【弁護士監修】事業譲渡契約書を作成する際のポイントと契約書の実例を紹介

専門家監修記事
事業譲渡を行う場合、譲渡事業や対価など、さまざまな項目を決定する必要があるため、契約書を作成するのが一般的です。この記事では、事業譲渡に必要な契約書を作成する際のポイントを解説します。
ベンチャーラボ法律事務所
淵邊 善彦
監修記事
取引・契約

事業譲渡を行う場合、

  • 「どの事業を譲渡するのか」
  • 「どれほどの対価を支払うのか」
  • 「義務違反があった場合はどのような対応をするのか」など

さまざまな項目について決定する必要があります。

契約書を作成しておくことで、約束どおり財産が移転されなかった場合や、対価が支払われなかった場合など、トラブルが発生したときにも速やかに対応することができます。ただし契約書の作成にあたっては、何点か押さえておくべきポイントがあるため、手続きを行う前に知っておきましょう。

この記事では、事業譲渡に必要な契約書を作成する際のポイントや契約書の実例、雛形利用時の注意点や弁護士に依頼するメリットなどを解説します。

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事業譲渡契約書の雛形はネットにあるものをそのまま利用するとトラブルになる可能性がある

インターネット上には、契約書の雛形を掲載しているサイトも存在します。

 

雛形を利用することで手軽に契約書が作成できるというメリットはありますが、自社に有利にであるとは限らない、案件に応じた個別の事情まではカバーしきれないなどというデメリットもあるため、注意が必要です。また雛形の契約条項のうち、自社が対応していない義務や表明保証が含まれていた場合などは、契約違反になるという危険性も考えられます。

 

トラブルやリスクを回避するためにも、雛形を利用する際は参考程度にとどめておき、それぞれの契約内容に合った契約書を作成したほうがよいでしょう。

事業譲渡に必要な契約書を作成する際の6つのポイント

ここでは、事業譲渡に必要な契約書を作成する際のポイントを解説します。

譲渡する事業・財産を明記する

まずは、「どの事業・財産をどれだけ譲渡するのか」を明記します。契約書は、当事者だけでなく、紛争になったときは裁判所に提出することになるため、具体的にどの事業・財産を指しているのか第三者が見ても理解できるよう、特定しておく必要があります。

対価を明記する

事業譲渡は、無償で行われるケースもありますが、現金と引き換えに有償で行われるケースがほとんどです。その場合「いくら支払うのか」という確定金額だけでなく、「一括払いまたは分割払いなのか、銀行振込または小切手振出なのか」など、支払い方法についても明記しておくべきです。案件によっては、事後的な対価の調整について規定することもあります。

従業員の取り扱いを明記する

事業譲渡を行う場合、従業員との契約は自動的に引き継がれないため、一人ひとりと契約を結び直す必要があります。「事業譲渡後、どのような契約の下で従業員を取り扱うのか」「必ず移転してもらいたいキーパーソンはいるか」という点もポイントです。

表明保証を締結する

表明保証とは、「事業譲渡の対象に関する契約内容や財務内容などについて表明した内容が真実である」と約束することを指します。もし表明内容と異なっていた場合は事業譲渡を実行しないことや補償(損害賠償)を請求することを規定し、譲受人を保護することもできるため、より安全に事業譲渡を行いたいという場合は締結しておくことをおすすめします。

補償内容を決定する

表明保証を締結していたにもかかわらず違反した場合、どれだけの金銭的補償を行うかについても決定しておくべきでしょう。違反内容に応じて、レベルごとに補償内容を定め、請求できる期間や金額に制限を設けるのが一般的です。

解除条件を決定する

重大な契約違反が確認された場合や倒産手続きが開始された場合など、事業譲渡手続きが実行しないこともあり得ます。「どのような行為・事実が確認された場合、実行されないのか」などの前提条件についても、あらかじめ取り決めておいたほうが安心でしょう。

【関連記事】事業譲渡と会社分割の違い|メリット・デメリットや判断基準を解説

【参考】事業譲渡契約書の記載内容やひな形使用時の注意点、印紙代について解説

事業譲渡契約書の実例

一例として、事業譲渡を行う際は以下のような契約書が交わされます。

事 業 譲 渡 契 約 書

 

株式会社○○○○(以下、「甲」という。)及び株式会社△△△△(以下、「乙」という。)は、甲の事業の一部を乙に譲渡することに関し、以下のとおり事業譲渡契約(以下、「本契約」という。)を締結する。

 

第 1 条 (事業譲渡)

甲は、本契約に定める条項に従い、令和XX年 X 月 XX 日(以下「譲渡日」という)をもって、●●●●●事業(以下「本件事業」という)を乙に譲渡し、乙はこれを譲り受ける(以下「本事業譲渡」という)。

 

第 2 条 (譲渡資産)

1. 本事業譲渡に伴い、甲が乙に譲渡する資産(以下「譲渡資産」という。)は、譲渡日現在における本件事業に係る別紙記載の物件とする。

2.   本事業譲渡に関して、乙は甲の負債を一切承継しないものとする。

3. 甲は乙に対し、譲渡日において、本件事業に関わる営業上の秘密、ノウハウ、顧客情報、営業手法など乙が必要又は有益と認めるすべての情報を譲渡する。

 

第 3 条 (事業譲渡の対価及び支払方法)

1. 本事業譲渡の対価は、金●●●●●●●円(消費税別)とする。

2. 乙は、譲渡日に、第 9 条に定める各事項が成就していることを条件とし、かつ譲渡資産の引渡と引き換えに、本事業譲渡の対価を、別途甲が指定する銀行口座に振り込む方法により支払うものとする。振込にかかる手数料は乙の負担とする。

 

第 4 条 (譲渡日の変更)

譲渡日は、手続き上の事由、その他必要がある時は、甲乙協議の上、変更することができる。

 

第 5 条 (譲渡資産の引渡し)

1. 甲は、譲渡日に、第 9 条に定める各事項が成就していることを条件とし、かつ本事業譲渡の対価全額の支払いと引き換えに、甲の費用負担の下に、譲渡資産を乙に引渡すものとする。

2. 前項に基づく譲渡資産の引渡しにより、当該引渡しの時点で、譲渡資産に係る甲の全ての権利、権限、及び地位が乙に譲渡され、移転するものとする。

 

第 6 条 (甲の善管注意義務・乙の協力義務)

1. 甲は、本契約締結日以後譲渡日までの間、以下の各事項を遵守するものとする。

 (1) 善良な管理者としての注意義務をもって譲渡資産を管理すること。

 (2) 譲渡資産中、名義変更が必要なものの名義の変更手続きを、甲の費用負担の下に行うこと。

 (3) 譲渡資産中、本件事業に関する契約上の甲の地位について、甲と当該契約を締結している第三者から乙への移転についての承諾書面の取得を、甲の費用負担の下に行うこと。

2. 乙は、甲が前項第 2 号及び第 3 号に定める義務を履行するにあたり、協力するものとする。

 

第 7 条 (競業避止義務)

甲は、乙が別途合意する場合を除き、譲渡日から●年間、本件事業と競合する内容の事業を行わないものとする。

 

第 8 条 (表明・保証)

1. 甲は、以下の各事項が、本契約締結日及び譲渡日において真実かつ正確であることを表明し、保証する。

 (1) 甲は、本契約の締結及び履行につき、法令、及び定款その他の社内規則上必要とされる一切の手続(ただし、株主総会の承認決議を除く。)を完了している。

 (2) 甲による本契約の締結又はその履行は、法令もしくは定款その他の社内規則又は甲を当事者とする第三者との契約に違反するものではない。

 (3) 本契約、本事業譲渡又は譲渡資産に悪影響を与えるおそれのある係属中の訴訟、調停、仲裁その他の司法手続は存在せず、かつ発生するおそれもない。

 (4) 譲渡資産について、契約不適合及び担保権等の負担は存在しない。

2. 乙は、以下の各事項が、本契約締結日及び譲渡日において真実かつ正確であることを表明し、保証する。

 (1) 乙は、本契約の締結及び履行につき、法令及び定款その他の社内規則上必要とされる一切の手続(ただし、株主総会の承認決議を除く。)を完了している。

 (2) 乙による本契約の締結又はその履行は、法令もしくは定款その他の社内規則又は乙を当事者とする第三者との契約に違反するものではない。

 

第 9 条 (前提条件)

1. 第 3 条第 2 項に規定する乙の義務は、以下の各事項を前提条件とし、譲渡日において以下の各事項のうち一つでも成就していない場合は、甲及び乙が別途合意しない限り、乙は本事業譲渡の対価の支払い義務を負わないものとする。

 (1) 甲が、第 8 条第 1 項に定める表明保証事項のすべてについて違反していないこと。

 (2) 甲が、第 6 条第 1 項に定める義務をすべて履行していること。

2. 第 5 条第 1 項に規定する甲の義務は、以下の事項を前提条件とし、譲渡日において以下の事項が成就していない場合は、甲及び乙が別途合意しない限り、甲は譲渡資産の引渡義務を負わない。

 (1) 乙が、第 8 条第 2 項に定める表明保証事項のすべてについて違反していないこと。

 (2) 甲が、株主総会において本事業譲渡についての承認決議がなされていること。

 

第 10 条 (契約の解除)

1. 甲又は乙が、第 3 条第 2 項又は第 4 条第 1 項に定める自己の義務に違反し、相手方が書面により履行を催告したにもかかわらず、当該書面の到達後10営業日以内に当該違反が解消されない場合、相手方は、当該違反をした当事者に対し書面により通知することによって、本契約を解除することができるものとする。

2. 譲渡日までに第 9 条各号に定める条件が成就しない場合、甲及び乙は、相手方に対し書面により通知することによって、本契約を解除することができるものとする。

3. 甲及び乙は、第 3 条第 2 項及び第 5 条第 1 項に基づく本事業譲渡の実行の後は、いかなる理由によっても本契約を解除することはできないものとする。

4. 本契約が解除された場合においても、各当事者が第 11 条に基づき損害賠償することは妨げられないものとする。

 

第 11 条 (損害賠償)

1. 甲及び乙は、第 8 条に基づき自己が行った表明保証に違反し、又は本契約に基づくその他の義務に違反したことにより、相手方に損害(合理的な範囲の弁護士費用を含む。) が発生した場合には、当該損害を賠償するものとする。

2. 前項に定める損害賠償は、譲渡日から1年間に限り請求することができるものとし、かつ本事業譲渡の対価の額を上限とする。

 

第 12 条 (公租公課の負担)

譲渡日の属する年度における、本件事業にかかわる固定資産税、都市計画税、償却資産税、消費税などの公租公課は、譲渡日の前日までの分については甲が、譲渡日以降の分については乙が、それぞれ日割で按分した上負担する。

第 13 条 (守秘義務)

1. 各当事者は、相手方の書面による事前の承諾を得ることなく、本契約の存在及び内容に関する一切の情報並びに本契約の締結又は履行の過程で取得した相手方の情報を、本契約の履行以外の目的のために使用してはならず、第三者に開示、提供、又は漏洩してはならない。ただし、以下の各号に該当する情報を除く。

 (1) 相手方から取得した時点で、当該情報が公知であった又は公に入手可能であった情報

 (2) 相手方から取得後、当該情報が自らの責に帰すべき事由によらずに公知となった情報

 (3) 相手方から取得した時点で、既に自ら保有していた情報

 (4) 相手方から取得後、正当な権限を有する第三者から守秘義務を負うことなく入手した情報

 (5) 法律上又は行政上の開示の要請に基づき、当該要請を事前に相手方に通知した上で開示する情報

 (6) 自ら依頼した弁護士、会計士、投資銀行その他の代理人又はアドバイザーで、本条と同等の義務を負う者に対して開示する情報

2. 前項に基づく義務は、本契約の終了後も●年間は存続するものとする。

 

第 14 条 (協議事項)

本契約に定めのない事項又は本契約の各条項の解釈について疑義が生じた場合には、甲乙間において信義誠実の原則に従って協議の上定めるものとする。

 

第 15 条 (裁判管轄)

甲と乙は、本契約に関する訴訟について、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。

 

本契約の成立を証するため、本契約書2通を作成し、甲乙記名捺印の上各1通を保有する。

 

令和XX年 X 月 XX 日

 

(甲)(住所)

株式会社○○○○

代 表 取 締 役 社 長 ○○ ○○ 印

 

(乙)(住所)

株式会社△△△△

代 表 取 締 役 社 長 △△ △△ 印

 

別 紙 
 

譲渡資産リスト 
 
1. 土 地 
時価:●●●●●●●円 

2. 建 物 
時価:●●●●●●●円 
 
3. 機 械 
時価:●●●●●●●円 

事業譲渡の契約書を作成する際は弁護士へ相談

事業譲渡に必要な契約書を作成する際は、譲渡事業対価補償内容解除条件などが適正に記載されているか、入念にチェックする必要があります。不安な点を抱えたまま契約書を作成してしまうと、期待どおりに効力を発揮せず、トラブル発生時に思わぬ時間・手間が取られる可能性もあります。

また事業譲渡については、計画の実行・完了に必要な書類の有効性や適格性の確認取締役会や株主総会の開催などの会社法により必要とされる手続きも行わなければいけません。特に初めて事業譲渡を行う場合は、法律知識・経験が豊富な弁護士に手続きを依頼することをおすすめします。

弁護士に依頼することで、契約書に法的問題はないかというリーガルチェックが受けられるだけでなく、計画段階からクロージング、さらに統合・融合(ポストマージャ―)まで幅広いサポートが期待できます。法的トラブルを未然に回避し、万が一トラブルが発生した場合も損害を軽減することなどが望めるでしょう。

まとめ

事業譲渡を行う際は、譲渡する事業や対価の支払いなどの決定事項について、契約書を作成して明文化するのが一般的です。インターネット上には、雛形を掲載しているサイトもありますが、個別の事情には対応しきれない可能性もあるため、案件ごとに当事者の関係や事業譲渡の内容をきちんと反映した契約書を作成すべきです。

もし自力で契約書が作成できるか不安という場合は、「法的問題の有無」「案件ごとの適格性」などについてチェック・サポートが受けられる弁護士へ依頼することをおすすめします。

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