オフィスの撤退・移転を考えた場合、オフィス用品の処分・引っ越し代の他に、管理会社から原状回復費を請求されます。
オフィスの原状回復費は、オフィスの規模はもちろん、ビルの品質・築年数・立地などによっても大きく変わってきます。
しかし、請求された金額にそのまま承諾してしまうと、負担する必要のない費用まで支払いかねません。
この記事では、オフィス移転・撤退に伴う原状回復費の相場や、相場以上の原状回復費を請求された場合の対処法などを紹介します。
オフィス原状回復費の相場
オフィス原状回復費の相場はオフィスの原状回復費は、一般的に以下のような相場になります。
- 小・中規模のオフィス:2~5万円/坪
- 大規模のオフィス:5~10万円/坪
- ハイグレード・Aグレードオフィス:10~50万円/坪
オフィスの原状回復費は、オフィスの規模の他にも、ビルの品質・築年数・立地などによっても大きく変わります。
また、オフィスの原状回復にかかる人件費も、その年の状況や制度、最低賃金などで変わるため、相場に収まりきらないケースも珍しくありません。
新宿区にある築33年のビルでは、約75坪で原状回復費の初期見積もりは約500万円でした。
オフィスの原状回復費が相場以上になった時に確認すべき2つのこと
オフィスの原状回復費は、先ほども紹介した通り、様々な要因から決まり相場を超えるケースも珍しくありません。
しかし、賃借契約のせいで原状回復費が高額になってしまっている可能性があります。
ここでは、オフィスの原状回復費が相場以上になった時に確認すべき2つのことについて紹介します。
「通常損耗・経年劣化」の負担は誰がするのか
借主はオフィスの通常利用によって発生した損耗(通常損耗)や経年劣化については、原則として原状回復義務を負いません。
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」に基づき、「通常損耗・経年劣化」は賃貸者負担とすべきと判断されています。
また、この考え方が法律にも明記されることになり、令和2年4月1日から施行された改正民法では、賃借人が負う原状回復請求の対象について、
通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の損耗並びに賃借物の経年劣化を除く(引用元:民法第621条)
と明記されるようになりました。
同日以降に締結された賃貸借契約には、この改正民法が適用されることになりますが、それ以前に締結された賃貸借契約でも原則として同じ考え方が妥当します。
ただ、オフィス契約の場合、特約を設け「通常損耗・経年劣化」を借主が負担するよう記載されており、原状回復費に負担額が含まれてしまっているケースもあります。
このような特約も基本的には有効ですが、「借主が通常損耗や経年劣化をどの範囲まで負担すべきか契約上明確にされているか」によって、原状回復を負うべき範囲が変わってきます。
しかし、事業用建物では一般住宅よりも明確性の程度が緩やかに解され、有効と解釈されるケースが多いようです。
原状回復費の内訳に通常損耗や経年劣化(デスクなどの設置の跡・日照による床や壁の変色など)に対する請求が含まれている場合、契約書を見直し、通常損耗や経年劣化を誰が負担するのか確認しましょう。
記載されていない範囲のことや、記載されているものの対象範囲の明確な指定がなく、有効性に問題がある場合は、負担を拒否できる余地があります。
原状回復工事の内訳の内容と金額は妥当か
原状回復工事を管理会社が指定する業者にしか依頼できない契約になっている場合、他の業者と見積もりを比較されることがないため、必要以上に高い見積もりになっている可能性もあります。
そのため、見積もりを出してもらった後は、必ず内訳が記載してある見積書を提出してもらいましょう。
その上で、記載されている工事項目とそれぞれの金額を確認します。
確認すべきは、記載内容が工事に必要なものか、金額が妥当なのかについてです。
特に心当たりがないようなものがあれば、管理会社や工事業者に説明を求めましょう。
見積書に疑問や不安がある場合は、自社で修繕工事業者に依頼し、原状回復費の見積書を作成してもらいましょう。
相場以上の原状回復費を請求された後の流れ
オフィスの移転・撤退に伴い相場以上の原状回復費を請求された場合、基本的に以下のような流れで減額交渉へ進みます。
具体的に紹介します。
①指定業者の見積金額が妥当か判断する
まず、指定業者の見積金額が妥当なのか判断します。
心当たりのない箇所があれば、詳しい説明を求めましょう。
また、退去前に写真等で現状を記録化しておく必要があるでしょう。
判断方法としては、自分で調べる方法もありますが信用性に問題が生じる可能性があるため、指定業者以外の修繕工事業者に見積書の作成を依頼しましょう。
見積書を比較して減額の余地があれば、弁護士へ相談し実際にどのくらい減額できそうかについて相談をします。
②企業法務の得意な弁護士へ相談
賃貸借契約書と見積書を持参し、企業法務が得意な弁護士へ、どのくらい減額できるかなどについて相談します。
依頼後は弁護士が相手方へ弁護士が介入する旨を記載した通知を送り、交渉が始まります。
③管理会社との示談交渉
状況に合わせて、以下のようなことについて交渉していきます。
- 指定業者の見積もりが高い場合は、業者を変更できないかについて
- 原状回復費の減額について
- 原状回復義務の範囲について
- 敷金(保証金)の返還について など
交渉の末に合意ができれば、合意書を作成し、示談成立となります。
原状回復費の金額のみで争っている場合、管理会社が「これ以上減額できません」と減額を拒否したときに、考えられる選択肢として、
- 現在の提示金額で合意する
- 合意せず、その後敷金返還請求として訴訟に進む
の2択があります。
ただし、訴訟をしても、大幅な減額が望めず費用倒れになってしまうリスクもありますので、弁護士とよく相談して決めるようにしましょう。
まとめ
オフィスの移転・撤退に伴う原状回復費は、契約内容や見積書の内容によっては減額が可能です。実際に弁護士に仲介してもらい、約510万円→470万円の約40万円の減額した事例もあります。
原状回復費が高いと感じた場合は、仕方ないと承諾せず、企業法務の得意な弁護士へ相談しましょう。