ハラスメント防止対策は、企業にとって急務となっています。2015年に起きた電通社員の過労死自殺事件では、パワーハラスメントや長時間労働などが大きな話題となりました。
24歳東大卒女性社員が過労死 電通勤務「1日2時間しか寝れない」 クリスマスに投身自殺 労基署が認定 最長月130時間の残業などで元電通社員の高橋まつりさん=当時(24)=が自殺し、三田労働基準監督署(東京)が過労死として認定していたことを7日、遺族側弁護士が会見で明らかにした。
引用元: 産経ニュース|24歳東大卒女性社員が過労死 電通勤務「1日2時間しか寝れない」 クリスマスに投身自殺 労基署が認定
また、働き方改革や女性の社会進出推進などの取り組みからも、ハラスメント防止対策は国を挙げて推し進められています。
この記事では、企業が取り組まなければならないハラスメント防止対策や実際の取り組み事例などについてご紹介します。
ハラスメントの種類と企業の義務
企業が取り組むべきハラスメントは3つあります。
- パワーハラスメント(パワハラ)
- セクシュアルハラスメント(セクハラ)
- マタニティハラスメント(マタハラ)
これらのうち、セクハラとマタハラについては、それぞれが男女雇用機会均等法や育児介護休業法で防止措置を講ずる義務などが定められています。
パワーハラスメントについては法律上ハラスメントの定義がされていないことや業務上の指示・命令との区別が容易でないことから、セクハラやマタハラのような防止措置義務までは法令上定められていません。
しかし、パワーハラスメントもセクハラ・マタハラと同様、会社において防止されるべき対象であることは間違いありませんので、企業側はセクハラ・マタハラと同じような対応が期待されていると考えるべきでしょう。
この項目では、各ハラスメントの概要と企業の責任についてご紹介します。
パワーハラスメント
パワーハラスメントとは、職場での優位な立場を利用して、相手に嫌がらせをするハラスメントです。
パワーハラスメントについては、上記のとおり法令上の規制や対応義務は定められていません。
しかし、企業は労働者に対して安全配慮義務・職場環境配慮義務を負っていますので、パワーハラスメントの実態を把握しようとしない場合、もしくはこれを把握しても何の対応もしない場合、同義務違反に基づく責任を負担する可能性があります。
(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
引用元: 労働契約法
パワーハラスメントは、法律で明確に禁止・規制されているわけではありません。一方で、精神疾患や過労死などの労働災害、さまざまな不祥事の原因となり、問題を放置しておくと企業の存続に関わることもあります。
セクシュアルハラスメント
セクシュアルハラスメントは、職場での性的な言動によって労働者に苦痛を与えるハラスメントです。男女雇用機会均等法では、セクシュアルハラスメントの禁止と企業の防止措置義務を細かく定めています。
(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置)
第十一条 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
関連リンク: 厚生労働省|職場のセクシュアルハラスメント対策はあなたの義務です‼︎
マタニティハラスメント
マタニティハラスメントとは、妊娠した女性に対し、職場で嫌がらせをしたり休業制度などの利用を妨害したりするハラスメントです。
マタニティハラスメントは、男女雇用機会均等法で、妊娠を契機とした不利益な取り扱いの禁止などが定められています。
(婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等)
第九条 事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
企業が行うハラスメント防止対策の事例
この項目では、各企業が実際に行っているハラスメント防止対策をご紹介します。
人権尊重としてのハラスメント防止策
東京ガスグループでは、コンプライアンス担当執行役員を委員長とし、各部署の人事担当部長を主体に17名で構成された「中央人権啓発推進委員会」を設置しています。
本委員会では、中央人権啓発推進会議を年1回開催し、当社グループの人権問題全般の理解とともに研修実績や次年度の啓発活動の確認を行います。また、下部会議体として各部人事担当部長を委員長とした「支部人権啓発委員会」を設置し、支部事務局と人権啓発推進リーダーが主体となって各職場の人権研修等を行っています。
引用元: TOKYO GAS|人権の尊重に向けた取り組み
対象者ごとの研修やガイドブックの発行|電通
電通では、相談窓口の設置や労働者への周知・啓発活動、ガイドブックの作成などを行っています。また、各対象者に合わせた研修、社内掲示板などでの注意喚起を行うことで日頃からの意識づけも行われています。
予防・対応マニュアルを公開|可児市役所
岐阜県可児市の市役所では、職員のハラスメント防止策を市役所ホームページで公開しています。相談窓口の設置、ハラスメント行為の明文化、処分なども詳細に記載されており、ハラスメント抑止に繋がることが期待されています。
違反行為 | 懲戒処分の種類 | |||
1 一般服務関係 | (13) セクシュアル・ハラスメント | ア 暴行若しくは脅迫を用いてわいせつな行為をし、又は職場における上司、部下等の関係に基づく影響力を用いることにより強いて性的関係を結び若しくはわいせ つな行為をした職員 | 免職または停職 | |
イ わいせつな言辞、性的な内容の電話、性的な内容の手紙又は電子メールの送付、身体的接触、つきまとい等の性的な言動(以下「わいせつな言辞等の性的な言動」という。)を執拗に繰り返したことにより相手を強度の心的ストレスの重積による精神疾患 に罹患させた職員 | 免職または停職 | |||
ウ わいせつな言辞等の性的な言動をしたことにより相手を強度の心的ストレスの重積 による精神疾患に罹患させた職員 | 停職または減給 | |||
エ 相手の意に反して、わいせつな言辞等の 性的な言動を繰り返した職員 | 停職または減給 | |||
オ 相手の意に反して、わいせつな言辞等の 性的な言動を行った職員 | 減給または戒告 | |||
(14) パワー・ハラスメント | 他の職員に対し、職務上の地位や人間関係等の職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的若しくは身体的な苦痛を与え、又は職場環境を悪化させる行為等を 行った職員 | 免職、停職、減給または戒告 |
ハラスメント防止対策のポイント
厚生労働省では、ハラスメントに対し、企業内での発生防止対策や防止措置の徹底を呼びかけています。
参考資料|厚生労働省 |
これらの資料を元に、この項目ではハラスメント防止対策の大まかなポイントについてご紹介します。なお、導入する際は、個別の事案や企業規模、成長段階に応じた取り組みを行いましょう。
ハラスメント規定の作成
ハラスメント規定は、就業規則の絶対記載事項ではありません。しかし、労使でのトラブルを避けるためには、ハラスメントの禁止に関する事項を就業規則として定めておくことが必要でしょう。
厚生労働省の『モデル就業規則』では以下のように記載されています。
(職場のパワーハラスメントの禁止)
第12条 職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景にした、業務の適正な範囲を超える言動により、他の労働者に精神的・身体的な苦痛を与えたり、就業環境を害するようなことをしてはならない。
引用元: 厚生労働省|モデル就業規則
(セクシュアルハラスメントの禁止)
第13条 性的言動により、他の労働者に不利益や不快感を与えたり、就業環境を害するようなことをしてはならない。
引用元: 厚生労働省|モデル就業規則
(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントの禁止)
第14条 妊娠・出産等に関する言動及び妊娠・出産・育児・介護等に関する制度又は措置の利用に関する言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。
引用元: 厚生労働省|モデル就業規則
労働者への周知・啓発
社内のハラスメント規定の策定を行ったら、労働者に全体でのメール連絡や書面の掲示などを行い、周知・啓発に努めます。また、必要に応じて研修やEラーニングを取り入れることも検討しましょう。
コンプライアンス相談窓口の設置
コンプライアンス相談窓口の設置は、現在では一般的になっています。
2017年に行われた厚生労働省の調査によると、企業規模に応じて4割〜9割以上が相談窓口を設置しています。
コンプライアンス相談窓口は、労働者が利用しやすいよう、連絡先の周知などを行いましょう。また、産業医や保健師など外部とも連携をとり、緊急性のある場合は医療スタッフの指示を仰ぐことも必要になります。
問題解決・相談処理体制の構築
ハラスメント問題の解決は初動が重要です。
社内での相談処理体制が整っていないと、労働者の信用を失う可能性があります。社内体制に疑念を持った労働者は、労働局への通告や訴訟などのアクションを起こす可能性もあるでしょう。
ここでは、問題解決・相談処理体制を構築する際のポイントをまとめました。
関連リンク: あかるい職場応援団|「社内でパワハラ発生!」人事担当の方
被害者・加害者へのヒアリング
ヒアリングによって不利益を受けないことを説明
被害者・加害者はヒアリングの際、「余計なことを言ってしまうと不利益な扱いを受けるのではないか」と警戒しています。そのため、ヒアリングを行う前に、不利益な取り扱いがないことや情報の公開範囲などを説明しましょう。
ヒアリングの時点で結論を決めない
ヒアリングはあくまでも事実確認のためのものです。ハラスメント問題は、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントなどの問題が入り組んでいます。そのため、最初から「これはセクハラだな」とか「こんなのセクハラではない」と決めつけてしまうと判断を誤る可能性があります。
先入観を持たず、あくまでも事実確認をするつもりでヒアリングに臨みましょう。
被害者には情報の共有範囲を聞いておく
被害者へのヒアリングを行う場合は、情報の共有範囲を聞いておくことも必要です。なかには、「匿名にしたい」「プライベートな内容にも関わるので周りに知られたくない」という相談者もいます。
- 加害者へのヒアリングで事実確認をしてもいいか
- 人事部に異動などの相談をしてもいいか
上記の点などは、個別の問題に応じて、相談者に確認しましょう。
加害者を一方的に責めない
ハラスメントは、業務上必要な範囲を超えた指導を行うことで発生します。そのため、加害者側も「一生懸命指導していたつもりだが、いきすぎてしまった」というケースも少なくないでしょう。また、加害者側も企業によって必要な人材なので、一方的に責めるような言い方をするのは禁物です。
社内でのハラスメント認定
会社は最終的には調査担当者(担当部署)の調査結果に基づいて事実を認定し、当該事実に照らしてハラスメントと評価できるかどうかを判断する必要があります。
仮にハラスメントと評価可能な場合は、就業規則の定めに従って懲戒処分を行うべきかどうかなどを決定することになります。
外部に判断を仰ぐ
上記の調査・認定・判断が社内限りで行うことが難しいような場合、弁護士などの専門家に相談し、判断を仰ぐことも検討すべきでしょう。
ハラスメント認定を弁護士に相談した場合は、他社の事例なども踏まえて意見を聞くことができます。
再発防止措置の実行
ハラスメント問題が起きてしまったら、再発防止策を講じなければなりません。ハラスメントの被害者や加害者への措置はもちろんですが、社内全体としても再発防止に務める必要があります。
社内に書面などで掲示して周知・啓発を行ったり、研修などを開いたりして意識改革を行いましょう。
関連リンク: 職場におけるハラスメント防止・対応方法
ハラスメント問題でこじれたら弁護士に相談
ハラスメント問題の解決がこじれてしまった場合や労働者が労働局や弁護士に相談した場合は、早い段階で弁護士に相談し対応する必要があるでしょう。
ハラスメント問題はこじれてしまうと裁判に発展する可能性があり、企業の存続にも関わります。
ここまできたら、弁護士に相談し、法的措置も踏まえて事態の収束を検討しましょう。
出典元一覧 |