
株式譲渡契約書とは、会社の株式を譲渡する際に、譲渡人と譲受人との間で締結する契約内容を記載する合意書面です。
英文ではShare Purchase Agreementと呼ばれるため、実務上「SPA」という略語が用いられることもあります。
株式譲渡をする際には、株式譲渡契約の内容を明確にするために、契約書が重要な役割を果たします。
株式譲渡は会社の経営権の移転や譲渡代金が高額に及ぶ場合があるなど極めて重要な取引です。
通常の契約でも当事者間の認識に齟齬がある場合はトラブルの原因になりますが、内容の重大性に鑑み、株式譲渡契約書は不備のないよう特に慎重に作成しなければいけません。
この記事では、株式譲渡契約書の作成方法や注意点についてご紹介します。
契約書のテンプレート(主要な項目に限る)や必要な記入項目の解説をしていますので、株式譲渡を検討されている場合は参考にしてみてください。

株式譲渡契約書の雛形|テンプレート
まずは、株式譲渡契約書の雛形(主要な項目)を2種類ご紹介します。
以下は、株券不発行会社(株券を発行しない会社)であることを前提としています。
雛形|テンプレート |
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株式譲渡契約書に必要な項目
株式譲渡契約書に必要な記載項目を8つご紹介します。
契約書の記入項目(主要な項目) |
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①譲渡合意
譲渡合意とは、株式取引の主な内容を記載する項目です。
具体的には、どの会社のどのような株式を何株いくらで譲渡するかを記載します。
種類株式発行会社の場合は特に、認識違いによるトラブルを避けるためにも、譲渡合意において譲渡対象株式を特定することは株式譲渡契約書に欠かせない重要なことだといえます。
②前提条件
株式の譲渡は一定の目的が前提となっていることが多いです。
例えば譲渡会社の完全子会社を譲受会社の完全子会社にするために株式の譲渡が行われるようなことがありますが、このような場合、譲受会社は譲渡後に自ら会社を運営したいはずです。
ところが、譲渡会社が選任した経営陣が残っていると譲受会社の目的が達成できません。
そこで、このような場合には経営陣が株式の名義変更がなされた時点で退任することが必要となります。
このように、株式の譲渡にはどうしても満たさなくてはいけない前提条件が存することがあります。
前提条件が存在する場合は、その前提条件を株式譲渡契約に規定することは必須です。
③クロージング
クロージングというのは、代金の支払いと株式の譲渡の実行のことです。
一般にクロージングと呼ばれていますが、日本語で「実行」としても全く問題ありません。
クロージングの条項ではクロージングの手続が定められますが、クロージングを行うクロージング日を定めることが重要です。
株式譲渡契約日とクロージング日は同一であることもありますが、前提条件の履行のため、同一にできないこともあります。
前項で説明した経営陣の辞任が必要な場合を例に取りますと、経営陣からクロージング日において退任する旨の辞任届を提出してもらう必要があり、契約と実行を同じ日に行えないこともあります。
そのため、株式譲渡契約の締結日とクロージング日との間には一定の期間が空くことが通常で、特にクロージング日を定める必要が生じます。
なお、クロージングの場所や時刻まで規定することもあります。
④譲渡代金の支払い方法
譲渡代金の支払い方法の項目には、譲渡代金と支払期日、振込先口座その他支払いに必要な事項を記載します。
なお、現金で支払いを行う場合や無償譲渡を行う場合は、適宜修正してください。
⑤書類・物品の授受
前提条件の項で説明した経営陣の辞任届のほか、譲渡制限会社における譲渡を承認する議事録、株主名簿の書き換えについての同意書といった書類や実印や銀行印を、代金の支払いと引き換えに譲受人に交付します。
譲受人がクロージング後すぐ会社を経営するためには、これについても規定しなくてはいけません。
なお、会社の支配の状況が変わらないような場合であれば、株主名簿の書き換えについての同意書の交付だけで足りるでしょう。
契約後に名義書換に絶対に協力してくれるなら同意書の交付は不要ですが、譲渡人が協力してくれない可能性もあることから、トラブル回避のために同意書は差入れさせてください。
⑥株式譲渡に関する表明保証
表明保証条項には、譲渡人が譲受人に対して、ある特定の事項が真実かつ正確であることを表明し保証する旨を記載します。
例えば、株式譲渡にかかる株式の所有者が譲渡人でない場合や、開示された対象会社(譲渡される株式を発行している会社のことです。)の資産状況が実際とは異なっていた場合、対象会社とその重要な取引先との間の契約書で株主構成に変更があったときは解除原因となることが定められている場合など、不測の事態が生じることで譲受人が思わぬ損害を被らないようにする役割を担うものです。
すべての事項が確定した状態で株式譲渡契約を作成することができれば望ましいのですが、譲渡株式にかかる会社が事業を継続している以上、資産状況その他会社を巡る状況が日々変わるので、契約書にすべてを明記することは不可能です。
そこで、契約書の記載と実際の状況とが同一であることを売主に保証させ、買主が不測の損害を被ることを防ぐことが必要になります。
その意味で、株式譲渡契約書では最も重要な項目です。
株式譲渡の目的や内容その他の事情によって表明保証する内容が変わるので、必ずこの表明保証条項の対象とするべきという事項はありませんが、代表的な表明保証事項としては、以下のような内容が挙げられます。
表明保証の例 |
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⑦誓約条項
株式譲渡契約により完全子会社が譲渡されたような場合は、譲渡人は経営のノウハウを持っているので、株式譲渡後に同種の事業を営むことができてしまい、このとき譲受人は株式譲渡契約の締結の意味が相当程度失われてしまいます。
このような理由により、クロージング日以降に一定の事項を遵守することを誓約する条件が入ることが多いです。
⑧契約解除
契約解除の項目は、どのような場合に株式譲渡契約の解除を認めるか(解除事由)を記載する項目です。
一般的には、相手方の契約違反や表明保証違反が解除事由となることを明記しますが、当該違反に対して契約解除とともに被った損害の賠償義務を記載することもあります。

まとめ
株式譲渡契約書の確認不足により、取引後の思わぬトラブルにつながるケースは珍しくありません。
特に、株式譲渡に関する「表明保証」は重要な項目ですので、取引相手との間で慎重に確認しながら作成するようにしてください。
なお、上記契約書雛形は主要な項目について記載した一つの参考例に過ぎず、実際に株式譲渡契約書を作成する場合には、事案の特性に応じて項目の追加又は削除が必要となります。
例えば、表明保証条項や契約解除条項などについては様々なパターンが考えられますし、そのほかの契約条項が規定されることもあります。
株式譲渡契約の重要性に鑑み、弁護士に相談をすることをおすすめします。
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