デューデリジェンス(Due Diligence)とは、M&A(企業買収)や出資その他の企業間取引などを行う際に、対象会社の価値やリスクを調査・査定する作業のことです。
数十億円を超える場合もあるなど、極めて大きな金額に及ぶ企業買収では、失敗が許されません。取引前に対象会社の内情について把握する調査は、企業間取引において欠かせない重要なものです。
この記事では、デューデリジェンスの種類や手続きの流れなどをご紹介します。M&Aなど企業買収や出資をすることを検討されている場合は、参考にしてみてください。
デューデリジェンスの目的
デューデリジェンスは、検討している企業買収や出資などの企業間取引のリスクや、対象会社の価値などを確認するために行う手続です。
企業買収や出資(M&A)を行うことを考えている対象会社が未開示にしている情報はないか、対象会社の業務内容や資金調達に不正その他の問題はないかなど、できる限りリスクを事前に洗い出します。
それらは、
- 取引をしても問題がないか
- リスクに応じて買収金額や出資金額をいくらにすべきなのか
- 契約書でどのようにリスクをカバーするか検討
などの目的で実施されます。
企業買収や出資のような重要な取引の際には、弁護士などの専門家にデューデリジェンスを依頼するのが一般的です。
デューデリジェンスの主な種類5つを解説
デューデリジェンスでは、取引の対象会社をさまざまな観点から調査・査定します。
デューデリジェンスの種類としては、
- ビジネスデューデリジェンス
- 財務デューデリジェンス
- 法務デューデリジェンス
- 人事デューデリジェンス
- 税務デューデリジェンス
- ITデューデリジェンス
- 環境デューデリジェンス
などがありますが、ここでは、デューデリジェンスのなかでも代表的なものを5つご紹介します。
代表的なデューデリジェンスの種類 |
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財務デューデリジェンス
財務デューデリジェンスとは、対象会社の決算の財務諸表などから業績の推移や収益性、資金繰り、資産などを調査する手続きです。
対象会社が保有する土地建物や株式などの資産状況や借入れや保証などの債務や、将来の業績予想、業績悪化のリスク、隠れた債務の有無など、対象企業の価値やM&A取引のリスクを把握するため、特に重要な判断材料となる要素を調査します。
法務デューデリジェンス
法務デューデリジェンスとは、対象会社の社内規程や組織関係書類、許認可関係書類、各種契約書、知的財産権の内容などを確認することにより、法律的に問題がないか、対象会社に関連する権利義務関係(第三者や従業員との契約関係や損害賠償請求を受けるリスクなどを含む)を確認する手続きです。
取引先の企業から訴えられる可能性があったり、法令を無視した企業活動を行っている場合のほか、大きな負担や義務を伴う契約を締結していたりする場合、後にこれらの問題が発覚することで思わぬ不利益が生じる可能性も否定できません。
そのため、特に法務デューデリジェンスにおいて念入りな調査が必要となります。
人事デューデリジェンス
人事デューデリジェンスとは、従業員の給与・待遇等や労働環境、人事評価の仕組みなど人事制度の運用等を調査する手続きです。
従業員は会社の資産といえ、特に優秀な従業員が退職してしまうことやモチベーションが低下してしまうことは大きなリスクとなります。そのため、事前に対象会社の労働環境などを把握しておくことは重要であるといえます。
税務デューデリジェンス
税務デューデリジェンスとは、対象会社が法人税や消費税の納税その他の処理を適切に行っているかどうかなどを確認し、納税処理の申告漏れや誤りがないかを調査する手続きです。
万が一、後に納税の申告漏れや脱税が発覚してしまった場合、後から追徴課税等が課される可能性もあることから、十分な注意が必要になるでしょう。
ITデューデリジェンス
ITデューデリジェンスとは、業務処理のシステムや顧客・財務会計の管理システムなど、経営に大きな影響がある情報システムの問題点及びその影響を調査する手続きです。
金融業など、ITがビジネスを直接支えているような業態の場合には、ITデューデリジェンスが重要となることは言うまでもありません。
また、対象会社のシステムの仕様が古いために、合併後に顧客データを統合するのに新しいシステム開発が必要になるような場合にも、これに対する事前の備えが必要となります。
デューデリジェンス手続きの流れ
デューデリジェンスの手続きの流れは、以下の通りです。
デューデリジェンスの手続きの流れ |
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依頼する専門家との間で、調査事項の範囲や進め方について打ち合わせをした後は、専門家にその後の手続きを一任する場合もありますが、適宜情報交換しながら進めるべきです。
実施をするタイミング
デューデリジェンスは、買収する対象会社との間で基本合意書を結んだ後に実施するケースが多いかと思われます。デューデリジェンスの実施には多くの時間や費用がかかるため、できるだけ取引成立の可能性が高まったタイミングで行ったほうがよいといえます。
他方で、対象会社が複数の候補を前提として入札形式で売却先を決定しようとしている場合に、入札の可否・入札額を決定するための簡易的なデューデリジェンスを実施する場合もあります。その場合には、対象会社サイドで入札資料を作るために、売り手としてのデューディリジェンス(セラー・デューデリ)を行うこともあります。
弁護士などの専門家に相談した上で、どのように対応するのがベストなのかを判断することをおすすめします。
必要になる期間の目安
デューデリジェンスの期間は、対象会社の規模や種類のほか、調査の範囲・深度などによって変わりますが、1~2ヶ月程度かかることもあります。
一部の分野の調査をカットすることで期間を短縮することも可能となる場合もありますが、後々に問題が発生するリスクの回避を重視するためには、そのような対処は避けたほうがよいでしょう。
デューデリジェンスの費用
デューデリジェンスに必要な費用についても、対象会社の規模や種類のほか、調査の範囲・深度・報告書の記載方法などによって変わります。中小企業同士のM&Aでも、数十万〜数百万円が必要になる場合があります。大企業が対象会社の案件では、数千万円になる場合もあります。
デューデリジェンスを受ける側の注意点
デューデリジェンスを受ける側(対象会社)の注意点を2つご紹介します。
デューデリジェンスを受ける場合の注意点 |
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会社を不当に良く見せようとするのはNG
デューデリジェンスは、適切な企業間取引を行う目的で実施される手続きです。
特に、取引をすることにより生じ得るリスクをできる限り避けることが最も重要なポイントになるので、開示すべき情報を隠して会社を良く見せようとした結果、後にそれが判明することによって、大きなトラブルや補償義務が生じることは避けなければなりません。
デューデリジェンスは売却価格を引き上げることを目的とした手続きではありません。リスクを隠しても、取引後に発覚すれば大きな問題になりますので、取り繕うことが必ずしも会社の利益になるとは限らないということには注意が必要です。
デューデリジェンスにおいて開示すべき資料は、弁護士などの専門家にも相談した上で決定することが必要となります。会社のコア技術に関する資料など秘密性の高い資料については、流出や目的外利用のリスクを避けるため、取引成立が確実になってから開示すべきです。
また、個人情報や守秘義務を負っている契約書などについては、開示の可否、タイミング、方法等について慎重に検討すべきです。
社内に公表するタイミング・内容に配慮が必要
会社を売却する手続きを進めていることが従業員に知られてしまうと、会社に対する不信感やモチベーションの低下を引き起こしてしまい、最悪の場合には退職を誘発するおそれもあります。
このような事態を避けるためにも、どの段階でどのような情報を社内に公表するのかについて、慎重な検討が必要となります。デューデリジェンスの開始前に公表しない場合は、従業員に秘密にした形でデューデリジェンスを進めることになります。
この点についても、弁護士などの専門家に相談した上で決定することが必要となります。
まとめ
デューデリジェンスは、M&A取引において必要不可欠な重要な手続きです。
買収する対象会社の内情を把握することで、取引後に思わぬトラブルが生じるリスクを回避することができます。
取引を成功させるには周到な事前準備が必要不可欠です。弁護士や税理士などの専門家に相談し、慎重に取引に臨むようにしてください。