建物の貸し借りは、法的には大きく2つに分かれます。 借主から賃料を受け取る『賃貸借契約』と賃料を受け取らない『使用貸借契約』です。
一般的には、賃料を受け取る賃貸借契約が結ばれることが多く、親族間の貸し借りなどはで使用貸借契約が結ばれることもあります。
この記事では、賃貸借契約で起こり得る賃料や使用条件などに関するトラブルを防ぐために、賃貸借契約を結ぶ際のポイントを解説します。
賃貸借契約の基本概要
まずは、賃貸借契約の基本を見ていきましょう。
成立要件
賃貸借契約は、建物などを所有している者(『賃貸人』という)が、それを借りる者(『賃借人』という)へ、使用の権利を与えたり、賃借人がそれを使って収益をあげたりすること(使用収益)を許可し、その代金として、賃借人が賃貸人に賃料を支払うことで成立します。
また、賃貸借契約では売買契約とは異なり、契約関係を継続していくことに特徴があるため、賃貸借の期間や返還時期も、契約において重要視される要素となります。
- 賃貸借契約の当事者
- 目的物は何か
- 賃料の金額
- 目的物の返還時期と賃貸借の期間
これら4つの要素を明確にすることが、トラブルを防ぐためにも重要になってきます。
種類
普通建物賃貸借契約 | 定期建物賃貸借契約 | |
---|---|---|
契約方法 | 書面・口頭のいずれも可能 | (1)書面による契約に限る(公正証書など) (2)「更新がなく、期間の満了により終了する定期契約である」ことを、あらかじめ書面を交付して説明しなければならない(契約書とは別に書面を用意) |
更新の有無 | 正当な理由がない限り更新 | 期間満了により終了・更新なし |
建物の賃貸借期間の上限 | 無制限 | 無制限 |
1年未満の契約の取り扱い | 期間の定めのない賃貸借契約となる | 可能 |
賃借料の増減 | 当事者は賃借料の増減を請求できる | 特約に従う |
賃借人からの途中解約の可否 | 中途解約に関する特約があれば従う | (1)床面積が200㎡未満の居住用建物で、やむを得ない事情により、生活の本拠として使用することが困難となった 借り主からの申し出の場合には、特約がなくても法律により、中途解約が可能 (2)上記(1)以外の場合は中途解約に関する特約があればその定めに従う |
普通建物賃貸借契約
契約期間は1年以上で設定し、途中解約に関する特約を定めることが可能です。借主からの解約については予告期間を定めたり、ただちに解約する際の金銭補償の規約を定めたりすることができます。
一方、貸主からの解約や更新の拒絶は、正当な理由がなければ行使することはできず、普通建物賃貸借契約では貸主のパワーバランスが大きくならないような規定になっています。
定期建物賃貸借契約
この契約では、契約期間を自由に定めることができ、期間が満了した時点で確定的に契約が終了します。この契約に関しては、更新をすることはできません(新規契約を締結することは可能です)。
また、書面で契約を締結したり、定期借家であることを別途の書面で説明したりする必要があります。借主の転勤など、やむを得ない事情が発生し、その住宅に住み続けることが困難となった場合は、借主から中途解約を申し入れることができます。 賃貸人は契約期間満了の1年前から6ヶ月前の間に、契約が終了する旨を賃借人に通知しなければなりません。
一時使用目的の賃貸借契約
この契約は、一時使用のために建物を賃貸借する契約のことです。例としては、選挙のための事務所や、仮住居として建物を使用することが挙げられます。 一時使用目的の場合は、適用法律は借地借家法ではなく民法です。中途解約の可否は契約内容次第です。
賃貸人に発生する法的義務
賃借人に建物を貸し出す賃貸人には、『賃借人に目的物を使用収益させる義務』、『目的物の修繕義務』、『費用修繕義務』があります。言い換えると、賃貸人が確実に賃借人に目的物を使用収益できる権利を与え、賃借人がその権利を行使できない場合は、賃貸人が賃借人に対しその責任を負うということになります。
目的物を使用収益させる義務
賃借人が借りた建物などの目的物が、仮に賃貸人から引き渡されなかった場合、賃借人は使用収益を行うことができません。そのため、賃貸人は賃借人に対し「目的物を使用収益させる義務」があります。 契約成立後、目的物の引き渡しをするまでの間、賃貸人は賃借人に賃料を請求できません。
目的物の修繕義務
目的物が破損し、賃借人が使用収益できない状態になった場合、賃貸人は目的物を修繕し、賃借人が再び使用収益できる状態に戻す必要があります。これを『目的物の修繕義務』といいます。しかし、修繕の内容や範囲でトラブルになる可能性もありますので、これらを明確化しておくことがトラブル防止のためにも大切です。
費用償還義務
『費用償還義務』とは、賃借人が目的物の使用収益のために必要な費用を支払った場合、賃貸人に対してその費用の請求があれば、賃貸人はその費用を賃借人に支払わなければならない、という義務です。この義務に関しても、目的物の修繕義務と同様に、「どの範囲」まで費用として認めるかをあらかじめハッキリさせておくことが、トラブルの防止につながります。契約の段階で、費用償還の範囲を確認しておきましょう。
賃貸借契約を結ぶ際のポイント
賃貸借契約を締結する際は、賃貸借契約がいつまで有効なのかという『契約期間』、日頃の使用料である『賃料・敷金・管理費等』、更新の際の『更新料・更新手続き』、契約解除をして建物を明け渡す際の『解約や原状回復に関する事項』を明確にしておく必要があります。
契約期間
『いつからいつまで』貸し出しをするか、更新はできるのかどうかを明確にします。特に、普通建物賃貸借契約なのか定期建物賃貸借契約なのかは、更新の有無にかかわってきますので、更新時のトラブル防止のためにも確実に賃借人へ伝えておきましょう。
更新料・更新手続き
契約期間が満了した際に、引き続き契約を有効に継続するために行うのが更新手続きです。その際に、更新料を賃借人から受け取ることができますが、最初に契約を締結する際に、更新手続きの方法と更新料の取り決めを行っておくことが、トラブル防止のために必要になってきます。
更新料は、最大でも毎月の賃料の1か月分が相場になっていますが、いずれにしても賃借人が契約を継続できるような金額を設定する必要があります。
賃料・敷金・管理費(共益費)
賃料や管理費(共益費)はあらかじめ額を設定し、受け取り方法や受け取り日などを確認しましょう。また、家賃の延滞時の遅延金や、賃料を改定する際の規約も決めておくと安心です。 敷金を預かる際には、その金額はもちろんですが、契約解除後に敷金を返金する際の手続き方法を明確にしておくことが重要です。
契約解除に関する事項
貸主側が契約解除できる要件を決めておきましょう。貸主側が契約解除できるのは、借主が賃料を滞納した場合などの契約違反の場合に限られますが、規約にもきちんと規定しておくことで、契約解除をやむなく行う際のトラブル予防になるでしょう(ただし、契約違反があるからといって、必ずしも契約解除まで認められない場合もありますので注意が必要です)。
また、借主からの契約解除を行うのが一般的ですが、「〇ヶ月前に解約を予告すること」と規約に定めることができます。即時解約をする際の規約(賃料の1ヶ月分を支払うことで即時解約を認めるなど)も作っておくことをおすすめします。
原状回復に関する事項
賃貸借で一番トラブルになりやすい局面として「原状回復」が挙げられます。原状回復に関しても、規約であらかじめ定めておくことが必要です。 一般的には、『借主の通常の居住や使用による物件の破損』は貸主の負担、『借主の過失や故意による物件の破損』については借主の負担となっています。
平成24年2月10日に、国土交通省が『賃貸住宅標準契約書』を公表し、原状回復に関する取り決めを具体的に明記するよう改訂されました。詳しい項目も示されていますので、確認しておきましょう。
賃貸借契約でトラブルとなりやすい点
賃貸借契約でトラブルが起こりやすい「原状回復」の具体例を3つ挙げます。
通常の使用による汚損・減耗は原状回復義務の対象としてはあたらない例
賃借人が通常の使用をして、経年劣化などにおける必然的な減耗が生じた場合は、特約がない限りは賃貸人が修繕費を負担すべきとされています。
減耗の度合いに応じて賃借人の負担を認めた例
規定に示された原状回復をせずに賃借人が建物を明け渡した際、原状回復に必要だった費用の中で、「賃借人の責任に帰す」修復はその度合いに応じて、原状回復に用いた費用を賃借人が支払うことになります。
経年劣化による賃借人の修繕費用の軽減
物件の破損が生じた場合、賃借人の負担とするべき破損でも、経年劣化による破損とも認められる場合は、経年劣化を考慮し、賃借人の原状回復費用の軽減を認められることがあります。
賃貸借契約を弁護士に相談するメリット
不動産を貸し借りする際には、トラブルが起こりがちです。特に、原状回復に関してはどちらがどれだけ修繕費を負担するかが問題になりがちです。また、家賃の滞納や契約条項の変更などでも法律問題が生じやすいのが、不動産の賃貸借の特徴です。 これらの問題を弁護士に相談するメリットとしては、次のようなものが挙げられます。
- 法律問題の専門家であるため、裁判になったときもスムーズに対応できる
- 賃貸人が賃貸借契約を解除するには正当な理由が必要になるため、弁護士から法的なアドバイスをもらえる
- 原状回復の際、法的な通常損耗はどの程度かアドバイスをもらえる
不動産の賃貸借は、法的な問題が数多く起きるのが特徴ですので、専門家である弁護士に相談することで、トラブルを回避できる可能性が高まります。
まとめ
不動産の賃貸借では法的なトラブルが起こりがちです。実際に問題が起きると、裁判に時間や費用がかかるなど、負担が大きくなってきます。法的なトラブルを未然に防ぐためにも、契約の段階で賃貸人と賃借人の間での取り決めを明確にすることはもちろんですが、仮に法的トラブルになった際にも、弁護士に相談することで、スムーズに解決することが期待できます。
不動産の賃貸借は身近であるからこそ、未然のトラブル防止とトラブルが起こった後の対応が重要になってきます。ぜひ、専門家である弁護士をご活用ください。
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