近年では「アルバイトに備品を壊されてしまった!」「アルバイトがSNSでお店の悪口を書いている」など、アルバイトの従業員が、職場に損害を与えるケースが目立つようになりました。
このような場合には、会社や店舗の損害を回復するため、アルバイト従業員に対して損害賠償請求をすることが考えられます。この記事では、アルバイトに対する損害賠償請求についてご説明します。
アルバイトに損害賠償請求できるケース
アルバイトに損害賠償請求する法的根拠には、2つあります。
- 労働契約に基づき労働者が負う職務専念義務や誠実義務違反を理由とする、債務不履行に基づく損害賠償請求権(民法415条)
- 労働者の故意や過失に基づく行為によって損害が生じたことを理由とする、不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)
このような損害賠償請求を行うことができるケースには、以下のようなものがあります。
突然出勤してこなくなり、営業に支障がでた
労働者が突然出勤しなくなり、一切音信不通の状態となったことで業務に具体的支障がでた場合、損害賠償の対象となり得ます。
しかし、このような具体的支障の有無やその損害額は、会社側が証明する責任(立証責任)を負いますので、ハードルは非常に高いでしょう。
また、この場合でも労働者側に損害全額を請求することは困難であり、認められたとしてもせいぜい損害額の20~30%程度であるのが通常です。したがって、仮に請求が認められても弁護士費用の方が上回ってしまう可能性もあります。
機材や価値のあるものを意図的に壊した
アルバイト店員が、注意されたことにムシャクシャして宅配用のバイクを蹴り倒し破損させたなど、会社や店舗の資産を意図的に壊した場合には、故意ある行為により会社の財産に損害を与えたとして、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)ができる可能性があります。
この場合は被害額が明確ですし、責任の全部が労働者側にあることも明らかなので、損害賠償請求は認められやすいでしょう。なお、相手の行為が悪質な故意行為である場合は、器物損壊罪(刑法261条)にあたるとして、刑事上の処罰を求めることができる場合もあります。
職場のお金や物を盗んだり、横領したりした
職場のお金や物を盗む行為や、会社の預金を着服する行為は、窃盗罪(刑法235条)や横領罪(刑法252条)となり得る犯罪行為です。したがって、会社は従業員に対して被害の全額を賠償するよう求めることができます。
また、当該犯罪行為について被害届や刑事告訴をすることで刑事事件として立件させることもあり得ます。
職場の評判を下げる行為をした
職場の評判を下げる行為には、以下のようなケースが考えられます。
|
このような行為によって来店客数が減少するなどの損害が発生した場合は、従業員に対して損害賠償請求することがあり得ます。もっともこの場合も損害額と因果関係の立証は会社側で行う必要がありますので、ハードルは高いです。
アルバイトに損害賠償請求する方法
アルバイトに損害賠償する方法は主に3つです。
①直接交渉(示談)する
従業員に対する請求それ自体は会社自らが行うことも可能です。請求の方法は、以下のような方法があり得ます。
- 損害額を算定して、メールで通知する
- 呼び出して直接話し合う
しかし、あくまで任意の話合いなので、相手から話合いを拒否されたり、支払いを拒まれるということは十分あり得ます。また、会社側が感情的になって「支払わないと解雇する」などと恫喝的な発言をしてしまえば、相手側から「恐喝だ」と主張されることもあり得ます。
したがって、会社が自ら交渉する場合は、協議には限界があることを理解しつつ、言動には十分気をつけましょう。
②書面で請求する
会社側に従業員に対して本気で賠償を求めるのであれば、口頭での交渉ではなく、書面で会社の主張を明確にして請求しましょう。この書面は何でも良いですが、内容証明郵便で送ることも検討に値します。
内容証明郵便とは、いつ、いかなる内容の文書を誰から誰あてに差し出されたかということを、差出人が作成した謄本(コピー)によって日本郵便が証明してくれる郵便です。なお、この段階であれば、弁護士に作成を依頼して弁護士名で送ることも考えられます。
③民事調停や民事裁判を行う
民事調停は、調停委員を介して相手と話し合うことで問題を解決する裁判所の手続です。
民事調停はあくまで双方の協議で手続が行われますので、相手方が調停に出頭しない場合や、話合いについて折り合いがつかない場合には、調停は不調となり、手続は終了します。
不調となった場合に調停に代わる決定がなされる場合もありますが、従業員への損害賠償請求の事案でそのような決定が出ることは想定しにくいです。また、同決定は相手から異議が出れば失効しますので、あまり解決には資さないかもしれません。
民事裁判は裁判所が証拠に基づいて事実を認定し、これに法律を解釈・適用して請求権の有無を裁定する裁判所の手続きです。裁判では、相手の意向にかかわらず裁判所が一定の判断を下しますので、終局的な解決を目指すのであれば、裁判手続を選択するべきでしょう。
自社の罰金制度は違法や無効になる
労働基準法は、労働契約において、罰金や、損害賠償額を予定することを禁止しています(労働基準法16条)。労働基準法は強行法規であるため、労働基準法に反する内容の労働契約や就業規則は無効となります(労働基準法13条)。
また、減給制裁については、1回額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならないと定められています(労働基準法91条)。
したがって、会社が従業員に対して独自の罰金制度を実施しており、従業員の不祥事にこれを適用したいと考えたとしても、これが減給処分として許容される場合はともかく、そうでない場合は法的には無効です。
従業員トラブルは弁護士に相談
アルバイトをはじめとする従業員が会社に損害を与えた場合、その損害を回復する最終手段は損害賠償請求以外にはありません。この場合は弁護士への依頼を検討しましょう。依頼すると以下のようなメリットがあります。
損害賠償請求を行うためには、適切な法的手段を選択し、必要な手順でこれを実行する必要があります。どのような手段で早期に確実に回収できるのかを弁護士に相談してみましょう。
また、裁判上で損害賠償請求するためには、少なくとも労働者の違法行為の事実、損害額などについて主張・立証する必要があります。弁護士に依頼すればこのような主張・立証の見通しについても的確なアドバイスを受けられるでしょう。
まとめ
以上のように、アルバイトやパート等の従業員が会社に損害を与えた場合には、この賠償を求めること自体はあり得ます。しかし、そのハードルは必ずしも低いものではありません。そのため、実際に損害賠償をする場合には、弁護士に相談・依頼して、的確なアドバイスを受けつつ進めるべきでしょう。
無料相談できる弁護士一覧