企業が人材を雇用するときには、雇用契約書を締結することになります。
そこに記載する内容は企業によってさまざまですが、なんでも好き勝手に書いていいわけではありません。
必ず記載しないといけない事項が労働基準法第15条第1項ではこう定められています。
(労働条件の明示)
第十五条
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
引用元:労働基準法第十五条
つまり、書面にて最低限定められた事項の労働条件を明示しないといけないということです。
必ず書面にて明示しないといけない事項の他に、企業の就業規則で定められている事項があれば、その事項についても明示しないといけません。
ここではそういった記載事項について詳しく解説していくとともに、雇用契約書を用いる際の注意点について書いていきたいと思います。
雇用契約書に法律で明示が義務付けられている記載事項
労基法第15条に基づき、下記の6つの事項を必ず書面にて通知(明示)することが義務付けられています。
労働契約の期間に関する事項
労働期間の定めがあるかについてです。
基本的に正社員と呼ばれる人は雇用期間の定めはありませんが、契約・派遣社員やアルバイト・パートタイマーなどの雇用形態の人たちには期間の定めがあります。
また、まれに正社員の人にも雇用期間の定めがある場合があるのでしっかり確認しましょう。
有期労働契約を更新する場合の基準
派遣社員やパートなどで雇用期間に定めがある場合は、雇用契約の更新をするための基準・条件を記載しないといけません。
例えば、労働者の勤務態度や実績・能力、会社の経営状況などについてです。
仮に契約を更新しない場合(有期雇用契約が3回以上更新されているか、1年以上継続して雇用されている人だけに限る)、30日前までに予告しないといけません。
就業場所・従事する業務内容
勤務する場所(事業所など)と、働く内容(職種)についてです。
勤務地が本社なら本社と明記し、職種が運送業であればドライバーなどと明記しないといけません。
始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項
勤務の始まる時間と終わる時間について明確な時間を記載しないといけません。
しかし、職種によっては固定の時間が決まってないシフト制を採用していることもあります。
その場合はシフト制である旨明記しないといけません。
併せて、休憩時間や休日・休暇(年末年始等)の定めについても明記しないといけません。
賃金の決定、計算・支払の方法、賃金の締切り・支払の時期に関する事項
給与について金額はいくらなのか、またその金額の計算方法(月給・日給・時給)と支払い方法(手渡しか振り込みか)について記載する必要があります。
給与を計算するにあたっての締め日はいつか、その給与はいつ支払うのか(給料日)しっかり明記しないといけません。
例えば、銀行振込の場合に給料日が銀行の休日にあたってしまう場合は、その日の前の銀行営業日に振り込む等も記載してあるとよいでしょう。
ちなみに、指定した給料日より遅れてしまうと企業は遅延損害金を支払わないといけません。
退職に関する事項(解雇の事由を含む)
退職する際の申し出の方法(口頭・書面)、退職を希望する日の何日前までに申し出ないといけないか、また、解雇になる要件についても明示しないといけません。
企業の就業規則に解雇になる要件は定められているので、「就業規則の定めによる」と書かれることが多いです。
義務ではないが記載・明示した方がよい事項
以上が必ず書面にて明示しないといけない事項です。
これからお伝えする項目は義務ではないけど明示したほうがよい事項です。
昇給に関する事項
給与について昇給はあるのか。
ある場合はその基準や条件、時期について記載しましょう。
働く理由は給料を得るためという方が多いでしょう。
給与の昇給に関することははっきりさせておいたほうがよいでしょう。
退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払の方法、支払の時期に関する事項
退職金はあるのか、あるとしたら正社員までなのかなど。
金額の計算方法やその支払い方法や時期等、大体は給与と同じ方法にて支払われる場合が多いようです。
臨時に支払われる賃金、賞与などに関する事項
主に報奨金や賞与についてです。
勤務態度や能力・実績によって報奨金がある場合があるならその旨を記載した方がいいでしょう。
また、賞与はあるのか、あるのであれば年に何回支払いがあってその金額はいくらか。
年2回・基本給何ヶ月分と記載してある場合が多いようです。
労働者に負担させる食費、作業用品その他に関する事項
勤務中の昼食代の支給の有無、勤務するにあたって必要な道具や衣服などは支給なのか自己負担なのかについても明確にしておいたほうがよいです。
よく仕事で使うものなのに、どっちが費用の負担をするか曖昧なままで揉めるケースがあります。
安全・衛生に関する事項
労基法及び労働安全衛生法に基づき、企業は従業員の安全の確保や衛生管理のための就業規則を定めないといけません。
例えば、就業前に機材の点検等をすることや健康診断を年に1回受診することを義務付けるなどと言ったことがあります。
災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
労働者が業務上で負った災害に対し、企業が療養・傷害・休業・遺族補償等を行わないといけない事項です。
よく聞く『労災』とはこのことを指します。
表彰、制裁に関する事項
就業規則に表彰制度について決まりがある場合はその要件を明示しましょう。
例えば、企業への貢献度、勤続年数、社会的な功績をあげたらといったことがあります。
逆に、制裁の対象になる要件も明示しましょう。
休職に関する事項
産休や育休といった制度がある場合も明示しましょう。
有期雇用契約(パートタイマー)の場合に記載(明示)が義務となっている事項
これまであげた事項はどの雇用形態にも当てはまる事項でしたが、アルバイトやパートタイマーなどの有期雇用契約に対しては下記の事項の明示が義務になってきます。
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 相談窓口について
雇用契約書を作成・締結する上での注意点
雇用契約書を作成(労働条件の明示)する際の注意点として、以下の2点について気をつけましょう。
就業規則に則った記載事項を乗せる
小規模(従業員が10人以下)の企業を除いて、どの企業にも就業規則はあります。
その中に労働条件も定めているはず。
その条件に沿った契約書を作成しないと、後に契約書の内容と就業規則の内容が違っているとトラブルになります。
労働契約法第12条(就業規則違反の労働契約)には就業規則の条件を下回る労働契約はその部分は無効にできるとしています。
『就業規則>雇用契約書』ということになります。
ですから、必ず就業規則と雇用契約書の内容は統一しましょう。
控えは必ず渡そう
雇用契約書を交わす際には必ず控えを渡しましょう。
お互いにいつでも内容を確認できる状態にしておくことで不必要なトラブルは避けることができます。
まとめ
法律で義務付けられている事項、義務ではないが明示するべき事項についてお分かりいただけたかと思います。
今一度雇用契約書を確認してみましょう。