未払賃金立替払制度(みばらいちんぎんたてかえばらいせいど)とは、会社が倒産をして従業員への給料が支払えないときに利用できる制度です。
独立行政法人労働者健康福祉機構への申請が認められれば、未払い給料の支払いを一時的に立て替えてもらえます。
給料の未払いは労働基準法違反ですし、従業員の生活に多大な影響を与えます。万が一、経営難で支払えない恐れがある場合は、なるべく早く制度の利用を検討するべきでしょう。
この記事では、未払賃金立替払制度の利用条件や補償内容、手続きの流れについてご紹介します。従業員への給料の支払いにお悩みの場合は、参考にしてみてください。
未払賃金立替払制度の利用条件
未払賃金立替払制度の利用条件は、事業者が1年以上の事業活動を行っており、会社が倒産していることです。この両方に該当する場合には、未払賃金立替払制度の利用が認められる可能性があります。
なお、会社の倒産とは、以下の2種類の状況が該当します。
- 法律上の倒産
- 事実上の倒産
まず、倒産と認められる判断基準を確認していきましょう。
法律上の倒産
法律上の倒産とは、事業主が法的な破産手続き(破産手続・特別清算手続・民事再生手続・会社更生手続)を行い、それが認められた状態のことです。
大企業の倒産は、ほとんどがこちらの状況に該当するかと思われます。
事実上の倒産
法律上の倒産とは、従業員の給料を支払えない、債務超過で事業活動ができないなど、労働基準監督署が事実上の倒産と判断した状態のことです。
中小企業の場合には、法的な破産手続きを踏まなくても、労働基準監督署に倒産を認めてもらえれば、未払賃金立替払制度を利用することができます。
<中小企業の定義>
業種 |
資本金または出資の総額 |
常時使用する労働者数 |
小売業 |
5,000万円以下 |
50人以下 |
サービス業 |
5,000万円以下 |
100人以下 |
卸売業 |
1億円以下 |
100人以下 |
その他 |
3億円以下 |
300人以下 |
未払賃金立替払制度の対象となる期間
会社倒産の半年前から、倒産が認められてから1年半の合計2年間。この期間に退職した従業員への未払い賃金が、未払賃金立替払制度の補償対象となります。
また、未払賃金立替払制度を申請できるのは、倒産から2年間です。倒産から2年以上が過ぎてしまうと、制度を利用することができなくなるので、注意してください。
未払賃金立替払制度で支払われる補償
未払賃金立替払制度では、以下の2種類の賃金が補償対象です。
- 毎月支払われる賃金(基本給、残業代、深夜手当など)
- 退職金
交通費やボーナスのような、特別支給に対する補償は対象外である点には注意が必要です。
なお、対象の賃金でも全額補償されるわけではありません。未払賃金立替払制度では、賃金の8割負担が原則になっています。
支払われる未払賃金の上限
未払賃金立替払制度は、退職した従業員の年齢によって、補償の限度額(110〜370万円)が定められています。
退職日時点の年齢 |
未払賃金の限度額 |
立替払いの限度額※ |
30歳未満 |
110万円 |
88万円 |
30歳以上45歳未満 |
220万円 |
176万円 |
45歳未満 |
370万円 |
296万円 |
※実際に支給される額の限度(未払い賃金の8割の額)
従業員への未払金が上記の限度額を超える場合には、超過分の賃金は補償されません。
例えば、25歳の従業員への未払金が120万円ある場合には、限度額の110万円を超えているため、110万円×80%の88万円の立替金が支払われることになるでしょう。
アルバイトやパートも制度の対象
労働基準法では、正規雇用と非正規雇用の従業員に違いはありません。アルバイトでも正社員と同様、未払賃金立替払制度の補償が受けられます。
ただし、未払賃金立替払制度では、2万円以下の未払金については認めらません。
未払賃金立替払制度の支払い時期の目安
労働省健康安全機構HPの回答によると、請求の申請をしてから30日がおおよその目安になるようです。
立替払金の支払については、請求書に記入漏れや記入誤りなどがなければ、 請求書を受け付けてから30日以内にお支払いするように努めています。
しかしながら、記載内容の補正や提出書類の追加などが必要な場合は、それ以上の時間がかかることもあります。立替払請求書を送付してから1か月半以上経過しても支払通知書が届かない場合には、お問い合わせください。【引用】未払い賃金立替払に関するQ &A
ただ、会社が法律上の倒産手続をしない場合、事実上の倒産に該当するかどうかの審査が長引く傾向にあります。審査が難航すると、支払いまで半年以上かかるケースもあるようです。
未払賃金立替払制度の支払い時期を早めるには、事業主が迅速に倒産の準備を整えて、申請に臨む必要があるでしょう。
未払賃金立替払制度の申請手続きの流れ
未払賃金立替払制度の申請手続きの流れをご紹介します。
法律上の倒産か事実上の倒産かによって手続きは変わるので、ご自身の会社に該当する方の申請方法を参考にしてください。
未払賃金立替払制度の申請手続き |
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法律上の倒産をした場合
法律上の倒産をした場合の手続きの流れは、以下の通りです。
- 裁判所や破産管財人等に証明証を発行してもらう
- 証明証に必要事項を記入して労働者健康福祉機構に提出する
- 立替金が支払われる
会社が法律上の倒産をしている場合には、裁判所か破産管財人に問い合わせることで、倒産の事実や未払額を証明するために必要な証明書を発行してもらえます。
従業員が書類に必要事項を記載し、労働者健康福祉機構に提出した後は、立替金が支払われるのを待つだけです。
事実上の倒産をした場合
事実上の倒産をした場合の手続きの流れは、以下の通りです。
- 労働基準監督署で認定申請書を交付してもらう
- 労働基準監督署へ確認申請書を提出
- 交付された確認通知書を労働者健康福祉機構に提出する
- 立替金が支払われる
会社が法律上の倒産手続をしていない場合、「事実上倒産状態」であると認めてもらう必要があります。労働基準監督署に申請をして、認定申請書を交付してもらいましょう。
認定申請書の交付を受けたら、従業員が個別に確認申請書(退職日や未払金の額を記入する書類)を労働基準監督署へ提出します。
提出後に確認申請書が発行されるので、認定申請書と共に労働者健康福祉機構に提出して手続完了です。
給与未払いを放置するリスク
賃金未払いは労働基準法違反です。支払わずに放置していると、従業員から訴えられ、罰則が科される可能性は十分にあるでしょう。
最後に給与未払いを放置するリスクを2つご紹介します。
- 財産の差し押さえをされる可能性がある
- 刑事裁判で前科がつく可能性がある
財産を差し押さえられる可能性がある
賃金を支払わないでいると、従業員から民事裁判を提起される恐れがあります。
仮に民事裁判で敗訴すると、従業員から強制執行(差し押さえ)を受けて取引銀行口座が凍結されてしまうおそれがあります。
刑事裁判で前科がつく可能性がある
賃金未払いについて悪質である場合労基署が刑事事件として立件し、検察官により刑事裁判にかけられることもあります。
この場合、刑事罰(労働基準法第24条違反:30万円以下の罰金)が科されて前科がつく可能性がありますし、報道されて不名誉な事実が公開される可能性があります。
まとめ
未払賃金立替払制度を利用する条件は、以下の2点です。
- 事業者が1年以上の事業活動を行なっている
- 倒産している
この制度の補償を受けられるのは、倒産が認められた日の半年前から倒産が認められた日の1年半後までの2年間に退職した従業員です。また、申請が受け付けてもらえる期間は申請から2年以内になります。
未払賃金立替払制度を利用すれば、手元に現金がなくても未払金を立て替えてもらえます。従業員の賃金支払いに悩んでいる状況であれば、積極的に申請を検討していきましょう。