工事請負契約書の作成時のポイントと注意事項について解説!

専門家監修記事
工事を請負会社に依頼する際、トラブルを防ぐために、発注者と施工会社で「工事請負契約書」を作成するのが通常です。特に、住宅建設工事についてはトラブルなども生じやすいので、契約確認は重要です。ここでは、工事請負契約書の概要や作成時のポイント、注意事項を解説します。
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
監修記事
取引・契約

工事を請負会社に依頼する場合、事前に設計内容や工事金額を決め、いざ工事が着工する際には発注者と施工会社との間で、トラブルを防ぐために工事請負契約書を作成するのが通常です。

 

特に住宅建設工事にあたっては、内容が多岐にわたり、発注者と施工会社との間でトラブルも生じやすいので、契約の確認は重要です。

 

ここでは、工事着工時に取り交す工事請負契約書について、その概要と工事請負契約書の作成時のポイント、さらに注意事項を法律の観点からご紹介致します。

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工事請負契約書の必要性|作成時の注意点

冒頭でも少しご紹介しましたが、工事の場合は発注者と施工会社との間で工事請負契約書を作成するのが通常です。ここでは、工事請負契約書があることでどのような意味を持つのか、その必要性と作成時の注意点について解説します。

工事請負契約書とは

工事請負契約書とは、発注者と施工会社との間で工事の内容、方法、条件等の詳細について取り決めた契約書のことです。

 

例えば工事請負契約書には、工事内容・工事場所・工事着手の時期および工事完成時期・製作物の仕様・請負代金の額・請負代金の支払い時期と方法・調停人・その他などを規定しますが、これに限られるものではありません。

 

また工事請負契約書には、契約書とは別に、設計図面・見積書・工事請負契約約款が添付され、工事に関する詳細が取り決められることも多いです。

 

工事請負契約書があることで、発注者と受注者との間の工事に関する認識を共有することができ、「こんな工事は聞いていなかった」というトラブル防止の役割を果たします。

工事請負契約書の作成義務

建設工事の場合は建設業法第19条1項より、施工業者には契約書の作成義務があります。したがって、契約書の作成をしない業者は違法業者ですので、工事を依頼すべきではありません。

工事請負契約書の作成時の注意点

工事契約請負書には、標準約款雛形が公表されていますので、通常はこの約款に従って作成されます。

 

もっとも、工事の内容や性質によっては約款と異なる合意も必要となることもあろうかと思われます。このような場合は、適宜、約款を修正する形で契約書を作成することが一般的でしょう。

工事請負契約書に記載すべき14の事項

ここでは、工事請負契約書に記載すべき14の事項について、詳しくご紹介させて頂きます。

1:当工事請負契約をする目的

工事着工に関する契約の目的を記載します。どちらが発注者で受注者であるのかしっかりと明記する必要があります。

2:当該工事の内容などの表示

当該工事における工事内容の詳細を表示します。

 

例文

1.工事名:〇〇建設工事

2.工事内容:添付の図面No.1〜No.10、仕様書No.1〜3の通り

3.工事場所:〇〇県〇〇市〇〇町

4.工期:着手契約の日から 〇〇以内

           工事認可の日から 〇〇以内

           平成○○年○月○日

      完成 着手の日から ○○日以内

           平成〇〇年○月○日

      引渡 平成〇〇年○月○日

5.請負代金額:〇〇円

6.支払方法

  第1回(平成〇〇年○月○日限り)金〇〇円(税別)

  第2回(平成〇〇年○月○日限り)金〇〇円(税別)

  完成引渡しのとき 金〇〇円(税別)

7.引渡時期:検査合格後 〇〇日以内

3:当該工事の内容(期間)に追加や変更があった場合の対応

工期の遅延により工期を変更できる場合について、詳細に記載します。

 

例文

1.甲は、必要に応じて、本件工事の設計仕様を変更することができる。工事の追加・変更にかかる工事代金については、甲乙協議の上、これを決定するものとする。

 

2.乙は甲に対して、必要に応じて工事の追加や変更および、これに伴う工事代金の増減額を提案し、甲の承諾により工事内容および工事代金の追加や変更を行うことができる、工事完成引渡時期についても、甲乙協議の上、決定するものとする。

4:当該工事中の損害に対する負担割合

工事の途中で建物や建設機械等に損害を発生させた場合、発注者と受注者でどのように損害を負担するのかを決めておきます。

 

例文

乙の契約不履行、および工事の遅延または工事不完全などの事由により甲に損害が発生した場合には、乙はその損害を賠償するものとする。

5:当該工事が第三者へ損害を与えた場合の負担割合

着工中の当該工事が近隣住民などの第三者へ損害を与えた場合、損害賠償責任について、発注者と受注者でどのように負担をするのか明記する必要があります。

 

例文

当該工事の施工のため、第三者の生命、身体に危害を及ぼし、財産などに損害を与えたとき又は第三者との間に紛争が生じたときは、受注者がその処理解決に当たるものとする。ただし、発注者の責めに帰するべき事由による場合には、その限りではない。

6:当該工事に関する近隣への説明・クレームに対する役割分担

当該工事に関する内容を近隣住民へ説明する、または近隣住民からのクレームにどのように対応するのかについて、あらかじめ受注者、発注者との間で締結します。

 

注意点としては、標準約款の場合、近隣からのクレーム対応により工事中止の場合にも、その工期は延長できない旨になっています。

 

これはしっかりと標準約款第12条にて記載されており、施工のために第三者と紛争が生じた場合には、受注者がその処理解決をしなければならず、これによって工期は延長されないことを定めています。

 

つまり、独自のオリジナル工事請負契約書を作成し、近隣住民からのクレーム対応時には、工期を延長できる旨を明記しておくと良いでしょう。

7:当該工事の完了後の対応

当該工事の完了後の検査や引渡し方法について明記しておきます。

8:請負代金支払いの手続きに関する取り決め

工事請負代金支払いの手続きについて明記しておきます。

9:違約金に関する取り決め

工事が遅延した際、受注者が発注者に支払う違約金や工事代金の支払いについて、明記しておきます。

10:瑕疵担保責任を負う受注者と請負人の範囲

工事完了後、引渡し後に発見された不具合について、受注者がどの程度の責任を負うのか、さらに責任の範囲を明記しておきます。

 

例文

本件工事後の引き渡し後5年の間に、瑕疵が発見された場合、甲は乙に対し、瑕疵の修補を請求することができる。ただし、瑕疵が重要ではなく、かつその補修に過分の費用を要する場合、瑕疵の修補を請求できない。

11:発注者の契約解除に関する責任

発注者側から契約を解除できる場合について、その詳細を明記しておきます。また解除の場合には、契約解除までに行った工事代金の支払いはどうすれば良いのかも明記しておきます。

 

例文

乙が次の事由の1つでも該当した場合、甲は何らかの催告を要することなく、本契約を解除することができる。

 

1.本契約に違反し、違反状態が解消されない場合

2.営業停止および営業許可の取り消しなどの処分を受けた場合

3.破産手続き開始、民事再生手続開始、会社更生手続き開始、特別清算手続き開始などの申し立てがあった場合

4.差押、仮差押、仮処分などの強制執行または公租公課の滞納処分を受けた場合

5.支払い停止または支払い不能に陥った場合や手形が不渡りとなった場合

6.解散、合併または営業の全部、重要な一部の譲渡を決議した場合

12:受注者の契約解除に関する責任

受注者側から契約解除を申請できる条件について明記しておきます。

13:権利義務の譲渡禁止に関する取り決め

受注者、発注者ともに、契約に基づく権利義務を第三者に譲渡することはできないことを明記します。

14:契約書に記載がない問題の解決方法について

工事請負契約書に記載がない項目については、双方の協議により解決することを明記します。

工事請負契約書の作成時のポイントと注意点について

ここでは、工事請負契約書の作成時のポイントと注意点についてご紹介します。

工事遅延の場合の違約金について

自社にあった工事遅延による違約金について適切な価格で設定する必要があります。

標準約款では、標準約款第23条により、年14.6%の違約金を請求できると定められていますが、人によっては高いと感じることがありますので、契約の際はしっかり話し合いましょう。

工期の延長について

なお工事請負契約書の中では、工期の延長が必要な場合についても、しっかりと明記しておく必要があります。

 

標準約款第21条を参考にすると、工事事業者における工期の延長は不可抗力によるとき又は正当な理由があるときとされています。また、その場合の工期延長については、発注者と協議をして定めることとしています。

 

しかしこれには問題点もあり、「不可抗力による正当な理由」には「天候不順」や「施主側の仕様決定の遅れ」などのケースも含まれるのか、という点のほか、工期の延長日数についても発注者の承諾がなければできないとされていて、不透明な部分が多いです。

 

このことを踏まえると、「天候不順」等により工事ができなかった場合には、発注者の同意がなくても工期を延長できる旨を工事請負契約書に記載しておくと良いでしょう。また同様に、施主側の仕様決定の遅れによる工期の延長についても記載する必要があります。

 

例として、「工事事業者からの仕様の問い合わせに対して、施主が1週間以内に仕様を決定していなかった場合、発注者が同意をしなくても工事事業者から工期を延長できる」などと記載します。

追加工事代金について

標準約款第20条2項によると、工事の追加や変更により工事代金を変更する必要があるときは発注者と受注者との間で協議により定めると記載されています。

 

しかし、標準約款通りのままにしてしまうと発注者の承諾がなければ、追加工事代金を請求できないため、発注者の承諾がない場合でも、追加工事代金の請求が可能になるよう書き換えることをおすすめします。

近隣からのクレームについて

近隣からのクレームで気をつけなければならないこととして、標準約款第12条によって「施工のために第三者と紛争が生じたときは、受注者がその解決をしなければならず、これによって工期は延長されない」と定められていることが挙げられます。

 

つまりこのままでは、受注者が近隣住民からクレームを受けた際に工事が中断しても、工事の遅れによって、工事事業者が違約金を支払わなければならないという事態になります。

 

このことを踏まえると、標準約款のままではなく、工事事業者に責任のない近隣からのクレームで工事が中断せざるを得ない場合には、その中止期間の日数分を延長できるように明記しておきましょう。

 

さらに、工事事業者に責任がない近隣からのクレームについては、発注者の責任や費用で解決を目指すことも明記すると、より良い工事請負契約書になります。

地中障害物等について

地中障害物等を発見して、思わぬところで工事費用がかさんでしまっても、標準約款では追加請求が難しいです。

 

その理由として、標準約款第9条4項にて「土壌汚染、地中障害物の発見、埋蔵文化財の発見などによって請負代金を変更する場合は、発注者と受注者が協議をして定める」と明記されていることが挙げられます。

 

したがって、当初予定していなかった地中障害物等が発見された場合は、発注者の承諾がなくても追加費用を請求できるよう、内容を書き換えて作成することをおすすめします。

工事請負契約書にかかる印紙税とは

ここでは、工事請負契約書にかかる印紙税についてご紹介します。

【注意】契約書には税金がかかる!

請負に関する契約書である、工事請負契約書・工事注文請書・物品加工注文請書・広告契約書・会計監査契約書などが、請負に関する契約書になります。

 

これらの請負に関する契約書には、印紙税がかかります。

印紙税の相場

印紙税の相場については、国税庁の公式ページを参考にすると以下の通りです。

 

記載された契約金額

税額

1万円未満

非課税

1万円~100万円以下

200円

100万円を超え、200万円以下

400円

200万円を超え、300万円以下

1,000円

300万円を超え、500万円以下

2,000円

500万円を超え、1,000万円以下

1万円

1,000万円を超え、5,000万円以下

2万円

5,000万円を超え、1億円以下

6万円

1億円を超え、5億円以下

10万円

5億円を超え、10億円以下

20万円

10億円を超え、50億円以下

40万円

50億円を超える場合

60万円

契約金額の記載のないもの

200円

(参考:請負に関する契約書|国税庁)

2020年3月31日までの工事請負契約書には減額措置がある

平成26年4月1日から平成32年(2020年)3月31日までの間で作成される、不動産譲渡契約書建設工事請負契約書には、印紙税の軽減措置があります。このうち、建設工事請負契約書に関する減額措置は、契約書に記載された契約金額が100万円を超えるものが対象です。

 

以下を参考にしてください。

 

記載された契約金額

税額

100万円を超え、200万円以下

200円

200万円を超え、300万円以下

500円

300万円を超え、500万円以下

1千円

500万円を超え、1,000万円以下

5千円

1,000万円を超え、5,000万円以下

1万円

5,000万円を超え、1億円以下

3万円

1億円を超え、5億円以下

6万円

5億円を超え、10億円以下

16万円

10億円を超え、50億円

32万円

50億円を超える

48万円

(参考:不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係わる印紙税の軽減措置|国税庁)

まとめ

工事請負契約書の作成にあたっては、標準約款等の雛形が用意されていますが、そのまま使用してしまうと自社に合った契約書にはならず、おすすめできません。

 

請負契約書に詳しい弁護士のリーガルチェックや、工事請負契約そのものの作成をサポートしてもらうことおすすめします。発注者と受注者との間で、できる限りトラブルがおきないよう防止策をとりましょう。

 

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