契約不履行とは|3つの類型や不履行時の対応を解説

専門家監修記事
相手方との契約に不履行が生じた場合は、これ以上問題が複雑化しないよう、迅速かつ適切に対応する必要があります。また契約書作成や弁護士への依頼など、あらかじめ対策を取っておくこともできます。この記事では、契約不履行の類型や不履行時の対応、事前対策などを解説します。
阪神総合法律事務所
曾波 重之
監修記事
取引・契約

契約履行(けいやくふりこう)とは、契約によって発生した義務を故意または過失により果たさないことを指します。

契約は、日々の生活の中で頻繁に行われています。例を挙げると、店で物を購入したときや、家を借りるとき、ジムに通うとき、物を譲り受けるとき、相手方企業と取引をするときなどがあります。

逆に言えば、契約不履行によってトラブルが生じるリスクも常にあるということであり、契約不履行が起きた際の対処方法を知っておくことは、非常に有意義なことといえます。

今回は、契約不履行の類型と、契約不履行が起きた際の対処方法、防止策などについて解説していきます。

取引先に契約不履行で損害が発生しお悩みの方へ

相手の不履行によって損害が発生した場合、損害賠償を請求できる可能性があります。ただし、個人で行ってしまうと下請法に抵触してしまったり、その他自社が不利になってしまったりするなどのリスクがあります。

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契約不履行の3つの類型

契約不履行は、その性質によって、以下3つに分かれます。

履行遅滞

履行遅滞とは、契約で決められた内容について履行期に履行できるのに履行をしないことをいいます。

例えば、AとBの間で「売主Aは買主Bに対し、令和元年5月30日に、ある本を10冊引き渡す」旨の契約を締結したとします。しかし、Aは契約で決められた内容を履行期(令和元年5月30日)までに履行できたのに、令和元年6月3日に遅れて履行したような場合は、履行遅滞といえます。

成立要件

履行遅滞は、以下の要件を満たす場合に認められます。

①履行期を経過したこと

②履行が可能であること

③履行しないことが契約相手の「帰責事由」に基づくこと(民法419条参照)

①については、以下の場合に履行遅滞となります(民法412条)

確定期限がある場合

(「○月○日」「○月中」など)

期限を経過した時から

不確定期限がある場合

(「○○が死亡したとき」など)

期限の到来を知った時又は到来後に請求を受けた時から

期限の定めがないとき

催告(契約を履行するよう要求すること)をして、催告日が経過した時から

②について、履行遅滞は「履行期に履行ができるのに履行をしない」という場合に該当し、履行期に履行できない場合は、後述する履行不能となります。

③の「帰責事由」とは、簡単に言えば、相手に対する責めるべき事情を指します。例として、相手が履行遅滞になることを知りながら(故意)、あるいは知るべきだったのに知らなかった(過失)などで、履行するのが遅くなったなどの場合に該当します。

この帰責事由は、他の契約不履行の類型(履行不能、不完全履行)に共通する事項です。

履行不能

履行不能とは、履行期の前後を問わず、契約で決められた内容を履行することが不可能なことをいいます。

例えば、AとBの間で「売主Aは買主Bに対し、令和元年5月30日に、ある本を10冊引き渡す」旨の契約を締結したとします。しかし、Aの過失で、その本を保管していた倉庫が火災に遭い、本が焼失してしまったような場合、履行不能になったといえます。

成立要件

履行不能は、以下の要件を満たす場合に認められます。

①債権成立後に履行が客観的に不可能になったこと

②履行不能が契約相手の帰責事由に基づくこと

不完全履行

不完全履行とは、履行期に履行がなされたが「契約の本旨に従った」完全なものでなかった場合をいいます。「契約の本旨に従った」とは、契約の内容や趣旨を考えて、当事者が意図していたことをいいます。

例えば、AとBの間で「売主Aは買主Bに対し、令和元年5月30日に、ある本を10冊引き渡す」旨の契約を締結したとします。Aは履行期に本を引き渡したものの、約束していた本とは違う本を10冊引き渡した場合や、本に落丁があった場合などは、不完全履行といえます。

成立要件

不完全履行は、以下の要件を満たす場合に認められます。

①履行があったものの、その履行が不完全だったこと

②履行が不完全だったことが契約相手の帰責事由に基づくこと

契約不履行があった場合の対応

相手が契約内容を守らず、履行しなかった場合、どうすればよいのでしょうか。

このような場合、大きく分けて強制履行・損害賠償請求・契約解除の3つの手段から解決を図ることができます。

強制履行

強制履行とは、相手が契約を履行しない場合、裁判所の力を借りて強制的に契約を履行させることをいいます。

国家の力を借りて相手に履行を強制するため、契約で決められた内容を実現することができますが、あらゆる場面で利用できるというわけではありません。

強制履行は、相手が契約内容を履行できる状態にあることを前提にしているため、契約内容の履行が不可能な場合(=履行不能)は強制履行が出来ません。この点には注意が必要です。

また、強制履行には直接強制・代替執行・間接強制の3種類があります。

直接強制

直接強制とは、執行機関が直接に契約の内容を実現させる方法です(民事執行法43条)。

例えば、AとBの間で、Aを貸主、Bを借主とする借家契約を締結し、その後、契約期間が終了して契約更新をしないことになっていたのに、Bの怠慢で、なかなか借家を明け渡そうとしない場合を考えてみましょう。このような場合、Aは裁判手続きを通じて、強制的にBを借家から追い出すことができます。

直接強制は、物や金銭の引き渡しが必要とされる場面で利用されます。契約内容を直接実現することができるため、強制履行の中でも、最も効果的な方法といえます。

代替執行

代替執行とは、契約相手以外の者により契約内容を実現させた上で、必要となった費用を契約相手から取り立てるという方法です(民事執行法171条)。

例えば、AとBの間で、A所有の建物をBが取り壊す旨の契約を締結したのに、Bがなかなか取り壊してくれない場合を考えてみましょう。このような場合、他の業者に建物の取り壊しをさせて、Bに取り壊しに掛かった費用を取り立てることができます。

代替執行は、履行すべき契約内容が、他の人でもできるもの(代替性のあるもの)であるときに、利用することができます。

したがって、ある有名なピアノ演奏者との間で、「ピアノを演奏する」という契約を締結した場合などは、代替執行として、他のピアノ演奏者に演奏させることはできません。その「有名なピアノ演奏者が演奏すること」に意味があるからです。

間接強制

間接強制とは、契約相手が契約内容を履行するまで、一定の金銭を強制的に支払わせることによって、契約相手に心理的圧迫をかけ、契約相手の履行を確保しようとする方法です(民事執行法172条)。

例えば、Aが夜遅くまでバイオリンを弾いていることから、隣家のBが苦情を申し入れ、交渉の結果、夜10時以降にバイオリンを弾かない旨の合意書を交わしたのに、翌日、夜12時を過ぎてもバイオリンを弾いている場合を考えてみましょう。このような場合、裁判所に訴えることで、例えば「違反ごとに○○万円」というように金銭の支払いを求めることによって、相手に心理的圧迫を与え、夜10時以降にバイオリンを弾くのを止めさせます。

なお、「一定の金銭」は、「相当と認める一定の額の金銭」(民事執行法172条)とされるため、少しの違反があったからといって、高額な金銭を要求することはできません。

間接強制は、幅広い場面で利用できます。金銭を支払わせる場面(扶養義務等に係わる債務等の一部例外を除く)以外であれば、どのようなケースでも利用することができます。

損害賠償請求

損害賠償を請求するという方法も考えられます。これは、相手が契約を守らなかったためにこちらに損害が発生した場合、その損害を金銭で埋め合わせることによって解決を図ろうとする方法です(民法415条)。

要件

損害賠償を行うには、以下の要件が必要とされています。

①契約不履行の事実があること

②帰責事由があること

③損害の発生と契約不履行との間に因果関係があること

①は、前述した履行遅滞・履行不能・不完全履行の事実があることを意味します。

②の「帰責事由」は、前述の通り、契約相手に責めるべき事情があることを意味します。

③について、損害の発生が契約不履行と何ら関係が無い時であれば、損害賠償は発生しません。

時効期間

注意点として、損害賠償が請求できる期間には時効があります。

契約不履行に基づく損害賠償請求権は、10年間行使しないときは時効により消滅します(民法167条1項)。

なお、平成29年度の改正民法では、時効期間が「権利を行使できることを知った時から5年間」あるいは「権利を行使できる時から10年間」に変更されたので(改正民法166条1項各号)、注意しましょう。

契約解除

契約解除という方法もあります。契約が成立すると、原則として契約の当事者は契約で定められた事項に拘束されます。これは、相手が契約不履行の場合も同様で、契約の拘束力は残り続けます。

しかし、いつまでも拘束されるとなると、その相手との契約関係を維持する必要性がなくなり、他の者と契約を結びたいと思うのが通常でしょう。そのため民法では、契約不履行をされた契約当事者を、契約の拘束力から解放するために解除権を認めています(民法541条等)。

このような、法律で定める一定事項を満たせば生じる解除権を「法定解除」、契約当事者間で定めた解除権を「約定解除」といいます。両者の合意で契約を終了させること(合意解除)もできるため、必要に応じて検討してみましょう。

なお、契約を解除した上で損害賠償を求めることもできます(民法545条4項)。

取引先に契約不履行で損害が発生しお悩みの方へ

相手の不履行によって損害が発生した場合、損害賠償を請求できる可能性があります。ただし、個人で行ってしまうと下請法に抵触してしまったり、その他自社が不利になってしまったりするなどのリスクがあります。

法律を守った上で、損害賠償を請求するのであれば、弁護士を通して請求するのが最善の解決方法です。無料相談可能な事務所も多数掲載していますので、お気軽にご相談ください。

契約不履行に備えた対応

相手が契約を守らなかったときに備えて事前に対策を取っておくことで、当事者間のトラブルを未然に防ぐことができます。

口約束ではなく書面で契約を交わす

相手と契約を締結する際は、口約束ではなく契約内容を記載した契約書を作成しましょう。

口約束では、「言った言わない」など、契約内容をめぐる解釈に齟齬が生じて、トラブルに発展する危険性がある上、トラブルが発生したことを境に、問題が複雑化する危険性もあります。

                                                                  

さらに、訴訟を提起して契約相手に非がある旨を主張しても、その主張を客観的に証明するものがなければ、その主張を認めさせることは困難です。したがって、強制履行や損害賠償などの手段を採ることができない可能性もあります。

このように、契約書はトラブルを防止する役割を果たすだけでなく、トラブルが起きた場合に解決するためのツールにもなります。また、当事者間で「契約を守ろう」「守らせよう」という意識を高めることにもつながります。

そのため、トラブルが生じたら支障が出るようなケースでは、必ず契約書を作成しましょう。

契約書を作成する際のポイント

契約書を作成する際は、いつ(契約成立日)、誰と誰の間で(契約当事者)、どのような内容を取り決めたか(契約内容)、という点を明らかにすることが大切です。

したがって、作成にあたっては、法律の規定を念頭に置きながら、これらの事実を正確かつ分かりやすく書くことが必要になります。

弁護士に相談する

契約書を作成する場合は、弁護士に契約書の作成やリーガルチェックを依頼することをおすすめします。

法律の専門家である弁護士に依頼することによって、記載漏れや法律事項の誤りなどによる予期せぬトラブルを未然に防止することができる上、トラブル発生時には今後取るべき対応に関するアドバイスがもらえます。

最近は、書籍やインターネットで契約書のひな形を見ることができますが、個別の具体的な事情に応じた内容を作成するには、弁護士等の法律専門家に依頼した方が無難です。また、無料相談を行っている事務所も多いため、お悩みの際はまず弁護士事務所へ相談しましょう。

まとめ

この記事では、契約不履行となるケースと、それに対する対処方法について解説しました。

契約をめぐるトラブルやその解決方法は、ここまで解説してきたものには限りません。解決が困難な場合や、不安点・疑問点がある場合などは、まずは弁護士などに法律相談をしましょう。

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