クロスボーダーM&Aとは|メリット・方法・注意点・弁護士費用などを解説

専門家監修記事
会社の事業を拡大するための方法として、「クロスボーダーM&A」に注目が集まっています。この記事では、クロスボーダーM&Aのメリット・方法・注意点・弁護士費用などを弁護士が解説します。
富士パートナーズ法律事務所
德安 勇佑
監修記事
M&A・事業承継

会社の事業を拡大するための方法の一つとして、近年急速に注目を集めているのが「クロスボーダーM&A」です。クロスボーダー・M&Aは、海外の法規制も絡んだ複雑な取引になる傾向にあります。

 

そのため、弁護士を交えた事前の法的検討を十分に行うことが不可欠です。

 

本記事では、クロスボーダーM&Aを行うメリット・方法・注意点・弁護士費用などについて、企業法務の観点から弁護士が解説します。

 

目次

クロスボーダーM&Aとは?

まずは、「クロスボーダーM&A」とはどういうものなのかについて、大まかなイメージを掴んでおきましょう。

「M&A」とは?

「クロスボーダーM&A」を理解する前提として、「M&A」について理解しておく必要があります。M&Aとは、”Merger and Acquisition”の略で、一般的に資本の移動を伴う企業の合併(=Merger)と買収(=Acquisition)等のことをいいます。

 

法的には、

 

  • 合併としては新設合併・吸収合併
  • 買収としては株式の譲渡・第三者割当増資・株式移転・株式交換・事業譲渡

 

それ以外にも新設分割・吸収分割など、さまざまな手法が存在しますし、広義には合弁会社の設立や株式の持ち合いも含みます。これらの手法の詳細については、後ほど解説します。

クロスボーダーM&Aは日本企業と海外企業の間のM&A取引

クロスボーダー(Cross Border)」とは、「国境を超えた」という意味を持ちます。つまり、「クロスボーダーM&A」とは、日本企業と海外企業の間で国境を超えて行われるM&A取引のことを指しています。

 

近年のグローバル化の流れの中で、企業の国際進出や海外提携が加速度的に進んでいます。クロスボーダーM&Aは、企業の国際進出や海外提携をスピーディに実現する手段として、近年いっそう注目されているのです。

 

 

なぜクロスボーダーM&Aを行うのか?|クロスボーダーM&Aのメリット

日本企業がクロスボーダーM&Aに取り組もうとするのは、どのような理由によるものなのでしょうか。以下では、クロスボーダーM&Aが企業にもたらすメリットについて解説します。

海外市場へスピーディに進出できる

海外市場への進出を目指す企業にとって、海外市場における販路を一から築き上げるのは非常に大変です。もしこれから狙っていこうとする市場で、すでに一定のシェアを有している海外企業との間でM&Aを実現することができれば、海外市場へスピーディに進出できることが可能となります。

海外の最先端技術・ノウハウを自社に吸収できる

また、特に研究開発の領域では、日本よりも海外の方が最先端技術に精通していることも多いという実情があります。そのため、メーカーやテクノロジー系の企業においては、自社製品に関連する有力な研究開発を行っている海外企業との間でM&Aを行うことが有効な選択肢になるでしょう。

 

M&Aによって海外企業の技術・ノウハウを吸収することにより、自社の競争力を高める狙いです。

海外の生産現場を内製化する

メーカーや食品系の企業などでは、海外の安価な労働力を活用するため、海外の現地企業に委託して生産を行うケースがあります。しかし、別の会社に生産を委託する場合はそれなりのコストがかかりますし、生産管理が十分に行き届かない可能性もあります

 

そこで、生産委託先の海外企業をM&Aによって吸収・内製化し、さらなるコストカットと生産管理の効率化に繋げることができます。

市場に対してグローバル化を印象付ける

さらにクロスボーダーM&Aは、市場に対するメッセージ性の強い取引であるという特徴があります。企業がクロスボーダーM&Aを行えば、ニュースで大々的に取り上げられる可能性もあります。

 

また投資家に対してクロスボーダーM&Aについての発信を行えば、グローバル化への意欲のある、成長へのポテンシャルが高い企業であると認識される可能性が高いでしょう。このように、クロスボーダーM&Aに対して積極的に取り組むことで、市場に対するポジティブなメッセージを与えることにも繋がります。

 

クロスボーダーM&Aの3つのパターン

クロスボーダーM&Aには、大きく分けて以下の3つのパターンがあります。

 

  1. IN-OUT取引
  2. OUT-IN取引
  3. ジョイント・ベンチャーの設立

 

それぞれ、どのような取引かについて見ていきましょう。

IN-OUT取引|日本企業が海外企業を買収する

IN-OUT取引は、日本企業が海外企業を買収する形で行われるクロスボーダーM&Aです。IN-OUT取引の例としては、日本の大企業が多角化・国際化の一環として、海外の有力ベンチャーなどを買収するなどのパターンが多く見られます。

OUT-IN取引|海外企業が日本企業を買収する

OUT-IN取引は、逆に海外企業が日本企業を買収する形で行われるクロスボーダーM&Aをいいます。OUT-IN取引については、海外の大手企業が日本のベンチャーなどに目を付け、日本市場への進出の足がかりとするために買収するなどのパターンがよく見られます。

ジョイント・ベンチャーの設立|日本企業・海外企業が対等に行う取引

クロスボーダーM&Aは、どちらか一方が相手の会社を買収するパターンばかりではありません。日本企業・海外企業が完全に対等な立場で行われるクロスボーダーM&Aも、パターンとしては十分考えられます

 

この場合、合併の方法により、企業同士が対等な形で完全に合体してしまうことも考えられます。しかし、合併の方法を取る場合、大がかりな手続であるがゆえに、双方の企業文化の間で摩擦が生じてしまう可能性も無視できません。そこで、それぞれの会社の母体はそのままに、共同出資の形で合弁会社(ジョイント・ベンチャー)を設立するという取引がよく行われています。

 

合弁会社(ジョイント・ベンチャー)は、日本企業・海外企業の双方が出資持分を有する会社として、双方の意向をうまく擦り合わせながら新規事業などに取り組んでいくことになります。

 

クロスボーダーM&Aで用いられる手法とは?日本法を前提に解説

ここからは、クロスボーダーM&Aにおいて用いられる各手法について解説します。

 

なお以下の解説については、日本法に準拠することを前提として、会社法上認められたM&Aの手法を紹介するものになります。仮に海外法に準拠してクロスボーダーM&Aを行う場合には、当該海外法の規定に従う必要があることに注意しましょう。

合併

「合併」は、会社全体同士が完全に合流してしまうという、もっとも抜本的なクロスボーダーM&Aの手法です。会社法上、合併の方法には「吸収合併」と「新設合併」の2つが認められています。

 

吸収合併とは、一方の会社を存続会社として、もう一方の会社を吸収する形で行われる合併をいいます。両当事者の間に規模やパワーバランスの差がある場合には、大きい会社が小さい会社を吸収合併するケースが多いです。

 

これに対して新設合併とは、新しく1つ会社を設立して、その会社に両当事者がいずれも吸収される形で行われる合併をいいます。両当事者の間のパワーバランスが微妙なケースでは、妥協点として新設合併の方法が取られる場合があります。

会社分割

「会社分割」は、会社の事業の全部または一部を切り出して、それを他の会社に承継させるM&A手法です。会社分割にも、合併と同様に「吸収分割」と「新設分割」の2つの手法が認められています。

 

吸収分割とは、既存の会社から事業を切り出し、その事業を既存の他の会社に吸収させる取引をいいます。ベンチャーなどが軌道に乗った事業を他社に売却する取引で、吸収分割がよく用いられます。

 

一方、新設分割とは、新しく会社を作ったうえで、その会社に対して既存の事業の一部を吸収させる取引をいいます。新設分割の手法は、合弁会社(ジョイント・ベンチャー)の設立にも応用することが可能です。

株式交換、株式移転

「株式交換」は、会社の発行済み株式を既存の会社にすべて取得させるM&A手法です。株式交換を行うと、既存の2つの会社を一発で100%の親子会社とすることができます。そのため、IN-OUT取引・OUT-IN取引いずれのケースでも、株式交換は使い勝手の良い手法といえます

 

「株式移転」は、株式交換とは異なり、会社の発行済み株式を新設の株式会社に取得させるM&A手法です。株式移転については、持株会社を設立して、既存の2社をいずれも持株会社の傘下に入れる取引で用いられます。

株式譲渡

株式譲渡によるクロスボーダーM&Aは、これまで解説した手法に比べると比較的シンプルなM&A手法です。同族企業などの非公開会社が買収対象になる場合、オーナー一族が持っている株式を買収元がすべて買い取る形でのM&Aが行われます。

 

その際、買収元と買収先の間で「株式譲渡契約」を締結し、その契約に従って株式を譲渡すれば手続は完了です。会社の発行済み株式をすべて譲り受ければ、買収元は買収先の株主総会における意思決定をコントロールできるため、自社から買収先に対して取締役を送り込むことで経営を支配することが可能となります。

新規子会社を設立して共同出資

これまでは企業同士が大々的に合流する手法を中心に解説してきましたが、もっと緩やかな形のクロスボーダーM&Aも考えられます。その一例として、共同出資の新規子会社を設立して、両当事者が共同で運営するという手法があります。

 

合弁会社(ジョイント・ベンチャー)を設立する場合は、この手法が用いられることがもっとも多いでしょう。子会社の設立・共同出資の手法は、クロスボーダーM&A当事者の本体の事業へ与える影響が小さいため、比較的取り組みやすいメリットがあります。

 

クロスボーダーM&Aは難しい取引|4つの注意点を解説

クロスボーダーM&Aは大がかりで複雑であり、さまざまな障害をクリアする必要がある難しい取引といえます。そのため、交渉途中で破談となってしまうケースもしばしば見受けられます。

 

以下では、クロスボーダーM&Aに取り組む際の注意点を解説します。

契約交渉が難航しがち

M&Aは企業にとって重大な取引のため、どのような条件を設定するかがきわめて重要になります。またそもそもM&Aは、全く異なるバックグラウンドを持った2つの企業が合流する取引のため、交渉の妥協点を探るのが困難になりやすい面があります。

 

このような理由から、M&Aの契約交渉は、一般的に難航する傾向にあります。特にクロスボーダーM&Aの場合、海外は日本以上に契約社会という側面が強いことから、海外企業の側が強硬な姿勢で契約交渉に臨んでくることもしばしばあります。

こうしたクロスボーダーM&Aの特性上、契約交渉には必然的に妥協の余地が少なくなります。クロスボーダーM&Aを行う際には、相手方企業との間でシビアな契約交渉を行うことを覚悟しなければなりません。

両国の法律に注意する必要がある

クロスボーダーM&Aを行う際には、当事者である会社の設立準拠法による規制が適用される場合があります。特に外貨規制が厳しい国の会社と取引を行う場合には、その国の法規制によって当該取引が制限されていないかに注意を払う必要があります。

 

海外法の規制に関しては、基本的には相手方の海外企業が現地の弁護士を雇って確認することになります。ただし、日本企業の側としては、相手方の海外企業がきちんと海外法の規制をチェックしているかどうかを把握することができません。

 

そのため、契約の中で相手方の海外企業から表明保証を取るなどして、海外法の規制をチェックする責任を相手方に課すことで対応するのが通常です。

高度な法律の専門知識が求められる|弁護士への依頼が必須

すでにクロスボーダーM&Aに関するいくつかの手法を解説しましたが、日本の法律に限っても、クロスボーダーM&Aに関連する法律のルールは非常に高度かつ複雑です。

 

クロスボーダーM&Aの各手法には、経由しなければならない手続も多く、法的に有効な形で手続を完遂するだけでも大変です。これに加えて、膨大な分量の契約書に関する契約交渉も行われるため、とにかく高い法的スキルが求められます。そのため、クロスボーダーM&Aに詳しい弁護士への依頼が必須となります。

相手の会社をよく調べる必要がある(デュー・デリジェンス)

M&Aが成立した後に相手の会社の問題が発覚すると、甚大な経済的損害を被ってしまう可能性があります。そのため、クロスボーダーM&Aの取引を実行する前に、相手方の海外企業に対して詳細な調査が行われます。これを「デュー・デリジェンス(Due Diligence)」といいます。

 

デュー・デリジェンスでは、会社の資産・債務・締結している契約・経営状態などを細かく調べることが重要です。会社の規模が大きくなればなるほど、調査すべき事項は膨大になり、デュー・デリジェンスには多大な労力がかかることになります。

 

特にクロスボーダーM&Aの場合は、相手方が海外企業なので、調査すべき資料も英語のものがほとんどです。そのため、日本人がデュー・デリジェンスに対応する場合、実質的な労力は倍増します。

 

クロスボーダーM&Aのデュー・デリジェンスを行う際には、英語ネイティブを含めた十分な人員の確保が必要となります。

 

クロスボーダーM&Aにかかる弁護士費用は?

クロスボーダーM&Aは大がかりな取引なので、弁護士費用も高額になりがちです。以下では、クロスボーダーM&Aにかかる弁護士費用の決まり方と相場について解説します。

弁護士費用の2種類の計算方法

クロスボーダーM&Aの弁護士費用の決定方法は、大きく分けて①着手金・成功報酬制と②タイムチャージ制の2つがあります。

着手金・成功報酬制

着手金・成功報酬制では、委任契約締結時に着手金、M&Aが成功した段階で成功報酬という形で2段階の支払いを行います。着手金と成功報酬は、いずれもM&Aによって得られる経済的利益の金額によって決まることが多くなっています。

タイムチャージ制

タイムチャージ制は、弁護士が案件に費やした時間に応じて金額が決まる報酬決定方法です。多くの場合、弁護士ごとに時間単価が決まっていて、これに実稼働時間をかけることにより弁護士費用が決定されます。

 

弁護士ごとの時間単価は、大手法律事務所でだいたい2万5000円~8万円程度で、経験年数などによって異なります。タイムチャージ制の場合、弁護士費用の請求は月締めで行われることが多いようですが、きりの良いタイミングでまとめて支払うケースもあります。

金額は案件の規模・事務所次第|数百万~数千万円程度

クロスボーダーM&Aにかかる弁護士費用の金額は、実際のところケースバイケースと言わざるを得ません。一般的には、案件の規模が大きいほど、弁護士費用も当然高額になります。

 

ただし、弁護士費用の金額は弁護士が自由に決めているので、事務所によっても金額はかなり幅がありますおおまかな傾向としては、小規模なもので数百万円、大規模なものでは数千万円の弁護士費用が見込まれると考えておきましょう。

 

クロスボーダーM&Aにおける弁護士選びのポイントは?

クロスボーダーM&Aを行う際には、信頼できる弁護士に依頼したいところです。以下では、クロスボーダーM&Aを行う場合の弁護士選びのポイントについて解説します。

企業法務を専門に取り扱っているかどうか

一般民事だけを扱っている弁護士では、クロスボーダーM&Aに十分に対応することは難しいでしょう。そのため、インターネットやツテなどを辿って前評判をリサーチして、普段から企業法務を専門に取り扱っている弁護士事務所に依頼することをおすすめいたします。

クロスボーダーM&Aの経験豊富なパートナー弁護士が在籍しているかどうか

クロスボーダーM&Aには、海外法規制の検討や英語での契約交渉など、特有の難しさがあります。そのため、案件に責任を持つパートナー弁護士には、クロスボーダーM&Aの経験豊富な人を据えるべきです。

 

依頼しようとしている弁護士事務所にクロスボーダーM&Aの経験豊富なパートナー弁護士が在籍しているかどうかは、事前に確認しておくと良いでしょう。

マンパワーを確保できる事務所かどうか

クロスボーダーM&Aでは、特にデュー・デリジェンスを行う際に、弁護士によるリーガルチェックの量が膨大になります。したがって、デュー・デリジェンスに参加できる弁護士の数を確保できるかどうかも重要な観点です。

 

若い弁護士を多く抱えている大手・中規模の法律事務所であれば、クロスボーダーM&Aのデュー・デリジェンス業務にも耐え得るマンパワーを確保することができるでしょう。

 

企業法務弁護士ナビは企業法務案件に実績のある弁護士のみを掲載

当サイトに掲載する法律事務所には基準が設けてあり、下記基準のうちいずれかを満たしている事務所を掲載しております。

 

 

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まとめ

クロスボーダーM&Aにはビジネスチャンスが広がっていますが、その分難しい取引になることは避けられません。

 

その上クロスボーダーM&Aには、法律が絡む難しい論点も盛りだくさんです。そのため、クロスボーダーM&Aを検討する際には、事前に弁護士に相談をして、実現可能性や方針について綿密な打ち合わせを行うことをおすすめいたします。

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