容証明郵便」を利用するのが通常です。
上記手続きを行った場合、時効を6ヶ月間延長できます。強制執行などの手続きに移行するには別途対応が必要ですが、時効成立が迫っている場合などは効果的でしょう。
催告書の作成例としては以下の通りです。
以下の手続きを行うことでも時効を延長できます。
上記手続きを行うためには、必要書類を作成・提出して裁判所へ申立てを行う必要があります。申立て後に裁判所から許可を受けた場合、裁判所が指定する期間だけ時効を延長できます。
なお申立てが許可されない場合や、債務者の異議申立てが認められた場合は延長できません。
債務者によって、以下のような「債務があることを認める行為」が行われることでも時効を延長できます。
上記行為が行われた場合、これまでの時効経過は無かったことになり、はじめから時効を数え直します。また債務承認は、時効期間を過ぎたものも対象となります。
したがって、たとえ時効期間を過ぎていても債務承認が行われることで、はじめから時効を数え直すことになります。
時効期間を過ぎたからといって、必ずしも債権の効力がなくなるというわけではありません。
時効が成立するには、時効期間後に債務者によって、時効が成立したことを示す時効の援用が行われる必要があります(民法第145条)。
時効期間が経過した後であれば、債務者はいつでも援用することができますので、時効完成後に中断措置を取っても「時すでに遅し」という場合がほとんどです(例えば、訴訟提起された後で既に完成している時効について援用がされれば請求は棄却されることになります)。
しかし「債務者による債務承認」で解説したように、債務承認による中断については、承認後に時効援用をすることはできなくなりますので、時効完成後に承認がある場合は回収可能性は消えません。
また債務者による時効の援用は、時効を援用する意思を示した「時効援用通知書」を作成・送付して行うのが通常です。なお書類作成・送付などは、それほど時間がかかる作業ではないため、すでに時効期間を過ぎているものについてはスピーディに対応するべきでしょう。
未回収の売掛金について対応する際は、時効成立前に迅速に手続きを進める必要があります。
しかし、特に訴訟や支払督促といった裁判手続きを行う際は、最低限の法律知識を携えた上で書類準備などを漏れなく済ませる必要があり、場合によっては予想以上に時間を要する可能性もあります。
また親密な関係を築いてきた取引先から、関係性を壊さずに穏便に回収したい場合など、スムーズに対応を進めることが難しいケースなどもあります。「自力で対応を進められるか不安」という場合は、債権回収について実績のある弁護士に依頼するべきでしょう。
弁護士であれば、裁判手続きの書類作成に関するサポートはもちろん、訴訟時には出廷の代理を依頼することもできます。また自社や相手先の状況を考慮した上で、今後取るべき対応について企業状況ごとに適したアドバイスなども期待できるため、自力で対応するよりも迅速な問題解決が望めます。
売掛金の時効期間は原則5年ですが、1~3年などに設定されている売掛金もあります。
時効は、請求・差押え・債務承認などによって中断でき、それぞれ対応内容や延長期間が異なります。強制執行へのスムーズな移行を望む場合は「裁判上の請求」、時効成立が迫っている場合は「裁判外の請求」など、企業状況ごとに適切な方法を選択する必要があるでしょう。
未回収の売掛金について対応する際は、迅速に手続きを進める必要があり、特に裁判手続きを行う場合などは予想以上に時間を要する可能性もあります。
弁護士であれば法的視点からのサポートが得られるだけでなく、今後取るべき対応に関するアドバイスなども望めるため、自力で対応できるか少しでも不安がある場合は、依頼することをおすすめします。
時効の近い売掛金の回収を弁護士に依頼することで、時効をリセット・延長した上で、最適な回収方法を提案してもらうことができます。
時効が過ぎてからのご相談は、状況によって弁護士が介入しても回収できないケースがあります。未回収の売掛金を見つけたらできるだけ早くご相談ください。
本記事は企業法務弁護士ナビを運営する株式会社アシロ編集部が企画・執筆いたしました。
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