下請法では、下請け業者に対し、親事業者という立場を利用して無理な発注や金銭の請求など不当な扱いを禁止することを目的に、親事業者から下請事業者へ業務発注する場面では、親事業者に対して11項目の禁止行為が定められており、違反時は罰金が科されるケースもあります。
また、違反している可能性のある親事業者はすぐに改善しなければなりません。下請け業者から訴えられないためにも、どのような行為が違反に当たるのかあらかじめ知っておきましょう。下請事業者の方も自衛のために、違反行為を知っておきましょう。
この記事では、違反行為や違反時の罰則などを解説します。
「下請法の違反行為に該当するかもしれない」と思われた場合、できるだけ早い段階で弁護士に判断を仰ぎ、迅速な対応を行う必要があります。
親事業者の場合、円満に解決できるよう交渉し、訴訟されるのを回避するような対応を行い、下請け業者であれば、状況に応じ損害賠償請求や契約書の変更が必要です。
下請法の違反行為に該当しているか、まずはご相談ください。
下請法で違反となる11の行為
違反行為①|受取の拒否
下請事業者に責任がないにもかかわらず、発注した物品などを受け取らないこと。在庫が過多になってしまうため、一時的に、下請業者に保管してもらう場合でも、違法行為に該当します。
違反例
下請業者「発注された部品作成できました」 親事業者「製品設計が変更になったため、当初委託していた製品が不要になったので、受け取れません。費用も支払えなくなってしまいました」 |
違反行為②|下請代金の支払遅延
物品などの受取日から数えて60日以内に、定めた支払期日までに下請代金を支払わないこと。納品された提出物に不備がある場合は、すぐに連絡し、修正してもらうようにしましょう。もし、下請事業者の再納品に、前回の納品から数えて60日を超してしまうほどの時間がかかるようであれば、契約書の変更なども検討しなければなりません。
違反例
下請業者「支払い期日が過ぎているのに、代金が支払われていないのですが…」 親事業者「製品検査に時間がかかっており、期日内に下請代金を支払うことはできなくなりました。必ず支払いますが、少しお待ちください。」 |
違反行為③|下請代金の減額
下請事業者に責任がないにもかかわらず、発注時に定めた下請代金を減額すること。納品されたものが余りにも酷い場合でも、一方的に減額するのではなく、しっかりと話し合い相手に納得してもらった上で減額しましょう。
また、相手が減額を認めた場合、合意書などを作成しておくと、後々のトラブル回避につながります。減額金額が大きい場合は、弁護士に代理してもらうと安全な交渉・契約書の作成が可能です。
違反例
下請業者「振込金額が足りていないのですが…」 親事業者「業績悪化により予算が減ってしまったため、下請代金を減額させてもらいました。来月には追加で支払うから」 |
違反行為④|返品
下請事業者に責任がないにもかかわらず、受け取った物品などを返品すること。一時的に引きとってもらう場合でも、違法行為に該当する可能性が高いでしょう。
違反例
親事業者「シーズン終了にともない在庫を入れ替えたいので、売れ残った製品は引き取ってください」 下請業者「無理ですよ」 親事業者「一時的でいいので」 |
違反行為⑤|買い叩き
市場価格や類似品の価格などと比べて、下請代金を極端に低く設定すること。また、発注書を取り交わした後に、一方的に作業内容を増やしたりすることは、買いたたきに該当する可能性があります。
もし、作業内容の追加が必要な場合、協議した上で再度価格の見直しを行う必要があります。
違反例
下請業者「1個の発注だと、10万円です」 親事業者「製品を50個発注したときは、1個5万円ですよね。今度また50個注文するので、今回だけは5万円でお願いします」 |
違反行為⑥|物品購入・サービス利用の強制
正当な理由がないにもかかわらず、強制的に物品を購入させたりサービスを利用させたりすること。
違反例
親事業者「あなたの会社に発注する代わりに、下請け業者には私の会社の購入ノルマを設定する」 |
親事業者に私的なことで勧誘を受けた場合は違反?
関係が長くなると、親業者の社長などから事業内容に全く関係のないチケットなど(例えば、親事業者の社長の孫が出演するコンサートのチケットなど)を下請業者に対し「ぜひ見に来て欲しい」といって売りつけるような、公私混合させた誘いを受けるケースもあると思います。
もちろん断ったら関係悪化が懸念されるため、強制されてなくとも下請業者としては購入せざるを得ない状況になるかと思います。このような場合は下請法に違反するのでしょうか。
この事例の下で購入を「強制」すれば下請法違反となりますが、想定事例では「強制」には至らないのではないかと思料します。本項目に関連する条文は、下請法4条1項6号ですが、同条項は「下請事業者の給付の内容を均質にし又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること」を禁止しています。
このように条文上は、親事業者による購入強制は、親事業者の製品・サービスに限定されず、親事業者の「指定する」製品・サービスですので、想定のように事業とは無関係の物品の購入強制も引っかかると思います。もっとも、「ぜひ見に来て欲しい」という程度であれば、それは単なる勧誘であって強制性に乏しいと考えます。
したがって、この場合、事実上購入を拒否し得ないような客観的事情があればともかく、勧誘をしただけでは下請法違反とは言い切れないと考えます。
違反行為⑦|報復措置
親事業者の違反事実について、下請事業者が公正取引委員会や中小企業庁へ知らせたことを理由に、取引停止や数量削減などの報復を行うこと。また、取引量の減少が偶然であっても、通告された時期が近ければ下請法違反に該当してしまう可能性がありますのでご注意ください。
違反例
親事業者「違反事実を通報されたのは知っている。それでこっちは迷惑しているから、次回からの取引量は半分にさせてもらう」 |
違反行為⑧|支給原材料などの対価の早期決済
親事業者が下請事業者に対して、原材料や部品などを有償で支給している場合、それらの対価を下請代金の支払期日より早く支払わせたり、下請代金で相殺したりすること。
違反例
親事業者「今回は、支給した原材料費を下請代金より先に支払ってください」 親事業者「今回の原材料費は下請代金と同額だから、原料費支払わなくていいので、代金も支払わないことにします」 |
違反行為⑨|割引困難な手形交付
下請代金の支払いにあたって、一般の金融機関では割引が難しい手形を交付すること。「割引困難な手形」とは、振出日から支払い日までの期間が、以下のような手形が該当します。
・繊維業:90日を超える ・その他:120日を超える |
違反例
【IT事業】 親事業者「手形で支払います」 下請事業者「手形期間が150日になっているのですが…」 |
違反行為⑩|不当な経済利益の提供要請
自社の利益のために、現金や役務などを不当に提供させること。「募金」などの名目でも、自社の利益のための場合は、これに該当します。
違反例
親事業者「今度のイベント開催のため、下請事業者には協賛金の提供をお願いします」 |
違反行為⑪|不当な給付内容の変更・やり直し
下請事業者に責任がないにもかかわらず、注文の取消や発注内容の変更などを行ったり、受取後にやり直しを行わせたりすること。変更が必要な場合は、変更する理由の説明や、追加料金を支払うなどの対応が必要です。
違反例
親事業者「検査基準の変更にともない、製作のやり直しを無償で行ってもらう」 |
下請法に違反した場合の罰則
下請取引については、公正取引委員会や中小企業庁などによって取締りが行われています。
取締り方法としては、取引内容に関する書面調査のほか、場合によっては立入検査などが実施されることもあります。調査の結果、「下請法に違反しており処分を下す必要がある」と判断された場合は、以下の対応が取られます。
・勧告 ・指導 ・罰金 |
勧告・指導を受けた事業者は、該当行為の取り止め・原状回復・再発防止策の実施などの改善対応を行ったのち、対応内容を記載した改善報告書の提出が必要です。なお勧告を受けた場合については、公正取引委員会HPの「下請法勧告一覧」にて、企業名・違反内容・勧告概要などの公表手続きも行われるため、違反があったことを隠すことができず、社会的信頼を落とす可能性があります。
また罰金が科されるケースとしては、「調査・報告に関する違反行為があった場合」と「親事業者の義務に関する違反行為があった場合」の2つがあり、以下で詳しく解説します。
調査・報告に関する違反行為があった場合
公正取引委員会や中小企業庁が行う書面調査について、虚偽報告をした場合や報告をしなかった場合、さらに立入検査を拒否・妨害した場合などは、50万円以下の罰金が科される可能性があります(下請法第11・12条)
親事業者の義務に関する違反行為があった場合
下請法では、親事業者に対して以下4つの順守義務が定められています。
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上記義務のうち、書面を交付する義務と書類を作成・保存する義務を怠った場合、違反行為者と会社に対して、50万円以下の罰金が科される可能性があります(下請法第10条)。
下請法の違反により、損害が出た場合、民事裁判により損害賠償を求めることも考えられます。また、問題を大きくしたくない場合、弁護士に相談の上、示談による和解も望めるでしょう。
請求された親事業者は、弁護士に依頼することで、請求金が相場か判断してもらえます。下請法違反による損害賠償については、弁護士にご相談ください。
【下請事業の方へ】下請法違反の相談先一覧
親事業者に、このような違反行為を行われた場合、以下のような場所に相談することが可能です。
公正取引委員会
公正取引委員会では、当該行為が下請法に違反しているか判断してくれ、違反していると判断した場合は勧告・指導などを行ってくれます。また、誰が相談したかなどについては公表されませんので、ご安心ください。
相談・申告に関しては、書面・電話・来所・ネットにて行うことができます。
下請かけこみ寺|中小企業庁
下請かけこみ寺とは、中小企業が不利益な取引をさせられないため、全国に設置された中小企業庁が運営する相談窓口です。相談を聞いた後、問題解決するための方法や、価格交渉に関するサポートなどを行ってくれます。
企業法務が得意な弁護士
弁護士に相談することで、当該行為が違反しているかどうかの判断や、違反していた場合の交渉や訴訟手続きなどを行ってくれます。また、契約書を交わす際に、記載内容に不備や不利な点がないかチェックしてもらうことで、事前対策を行うことも可能です。
まとめ
下請法では、「受取の拒否」「下請代金の支払遅延」など11項目の禁止行為が定められており、「設計変更により委託製品をキャンセルする」「検査が終わらず期日内に支払いできない」などの場合は違反となります。
違反時は勧告や指導などの対応が取られ、対象となった事業者は、改善対応を行った上で改善報告書を提出する必要があります。なお、調査・報告に関する違反行為があった場合などは、50万円以下の罰金が科される可能性もあります。
またなかには、違反するかどうか判断が困難なケースや、当事者だけでは問題解決が難しいケースなどもあります。そのような場合は弁護士に相談することで、ケースに応じてアドバイスやサポートが望めるため、自力で対応する自信がない方は相談すると良いでしょう。