J-SOXはすべての上場企業が対象となりますが、子会社や関連会社などがある場合は、それらについても対応する必要があります。また企業状況ごとに評価項目の範囲は異なるため、「自社はどこまで対応するべきか」についても把握しておく必要があるでしょう。
この記事では、J-SOXにおいて評価の対象となる企業や項目などについて解説します。
J-SOXの対象となる企業
J-SOXにおいては、すべての上場企業が評価対象となります。
また財務報告が連結ベースで行われることから、J-SOXにおいても連結ベースが適用されており、自社以外についても以下の場合は評価を行う必要があります。ここでは、J-SOXの評価対象となる企業について解説します。
- 子会社
- 関連会社
- 在外子会社
- 外部委託先
子会社
例として、上場企業であるA社が非上場企業であるB社と連結している場合、A社は子会社であるB社についても評価を行います。この時、B社は自社について評価を行う必要はありません。
ただし、B社も上場している場合は、A社B社ともにB社について評価を行う必要があります。
また、B社にて「内部統制報告書」の作成や監査が済んでいる場合は、その書類を活用することもできます。
関連会社
関連会社についても評価を行います。「子会社」のケースと同様、関連会社にて「内部統制報告書」の作成や監査が済んでいる場合は、その書類を活用することもできます。
ただし関連会社については、他の支配株主や役員の派遣・兼任に関する状況なども影響するため、なかには評価が行えないこともあります。その際は、関連会社に対して質問書を送付したりヒアリングを実施したりするなど、ケースごとに合った方法で評価しましょう。
在外子会社
海外にある子会社についても評価しなければなりません。
ただし、子会社の所在国にてJ-SOXのような制度がある場合は、その制度を活用することもできます。また、所在国に制度が存在しない場合でも、第三国の制度を活用することもできます。
外部委託先
なかには、財務諸表の作成にかかる取引の承認や計算、開示事項に関する作成業務などを外部に委託するケースも考えられます。そのような、企業にとって重要な業務プロセスを外部が担当している場合などは、外部委託先についても評価を行う必要があります。
J-SOXの対象となる項目
J-SOXでは「財務報告にかかる内部統制」が評価対象となりますが、評価対象となる内部統制は以下の3つに大きく分類されます。ここでは、J-SOXで評価対象となる項目を解説します。
- 全社的な内部統制
- 業務プロセスにかかる内部統制(決算や財務報告など)
- 業務プロセスにかかる内部統制(その他)
全社的な内部統制
全社的な内部統制では、原則すべての事業拠点に関して全社的な観点から評価を行う必要があります。評価項目については金融庁HPの「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」にて例示されており、以下6つの視点から行うのが通常です。
- 統制環境…財務報告における基本方針の明確化、財務経理部門における要員の十分性など
- リスクの評価と対応…リスクの重要性に関する評価基準、不法・違法行為に関する指導や未然防止手続きなど
- 統制活動…業務ごとの手続きに関する承認・検証・記録、財務報告の作成にかかる職務分担・分離など
- 情報と伝達…報告体制の適時性、内部通報制度の設置など
- モニタリング…内部監査部門による独立した視点からの監査の実施、発見された不備と原因除去のための是正措置など
- ITへの対応…ITに関する適切な戦略・計画の存在、ITに関する方針や手続きなど
なお、全体の売上高の95%に入らないような、財務報告にかかる影響が小さい事業拠点は対象外とすることもできます。ただし判断時は、経営者の独断ではなく監査人と協議を行うなどして、それぞれの事業内容などを踏まえた上でケースごとに行うのが適切でしょう。
業務プロセスにかかる内部統制(決算や財務報告など)
決算・財務報告に関する業務プロセスでは、「全社的な内部統制」に則って、原則すべての事業拠点に関して評価を行う必要があります。評価項目としては、主に外部公表用の有価証券報告書の作成に関する一連の過程が対象となります。
また「全社的な内部統制」のケースと同様に、財務報告にかかる影響が小さい事業拠点に関する事項については、対象外とすることも可能です。
業務プロセスにかかる内部統制(その他)
決算・財務報告以外の業務プロセスは、さらに以下2つに細分化され、それぞれ評価項目が異なります。
- 重要な事業拠点において、事業目的と関係性の大きい勘定科目に至る業務プロセス
- 重要な事業拠点であるか否かに関わらず、財務報告にかかる影響を考慮した上で重要度が大きい業務プロセス
重要な事業拠点において事業目的と関係性の大きい業務プロセス
まずは前提として、売上高などをもとに「重要な事業拠点」の範囲を定める必要があります。
一般的には、売上高の高い順に事業拠点ごと(本社含む)の金額を足していき、連結ベースの売上高のうち3分の2を越えるまでの事業拠点についてを「重要な事業拠点」と判断します。
ただし、なかには「連結ベースの売上高のうち2分の1を超えるまで」というケースや、「該当事業拠点について、前年度の内部統制の評価結果が有効であるため、評価範囲外として扱う」というケースなど、企業状況によっては例外となることもあります。
上記にて「重要な事業拠点」と判断したものについては、原則として売掛金・売上・棚卸資産などに至る業務プロセスが評価対象となります。また棚卸資産に至る業務プロセスについては、販売・在庫管理・購入などの業務プロセスも関与してきますが、これらの評価範囲については企業ごとに適切に判断する必要があります。
なお、事業拠点における重要な事業・業務との関連性が低い場合や、財務報告にかかる影響が小さい場合などは、評価対象外となることもあります。
重要な事業拠点であるか否かに関わらず重要度が大きい業務プロセス
重要な事業拠点であるか否かに関わらず、重要度が大きい業務プロセスについては、それぞれ個別に評価対象として追加します。その際、以下の視点から選定するのが通常です。
- リスクが大きくかかる取引を行っている事業または業務にかかる業務
- 見積り・経営者による予測などに付随する重要な勘定科目にかかる業務
- 非定型・不規則な取引のように虚偽記載が発生するリスクが高いものとして、とりわけ留意するべき業務
なお評価範囲については、事業・業務全体というケース以外にも、特定取引や特定の主要な業務プロセスのみに絞られるケースもあります。
J-SOXについて弁護士に相談するメリット
J-SOXに関しては「整備さえできていればよい」というわけではなく、企業状況に応じて確実に運用できるよう、不備なく対応することが必要です。自力で行うには時間・手間がかかる上、不備があった場合は社会的信用も大きく失ってしまう可能性もあります。
弁護士であれば、J-SOXの対応に関するアドバイス・サポートが望めるため、自力で対応するよりもスムーズな進行が望めます。特に「自社において評価の対象となる範囲はどこまでか」「J-SOXの対応にかかる手間・時間を解消したい」と考えている場合は、弁護士に相談するとよいでしょう。
まとめ
J-SOXでは上場企業だけでなく、子会社・関連会社・在外子会社・外部委託先などについても評価を行う必要があります。また評価項目としては、全社的な内部統制や業務プロセスにかかる内部統制(決算や財務報告、その他)などがありますが、項目の詳細は企業ごとの状況によって異なります。
自力で対応することも可能ではありますが、なかには自力で対応範囲を判断することが困難なケースもあります。またJ-SOXにおいては、業務プロセスの文書化などの手続きも必要であるため、作業量が膨大になるケースもあります。
特に自力で対応することに不安がある場合は、弁護士にサポートを依頼するとよいでしょう。