ハラスメント規制法にむけて会社は何をするべき?会社の正しい対応ガイド

専門家監修記事
会社でセクハラやパワハラなどのハラスメント問題が発生した場合の対応体は万全に整えられていますか。従業員トラブルから会社を守るためにもとても重要です。この記事では、ハラスメント規制法の施行に向けて、会社の正しい対応についてご紹介します。
阪神総合法律事務所
曾波 重之
監修記事
人事・労務

近年、ハラスメントをめぐる問題がメディアでも取り沙汰されるようになってきました。ハラスメント規制法の施行に先立ち、内部通報窓口の設立、ハラスメント発生時の対応体制の整備が必要不可欠と言えるでしょう。この記事では、ハラスメントの定義を再確認し、具体的にどのように対応していくべきかについて解説します。

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ハラスメントが発生した場合のリスク

ハラスメント問題は、従業員間の問題ではなく会社にも大きな悪影響を及ぼします。

【ハラスメントが会社に与えるリスク】

  • 会社に対する損害賠償
  • 社会的信用の失墜
  • SNSでの炎上
  • 顧客離れのきっかけ・業績の低下
  • 従業員のやる気の低下
  • 優秀な社員を保持・確保できない

従業員を雇っている以上、従業員の問題は会社の問題です。個人間の問題と放置したまま改善しないと具体的に、以下のような損害が発生する可能性があります。

金銭的なリスク

ハラスメント問題は従業員間の問題ではありません。

会社には、「従業員が健康的に働ける環境を作らなければならない」という安全配慮義務が課されているため、従業員によるハラスメントが発生した場合、当事者間の問題ではなく「安全配慮義務違反した」として、会社に対して損害賠償が請求される可能性があります。

 

2018年には、上司のパワハラにより鬱を発症した原告が、雇い主である会社に対し損害賠償を求める裁判が起きました。原告の再三のパワハラ相談に対し、真剣に対応しなかった会社側は、使用者責任違反、債務不履行(安全配慮義務違反・民法415条)として約1,116万円の支払いが命じられました (WestlawJAPAN|文献番号 2018WLJPCA05296011)。

社会的信用の失墜・SNS上で炎上するリスク

また、パワハラ問題は、このような金銭的な損失を負うだけではなく、会社にとっては一番避けたい「社会的信用を失墜させる」というリスクも併発させます。近年では、裁判に発展する前にハラスメント問題をSNSに投稿され、「炎上」してしまうリスクも念頭に入れておかなければなりません。

 

特にSNSは、会社がターゲットとしているユーザーが利用していることが多いため、炎上してしまうと業績面・求人面で大きな打撃を受けるでしょう。このような炎上リスクは、会社の規模や年数に関係せず、むしろ大企業・知名度の高い企業であればあるほど、炎上しメディアに取り上げられやすくなる傾向があるため、沈静化しづらいのが現状です。

 

最近の例では、大手企業に勤める男性の妻が、夫の育児休暇明けに人事異動させられた旨をSNSに投稿し、勤務先の企業が大炎上した事件などが挙げられます。企業側は、HP上で事件の経緯を説明した上で、企業側の対応に違法行為はなかったと説明しました。しかし、このような対応を行っても、ネットやメディアでは当該企業に、不信感や批判的な感情を抱えている人も少なくありません。

従業員へ与えるリスク

また、ハラスメント問題は社外への影響ではなく、社内の従業員に対しても悪影響を与えます。ハラスメントが横行する会社に長く勤めたい従業員はいません。従業員のやる気がなくなれば業務効率が悪化したり、優秀な社員を確保できなかったりとさまざまな問題が浮き出てくるでしょう。

 

また、ハラスメントを受ける側の従業員だけでなく、加害者となってしまった上司側の人材の流出や、上司側の立場の人は部下への指示や指導を萎縮してしまうといった問題も生じます。このようなリスクを把握した上で、従業員への適切な教育、体制整備、対応をしていかなければなりません。

各ハラスメントの具体的な定義

ハラスメントとは職場内(業務を遂行する場所であれば、オフィス外である取引先の事務所、打ち合わせで利用する飲食店、就業時間外の宴会、休日の連絡、出勤・帰宅利用する交通機関の中なども含む)で行われる精神的・肉体的・性的暴力であり、該当するかのポイントは、各ハラスメントにより異なります。

パワーハラスメントの定義

「パワーハラスメント」の定義は、同じ職場で働く者に対して、職場内の優位性を利用し、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える、又は職場環境を悪化させる行為を指します。

職場内の優位性

職場の優位性には、単に「地位が高い」だけではなく、同僚・後輩から集団で行われ、拒否・抵抗することができない状況や、職務を遂行するのに必要な専門知識(技術・経験など)を有している状況なども含まれます。また、職場内の人間関係 (例:社長の親族等)も職場内の優位性に影響します。

業務の適正な範囲

指示や指導に不満を感じていても業務を遂行するのに適正な範囲であれば、パワハラに該当しません。また、各職場で何が適正なのかを明確にし、業務負担を公平にすることも重要です。その上で、他人に対する言葉使いに十分注意する必要があります。

 

指示が適正であっても、注意や支持する際に「バカ」や「本当に使えない」「辞めろ」などの暴言を使ってしまうとパワハラに該当する可能性があります。暴力も同様です。

セクシャルハラスメントの定義

「セクシャルハラスメント」は、職場内で労働者(正社員以外のアルバイト・パート・契約社員・派遣労働者等すべてを含む)の意に反し性的な言動を行われ、かつ被害者の労働者の対応により、労働条件に不利益を受けたり、就業環境が害されたりすることを指します。また、異性に対するものだけでなく同性に対するものも含まれます。

性的な発言

  • 性的な発言・性的なことを連想させるような発言・冗談
  • 容姿・体型・年齢・服装についての発言
  • 食事やデートへの執拗に誘うような発言
  • 恋人の有無や性的事情に関する執拗に聞いてくるような発言
  • 個人的な性的体験談や事情に関する赤裸々な発言
  • 性別に関する差別的発言(女だから、男だから等)

性的な言動

  • 不要な身体への接触
  • 性的な関係の強要
  • わいせつな画像・動画・文章の配布

マタニティー・パタニティーハラスメントの定義

「マタニティーハラスメント」「パタニティーハラスメント」とは、妊娠・出産した女性労働者や育児休業等を申出・取得した男女労働者等に対し、職場において上司・同僚の言動により就業環境が害される、精神的・肉体的な暴力を受けることを指します。

 

具体的な例では、妊娠した女性労働者に対し「なぜ今妊娠したのか」と責めたり能力に見合わない雑務を押し付けたりする行為が挙げられます。また、精神的に産休や育児休暇申請をしづらい環境をつくったり、態度を取ったりすることもマタニティーハラスメントやパタニティーハラスメントに該当します。

 

なお、育児休暇明けの待遇に関してもこのようなハラスメントにつながる可能性があります。

どこまでが指導?ハラスメント相談された場合の会社の対応

ハラスメントになる、ならないは人間関係や受けた側の心情により曖昧です。例えば、以下の例をご覧ください。

このように同じ言葉でも、部長の言葉が「セクハラ」と受け取られる可能性があります。この場合、Bさんから「部長にセクハラ」を受けていますと相談された場合、部長へどのような対応が最適なのでしょうか。

セクハラ発生時における会社の正しい対応

まず、Bさんと部長から、Aさんがセクハラととらえた言動があったのかどうかの聞き取りを行い、状況によってしたの図のように対応していきます。

Aさんと部長への聞き取りで、言動の有無に食い違いがある場合は、Aさんにも確認します。仮に、そのような言動があった場合は、部長の処分の要否や処分の内容を検討し、そのような言動がなかった場合は、終了です。

 

このように、事実を認定し、セクハラか否かを評価し、処分の内容を検討するという順序になります。

セクハラ相談に対する会社側の対応姿勢

内部通報窓口を担当している人間としては、双方の事実は食い違うことが通常であるという認識を持つことです。どちらかが嘘をついているとは思わず、フラットな姿勢で、事実の有無を中心に話を聞くことに留意します。

 

会社としては、調査の経緯を報告書などにまとめて残し、経緯をBさんに報告するなど、外部から見て誠実に対応していることが分かるようにしておきましょう。仮に処分を要するセクハラがあったと認定した場合、処分が重すぎると、部長側から会社が損害賠償を請求される可能性があります。

 

部長に対しては、フラットな姿勢で事実の有無を確認し、仮に相談内容の言動があった場合も、過去の部長のセクハラ言動の有無や反省態度も考慮して、会社としての対応を考えなければなりません。

 

今後は、ハラスメント規制法によりハラスメントの対策が義務となります。これまでよりも、会社が対策を行っていなかった場合の責任が重くなる可能性があるでしょう。

会社としては、相談窓口の設置、社内研修による社員の意識改革、ガイドラインの作成・周知、従業員へのアンケートなどを実施することが必要です。

まとめ|「昔はなかった・当たり前」という気持ちを捨てさせることが重要

ハラスメント問題は、昔からあったにも関わらず数年前から取り上げられるようになったため、長く会社に勤めている人の中には「昔はこんなこと当たり前だったのに」「こんな制度なかったのに」と思う人も多くいるでしょう。そのため、よりスムーズに体制を整えるためには、そのような方に対する意識改革も必要になるかもしれません。

 

また、ハラスメントが過剰業務のストレスからくる場合、会社として休日や給料などの待遇を見直すことも検討すことが求められます。

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