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弁護士監修記事
人事・労務

うつ病の社員から労災申請された会社側の対応と手順

2019.7.24
2026.7.31
従業員がうつ病になってしまった場合、3つの条件を満たしていれば、「労災」を受けられる可能性があります。会社側はしっかり対応できるような知識を持つ必要があります。この記事では、従業員からうつ病を理由に労災の申請を受けた場合の会社側の対応についてご紹介します。
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ニシワキ法律事務所
弁護士 西脇 巧
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近年、長時間労働やハラスメント等を原因として、従業員がうつ病をはじめとする精神障害を発症し、労災保険給付を請求する事案が増加しています。

2025年度(令和7年度)には、精神障害に係る労災請求件数は4,958件に達し、1,082件について労災保険給付の支給決定がなされています。

いずれも過去最高の件数です。

精神障害の労災補償状況|厚生労働省

(参考:精神障害の労災補償状況|厚生労働省)

どのような仕事でも、従業員がうつ病になってしまう可能性は考えられます。

この記事では、従業員からうつ病を理由に労災申請を受けた場合の会社側の対応についてご紹介します。

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「うつ病は労災になりにくい」は誤解です。
しかし、労災認定には複雑な法的基準があり、対応を誤ると企業側のリスクにも。

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この記事に記載の情報は2026年07月31日時点のものです

うつ病で労災を受けるための条件

「従業員がうつ病になった」というだけでは労災を受けることはできません。

基本的には対象疾病であることを前提として、上図にある3つの条件を加味し判断されます。

業務による心理的負荷

まず、うつ病の発症前おおむね6か月間に、長時間労働やハラスメント等、業務による心理的負荷を伴う出来事が認められるかが判断されます。

当該心理的負荷の強度は、「強」「中」「弱」の3段階で評価されており、「強」に近いほど、労災として認定される可能性が高まります。

例えば、心理的負担が「強」と判断されるものには、

  • 発病直前の連続した2か月間に、1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行った
  • 上司等から、人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃等を反復・継続するなどして執拗に受けた 

などがあります。

業務以外の心理的負荷

ここでは仕事以外の「自分」の出来事、「家族・親族」の出来事、「金銭関係」などが考慮されます。

  • 自分の出来事:離婚又は夫婦が別居した など
  • 家族・親族の出来事:配偶者や子ども、親又は兄弟が死亡した など
  • 金銭関係:多額の財産を損失した又は突然の大きな支出があった など

これらの要素がある場合、それらが発病の原因といえるか慎重に判断します。

個体側要因

個体側要因としては既往歴、アルコール依存状況などがあります。

もし考慮すべき点が認められる場合には、それらが客観的に精神障害(うつ病)を発病させるおそれのある程度のものと認められるか否かについて検討します。

この3つの要因を一定の基準により判定し、精神障害(うつ病)が労災認定されるのは「その発病が仕事による強いストレスによるものと判断できる場合」に限ります。

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従業員から労災申請があった場合の会社側の流れ

従業員から労災申請があった場合の会社側の流れ

従業員から労災申請を受けた場合、当該従業員の意向を踏まえ、基本的に下図のような手続きに協力することが考えられます。

では、各項目を詳しく見ていきましょう。

1:傷病手当金支給申請書の作成

精神疾患による労災認定は7か月から1年ほどかかるため、まずは「傷病手当金」の申請を進めることを検討します。

もし傷病手当金を受けることができれば傷病手当金を受給しながら、労災の申請をすることもできます。

傷病手当の申請書には被保険者、事業主、療養担当者の記載する欄がありますので、会社側としては「事業主記入用」を完成させます。

ここでの証明は従業員が会社を休んでいることや給与が支払われていないことの証明です。

傷病手当では、給与1日当たり2/3の手当を受けることができます。

「被保険者」と「事業主」「療養担当者」の資料が揃い次第、会社もしくは従業員から保険者(協会けんぽ、健康保険組合)へ提出します。

2:労働基準監督署へ労災申請

続いて、従業員が労災の申請をするために以下の書類を作成する必要があります。

  • 労災認定病院で療養を受ける場合:療養補償給付たる療養の給付請求書(様式5号)
  • 労災指定外病院で療養を受ける場合:療養補償給付たる療養の費用請求書(様式7号)
  • 療養のために休業する場合:休業補償給付請求書(様式8号)

厚生労働省「労災保険給付の手続等」

(参考:厚生労働省「労災保険給付の手続等」)

労災申請は、従業員が、国(労基署)に対して行うもので、会社は、従業員の労災申請手続きに協力することになります。

具体的には、労災保険給付の請求書に事業主の証明欄があり、従業員による記載されている申請内容(特に災害の原因及び発生状況欄)が事実かどうかを会社にて確認し、事実が記載されていれば、その旨証明をして、請求書を従業員に交付して手続きを促すか、従業員の了解が得られれば、会社が当該従業員に代わって申請手続きを行うことになります。

これに対して客観的記録から災害の原因及び発生状況(長時間労働やハラスメント等)の事実が確認できない場合には、事業主証明を拒否することになりますが、従業員による申請行為を妨げることはできませんので、労災申請を控える言動は控えてください。

また、従業員との間で無用のトラブルを防ぐ観点から、証明できる記載欄は証明し(一部証明)、証明できない記載欄はその理由について丁寧に説明し、公的機関の判断を仰ぎたいことや、労基署による調査にはできる限り協力する旨説明して理解を促していただくとよいかと存じます。

従業員による労災申請がなされた後、労基署から会社に対して一定の事項について報告(使用者報告書)と関連資料の提出を求められますので、これに誠実に対応します。

また、必要に応じて会社関係者に対してヒアリングが実施されますので、これにも協力します。

3:労災への切り替え

先行して健康保険から受給を受けるときに労災認定がなされますと、当初に遡って労災保険から給付を受けることになる一方、健康保険では受給できなかったということになりますので、健康保険の保険者から、当該従業員に対して、自己負担以外の7割(現物給付)をしていた療養費用と傷病手当金を返還するように求められる場合があります。(ただし、受診した病院によっては健康保険から労災保険への切り替え処理ができる場合があり、その場合には、自己負担の3割につき返還がなされた上で、改めて当該病院を通じて労災請求手続を行うことになります。)

しかしながら、傷病手当金については、労災保険給付で一括して休業補償給付が支給されますので、ここから返還できますが、療養については病院による現物給付であるため、受診した病院で切り替え処理が行えない場合、健康保険の保険者と労災保険の保険者との間で調整を行う必要があり、かかる調整は、原則として当該労働者が一時的に健康保険の保険者にこれまでの自己負担以外の7割分をすべて返還した上で、労災保険の保険者である国(労基署)に自己負担3割分と合わせて10割の費用請求(療養の費用請求様式第7号)を行う必要があるとされています(昭和29年8月23日基災発第116号)。

そのため、受診した病院において健康保険から労災保険への切り替え処理ができないときは、原則としては、従業員が一時的に自己負担以外の7割部分を健康保険の保険者に返還した上で、労災保険の療養費用の請求を行う必要があります。

もっとも、長期療養となりますと、その費用が多額に及ぶ可能性があり、これを一括して支弁するとなると、ただでさえ療養により稼得を失っている従業員にとって過度な負担が生じるおそれがあります。

そこで、厚生労働省では、従業員(被保険者)にて自己負担以外の7割について返還することが難しい場合には、健康保険の保険者の同意が得られることを前提に、次の手続きを行うことにより、従業員の負担なく、健康保険から労災保険の切り替えを行うとされており(平成29年2月1日基補発0201第1号)、会社としてはかかる取扱いを当該従業員に説明していただくとよいかと存じます。

  1. 労基署に対して、医療費全額を負担(保険者に返還)せずに労災保険の療養費用を請求する意向(※)を申し出ていただく必要があります。
    ※この意向は、労災保険から直接健康保険の保険者に当該社員に係る保険給付の一部を振り込むことにより7割部分を保険者に返還する手続を行う意向、すなわち支払委任の意向となります。
  2. 上記の意向申出がなされますと、労基署は健康保険の保険者に連絡して、労災保険から直接振り込むことが可能か照会を行うことになります。 保険者の同意が得られた場合には、労基署は保険者から返還対象となるレセプトを取り寄せて労災保険から支給できる対象を検討した上で労災保険による支給見込み額及び支給期間等を健康保険の保険者に連絡します。
  3. その後、保険者にて返還額を確定して、当該社員に通知されることになります。(本手続きを利用するためには、健康保険の保険者の同意とレセプトを取り寄せる際の当該社員の同意が必要となる点にはご留意ください。)
  4. 当該社員は、健康保険の保険者から返還通知書等を受領した後、労基署に対して、療養費用の請求(様式7号)を行います。その際に、返還通知書及び健康保険者への支払委任状を添付します。また、上記の請求はあくまで健康保険の自己負担以外の7割部分の保険者間で調整するための手続きであり、自己負担の3割部分を請求する場合には(労災保険は自己負担なく100%給付されます)、別途療養費用の請求(このため、様式7号は2通準備する必要があります)を行う必要があります。
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退職した者やパート社員でも労災を受ける権利がある

会社側として気を付けなければいけないのは、従業員が退職した後も、労災を受ける権利があるということです。

労災保険法により、「保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない。」とされています(同法12条の5第1項)。

また、労働者であればアルバイトやパートタイマー等の雇用形態は関係なく、労災を受ける権利を持っています

そもそも、労災保険法施行規則では、「事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない。」とされています(同規則23条2項)。

会社側として、従業員が退職していることやアルバイト等であることを理由に労災申請に協力をしないことは、同規則に反するほか、対象従業員との間で信頼関係が悪化し、無用なトラブル・紛争が生じる可能性がありますので、注意が必要です。

まとめ

従業員からうつ病等の精神障害により労災申請したいとの意向が示された場合には、事実関係や企業側の対応によっては、賠償や裁判などのトラブルに発展しかねません。

うつ病等の労災申請事案が発生した場合には、企業法務専門の弁護士にご相談ください

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監修者
元労働基準監督官の経験と、社労士・労働安全衛生コンサルタント資格を併せ持つ多角的な視点で、労災対応から問題社員対応・退職勧奨まで、企業・法人の人事労務リスクを迅速に解決へ導きます。
弁護士事務所のプロフィールを見る
編集部

本記事は企業法務弁護士ナビを運営する株式会社アシロ編集部が企画・執筆いたしました。

※企業法務弁護士ナビに掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。

本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。

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