ひな形の就業規則を参考に自社の就業規則を作成する際のポイント

専門家執筆記事
就業規則は、ネット上にあるひな形を使えば、比較的簡単に作成することができます。しかし、必要な知識をもたず、ひな形に頼り切ってしまうのは危険です。この記事では、就業規則のひな形をうまく利用し、自分の会社にあった就業規則を作る方法を紹介します。
Ad Libitum(フリーランス人事)
松永 大輝
執筆記事
人事・労務

就業規則のひな形はどこから入手すれば良いのでしょうか?インターネットで検索すると、さまざま就業規則が見つかります。それらは大きく以下に分類できます。

 

  1. 行政が公表しているモデル就業規則
  2. 法律事務所(弁護士事務所、社労士事務所)などが作成した無料の就業規則ひな形
  3. 企業が公表している自社の就業規則

 

上記のうちどれを利用しても問題ないように思えますが、②と③は本当に内容が正しいものであるか、あるいは最新の法改正に対応しているかどうかわからないので利用はおすすめできません。

 

また、これらの就業規則は作成元のオリジナリティが反映されており、たたき台として活用するには問題がある場合があります。

 

本記事では厚労省が公表しているモデル就業規をベースに作成することを推奨します。

モデル就業規則のリンクはこちら

 

現在厚労省が公表しているモデル就業規則は平成30年1月分の法改正までを反映した内容となっており、少なくとも直近の改正には対応したものです。それぞれの条文についても労働基準法との関係性や考え方などが解説されているため、専門知識のない方でも作成しやすい内容であると言えます。

 

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就業規則で定めるべき内容

モデル就業規則を参考にして作成に取りかかってみましょう。まず、就業規則は何を定める必要があるのか、概略を確認します。就業規則に定める内容は大きく以下3つに分類されます。

 

①絶対的必要記載事項

絶対的必要記載事項とは、どの会社でも「必ず」定めなければならない事項として法律(労働基準法第89条)で定められているものです。それらに抜け漏れがある場合、労働基準法が求める就業規則としては不十分です。以下の内容については必ず盛り込む必要があります。

 

労働時間に関する事項

  • 始業及び終業の時刻(始業時刻:9時 終業時刻:18時など)
  • 休憩時間(時間数やいつ与えるかなど)
  • 休日(土日祝日など)
  • 休暇(年次有給休暇、特別休暇など)
  • 就業時転換に関する事項(労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合)

 

賃金に関する事項

  • 賃金の決定、計算及び支払の方法(賃金体系についてなど)
  • 賃金の締切り及び支払の時期(月給、日給などの区分や締め日はいつで何日に支給するかなど)
  • 昇給に関する事項(昇級の時期や条件など)
  • 退職に関する事項(退職や解雇、定年など)

 

②相対的必要記載事項

相対的必要記載事項とは、社内でルールを定める場合に就業規則に記載しなければならない事項のことを言います。①の絶対的必要記載事項とは異なり、どの会社でも必ず定めなければならない事項ではありませんが、以下のようなルールが存在する以上は就業規則へ記す必要があります。

 

相対的必要記載事項の例

  • 退職手当に関する事項
  • 退職手当を除く臨時の賃金等に関する事項(一時金など)
  • 最低賃金額に関する事項
  • 費用負担(食費、作業用品など)に関する事項
  • 安全及び衛生に関する事項
  • 職業訓練に関する事項
  • 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  • 表彰及び制裁の種類及び程度に関する事項
  • その他、事業場の労働者すべてに適用されるルールに関する事項(休職、出張旅費など)

 

③任意記載事項

任意記載事項とは上記のいずれにも該当しない、会社が任意に記載することができる事項のことを言います。特に法的な規制はないため、公序良俗に反しなければ自由に定めることができます。一般的には経営理念や就業規則の目的事項、服務規律などが記載事項に該当します。

 

テンプレートの就業規則をそっくりそのまま流用するのが「危険」な理由

上述の通り、就業規則に記載する内容は広範にわたるため、作成にははそれなりの時間がかかるものです。

 

そこでよくありがちなのは、就業規則ならどれも同じだろうという安易な考えでテンプレートをそのまま流用したり、懇意にしている同業の経営者から就業規則を貰い、それをそのまま自社の就業規則として利用したりすることです。

 

自社向けにカスタマイズすることなく就業規則を利用することは非常に危険です。以下にその理由を解説します。

 

就業規則は労働者だけでなく、会社も守る義務が生じる

就業規則は労働者が守るべき事項を定めたルールブックのように思えますが、会社が守る事項も多数存在します。安易にテンプレートの内容を確認せずに使ってしまうと、想定してない内容まで従業員に対して保証しなければならないなどのトラブルが生じます。

 

例えば、流用したテンプレートの就業規則に賞与や退職金の支給について定められていると、労働者はその就業規則に基づいて賞与や退職金の支給を求めることができるようになります。

 

自社にそのような定めはなく、「雇用契約書には明確に支給しないと記してある」と主張しても、就業規則で定められた基準に達しない雇用契約書の内容は無効となります。

 

(労働基準法第93条)つまり雇用契約書に賞与や退職金は「なし」と記されているとしても就業規則で支払うと定めていれば会社には支払う義務が生じるのです。

 

就業規則は会社と労働者が相互に守るべき約束事が定められたルールブックであるということ、就業規則は雇用契約書よりも強い影響力があるということを押さえておきましょう。

 

自社の規模に合ってない

また、流用したテンプレートの内容が自社の規模にマッチしないことがあります。

 

例えば、休職期間について見てみると1ヶ月から数年間までと会社によって期間設定に大きな開きがあります。休職期間については法律上設置義務がないため、会社が自由に定めることができます。

 

そこで、テンプレートでは「1年間」と記されていたとしたらどうでしょうか。テンプレートが想定する企業規模であれば、従業員が1年間休職して他の人員でカバーできるかもしれませんが、自社では1ヶ月が限度かもしれません。

 

それでも流用したテンプレートに1年間と記されていたら、それに従う義務が会社には生じることになります。

 

最新の法改正を反映していない

また、テンプレートの就業規則はその作成年度によっては法改正が反映されていないことがあります。

 

就業規則に関する法律は労働基準法だけでなくさまざまなものがあり、毎年のように改正が行われています。

 

改正に合わせてそれまで有効だった就業規則の条文が無効となることもありますので、作成年度が不明なものはたたき台としても利用しない方がよいでしょう。

 

上述の通り現在公開されている厚労省のモデル就業規則であれば来年1月の法改正まで対応しています。ただし労働基準法関連では4月にも大きな法改正があり、直近ではこの内容にも対応する必要があります。

 

 必須ではない事項が記載されていることがある

就業規則についての必要記載事項がいくつも法律上定められていますが、詳しい内容については各社がある程度自由に定めることができます。テンプレートの就業規則が自社に合った内容かどうか、しっかり確認しなければなりません。

 

退職金や賞与などは法律上支給義務はありませんが、上述の通り就業規則に記せば会社に支給義務が発生します。

 

また、定年については継続雇用制度を導入すれば60歳でも差し支えありませんが、流用したテンプレートが65歳となっていれば自社の定年も65歳にしなければなりません。

 

のように、自社で支給するつもりがない賃金や導入するつもりのない制度がテンプレートに含まれていないか注意する必要があります。

 

 自社で定めるべき事項が欠けていることがある

 一方で自社で定めるべき事項が、テンプレート上にはないという場合もあります。

 

例えば休職を命じた従業員が復職を希望するとき、会社としては従業員のかかりつけ医師だけでなく自社が指定する医師の判断も必要としていても、就業規則にその旨が明記されていなければ、復職の判断に当たって従業員とトラブルになるかもしれません。

 

テンプレートは基本的に一般向けもしくは他社向けの内容が定められているものなので、細かい部分で自社の実情に合わない可能性が高いものです。

 

テンプレートを活用して上手に就業規則を作成するには

ここまで、テンプレートの就業規則を流用することが危険な理由について解説してきました。では、テンプレートと上手に向き合うにはどのような点に留意すれば良いのでしょうか。

 

 ①必ずテンプレートの全文に目を通す

当然のことですが、必ず全ての条文に目を通し、本当にその定めを自社に導入して問題ないのかどうかを判別するようにしましょう。この段階ではとりあえず法律上の問題などは気にする必要はありません。

②充分すぎる内容がないか、抜け漏れがないかチェックする

全文に目を通したら、自社にとってこの条文はいらない、この条文には追記が必要、自社のあの制度を組み入れたいなど、内容をしっかり見直しましょう。社員同士で就業規則の内容をブレストするのもいいかもしれません。

③専門家の確認を受ける

就業規則として定める以上、法律的な目線で内容をチェックすることは必要不可欠です。例えば必要記載事項に抜け漏れがないか、内容について公序良俗に反するものはないか、想定される労務リスクに対応できているかなどの確認が必要になります。

 

その部分は弁護士や社会保険労務士などの専門家の活用をおすすめします。作成から全てを依頼する場合に比べれば既存書類のチェックとなるため、安価で依頼することができるはずです。

 

まとめ

以上、ひな形を参考に就業規則を作成する際に注意すべきポイントについて解説しました。法律事務所や行政が作成しているひな形だからといって、自社でそのまま流用できるものではありません。参考にする際は、自社に必要なものとそうでないものを判別し、最終的には必ず専門家のチェックを受けることをおすすめします。

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