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インサイダー取引は、金融商品取引法(以下「金商法」)において禁止されている、公正な市場を破壊する重大な違法行為です。
金商法ではインサイダー取引となる行為を細かく規定し、これら行為に対してが課徴金や罰則の制裁を定め地得ます。そのため、インサイダー取引を行った者は、同法に基づいて厳しく処分される可能性があります。
この記事を読んでインサイダー取引の重大性を理解していただき、法律を守った取引を心がけるようにしてください。
インサイダー取引を行ってしまった場合、金商法の下で課せられる制裁には以下の2種類があります。
課徴金とは、法律に違反する行為を行った者に対して制裁として金銭納付を命ずる行政処分です。あくまでも刑事罰ではなく行政処分ですので、課徴金の納付が命ぜられたとしても前科が付くことはありません。
しかし、後に解説するように課徴金の金額が高額になることもあります。また、インサイダー取引により課徴金を課された場合にはこれが大きく報道され、社会的信用を失う可能性があります。
インサイダー取引は刑事罰の対象ともされています。
特に違反の情状が重い場合には、刑事事件として立件され、起訴されて有罪判決を受けて刑事罰を受けるということも十分あり得ます。この場合は、前科が付きます。
また、最悪の場合、実刑(執行猶予の付かない懲役刑)となり刑務所に入ることになる可能性すらあります。
インサイダー取引として禁止対象となる行為は、大きく分けて以下の2つです。
未公表の重要事実を知った上場会社等の会社関係者は、その重要事実が公表された後でなければ、その会社の株式などの売買等を行ってはならないものとされています(金商法166条1項)。
また公開買付者等を行おうとする会社の関係者は、公開買付け等の実施・中止に関する事実が公表された後でなければ、公開買付け等の対象となっている会社の株式などの売買等を行ってはならないものとされています(金商法167条1項)。
このように金商法は、内部者しか知り得ない重要情報をもとにした抜け駆け的な取引を禁止しています。
未公表の重要事実を知った上場会社等の会社関係者は、他人に利益を得させまたは損失を回避させる目的をもって、未公表の重要事実を他人に伝達してはならないものとされています(金商法167条の2第1項)。
また公開買付者等関係者は、他人に利益を得させまたは損失を回避させる目的をもって、未公表の公開買付け等の実施・中止に関する事実を他人に伝達してはならないものとされています(金商法167条の2第2項)。
こうした情報伝達行為の規制は、インサイダー取引規制のメインである取引規制を補強する役割を果たしています。
課徴金制度は、刑事罰よりも簡易な手続きにより迅速に違反者を処分することができるように創設されました。
その具体的な内容について解説します。
各違反行為に対する課徴金の金額の考え方は次のとおりです。
違反者が「自分の計算で」株式などの売買等を行った場合、得た利益(回避した損失)の全額を吐き出すことになります(金商法175条1項1号、2号、同条2項1号、2号)。
得た利益(回避した損失)の金額は、以下の金額の差をとって計算されます。
一方違反者が「他人の計算で」株式などの売買等を行った場合は、以下の金額が課徴金として課されることになります(金商法175条1項3号、同条2項3号)。
情報伝達規制に違反して重要情報などを第三者に対して伝達した場合には、以下の金額が課徴金として課されることになります(金商法175条の2第1項、第2項)。
なお、上記(iii)の利得相当額は、以下の金額の差をとって計算されます(金商法175条の2第3項)。
金融商品取引業者が顧客のために行うインサイダー取引については、そのプロとしての属性上、通常の場合に比べて非常に重い課徴金の制裁が課されるものとされています。
課徴金納付命令が出されるかどうかについては、審判手続きによって決定されます(金商法178条以下)。
審判手続きは裁判よりも簡便な制度ではありますが、裁判と同様に公開で行われます。
また、審判を受ける人には意見陳述の機会も与えられます。
したがって、審判手続きは裁判に準ずる手続きであると理解しておけば良いでしょう。
刑事罰は、インサイダー取引の中でも金額が大きい、やり方が悪質などの情状が重いケースに適用される非常に厳しい制裁です。
インサイダー取引に課される刑事罰の内容について、以下解説します。
刑事罰の対象となっている違反行為は以下のとおりです。
上記①②の場合における法定刑はいずれも、「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはこれを併科」とされています。
また、インサイダー取引に該当する株式などの売買等により得た財産は没収されます(金商法198条の2第1項第1号)。
特に情状の重いインサイダー行為については、たとえ初犯であったとしても執行猶予が付かずに実刑となる可能性もゼロではありません。
法人代表者等によるインサイダー行為については、当該代表者等だけでなく、法人についても刑事罰が科される可能性があります。
取引を行った代表者等(自然人)に対する刑罰は上記のとおりですが、法人については、5億円以下の罰金刑が科課される可能性があります(金商法207条1項2号)。
実際にインサイダー取引規制に違反して、課徴金や刑事罰が課された事例を紹介します。
課徴金事例は、証券取引等監視委員会の公表資料にまとめられています。現状の最新版は以下のwebページに掲載されています。
参考:証券取引等監視委員会|「金融商品取引法における課徴金事例集~不公正取引編~」の公表について
その中の一部をピックアップして見ていきましょう。
【事案の概要】
【行政処分の内容】
・Bに対して1167万円の課徴金納付命令がなされた。
【事案の概要】
【行政処分の内容】
・Eに対して194万円の課徴金納付命令がなされた。
次に、インサイダー取引規制違反に関する刑事裁判において下された判決の内容をピックアップして紹介します。
【事案の概要】
・経産省のキャリア官僚Eが、職務上、上場企業Z社の合併・第三者割当増資の事実を知るに至った。
・Eは、情報の公表前にZ社株を買い付けた。
【刑事罰(+課徴金)の内容】
・Eに対して、懲役1年6か月(執行猶予3年)・罰金100万円の刑が言い渡された。
・さらに、Eに対して1,031万9,500円の課徴金納付命令がなされた。
【事案の概要】
・上場会社であるW社の代表取締役会長付き秘書のFが、W社が他社との業務提携・株式交換を行うことを職務上知るに至った。
・Fは、情報の公表前にW社株を買い付けた。
【刑事罰(+課徴金)の内容】
・Fに対して、懲役2年6か月(執行猶予4年)・罰金300万円の刑が言い渡された。
・さらに、Fに対して約4,470万円の課徴金納付命令がなされた。
インサイダー取引を企業として予防するためには、社員に対してインサイダー取引の危険性などについて十分に理解してもらうことが必要不可欠です。
したがって、社員教育などを通じて社員のインサイダー取引に対する理解を深めていくことが重要になります。
どのように社員教育を行ったら良いかについては、企業法務に詳しい弁護士に相談することがおすすめです。
弁護士は法律の専門知識を生かして、インサイダー取引規制の重要なポイントを効率的に社員に対してインプットすることができます。
また、弁護士が経験してきたインサイダー取引規制違反の事例の紹介を交えることにより、レクチャーをより印象深いものすることができるでしょう。
社員教育のほかにも、社員からインサイダー取引をしないことについての誓約書を取得することも有効です。どのような文面の誓約書を取得すべきかについては、弁護士の助言が参考になります。
インサイダー取引を予防することの重要性を感じている企業は、ぜひ弁護士に相談してみてください。
インサイダー取引規制違反に対して課される課徴金・刑事罰(罰則)の内容や、実際の課徴金・刑事処分の事例を中心に解説してきました。
「どうせばれないだろう」という認識は危険です。
市場での有価証券取引は有価証券取引等監視委員会が常時監視しており、不自然な取引がされれば必ずチェックされます。そのため、インサイダー行為は基本的に発覚すると思ってください。そして、発覚した場合は取り返しがつきません。
高額の課徴金の支払いを命じられる、刑事罰を受けるという制裁は固より、インサイダー取引に手を染めたことにより社会的信用を大きく失うことになります。
インサイダー取引に手を出すことは厳禁です。
などには、ぜひ弁護士に相談してみてください。