内部統制システムを構築する際の項目や構築時のポイントを解説

専門家監修記事
内部統制システムは、企業の根幹を支える仕組みであり、不備があってはいけません。特に、内部統制システムの構築項目は機関設計ごとに異なるため、中身を十分理解しておく必要があります。この記事では、内部統制システムの構築項目や、構築時のポイントなどを解説します。
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
監修記事
人事・労務

内部統制システムをどのように整備・運用していくか、具体的な方法を一律に定めることは困難です。なぜなら、企業によって組織の形態や授業員の数、組織内に存在する部門や業務などが異なるからです。そのため、内部統制システムを構築する場合には、内部統制の機能と役割を理解した上で、その目的を達成できるように工夫していかなければなりません。

 

この記事では、内部統制システムを考えていく際に必要となる構築項目に関して説明いたします。内部統制システムは整備と運用ができてはじめて効果があります。しっかりと構築項目を理解した上で、内部統制システムを導入しましょう。

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内部統制システムの構築項目

会社法施行規則では、会社が構築すべき内部統制として5つの項目が定められています。これらの項目は監査役設置会社や取締役会設置会社など、どの機関設計においても共通する項目です。ただし、当然、異なっている項目も存在します。 ここでは、共通項目と異なる項目の2種類を、簡単にご紹介します。

どの機関設計にも共通する項目

取締役会設置会社や監査役設置会社など、企業の機関設計の違いは内部統制システムを構築する際の項目にも差異を生じさせます。ですが、共通する構築項目があることも事実です。共通する項目としては以下の5点があります。

 

取締役(執行役)の職務の執行に係る情報の保存・管理に関する体制

企業では事業活動を通じて経営目的の達成を目指します。そのために必要な役割を従業員らに分担し、権限や職責を個人に与えているのです。

 

これは取締役や執行役も同様です。従業員とは異なる立場ですが、基本的には選任を受け、経営のプロとして会社の資産を守るために職務を執行します。内部統制システムの構築では、その取締役らがどのような職務を執行するのかについて、明文によるルールを策定することになります。

 

そして、運用面でも業務執行の記録をとり、記録情報を一定期間保存する体制を整えるのが通常です。具体的には、取締役会での決議事項や報告事項を議事録として残し、保管するという仕組みが挙げられます。

 

損失の危険の管理に関する規程その他の体制

内部統制システム構築のためには、企業の経営目標を達成する上で阻害要因となるリスクを洗い出す必要があります。そして、そのリスクが現実化したときの影響や対処方法などを適切に検証し、構築項目に組み入れます。具体的には、リスク管理に関する規定を整備することや、内部監査の仕組みを確立することが挙げられます。

 

取締役(執行役)の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制

適切な取締役の職務執行を規定することができると、相互牽制機能を強化することにつながります。これによって不正行為やミスの防止といった効果を期待することができるでしょう。このための取り組みとして、取締役会規定で取締役会の権限や、責任を明確にすることなどが考えられます。

 

使用人の職務の執行が法令・定款に適合することを確保するための体制

法令順守(コンプライアンス)の徹底をこの項目では定めています。法令順守は単に違法行為を禁止するといった効果を持つだけではありません。それに伴う業務のマニュアル化などによって、職務の効率が向上するなどの効果も期待できます。 具体的には、職務分掌や職務権限、決裁基準などの規定の整備といったことが挙げられます。

 

また、法令順守の規定では単に整備をするだけでなく、罰則規定を設けることも重要になります。

 

企業集団における業務の適正を確保するための体制

内部統制システムの構築において、本項目は特殊です。なぜなら、規定の範囲が自社のみならず、企業集団(グループ会社)全体となっているからです。

 

そのため、グループ会社における親会社と子会社によって取り組むべき内容が違います。 親会社は関係会社管理規定と呼ばれるものを設けて、子会社の業務の適正を確保するために議決権を行使する方針などを確認しなければなりません。一方で子会社は、親会社による取引先の強要といった不当な圧力への予防策や、対処方法を決定する必要があります。

機関設計によって異なる項目

今までは各企業形態において共通する内部統制システムの項目をご紹介しました。次に、機関設計によって異なる項目を、取締役会非設置会社取締役会設置会社監査等委員会設置会社委員会設置会社の順にご紹介いたします。

 

取締役会非設置会社

取締役会非設置会社は、基本的には取締役会設置会社と決定すべき項目が共通しています。取締役会設置会社は取締役が3名以上おり、業務の執行に関しては取締役会を通じて決定されることから、新たに業務決定の適正を確保する体制を構築する必要がありません。

 

しかし、取締役が複数名いるのにもかかわらず、取締役会が設置されていないとすると、業務執行に対する牽制が弱く、不適切な業務執行が行われる危険性が否定できません。会社法施行規則98条2項において、業務の決定が適正に行われるための体制構築が求められており、このような場合は取締役会を設置することを検討するべきです。

 

取締役会非設置会社は監査役の設置は任意ですが、設置しないのであれば、取締役が株主に報告すべき事項の報告をするための体制を構築しなければなりません。また、監査役設置会社であれば、会社法施行規則98条4項に規定される要件を守る必要があります。

会社法施行規則98条4項(抜粋)

一.監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項

二.前号の使用人の取締役からの独立性に関する事項

三.取締役及び使用人が監査役に報告をするための体制その他の監査役への報告に関する体制

四.その他監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制

 

取締役会設置会社

取締役会設置会社が決定すべき項目は、前述の「取締役(執行役)の職務の執行に係る情報の保存・管理に関する体制」など、共通項目5つです。しかし、監査役設置会社か非設置会社かによって追加される項目があります

 

監査役を設置していない場合は、会社法施行規則100条2項に基づき、取締役が株主に報告すべき事項の報告をするための体制を整備する必要があります。 一方で、監査役設置会社の場合には、監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項など、会社法施行規則100条3項が定める規定を守らなければなりません。

会社法施行規則100条3項(抜粋)

一.監査役がその職務を補助すべき使用人を置くことを求めた場合における当該使用人に関する事項

二.前号の使用人の取締役からの独立性に関する事項

三.取締役及び使用人が監査役に報告をするための体制その他の監査役への報告に関する体制

四.その他監査役の監査が実効的に行われることを確保するための体制

 

監査等委員会設置会社

監査等委員会設置会社とは、2014年の会社法改正によって新たに導入された、株式会社の機関設計です。この機関設計には、監査役会が存在せず、社外取締役を過半数含んだ取締役3名以上で構成される監査等委員会が取締役の職務執行を監査します。

 

上場企業で急速に広まりつつある監査等委員会設置会社ですが、内部統制システムの整備に関して定めるべき項目は、会社法施行規則110条の4において規定されています。

会社法施行規則110条の4(抜粋)

一.当該株式会社の監査等委員会の職務を補助すべき取締役及び使用人に関する事項

二.前号の取締役及び使用人の当該株式会社の他の取締役(監査等委員である取締役を除く。)からの独立性に関する事項

三.当該株式会社の監査等委員会の第一号の取締役及び使用人に対する指示の実効性の確保に関する事項

四.次に掲げる体制その他の当該株式会社の監査等委員会への報告に関する体制

イ)当該株式会社の取締役(監査等委員である取締役を除く。)及び会計参与並びに使用人が当該株式会社の監査等委員会に報告をするための体制

ロ)当該株式会社の子会社の取締役、会計参与、監査役、執行役、業務を執行する社員、法第五百九十八条第一項の職務を行うべき者その他これらの者に相当する者及び使用人又はこれらの者から報告を受けた者が当該株式会社の監査等委員会に報告をするための体制

五.前号の報告をした者が当該報告をしたことを理由として不利な取扱いを受けないことを確保するための体制

六.当該株式会社の監査等委員の職務の執行(監査等委員会の職務の執行に関するものに限る。)について生ずる費用の前払又は償還の手続その他の当該職務の執行について生ずる費用又は債務の処理に係る方針に関する事項

七.その他当該株式会社の監査等委員会の監査が実効的に行われることを確保するための体制

 

指名委員会等設置会社

指名委員会等設置会社では、取締役会が経営の監督業務を担います。執行役が業務執行するという、経営の合理化と適正化を目的とした株式会社の機関設計です。会社法2条12号に基づき、取締役会には監査委員会、報酬委員会、指名委員会を設置する必要があります。

 

そして、内部統制システムの整備においては、監査委員会の職務執行に関して設けるべき項目を規定しています。

会社法施行規則112条(抜粋)

一.当該株式会社の監査委員会の職務を補助すべき取締役及び使用人に関する事項

二.前号の取締役及び使用人の当該株式会社の執行役からの独立性に関する事項

三.当該株式会社の監査委員会の第一号の取締役及び使用人に対する指示の実効性の確保に関する事項

四.次に掲げる体制その他の当該株式会社の監査委員会への報告に関する体制

イ)当該株式会社の取締役(監査委員である取締役を除く。)、執行役及び会計参与並びに使用人が当該株式会社の監査委員会に報告をするための体制

ロ)当該株式会社の子会社の取締役、会計参与、監査役、執行役、業務を執行する社員、法第五百九十八条第一項の職務を行うべき者その他これらの者に相当する者及び使用人又はこれらの者から報告を受けた者が当該株式会社の監査委員会に報告をするための体制

五.前号の報告をした者が当該報告をしたことを理由として不利な取扱いを受けないことを確保するための体制

六.当該株式会社の監査委員の職務の執行(監査委員会の職務の執行に関するものに限る。)について生ずる費用の前払又は償還の手続その他の当該職務の執行について生ずる費用又は債務の処理に係る方針に関する事項

七.その他当該株式会社の監査委員会の監査が実効的に行われることを確保するための体制

内部統制システムを構築する際のポイント

内部統制システムを構築していく上で欠かせないのが、6つの基本的要素です。 この6つの基本的要素がなければ、内部統制の目的である「業務の有効性及び効率性」や「財務報告の信頼性」などが達成できません。

①統制環境

6つの基本的要素の1つ目は、統制環境です。社内に内部統制を徹底するための環境が整備されているか、責任者の意向や姿勢が反映された組織の気風ができあがっているのかなどを検討するとよいでしょう。

 

もし統制環境が整っていなければ、どれだけ優れた評価システムを構築したとしても、運用する人間の意識が高くないため、十分な効果を発揮しません。そのため、他の基本的要素と比べても特に重要なポイントであると考えられます。

②統制活動

統制活動とは、経営者の命令や指示が適切に実行されることを確保するために定める方針及び手続きのことです。具体的な取り組みとしては、職務分掌規程や人事規程、業務マニュアルの作成が挙げられます。

③リスク分析と対応

内部統制システムの構築では、リスクを評価・分析し、リスクの大きさに応じた適切な対応をとることが求められます。そのため、経営者にはあらかじめ経営目標の達成の上で阻害要因となるリスクを洗い出して分析を行い、その対応をとることが求められます。

④情報と伝達

インターネットの発達にともない、情報のやり取りはますます複雑化しています。事業活動を行う上では、ヒト・モノ・カネに並んで、情報の重要性が説かれるようになってきました。そのため、内部統制システムにおいても、情報のやり取りがフォーカスされているのです。

 

実際のシステム構築では、どういった情報が必要なのか判断し、組織内もしくは組織外に適切に伝わるよう、情報システムを確立しなければなりません。

⑤モニタリング

モニタリングとは、内部統制システムがきちんと機能しているかどうかを確認するプロセスのことを意味します。システムは、ただ作っただけでは効果がありません。システムを機能させ、かつ継続的に運用していくためには、組織としてシステムの監視をしていく必要があるのです。

 

なお、日常業務の中で行われる売掛金管理や発注管理などのことを日常的モニタリングといい、日常業務から離れて行われるものを独立的評価といいます。

⑥IT対応

現代において、ITは必要不可欠なものとなりました。事業活動においても、ITをまったく使わないということはありえないでしょう。こうした時代背景や現代の企業の事業活動を考えると、内部統制においても、ITへの適切な対応が求められるのは自然な流れです。

 

日本企業は、特にこのITへの対応が遅れているといわれています。業務の効率化ばかりに主眼を置いてしまい、システム上の承認機能やアクセス管理機能がないといったケースが多く存在します。そのため、システムの効率的、かつ安全な運用のために必要な統制を敷かなければならないのです。

 

これら6つの基本的要素をクリアすることで、内部統制システムを構築することができるのです。

内部統制システムの構築基準

内部統制システムは、構築さえすればありとあらゆる不正行為や不祥事を防ぐことができる、というわけではありません。あくまでも、4つの目的を合理的な範囲で達成しようとするものです。費用対効果や時代の急激な変化などの要因によっては、内部統制システムにも限界があります。

 

しかし、不祥事等が発生すれば、社長をはじめとした代表者に、善管注意義務違反などを理由として責任追及がなされます。実際、日本システム技術事件では従業員の不正会計の責任が代表取締役に問われ、最高裁まで裁判が発展しました。判決では、代表取締役が通常想定される不正行為を防止し得る程度の管理体制を整えていたこともあり、善管注意義務違反(任務懈怠責任)はなかったと判断されました。 この日本システム技術事件(最判平成21年7月9日)の判決は、内部統制システムの構築に関するリーディングケースの一つとしてとらえられています。

 

実際にシステムを構築する際は、不正行為を防止し得る程度の管理体制となっているか、リスク管理体制が機能しているか、といった観点を重視するとよいでしょう。

内部統制システムについて弁護士に相談する必要性とメリット

内部統制システムの構築は、統制環境やモニタリングといった幅広い分野での目標を達成しなければなりません。その作業は膨大なもので、少しでも不備があれば取締役や責任者の非が問われます。そのため、社内の人員だけでは対応しきれないというのが現実です。

 

そこで活躍するのが弁護士です。 弁護士に相談すれば、コンプライアンスにかかわる分野を中心として、適切な助言と内部統制システム構築に向けたサポートを提供することができます。また、法律の専門家として、適切なシステム運用方法のコンサルティングも行うことも可能です。

 

それに加え、弁護士には職務遂行上の守秘義務が認められています。そのため、従業員による内部通報制度のより健全な機能が期待できるでしょう。もし内部通報制度によって不祥事が明らかになったとしても、早期の段階で発見できれば、内部統制システム整備義務違反や善管注意義務違反の責任を問われる恐れを、軽減できると思われます。

 

弁護士に相談すれば、こうしたさまざまなメリットを享受することができるのです。

まとめ

内部統制システムは、構築することに意味があるわけではありません。むしろ、構築を通してコンプライアンスの意識やコーポレートガバナンスの精神が、社長をはじめとした企業のトップ、また社内全体に培われることの方が重要なのです。

 

いくら優れたシステムを作ろうとも、運用する人間にその意識がなければ何の効果もありません。 モニタリングが機能せず、防げるはずの不祥事も防げなくなってしまいます。 だからこそ、内部統制システムの構築では整備すべき項目よりも、意識改革という点が何よりも重要になるのです。

 

 

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