育成者権の侵害には注意 | 登録品種の保持者権利と正しい利用法について

専門家監修記事
育成者権が侵害されたときの対処法と侵害しないための注意点をご紹介します。育成者権の活用範囲について確認しておきたい場合はぜひ参考にしてみて下さい。
弁護士法人ネクスパート法律事務所
寺垣 俊介
監修記事
知的財産

育成者権(いくせいしゃけん)とは、 数えきれないほどの苦難を乗り越えて品種改良までたどり着いた農業者を守るための権利のことです。

例え悪気なく知らなかったとしても決して育成者権を侵害してよいものではありません。

当記事では、育成者権の登録者が持つ権利と侵害された際の対処法、逆侵害しないための注意点をご紹介しますので、育成者権に登録された改良品種について調べている場合は、ぜひ参考にしてみて下さい。

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育成者権の取得者が持つ権利

育成者権の取得者は登録品種を利用するための権限を独占しており、登録品種の利用承諾の判断や、無断での利用を罰することができます。

登録品種の販売や生産はもちろん、輸出輸入や譲渡をする際であっても必ず権利者に対して報告する義務があるので、育成者権の所有者は登録品種の商用利用をほぼ自分のみで管理ができることになります。

(育成者権の効力)

第二十条  育成者権者は、品種登録を受けている品種(以下「登録品種」という。)及び当該登録品種と特性により明確に区別されない品種を業として利用する権利を専有する。ただし、その育成者権について専用利用権を設定したときは、専用利用権者がこれらの品種を利用する権利を専有する範囲については、この限りでない。

引用元:種苗法第20条

ちなみに、この育成者権の権利期間は登録された時期により異なり、下記の期限を過ぎた際に育成者権の取得者はそれらの権利を失うことになっています。

  • 1978~1997年の時期:登録品種15年、永続樹木18年
  • 1998~2004年の時期:登録品種20年、永続樹木25年
  • 2005年以降の時期:登録品種25年、永続樹木30年

また登録品種に指定された改良品種は苗や種だけでなく加工物の状態であっても適応されるため、許可が取得された登録品種を何かしら商業利用したい場合は、ほぼ例外なく育成者権の取得者に申請が必要になると言えるでしょう。

育成者権を侵害されるケース

無断で海外に持ち出され違法栽培

育成者権の侵害でよくある事例が海外に無断で持ち出された登録品種を栽培され、それを海外から売りさばかれるというケースです。

この場合は海外に無断で持ち出し栽培した者はもちろんですが、その違法栽培された登録品種を受け取った者も育成者権侵害の対象とされます。

登録品種を元に新たな登録品種の開発

育成者権者から許可を取り登録品種を譲ってもらった場合であっても、その登録品種を元に新たな登録品種を開発する場合はその旨を伝える義務があります。

譲渡使用の許可を取ったからといって、育成者権者に無断で新たな登録品種の開発を進めてしまえば、その行為は育成者権の侵害と判断されるでしょう。

農林水産省例で指定された植物の無断自家増殖

育成者権者から正規に譲渡された登録品種に関して農家が自家増殖を行うのは自由ですが、農林水産省で指定された栄養繁殖をする植物に関しては例外となっています。

その例外の登録品種植物に関しては育成所有権の権利が及ぶ範囲内のため、自家栽培をする場合は権利保有者への許可が必要です。

育成者権を侵害した時の罰則

育成者権の侵害者に対する処罰は以下の通りです。

  • 個人:10年以下の懲役もしくは1000万以下の罰金または併科
  • 法人:3億円以下の罰金

第六十七条  育成者権又は専用利用権を侵害した者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。

第七十三条  法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して次の各号に掲げる規定の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人に対して当該各号に定める罰金刑を、その人に対して各本条の罰金刑を科する。

一  第六十七条又は第七十条第一項 三億円以下の罰金刑

引用元:種苗法

育成者権を侵害された場合の対処法

農研機構でDNA鑑定を行う

育成者権侵害は親告罪なので著作権侵害などと同じく、自ら告訴をしなければ警察は動いてくれません。

そのため、育成者権を保有している登録品種が不正利用されている疑いがある場合、まずは農研機構に報告しDND鑑定と栽培試験を依頼しましょう。

当事者間での話し合い

鑑定の結果、侵害されていると分かった場合は当事者間で話し合いでの解決、もしくは内容証明郵便で育成者権侵害の旨を通知し、不正利用中の登録品種の廃棄に裁判などの法的措置の検討を警告します。

そこで示談交渉から和解と進めば問題は解決ですが、侵害者が非を認めずに営業妨害を訴えたり、品種登録に対して異議を申し立てたりなど対抗策をとってくる可能性もあるかもしれません。

その際には侵害行為に対する情報収集と証拠が重要となってきますので、法律の素人だけで動かず、弁護士と相談して法的手段で慎重に対処していきましょう。

弁護士に相談・依頼

当事者同士での解決が困難な場合はまず弁護士に法律相談をお願いしましょう。

この際に自分が権利を侵害された旨を伝え今後の対策を検討していくことになります。

育成者権など知的財産権の所有者にはその権利侵害の防止や停止ができる差し止め請求権を行使する権利があるので、弁護士と話し合い依頼を決定した場合はその手続きを踏んでいく流れになるでしょう。

差し止め請求の申し立て

必要書類

  • 登録原簿及び公報等(権利関係の確認)
  • 侵害品又はその写真等(侵害の事実の確認)
  • 真正品又はカタログ等(識別方法の確認)
  • その他関係資料 (並行輸入関係の資料等)

差し止め請求の申請をする前に上記の書類を用意しておくと手続きがスムーズに進みます。

弁護士依頼でかかる費用

弁護士や権利侵害による被害請求額によって変わってきますが、弁護士の民事裁判報酬金の目安は30万円もしくは経済的利益の10%程度と、相談料と着手金の目安30~50万ほどが裁判に必要な費用となります。

差し止め請求の基本的な流れ

権利侵害を認めない侵害者と争う場合は、以下の流れで差し止め請求をする流れになります。

  1. 弁護士との協力で権利侵害を証明する
  2. 証拠の収集収集した証拠を元に裁判所に申立て
  3. 相手の言い分に対して再び反論書類の作成
  4. 裁判所の判決を得るか和解で決着

まとめ

基本的に育成者権に登録された品種を営利に使用する場合は必ず権利保有者に使用許可をもらうルールがあるので、故意でなくとも無断で利用すれば権利侵害行為とされるのでご注意ください。

この記事で育成者権が認知され登録品種開発者が権利侵害される機会が少しでも減れば幸いです。

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