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2018年10月22日に行われた未来投資会議で安倍首相は、今まで65歳としていた企業の継続雇用の年齢を70歳まで引き上げる、とする方針を発表しました。
人手不足の解消や、年金制度の安定を目論んでいることが予想され、働くことを希望する高齢者にとっては、これまで以上に長く働くことができるようになりそうです。
「そんなに長い間働きたくない」と感じる方もいらっしゃるでしょうが、2016年度の厚生労働白書によれば、現在60歳以上の人の6割以上もの人が、65歳を超えても仕事がしたいと考えている、という統計が発表されています。
一方で高齢者が再雇用されると、社員区分・業務内容が変わり、現役時代に比べ給与額が大きく下がる場合があります。これは一般的には「定年再雇用制度」がよく使われるためです。
この制度は、60歳になった時点で一旦は定年退職とし、その後、嘱託社員などとして改めて非正規雇用をするというものです。これによって給与が下がった場合、給与の補填的な役割として「高年齢雇用継続給付(高年齢雇用継続基本給付金)」という制度を活用することができます。
では、この「高年齢雇用継続給付」とは一体どのような制度なのでしょうか。また、誰が対象となり、給付としてどのくらいの金額をもらうことができるのでしょうか。この記事ではこれらの点について、順を追って解説します。
※今回の首相表明に伴い、今後制度改正されることも予想されますが、本記事は現在施行されている内容についての解説となります。
まずは、高年齢雇用継続給付の概要から確認しましょう。
高年齢雇用継続給付は「雇用保険法」で定められた制度であり、原則として、企業や労働者から徴収する雇用保険料が財源となります。
雇用保険といえば、失業したときに給付されるものというイメージが強いのではないでしょうか。この記事をお読みの方のなかには、企業を退職後、職安に通いながら再就職活動をして手当(これは「基本手当」と呼ばれます)をもらったことがある方もいらっしゃると思いますが、その手当と同じ制度から給付が行われる、というイメージを持っていただければよいでしょう。
実は、この雇用保険は失業だけでなく「雇用の継続が困難となった」場合にも支給が行われることとなっています。例えば、育児や介護で給与額が減額もしくはゼロになってしまった場合などが挙げられます。
同様に、高齢化に伴い給与額が下がってしまった場合に行われる給付があり、これが今回解説する「高年齢雇用継続給付」と呼ばれるものです。
次に、高年齢雇用継続給付の種類について解説します。高年齢雇用継続給付には「高年齢雇用継続基本給付金」と「高年齢再就職給付金」の2種類があります。それぞれの概要は以下の通りです。
高齢を理由として給与額が一定以上下がった場合に支給される給付金です。60歳以降の給与額が60歳時点の給与額と比べて「75%未満」に下がった場合に支給されます。定年再雇用で給与が下がった際に活用されることを想定した制度です。
退職し、雇用保険の基本手当(いわゆる失業給付のことを指します)を受給して60歳以上になってから再就職し、なおかつ再就職後の給与額が60歳時点と比べて「75%未満」に下がった場合に支給されます。定年退職した後に別の企業に再就職したものの、前職と比べて給与が下がった際に活用されることを想定した制度です。
と区別することができます。
受給対象者となるのは、それぞれ以下の要件を満たす人になります。
実際の要件はかなり詳細に定義されているため、支給対象者に該当するかどうかは、雇用保険の加入データを把握しているハローワークに確認してみるといいでしょう。
上述した通り、高年齢雇用継続給付基本給付金、高年齢再就職給付金のいずれも60歳以降の給与額が75%未満に下がった場合に支給されますが、具体的な支給額は以下の通りです。
実際に支払われた給与が60歳当時と比べ
定年再雇用のため、受給できる給付は「高年齢雇用継続基本給付金」です。この計算をするにあたり、まずは定年再雇用後の給与と60歳定年時の給与を比較します。
【定年再雇用後の給与(20万)÷60歳定年時の給与(40万)=50%】
給与の下げ幅が50%なので、上述したケースのうち賃金が61%以下になったケースに該当します。この場合の高年齢雇用継続基本給付金の支給額は、支払われた給与額(20万)×15%のため、「3万円」となります。
一旦退職したのち、職安経由で再就職をしているため、受給できる給付は「高年齢再就職給付金」となります。先ほどの例と同様に給与を比較すると、
【再就職先の給与(40万)÷60歳定年時の給与(50万)=80%】
再就職後の給与が60歳当時の80%を維持しており、実際に支払われた給与が75%以上のケースに該当します。この場合、高年齢雇用継続給付は不支給となります。
なお、高年齢雇用継続給付には「支給限度額」が設けられており、支払われた給与が「35万7,864円」を超える場合には、高年齢雇用継続給付は支給されません。例えば、月給100万の人が定年再雇用により月給40万に下がったようなケースでは、給与額こそ40%に減少していますが、何ら給付は行われないことになります。
このような場合では給与は大きく減ったとしても一般的な給与水準から見るとまだまだそれなりに高額であるので、あえて雇用保険から補填する意味合いが薄れるためです。
続いて、高年齢雇用継続給付の受給期間を見ていきましょう。
まず高年齢雇用継続基本給付金は「60歳に達した月から65歳に達した月」まで支給されます。今後、もし再雇用制度の年齢が引き上げられる場合は、受給の年齢も併せて引き上げられる可能性が考えられますが、現状は60歳定年、希望する場合は65歳まで再雇用とするケースが一般的であるため、この期間に対応しています。
また、高年齢再就職給付金については「基本手当(いわゆる失業手当)」の残日数によって支給期間が異なります。具体的には以下の通りです。
受給するためには、本人が「会社を経由して」ハローワークに支給申請を行う必要があります。手続き方法は以下の通りです。
法律上は、支給申請は本人が行うこと、とされていますが、実務上は企業が用意する添付書類も多いことから、ハローワークは企業が手続きすることを要請しています。
受給するためには、申請者本人・会社が「申請期限を厳守する」ことを徹底しましょう。初回の申請は支給対象となる月の4ヶ月以内、以降はハローワークが指定する月までが期限となっていますが、1日でも支給期限を過ぎてしまうと申請が却下され、支給を受けられなくなります。
特に、初回の申請については受給できることを知らず、気づいたら申請期限を過ぎてしまっていた、ということが多いものです。会社が手続きを行うため、本来であれば企業側が本人にリマインドすることが求められますが、企業の担当者が制度に詳しくない場合は忘れられてしまうことも十分考えられます。会社が制度を知らず、申請を行わない場合には、本人が会社に知らせることも必要になる場合があります。
また、実際の申請については本人、手続きをする企業が申請までのスケジュールを確認しながら、期限を過ぎることのないように進めていくとよいでしょう。
ちなみに、老齢厚生年金を受けている方が高年齢雇用継続給付を受ける場合には、年金の一部が支給停止されることになります。具体的な支給停止額についてはこの記事では触れていませんが、高年齢雇用継続給付を受けることに伴って年金の支給が止まり、結果的に手にする額が少なくなってしまっては本末転倒です。支給申請を行う際には、本当に手にする額が多くなるのかを、ご自身で会社や年金事務所、ハローワークに確認してから進めたほうがよいかもしれません。
高年齢雇用継続給付について解説してきました。少し複雑な制度だと感じられたかもしれませんが、制度の概要をつかんでいただければ幸いです。
イレギュラーな処理や例外規定の存在も考慮すると、申請手続きを含め複雑な制度であることは間違いないので、社会保険手続きのプロである社会保険労務士に手続きを依頼するのも選択肢の一つになるかもしれません。