会社を経営していると、業績が傾き、従業員をリストラさせざるを得ない状況が生まれることもあります。ただ、リストラは方法や進め方を誤れば「不正解雇」や「退職強要」の問題として争われる可能性があります。
ここでは、会社におけるリストラの種類や進め方、行う前に確認しておくとよいポイントを詳しくご紹介します。しっかりと手順を踏んで、従業員にも納得してもらえるリストラを実現しましょう。
2つのリストラ方法について
従業員にリストラを進める方法は、大きくわけて2つ存在します。
- 対象となる従業員に対して、個別に退職勧奨するリストラ方法
- 希望退職者を募って行うリストラ方法
双方にメリットやデメリットがあり、その特徴を整理しておく必要があります。それでは、リストラの種類について詳しく解説していきます。
個別に退職勧奨するリストラとは?
個別に退職勧奨をするリストラとは、対象となる従業員に対して個別に退職してもらえないか説得する方法です。
そもそも退職勧奨とは、会社から従業員に「自主退職」をお願いすることを言います。ストレートに退職を促す場合もありますが、行き過ぎた勧奨は『退職強要』になりますので、注意が必要です。
従業員が納得いくように、退職金の割増や特別手当の支給などメリットを説明した上で、検討してもらうことが大切です。
個別に退職勧奨するリストラを行うメリット
この方法のメリットですが、希望退職者を募るリストラ方法よりも、少ない労力で実行できる点にあります。
対象の従業員と個別に話を進めるため、社内でリストラについて話をする必要がないため、従業員全員に『リストラ』という不安を与えることがありません。
個別に退職勧奨するリストラを行うデメリット
一方、デメリットですが退職勧奨によるリストラは、当然従業員から承諾を得られるとは限らない点です。退職勧奨はあくまで従業員の任意退職を求めるものですので、相手が応じない場合は退職には至りません。
そのほか、個別にリストラを進める方法は、万が一その従業員からリストラ話しが流出すると、リストラを秘密裏に進めているとして、会社のイメージが悪化することも考えられるでしょう。
希望退職者募集によるリストラ
希望退職者募集によるリストラは文字通り、退職希望者を募りそれに応じて退職者を決める方法です。この方法は、労働者側からは自発的な退職の申し入れを募る方法であるため、退職勧奨よりも更にリスクは低いといえます。
希望退職者を募るリストラのデメリット
希望退職を募るデメリットは、会社にとってやめてほしくない人材も退職してしまう可能性があるということです。
このような事態を回避するため、希望退職制度の利用対象者を限定したり、個別面談による会社の許可制にしたりという方法があり得ます。
個別に退職勧奨するリストラの進め方
ここでは、先程ご紹介した2つのリストラ方法の種類のうち、「個別に退職勧奨をするリストラ」の進め方をご紹介します。
1:リストラの方針等を社内検討する
リストラを始めるにあたっては、会社でリストラの目的・目標を明確にすることが大切です。具体的には、リストラを行う理由を明確にした上で、リストラにより実現するコストカットの幅を決めましょう。
これに基づいてどのように目標を実現するかの具体的手段を検討するのが適切です。
2:対象の従業員と面談を実施
まずは対象の従業員と面談を行います。面談を行う際には、会社の会議室や個室など、ほかの従業員の目も考慮して、時間帯や場所を工夫しましょう。
時間帯や場所については、事前に社内で検討して、対象の従業員に告知をします。
3:退職して欲しい意向を伝える
従業員との面談となったら、従業員に退職してほしい意向を伝えます。退職してほしい意向を伝えるときのポイントは以下の通りです。
①退職勧奨の理由を説明する
退職勧奨を行う理由を説明します。具体的には当初経営側で検討したリストラの理由を説明することになるでしょう。また、これに加えて何故その労働者に退職を求めるのかも説明することになります。
退職勧奨はあくまで自主退職を促すもので、法的には全く問題のない行為です。しかし、勧奨を受けた従業員は相当にショックを受けるものですので、相手の心情に配慮しながら丁寧に説明する必要があります。
②人員削減以外に行った努力も説明する
どの会社でも人員削減は、最終手段です。人員削減に至るまでに行なった対策を丁寧に説明しましょう。具体的には
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このような改善策を施しても、どうしても人件費を削減しなければならない経緯について具体的に説明すると良いでしょう。
③会社として退職して欲しい意向を伝える
などと、きちんと意向を伝えましょう。ここで重要なことは、退職勧奨が経営者個人による判断ではなく、協議した上の判断であることを示すことです。
④従業員の意見や質問に丁寧に対応する
従業員に退職をお願いする経緯や状況を丁寧に伝えても「なぜ私が退職をしなければいけないのか」と質問や意見が返ってくることも想定されます。
このような場合も相手の心情に配慮しながら、丁寧に説明することが大切です。場合によっては会社が退職勧奨を求める理由を書面で示すこともあり得るでしょう。
⑤従業員に納得してもらえるような処遇を提示する
会社側の都合で退職を促す場合は、従業員から納得を得られない場合も多いことが想定されます。そのような場合に、納得してもらえるような処遇を提示することも重要です。たとえば、
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退職の意向に合意して頂いた場合、給与の6ヶ月分を支給させて頂きます
など、従業員の退職後の負担を軽減する処遇を示しましょう。
4:雇用関係終了の合意書を交わす
従業員への退職勧奨の結果、退職時期や金銭面での処遇について合意を得られた場合には、きちんと「雇用契約終了についての合意書」を交わしましょう。
雇用契約が終了する期間や、金銭的な取り決めを記載し、会社と従業員が捺印します。このように従業員と合意書を交わすことで、後々退職を巡るトラブルに発展することを避けられます。
書類の作成は、とても重要ですので、弁護士に作成依頼することをおすすめします。
希望退職者募集によるリストラの進め方
次に希望退職者によるリストラの進め方をご説明していきます。
1:希望退職者の募集の内容を決定する
まず希望退職者をどのような条件で募集するのかを経営者や会社の役員等で話し合います。その中でもとくに重要な点は、「金銭的な条件」と「退職予定日」です。具体的にみていきましょう。
①金銭的な条件
退職金は、個人にリストラ勧奨する際と同様で、退職希望者が会社を退職し、次の職に就くまでの3ヶ月〜6ヶ月分の金銭を支給することが一般的です。
②退職予定日
金銭的な条件のほかに、「退職予定日」についても検討する必要があります。退職予定日をあまり近い日付にすると、会社の不採算部門について、経営悪化について、十分な説明を行えません。
該当従業員の退職に向けて丁寧な説明をするためにも、「早期退職希望者募集」を発表した日の少なくても、半年先に設定すると良いでしょう。
③希望退職者の対象
希望退職者の募集で重要になるのが、その対象者です。ほとんどの場合、「60歳以上の従業員」や「〇〇部門に所属する従業員」と社内での範囲を決めて行われます。
2:面談の進め方を社内検討する
希望退職者募集によるリストラでは、必須ではありませんが希望者に対して個別に面談を実施するのが通常です。
希望退職者との面談は、非常に大きな労力がかかりますので、事前に面談の進め方を慎重に検討するだけでなく、必要な人員も決定しておきましょう。
3:希望退職者の募集を社内発表する
面談の進め方を決定した後は、希望退職者の募集を社内発表します。希望退職者の社内発表の際は、以下の点を踏まえて行うようにしましょう。
①希望退職制度の利用について会社の承認を必要とすること
希望退職者の募集を行う場合、上記のとおり、会社にとっては辞めて欲しくない従業員が退職してしまうリスクがあります。
そのような場合には、希望退職者の募集条件に合致する者でも、会社が承認しない場合には、希望退職制度を利用できない旨を従業員に説明、または明記しておきましょう。
そうすることによって、やめてほしくない従業員を会社にとどめることが可能です。
②希望退職応募者が募集人員に到達した場合は応募を締め切る
希望退職者を募集する際は、募集期間を設定します。同時に募集人員も設定する必要があります。
これらを設定しないと、より多くの希望退職者が応募する可能性もあり、経営に大きな支障が生じます。また、募集期間内であっても募集人員に到達した場合には、募集を締め切ることも合わせて明記してください。
4:対象者との面談
繰り返しお伝えしておりますが、希望退職者を募るリストラの場合には、退職を希望する従業員と個別に面談することもあり得る対応です。
例えば、希望退職にあたってやめてほしくない従業員に退職を思いとどまってもらうために個別面談をするということもあります。
リストラを行う前に確認すべきポイント
ここでは、リストラを行う前に確認しておかなくてはならないポイントについて明記していきます。
解雇予告を行うこと
従業員を解雇する場合は、労働基準法第20条によって、解雇予告を行うことが義務づけられています。
<労働基準法第20条 解雇の予告>
使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
これらの解雇予告の法令をしっかりと確認しておく必要があります。
解雇理由が正当であること
従業員を解雇する場合には、正当な理由が必要です。また、人員削減の必要性などの会社都合による解雇については、従業員に落ち度がないため、その有効性についてはより厳格な判断となります。
通常は、就業規則に解雇事由があってそれに該当し、当該事由により雇用継続が客観的に困難と認められるような場合に正当な理由が認められます。この点は個別判断となりますので、事案に応じて慎重に検討しましょう。
リストラ後の人員配置について
従業員を削減する場合には、人員削減後の人員配置についても事前に検討しておく必要があります。削減前の業務を削減後の人員のままで行うことは困難です。
リストラ後にどのような人員配置が望ましいのか、事前に配置表や組織表を見直しましょう。
新規採用を停止し派遣契約を打ち切る
従業員の人員削減を行う場合に、必ず検討しなければならないのは「新規採用の停止」と「派遣社員の契約の打ち切り」です。
また、契約社員がいる場合には「契約社員の雇い止め」を行う必要があります。もちろん、これらの対応は必須ではありませんが、新規採用を打ち切らず、人員削減をするということは、社内から理解を得られず、その後の運営にも関わります。
企業のリストラは労務問題に詳しい弁護士事務所へ相談しよう
個別に退職勧奨をするリストラ、退職希望者を募るリストラの方法をご紹介してきましたが、どちらの方法を選択するにしても、法的リスクが伴います。
退職勧奨でいえば、必要以上の退職勧奨は「退職強要」につながりますし、退職希望者を募集するリストラに関しても、新規募集の停止などその手順を誤ると会社のイメージを損なう結果に発展しかねません。
このような法的リスクを最小限に回避するためにも、労務問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ
会社経営において、やむを得ず人員削減を行う場合には、労働基準法や就業規則に則り、事前準備をしっかりとした上で、手続きをすすめてください。
また繰り返しになりますが、手続きにあたっては、労務問題に詳しい弁護士とも慎重に検討の上、実施されることをおすすめ致します。
従業員が納得しないまま、リストラを進めてしまうと、リストラ後に「不正解雇」などの理由で訴えられる可能性があります。そのためにも弁護士への相談は必須です。どのような弁護士選べばいいのか、どのようなことを相談できるのかについてご紹介します。
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