弁護士とマッチングできます
企業法務弁護士ナビでは完全非公開で相談可能です。貴社の課題に最適解を持つ弁護士、最大5名とマッチングできます。
ストックオプションとは、取締役やそこで働く従業員に対して、会社の株式を権利行使価額(あらかじめ定めた株価)で将来取得する権利を付与することです。
一方、税制適格ストックオプションは、税制適格の条件を満たした新株予約権を無償で付与することをいいます。通常のストックオプションは、権利行使時にも課税されますが、税制適格ストックオプションでは、利益が生じた際の課税が売却時点まで繰り延べられるなどの特徴があります。
売却時点では、譲渡所得として「(売却価格-権利行使価額)×株式数」に対して20.315%の税率で課税されます。
ストックオプションが付与されると、株価が上昇した時にストックオプションによって優遇された価額で定められた数量の株式を取得、売却することができるようになります。
今回の記事では、節税などのメリットが大きい税制適格ストックオプションについて紹介します。
税制非適格ストックオプションとは、税制適格条件を満たしていない無償の新株予約権のことです。
権利行使時(株を取得した時)と売却の時の二回税金を収める必要があります。 権利行使時には、「(権利行使時の株価-権利行使価額)×株式数」に対して給与所得として計算されるため、累進課税となり最大で55%課税されます。
この時点では実際に現金を得ていないのにも関わらず課税されるため、株価の上昇を待たずに権利行使後すぐに売却しなくてはいけないというケースも多々あるようです。売却時は税制価格ストックオプションと同じく譲渡所得として課税されます。
権利行使期間は、付与決議後すぐに行使可能という訳ではありません。オプションの付与決議から2年後〜10年後の8年間のみ行使可能となります。
ストックオプション制度は、権利を付与したことによるインセンティブ効果で企業価値である株価を上昇させることが本来の目的です。付与した株価より低い金額を行使価格にしてしまうと、その時点で対象者の利益が出てしまい、本来の目的には沿わなくなってしまいます。
税制適格ストックオプションでは、契約締結時の株価より高い価格が権利行使価額にしなくてはいけません。
たとえば、株価の時価が500円だとしたら501円に設定するなど、なるべく低い価額を設定することでインセンティブを享受できるようになるので、株価を押し上げるために企業一丸となり努力するのです。
株式の時価ではなく権利行使価額の合計額である点に注意が必要です。この制限は、1,200万円を超えた部分のみが要件から外れるのではなく、その金額を超えた権利行使価額全てに対する部分が課税対象となります。
たとえば、年間800万円を権利行使した状態で500万円を行使するとしたら、1,200万円を超える100万円だけではなく500万円が適格要件を満たさないと判断されます。
一度でもこの条件から外れてしまうと、それ以降は税制適格ストックオプションとして行使できなくなってしまう点で注意が必要です。
そのため、IPOなどによる大きなキャピタルゲインを望んでいる場合は、この1,200万円の枠が足かせになる可能性もあり、税制の優遇か大きな利益のどちらが大切かを見極める必要があるといえます。
税制適格ストックオプションを発行したら、翌年1月31日までに法定調書を管轄税務署に提出しなくてはいけません。さらに、権利者が権利行使をする際に、以下の事項等を記載した書面を会社に提出することが税制適格の条件となります。
a. 提出者の氏名、住所等
b. 行使をする新株予約権等の付与決議があった年月日
c. 行使をする新株予約権等に係る契約において定められている事項のうち、当新株予約権に係る株式の種類、数、1株当たりの権利行使価額
d. 新株予約権等の行使により振替又は交付を受けようとする株式の数
e. 行使日の属する年において既に当新株予約権等の行使をしたことがある場合には、その新株予約権等の行使に係る株式の数、権利行使価額、行使年月日
f. 行使日の属する年において既に他の税制適格ストックオプションの行使をしたことがある場合には、そのストックオプションに係る付与決議のあった会社の名称、本店所在地、そのストックオプションの権利行使価額、行使年月日
g. その他参考事項
また、ストックオプションを発行する企業は、権利者から受け取った書類を法定の方法により提出日の属する年の翌年から5年間保管する必要があります。
参考:経済産業省|経済産業政策局新規事業創造推進室|平成31年度税制改正(租税特別措置)要望事項
それでは、税制適格ストックオプションが利用できる条件について見ていきましょう。
自社または関連会社の取締役・従業員(監査役不可) 監査役は付与対象者に含まれません。
平成31年度改正により、一定の要件を満たせば外部協力者にもストックオプションを付与できることになりました。その要件は以下の通りです。
以下の要件のすべてを満たすこと
以下の要件のいずれかを満たすこと
以下の要件のいずれかを満たすこと
大口株主に対しては、ストックオプションが付与されないことになっています。大口株主の基準は、公開会社の場合は発行株式の1/10超を所有するもの、未公開会社の場合は発行株式の1/3超を所有するものです。
税制適格ストックオプションのメリットは、まず権利行使時に非課税となる点で税制上のメリットがあります。また、無償発行であるため権利付与された従業員のリスクがないのも特徴です。
ストックオプション全般で言えることですが、自身の頑張りによって会社の株価を上昇させれば、その分多額の利益を手に入れることができます。そのため、一人一人の従業員が頑張って仕事をすることになり、結果として会社の成長にも繋がるのです。
また、上場を目指しており、魅力的な事業内容でストックオプションも付与されるとなれば良い人材をリクルートしやすくなるでしょう。
逆に税制適格ストックオプションのデメリットについて簡単に解説します。
無償かつ税制の優遇がある分、上記でも説明した通り利用するための要件が厳しいということです。要件を満たさない場合は最大で55%の累進課税を課されてしまいます。
また、思うように業績が伸びないと株価の上昇にも期待できず「ストックオプションのうまみが享受できないのでは…」と社員のモチベーションが低下する危険性もあります。
さらに、無償でなんとなくストックオプションを付与された場合には、インセンティブという要素をうまく利用できないということもあるでしょう。
他にも、新しく入社した従業員に対してストックオプションが付与していないなど、社内にストックオプションが付与された人とされていない人が混在すると、仕事に対する温度差が出てしまうことも想像できます。そのせいで軋轢を生み、新しい社員が定着しないなんてこともあるかもしれません。
ストックオプション目当てで仕事をしている場合は、権利行使後に社員が辞めてしまい優秀な人材を失ってしまう可能性もあることはお伝えしましたが、覚えておいていただきたいのは、『ストックオプションがある=社員の満足度やモチベーション工場、離職率低減は作用しない』ということです。
会社の株価上昇により、多額の利益を手に入れるのは一部の経営層であり、社員もそれはわかっています。一般的な企業にとって、自分の会社が上場するかどうかを真剣に気にしている労働者はそういません。
そのため、ストックオプションで社員の気持ちに大きな変化がでると信じることは危険であることは、覚えておきましょう。
ストックオプションは、売りたい時に株式を売れる体制がなければあまり意味があるものとはいえないので、上場会社か将来的に上場を目指す会社でなければうまみを享受できません。
そのため、税制価格ストックオプションの導入に向いている企業としては、将来は株式上場を目指すベンチャー企業などが挙げられます。 特に、急成長しているIT企業では、技術やサービスなどが評価されて一気に株価を押し上げるということにも期待できます。
そうなるとストックオプションを持つ人にも大きな利益をもたらすことになり、仕事へのモチベーションもアップするのです。
既に上場している企業で市場が成熟している場合は、株価が何十倍にもなるということは考えられないので、成長の見込みが大きくスピード感がある企業で導入するのが向いているといえるでしょう。
次にストックオプション導入の具体的な流れについて説明します。
ストックオプションをするためには、まず新株予約権の募集事項を決定する必要があります。会社法第238条1項に設定に必要な募集事項が記されており、内容は以下の通りです。
また、公開会社か非公開会社によって募集事項を決定する機関が異なります。公開会社の場合は取締役会の決議、非公開会社の場合は株主総会の特別決議となるのです。取締役会で決定できる公開会社では、内部の調整さえできれば機動的な発行ができますが、非公開会社の場合は株主の賛同を得る必要があり発行までに時間がかかることもあるでしょう。
新株予約権を発行する際には、募集事項の決定と通知後に新株予約権の申込み(会社法第242条)と割当て(同法第243条)というステップを踏むことになります。ただし、ストックオプションの場合は、あらかじめ付与する人が決まっていることが多いので申込みと割当てという手順を省略することができるのです。
この場合、総額引受方式(発行される株式については全て引受ける)が採用され、要件が整えば、1日で株式の発行まで完了させることも可能です。
ストックオプションを発行したら、遅滞なく新株予約権原簿を作成する必要があります(会社法第249条)。また、ストックオプションの割当日から2週間以内に、新株予約権を発行したことによる変更登記を申請しなければなりません。
通常、ストックオプションは行使時にその会社の取締役や従業員であることが前提で、退職する場合はストックオプションの権利を失うことになります。しかし、任期満了による退任、定年退職その他正当な理由のある場合などには権利を失わないことが条件として組み込まれている場合は、退職していても権利行使することが可能です。
紛争を避けるために、ストックオプションが付与された従業員が退職する場合は、ストックオプションの放棄について記載した同意書などに同意を得た方が安心です。
税制適格ストックオプションの要件は細かく、さまざまな条件をクリアする必要がありますが、権利行使時に税金がかからない点でメリットが大きいです。
税制非適格ストックオプションの場合は、権利行使時には現金を得ることができないにも関わらず、給与所得として税金がかかってしまうので、結局税金を支払うために権利行使後にすぐ売却するということも多いといいます。
税制適格ストックオプションを導入することにより、社員は株価を押し上げようと頑張り、会社の士気が上がることに期待ができます。しかし、税制適格ストックオプションを売却したら会社を辞めてしまうなど、良い人材が流出してしまう可能性もあるので、その点では注意が必要です。
また、ストックオプションを持つ人と持たない人が混在する場合は社内での温度差が生まれてしまうので、経営陣は上手くマネジメントしなくてはいけなくなります。
そのため、税制適格ストックオプション導入によるメリットとデメリットを良く検証してから導入すべきといえます。
本記事は企業法務弁護士ナビを運営する株式会社アシロ編集部が企画・執筆いたしました。
※企業法務弁護士ナビに掲載される記事は弁護士が執筆したものではありません。
本記事の目的及び執筆体制についてはコラム記事ガイドラインをご覧ください。