【企業向け】退職代行への正しい対応方法とは

専門家執筆記事
近年「退職代行」の利用者が増えています。「退職代行」を名乗る者から電話が来た場合、会社や人事はどのような対応を取るべきでしょうか。この記事は、実際に企業法務に詳しい弁護士に対応方法を執筆して頂きました。
STO法律事務所
周藤 智
執筆記事
人事・労務

「退職代行」を名乗る者から電話がきた場合、人事はどのような対応をすべきなのでしょうか。

今回、「退職代行」への正しい対応を教えて下さるのは、東京圏雇用労働相談センター(TECC)の相談員を始め、幅ひろい企業法務の知識と1人1人に寄り添う姿勢で、企業と相談者様を支えている【STO法律事務所の周藤 智弁護士】です。

この記事に記載の情報は2024年06月14日時点のものです
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退職代行からの退職を阻止することは基本的には難しい

基本的には退職を認めることになります。民法第627条に以下の規程があります。

第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

したがって理由の如何にかかわらず、2週間の予告期間があれば労働者は退職することができるので、引継ぎや有給取得等の交渉はできる可能性があるものの、退職自体については、会社は説得以上のことはできません。

 

では2週間は働いてもらえるのかといえば、「即時退職」が認められた場合は即日にでも退職されてしまう可能性があるためご注意下さい。

有期雇用の場合は例外

先ほどの民法第627条ですが、いわゆる正社員の方に適用される条文で、雇用期間が定められている契約社員やパートタイマー等の有期雇用者には適用されません。基本的には契約期間が終了するまで勤務することとなります。

 

但し、民法第628条にいう「やむを得ない事由」がある場合には「即時退職」が認められます。この「即時退職」は契約期間であればいつでも辞められるという趣旨の言葉ですので、「即時」だからといってすぐに辞めなければならないというものではありません。なお先ほど述べた通りこの条文は正社員にも適用されると考えられています。

第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。(以下略)

企業側に、未払賃金やハラスメントなどの法令違反があれば即時退職が認められる可能性が高くなるため、日頃から法令を遵守していることが重要です。

「退職代行」は誰が行っているかで対応が異なる

「退職代行」を誰が行っているかで、こちらも対応を変える必要があります。主に、行うのは以下のような者です。

  • 弁護士
  • 非弁護士(業者)

弁護士資格が無い業者による退職代行には多くの問題を孕んでおります。本来、法律問題に関する交渉は、弁護士の独占業務とされており、弁護士以外の者が代理する場合には交渉自体無効とされる可能性が高いでしょう。

したがって、弁護士資格のない者による交渉は、「本来であれば法的に意味のない」又は「違法・無効な」やりとりが発生していることがあります。

非弁護士の退職代行に対する対応方法

まずは、非弁護士による退職代行への対応方法をご紹介します。

委任状を確認

非弁業者の場合には、大量に案件処理を行っていることが多いと思われますので、まず、本当に依頼されているか確かめることが有効かと考えます。これは、正式な委任関係書類を作成していないことが想定されるためです。

委任状等の提示を求め、無ければ本人の意思が確認出来ないことを理由に取り合わず、本人からの連絡を求めるといった対応が考えられます。非弁護士の場合は、交渉自体ができませんので、委任状その他の記載によって本人が本当にそう言っているのかどうかの裏付けがとれない限り、適法な退職の意思表示とは認めることはできないと伝えることも良い対応です。

また、非弁業者には残業代等の請求はできませんので、それに対しては取り合わず、弁護士からの連絡でなければ対応できないと伝えましょう。しかしながら、残業代の支払義務があるのであれば放置しておくわけにもいきません。労基署の立入検査や改めて弁護士から請求されることも考えられるので、早めに弁護士へ相談し対応されることをおすすめします。

当該社員の雇用契約を確認

退職代行を利用した社員の雇用形態(正社員・契約社員・パート・アルバイトなど)を確認します。契約社員などの有期契約社員であった場合は、契約期間も併せて確認します。

就業規則その他の社内規程や各種法令に基づいて、雇用契約内容に応じた退職日を設定します。就業規則等に定めが無い場合、正社員なら2週間後、契約社員なら契約期間満了後などです。

業者から、退職までの期間の短縮を求めてくる場合は交渉事になりますので、本人の意思を確認できるものの提示を都度求めるか、本人もしくは代理人弁護士から連絡するように要求することになります。要求を無視して業者が独自に交渉してくる場合は、弁護士会へ非弁活動を報告しても良いですし、そのことも踏まえて弁護士に対応方法をご相談されることも検討すべきでしょう。

退職日までの扱いを検討

例えば2週間後に退職と決まった場合、本来は2週間働いてもらうことになるのですが、出勤してくるとは考え辛いです。そうすると、不在となった間の勤務をどう扱うべきでしょうか。

自発的に有給休暇扱いにする必要はありません。原則は「従業員の事前の届け出により」取得するものですから、そもそも企業側が勝手に有給扱いにすることは本来認められていません。ただし、有給取得の手続きについて就業規則等の定めを確認しておく必要はあります

なお、仮に有給消化を含めた委任があるとしても、企業側から時季変更権を主張することは可能ですが、退職直前の時季変更権の行使可否には争いの余地があるため専門家に相談してから進める方が無難です。

退職事由を検討

基本的には自主退職が望ましいですが、退職日までに欠勤がある場合はそれを事由として懲戒解雇にすることも検討の余地はあります。就業規則の定めによっては、即時解雇や有給取得阻止等ができ、退職金を支払う必要も無くなるため、予期せぬキャッシュアウトを抑えられる可能性が出てきます。

また、給与についても欠勤日数分を控除(減額)することを検討しても良いでしょう。

引継ぎを要求

担当させていた業務によりますが、あるお客様の情報はその社員にしかわからないということも往々にしてあります。そういった場合、お客様に迷惑をかけないためにも、しっかりと引継ぎを行ってもらいたいところです。引継ぎを要請したにも拘わらず本人から何のアクションも無い場合、懲戒処分や場合によっては損害賠償の請求も検討します。また、業務用の携帯電話やPCを貸与していた場合、返却も求めましょう。

特に引継ぎに関しては就業規則で義務付けておく必要があるので、就業規則に定めがあるか確認しておきましょう。仮に定めが無くても引継ぎを求めることは出来ますが、これも交渉になるので業者に対し、本人に連絡を取ってもらう必要があります。

なお、損害賠償請求については認められない可能性もあるので、非弁業者を用いた伝言が違法であり、実質的に無断欠勤と解されるのであれば、まずは懲戒処分を検討するのが通常ではないかと思います。

弁護士の退職代行に対する対応方法

弁護士による退職代行への対応方法をご紹介します。

委任状を確認

相手が弁護士であっても、委任状は確認しておいた方が良い場合もあるでしょう。場合によっては弁護士を名乗っているだけということもあります。弁護士会のホームページなどで実在する弁護士か否か確認出来ます。

交渉に際しては細心の注意を

基本的には非弁護士の業者と同様の対応になるものの、非弁護士であれば代理権が無いことを理由に断れたことが、相手が弁護士の場合は代理権があるため断れなくなります。そうすると交渉するしかないのですが、交渉が決裂すると訴訟に発展する可能性があるため、こちら側に訴訟で勝てる見込みが無いのであれば、要求に応じた方が無難です

即時退職については民法第628条(場合によっては労働基準法第15条第2項)に基づいた主張を行われることが想定されますし、有給取得についても時季変更権が有効か否かの争いに発展する可能性があります。

引継ぎに関しても交渉になりますが、就業規則に定めが無ければ不利になります。特に対面での引継ぎは拒否されるでしょうが、最低限書面等での引継ぎはしてもらいたいところです。

場合によっては損害賠償の支払まで求められる

仮に訴訟に発展して敗訴した場合、自らの主張が通らないことに加え、会社の行為が違法と判断されれば損害賠償責任等を負う場合もありますので、その場の判断だけで要求を拒否するのは危険です。

会社としては慎重な対応が必要になるので、大きな問題がなければ初めから要求に応じてしまうか、専門家に対応を依頼することをおすすめします。過去の対応に何ら問題が無く規則その他も適切に整備されていれば、仮に訴訟を起こされてもこちらの言い分を主張し争うことが出来るでしょう。

今後のために知っておきたいこと

就業規則次第で対応出来る範囲が変わる

途中いくつも「就業規則に則る必要がある」等と述べてきたように、就業規則さえ整理しておけば断れる要求もあります。また、退職代行を使われた段階になって慌てて就業規則を変更したとしても無効と解される可能性がかなり高いので、気になった段階で早めに整備を進めることをおすすめします。

離職を加味した人員配置を検討

近年では昔ほど新卒で入って定年まで働くという考えは定着していませんので、離職率は上昇していくことが想定されます。給与形態や人員配置について、人材の流動性を踏まえた形となっているか一度確認してみてはいかがでしょう。

例えば、一人だけで担当している業務があれば、その従業員が退職すると回らなくなってしまいます。主・副のような形で複数人に担当させる、マニュアルを整備して誰でもすぐに業務がこなせるようにするといった対策が考えられます。

まとめ

退職代行を利用した社員は何万円という退職代行費用を負担してでも、自分で直接辞意を伝えるより業者に代弁してもらうことを選んだわけです。今後そういったことが起きないよう、「従業員が意見しやすい職場」について改めて考えてみる機会と捉え、一度職場環境を見直してみましょう。

退職代行のような新たなサービスはある意味では時代の変化の象徴とも捉えられるので、これを機に就業規則を含め、今までのやり方を一度振り返ってみてはいかがでしょうか。

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