企業と労働者のトラブルは絶えません。
その多くの原因は労働条件に関することです。
そもそも雇用契約書の作成・締結に法的な義務はありませんが、ある企業とない企業ではまったく違います。
本記事では雇用契約書がない企業においてのトラブル事例や対処法を解説し、雇用契約に関する知識を確認していきたいと思います。
雇用契約書がない会社は悪い会社?
必ずしも雇用契約書がないからと言って悪い会社とは限りません。
企業には雇用契約書の締結の義務はなく、定められた労働条件について書面にて明示すれば問題ないからです。
では、雇用契約書の存在意義とはなんでしょう。
義務ではないが必要な書類
労基法第15条では労働条件の明示が義務付けられています。
ですが、一方的に通知(明示)するだけでは双方の認識の違いが生まれる可能性があるので、労働契約法第4条にて、労働契約の内容の理解の促進が定められています。
つまり、なるべく雇用契約書を用いて雇用契約を締結しなさいということです。
記載事項を充分確認した上で署名捺印をする雇用契約書を用いれば、後々のトラブルにはなりにくくなります。
ですから、雇用契約書は義務でなくとも必要と言えます。
労働条件を何かしらの書面で通知しないのはアウト
前項でも述べましたが、労働条件を書面にて明示しないのは労基法違反です。
雇用契約書がないだけでなく、労働条件通知書などといった書類がなければその企業は法律違反をしていることになります。
労働条件を明示している書類の提示を要求しているにも関わらず、うやむやにしたり提示しない場合、その企業への就職は考え直したほうがよいでしょう。
労働条件を通知しない企業のトラブル例
雇用契約書がないばかりか、労働条件についても書面で通知せず口頭のみで伝えてくる企業にて勤務した場合、労働条件の認識の違いでトラブルになる可能性が高いでしょう。
主に以下のようなトラブルがあります。
口頭で言われた条件と実際の条件が違う
面接の際に言われた条件と実際に働き始めた時の条件が違うといったパターンは非常に多くみられます。
聞いていた仕事内容と違う、給料の金額が違う、勤務時間が違う、残業時間が多いといった事があります。
求人票に記載されていた内容と違う
上記と似ていますが、ハローワークや求人誌などに掲載されていた労働条件と実際の条件がまったく異なることもあります。
こういった場合、労働者側が求人の掲載元に申告すると虚偽の求人を載せたということで、今後求人の掲載ができなくなってしまいます。
聞いてもいない試用期間がある
労働者が雇用される時に試用期間について何も聞かされていなかったので、試用期間はないという認識だったのに実際は試用期間があり、しかもその期間中は給料の金額が違うといったことでトラブルになることがあります。
聞いたこともない就業規則を理由に解雇
企業には就業規則というものがあり、その就業規則を全従業員に周知させないといけない周知義務が労基法第106条にて定められています。
ですが、労働条件を書面にて明示しない企業のほとんどはその周知義務も怠っていることがほとんどです。
何かトラブルになった際に、聞いたこともない就業規則を引用してきて解雇しようとするケースもあります。
ですが、周知義務を怠った就業規則の効力は無効とされることも多いので注意しましょう。
雇用契約書(労働条件の明示)がない場合の企業のリスク
雇用契約書などでの労働条件の明示がない場合は、企業が法律違反をしていることになるので労働者側から以下の対応をされる場合があります。
雇用契約書(労働条件の明示)の提示を要求される
雇用契約書等で労働条件を明示していない場合は速やかに明示しましょう。
『雇用契約書を見せてください』と言われる段階であればトラブルにはなりません。
即時雇用契約を破棄される
もし提示された条件と実際の条件が違う場合に、労働者は雇用契約を一方的に破棄・無効にする権利が認められています。
せっかく採用した人材でも、企業の落ち度で雇用契約を破棄されれば、また人材を探さないといけなくなりますし、企業にとってはダメージになるでしょう。
雇用契約書(労働条件を明示)がない企業へのペナルティ
雇用契約書がないことへのペナルティはありません。
しかし、何かしらの書面にて労働条件を明示しなかった場合、労基法第15条の違反になってしまい、同法の第120条の規定により30万円以下の罰金が科せられる場合があります。
労基法120条(30万円以下の罰金)に定められている条項
第14条 |
労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、五年)を超える期間について締結してはならない。 |
第15条 |
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。 |
第22条 |
労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。 |
第23条 |
使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、七日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。 |
第24条 |
使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、七日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。 |
第25条 |
使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。 |
第26条 |
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当支払わなければならない。 |
第27条 |
出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。 |
第57条 |
使用者は、満十八才に満たない者について、その年齢を証明する戸籍証明書を事業場に備え付けなければならない。 |
第68条 |
使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない。 |
第89条 |
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。 |
参照元:労働基準法第120条
雇用契約書の記載事項
雇用契約書があっても、労基法で定められた事項について記載していない場合は意味がありません。
記載が義務となっている事項、義務ではないが記載したほうがいい事項を以下の記事を参照にして確認してみてください。
まとめ
繰り返しになりますが、雇用契約書や労働条件通知書といった労働条件を明示する書類がない企業は疑ったほうがいいでしょう。
従業員は企業の原動力ですし、発展・成長のために優秀な人材は必要不可欠です。
そういった人材を採用するためには、雇用契約書を用いるなどしてこういった雇用関係のトラブルをなくすことから始めていくことが必要でしょう。