デューデリジェンスとは?M&Aを成功へ導くための基礎知識と実務ポイントを弁護士が解説

専門家執筆記事
M&Aの成否を左右するデューデリジェンスの概要や流れ、専門家活用のポイントを弁護士が詳しく解説。リスク管理の重要性も合わせて紹介します。
旭合同法律事務所
川村将輝
執筆記事
M&A・事業承継

M&A(合併・買収)は、企業の成長戦略や事業再編を進めるうえで非常に重要な手段のひとつです。

とりわけ多くのステークホルダーが関与し、巨額の資金や経営資源が動くM&Aプロセスにおいて、欠かせないステップとして挙げられるのが「デューデリジェンス(Due Diligence、以下DD)」です。

これは対象企業を多角的に調査・分析し、潜在的なリスクや企業価値を適切に評価する作業を指します。M&Aの成否はこのDDの出来不出来に大きく左右されるといっても過言ではありません。

しかし

  • 「デューデリジェンスとは具体的に何を行うものなのか」
  • 「どのような範囲を調査すべきなのか」
  • 「費用や期間はどれくらいかかるのか」など

初めてM&Aに携わる方や社内の法務・財務担当者にとっては疑問が尽きない領域でもあります。本記事では、デューデリジェンスに関する基礎的な定義から、その目的、実務の進め方、そして近年注目を集めるトピックまでを網羅的に解説します。

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本記事のポイント

  • デューデリジェンスの基本的な意味・役割
  • 買い手企業・売り手企業それぞれの視点における実施意義
  • 財務・税務・法務、ビジネス、IT、人事など主要なDDの種類
  • DDプロセスや専門家の活用ポイント、期間や費用の目安
  • 近年注目のESGや人権デューデリジェンス、クロスボーダー案件の留意点
この記事に記載の情報は2025年04月16日時点のものです
目次
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デューデリジェンス(DD)とは何か

そもそもデューデリジェンスとは何か、基本的な概念・コンセプトや概要を解説します。

デューデリジェンスの基本定義と語源

デューデリジェンス(Due Diligence)という言葉は、直訳すると「相当な注意」や「相当な慎重さ」といった意味合いを持ちます。ビジネスの世界では、投資やM&Aなどの取引を行うにあたり、対象となる企業や事業に関する情報を徹底的かつ多角的に調査することを指します。

取引の妥当性を判断するうえで欠かせないプロセスであり、この過程で得られた情報が最終的な条件交渉や契約締結に大きな影響を与えるのです。

M&Aにおけるデューデリジェンスの役割

M&Aにおいて、買い手企業が対象会社を正しく評価できなければ、買収後に想定外の負債や法的リスクが発覚し、結果的に大きな損失や紛争に発展するリスクが高まります。

デューデリジェンスを行うことで、企業価値の適正な把握やリスクの洗い出しが可能となり、買収価格の妥当性や契約条件の交渉材料を得ることができます

逆に、売り手企業側も自社の価値や潜在的な問題点を正確に把握し、適切に情報開示することで信頼性を高めることができます。

DDの重要性を理解するポイント

DDは、単なる「調査」や「監査」とは異なり、M&Aが成立した後の統合(PMI:Post Merger Integration)を見据えたリスクマネジメントと企業価値向上のための戦略的アプローチでもあります。

たとえばデューデリジェンスの結果に基づき、契約書での表明保証(レプレゼンテーション&ワランティ)や補償条項、価格調整条項などを最適化し、買収スキームをより安全かつ合理的にデザインすることが可能です。

M&Aを成功させるには、DDの重要性を十分に理解し、適切なプロセスを踏むことが大前提と言えるでしょう。

デューデリジェンスを行う目的と背景

M&Aにおいて、デューデリジェンスがどのような目的・背景に基づいて行われるのでしょうか。ステークホルダーごとの視点に立ってみていきましょう。

買い手企業・投資家側の視点

買い手企業・投資家にとってDDは、投資リスクを最小化し、買収後の統合作業を円滑に進めるための有力な手段です。対象会社の事業構造、顧客基盤、財務状況、法的リスクなどを把握し、買収価格が適正かどうか、どの程度の追加コストやリソースが必要となるかを判断します。

もし潜在的な訴訟リスクや未払債務などが見つかれば、それを踏まえた交渉によって、買収契約書内の条項を調整し、将来的な負担を低減できる可能性があります。

売り手企業・被買収企業側の視点

売り手企業や被買収企業から見ると、DDは「厳しい監査」と感じられることもあるでしょう。しかし、適切かつ誠実な情報開示を行うことで、買い手側の信頼を得やすくなり、結果的により良い条件での売買契約に至るケースもあります。

また、DDを通じて自社の現状を客観的に把握することで、経営上の課題やリスクを再認識し、事前に対処を進められるメリットもあります。

たとえば、社内規程の整備不備や人事制度の未整合を発見し、早めに修正しておけば、将来的な企業価値向上のきっかけになるでしょう。

デューデリジェンスの歴史的背景と近年の動向

DDの起源はアメリカの証券取引法に由来するとされ、投資家保護の観点から「相当な注意義務」を尽くして企業情報を調べる必要性が制度として明文化されてきました。

日本では1990年代後半以降、本格的にM&Aが増加するにつれDDの重要性が広く認知されるようになっています。

近年では、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)といったESGの視点を重視する投資家や企業が増え、人権デューデリジェンスやサプライチェーンにおける強制労働リスクの調査など、調査範囲がより多様化しています。

デューデリジェンスの主な種類と内容

デューデリジェンスは、様々なファクターや専門分野により異なります。そこで、デューデリジェンスの主な種類とその内容を解説します。

ビジネスデューデリジェンス

対象企業のビジネスモデルや市場環境、競合状況、顧客基盤、販路などを分析します。

事業計画が現実的か、成長戦略やシナジー効果が期待できるか、将来的なリスクは何かなどを評価するのが目的です。経営陣へのインタビューや市場調査レポートの参照、競合企業との比較など、複合的な手法を用いて行われます。

財務・税務デューデリジェンス

決算書やキャッシュフローの分析、会計処理の適正性、在庫や設備投資の妥当性などを確認します。

財務・税務デューデリジェンスにおいては、対象企業の過去の財務状況を把握するため、一般的に過去数年分の財務諸表を精査します。

税務調査においては、未払税金や潜在的な追徴課税リスクに加え、対象企業の事業内容や取引構造によっては移転価格税制への対応状況なども確認の焦点となります。

企業によっては、不動産や固定資産の減価償却方法、棚卸資産の評価方法などにより、簿外の債務や過小評価されているリスクが潜むこともあるため注意が必要です。

法務デューデリジェンス

対象企業が保有する契約書や許認可状況、知的財産、訴訟リスク、コンプライアンス体制などを包括的に調査します。

秘密保持契約や業務委託契約、労働契約、取引先との契約条件など、将来の紛争リスクに直結する文書を徹底的にチェックすることが重要です。

さらに労務問題や独占禁止法、業法上の許認可手続きなどについても抜け漏れがないか確認し、違法・不適切な状況を未然に防ぎます。

【関連記事】
​​​​​​​M&Aの法務デューデリジェンスは弁護士に相談を!相談窓口や選び方などについて解説

人事・労務デューデリジェンス

対象企業の就業規則や雇用契約、社会保険対応などが労働法規に合致しているかを確認するパートです。

従業員の給与体系や評価制度、退職金制度なども調査対象となり、さらに労働組合や経営者との関係性、組織文化がM&A後のPMIに与える影響など、ソフト面にも着目します。最近ではハラスメントの有無やダイバーシティ推進状況なども調査項目に含まれるケースが増えています。

IT(システム)デューデリジェンス

業務システムの構造やセキュリティレベル、ライセンス契約の状況などを把握し、将来的なシステム統合の可否やコストを評価します。

特にクラウドサービスを多用している企業やITベンチャーの場合、システムの互換性や拡張性、データ管理の適法性などがM&Aの重要なリスク要因となることがあります。

サイバーセキュリティ上の脆弱性やライセンス契約上の不備が見つかれば、買収後の運用コストが予想以上に膨らむ可能性があるため注意が必要です。

その他(環境、知的財産、不動産など)

業種や事業領域により、工場や事業所の環境汚染リスク、有害物質の処理体制、温室効果ガス排出などが重大な焦点になる場合があります。

例えば、不動産物件を多数保有している企業では、物件の権利関係や土壌汚染の有無、耐震診断結果、テナントとの契約条件などを精査し、将来的な改修コストや賃貸借リスクを見極めます。

また特許、商標、著作権などの知的財産が企業価値を左右するケースでは、その管理状況やライセンス契約の有無を詳細に調査します。

デューデリジェンスのプロセス

デューデリジェンスはどのようなプロセスで行われるでしょうか。実務的なポイントを踏まえて解説します。

事前準備・スケジュール策定

まずは秘密保持契約(NDA)を交わし、調査する範囲や目的を明確化します。次に対象企業から提供される資料の一覧を作成し、データルーム(物理・オンライン)を整備します。

あらかじめスケジュールを立て、調査担当チームと調査期間を設定することで、効率的かつ網羅的に情報を収集・分析できる体制を整えます。案件の規模が大きいほど関与する専門家や部署も増えるため、情報共有のフローを早期に明確化することがポイントです。

具体的な調査手法とチェックリストの活用

ヒアリングや書類審査、現地視察が主な調査手法です。

特に書類審査では契約書や決算書、許認可証等を隅々まで確認し、契約期限や解除権、保全措置などの要件を見落とさないようにします。

チェックリストの作成が非常に効果的であり、リスクが疑われる箇所が発生したら追加で詳細調査を行い、必要に応じて担当部門や専門家を呼び込み、より深い分析を実施します。

調査結果の分析・レポーティング

最終的に得られた情報を分析し、重大リスクの有無や影響度を分類してレポーティングを行います。買い手企業や投資家は、このレポートをもとに買収価格や契約条件を再調整することが一般的です。

DDの段階で判明したリスクをどのように評価し、どう交渉戦略に落とし込むかが、M&A成功のカギを握ります。

報告書の形式は一般的に大項目ごとにリスクとその推定影響度をまとめ、対応策や法的根拠なども盛り込みます。

デューデリジェンスにおける弁護士・会計士・税理士・コンサルタントの役割分担

上記のように、DDは広範な分野にわたるため、弁護士(法務DD)、会計士(財務DD)、税理士(税務DD)、コンサルタント(ビジネスDD)などが協働するチーム体制が基本となります。

それぞれの専門家が持つノウハウを最大限引き出し、調査内容を総合的に照合することで、漏れのないDDが可能となります。

もちろん、規模の小さい案件では一部の調査範囲を省略したり、専門家が兼務するケースもありますが、基本的には専門性ごとに担当を明確化することが望ましいでしょう。

弁護士:法務デューデリジェンス

弁護士は、法務デューデリジェンスを担当し、対象企業の法的なリスクを網羅的に調査・分析します。

具体的には、まず企業の設立から現在までの登記、定款、株主総会・取締役会議事録などを確認し、組織運営の適法性を検証します。

事業のフェーズによっては、社内規程の整備状況、内部監査の実施状況なども踏まえ、ガバナンスや内部統制の運用状況を精査する場合もあります

重要な契約書(取引基本契約、ライセンス契約、不動産賃貸借契約、融資契約、投資契約など)を精査し、契約内容の妥当性、潜在的なリスク(不利な条項、解除リスクなど)、チェンジオブコントロール条項(※)の有無なども洗い出します。
※特にベンチャー・スタートアップ企業での投資契約や株主間契約など

進行中または潜在的な訴訟・紛争の状況、許認可・届出の取得・維持状況、知的財産権(特許権、商標権など)の権利関係、個人情報保護法や独占禁止法などの法令遵守状況(コンプライアンス)、未払い残業代リスクなどについても詳細に調査します。

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公認会計士:財務デューデリジェンス

公認会計士は、財務デューデリジェンスを担当し、対象企業の財務状況の実態を把握し、財務リスクを評価します。

主な調査対象は、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書などの財務諸表です。これらの数値が会計基準に準拠して適正に作成されているか、特に利益や資産の評価に粉飾や誤りがないかを精査します。

正常な収益力(実態収益力)の分析、運転資本(売上債権、棚卸資産、仕入債務)の増減分析、有利子負債や借入金の状況、設備投資の実態、簿外債務や偶発債務の有無などを詳細に調査します。

財務DDの結果は、対象企業の真の財政状態と収益力を明らかにし、将来のキャッシュフロー予測の精度を高めます。

これにより、適正な企業価値評価や買収価格の算定、M&A後の財務戦略や統合計画(PMI)策定に不可欠な情報を提供します。発見された財務リスクは、価格交渉や表明保証の項目にも影響を与えます。

税理士の役割:税務デューデリジェンス)

税理士は対象企業の過去から現在に至る税務申告の適正性や、将来的な税務リスクを調査・評価します。

具体的には、過去の法人税、消費税、源泉所得税、固定資産税などの申告書や関連資料を精査し、申告漏れや計算誤り、解釈の違いによる更正・追徴課税のリスクがないかを確認します。

  • 過去の税務調査の履歴や指摘事項
  • 繰越欠損金の利用可能性と制限
  • グループ法人税制や組織再編税制の適用状況
  • 移転価格税制に関するリスク(国外関連者との取引がある場合)

などを詳細に調査。

また、M&Aのスキーム(株式譲渡、事業譲渡、合併など)が実行された場合の税務上の影響、例えば、繰越欠損金の引継ぎ制限や、みなし配当課税、資産の含み益に対する課税などを分析し、最適なストラクチャーの検討に貢献します。

コンサルタント:ビジネスデューデリジェンスなど

ビジネスDDでは、対象企業の事業計画の実現可能性、市場環境(市場規模、成長性、競合状況)、ビジネスモデルの強み・弱み・持続可能性、製品・サービスの競争優位性、顧客基盤、販売チャネル、サプライチェーン、組織体制、キーパーソンなどを分析・評価します。

M&Aによって期待されるシナジー効果(売上拡大、コスト削減など)の源泉と実現可能性、潜在的な事業リスクを明らかにします

IT DDでは、基幹システムやITインフラの状況、情報セキュリティ体制、システム統合に伴うリスクやコストを評価します。

人事DDでは、組織文化、人事制度、キー人材のリテンションなどを評価します。コンサルタントは、これらの調査を通じて、対象企業の事業価値や将来性を評価し、M&Aの戦略的な意義、買収後の事業運営や統合プロセス(PMI)の計画策定に必要な情報を提供します。

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デューデリジェンスにおける外部専門家の選定ポイント6つ

ューデリジェンス(DD)の成功は、依頼する外部専門家の能力と質に大きく左右されます。

M&Aや投資の意思決定に関わる重要なプロセスであるため、専門家の選定は慎重に行う必要があります。以下に、専門家を選定する上で特に重要なポイントを5つ解説します。

専門性と実績

デューデリジェンスは対象分野(法務、財務、税務、ビジネス、IT、環境、人事など)ごとに高度な専門知識が要求されます。

まず、依頼したいDDの分野において、候補となる専門家(ファームや個人)が深い知見と経験を有しているかを確認することが最も重要です。

単に資格を持っているだけでなく、対象企業が属する業界特有の慣行、規制、リスク要因に精通しているかは、潜在的な問題点を見抜く上で大きな差となります。

また、検討しているM&Aの規模や複雑さ(例えば、クロスボーダー案件、特殊な事業モデル、再生案件など)に関して、類似の案件を取り扱った実績が豊富にあるかを確認すべきです。

コミュニケーション能力と連携

デューデリジェンスは、依頼者、対象企業、そして複数の分野の専門家チームが関与する共同作業です。そのため、専門家には高いコミュニケーション能力が求められます。

依頼者の意図や懸念事項を正確に汲み取り、調査の進捗や結果、専門的な分析内容を、専門用語を多用せず、分かりやすく依頼者に報告できる能力は不可欠です。

中間報告や最終報告書の質はもちろん、質疑応答への対応の的確さや迅速さも重要な判断材料となります。

他の専門家との連携経験が豊富であれば、分野横断的な論点についてもスムーズな検討が期待できます。担当窓口となる人物との相性や、ファーム内での情報共有体制なども、円滑なプロジェクト遂行のために考慮すべき要素です。

費用対効果

専門家から提示される報酬体系(時間単価に基づくタイムチャージ制か、作業範囲に応じた固定報酬制かなど)が明確であり、見積もりの内訳(想定される作業範囲、投入される人員と工数、単価など)が詳細かつ妥当であるかを確認します。

単に報酬金額の安さだけで選ぶのではなく、その費用でどのような品質のサービス(調査の深度、報告書の質、専門家の経験レベルなど)が提供されるのかを総合的に判断することが重要です。

限られた予算の中で、必要な調査範囲をカバーし、最大限の情報を得られる提案であるかを見極めます。

見積もり段階で想定される作業範囲を明確にし、追加費用が発生する可能性のある条件(例えば、想定外の重大な問題が発見された場合の追加調査など)についても事前に確認しておくべきです。

複数の候補から見積もりを取得し、サービス内容と費用を比較検討することが望ましいでしょう。

スピードと対応力

M&Aのプロセスは、多くの場合、非常にタイトなスケジュールで進行します。特にデューデリジェンスの期間は限られていることが多く、専門家には迅速かつ効率的に調査を進め、期限内に質の高い報告を行うスピード感が求められます

候補となる専門家が、案件に対応できる十分な人員(リソース)と体制を有しているかを確認することが重要です。問い合わせへのレスポンスの速さ、初期対応の迅速さ、タイトなスケジュールへのコミットメント力などは、選定における重要な指標となります。

また、DDの過程で予期せぬ問題が発見された場合や、状況の変化に応じて調査範囲の変更や追加調査が必要になった場合に、柔軟かつ迅速に対応できる能力(対応力)も不可欠です。

独立性と客観性

デューデリジェンスは、対象企業のリスクや価値を客観的に評価することが目的です。

そのため、専門家は依頼者や対象企業、その他の利害関係者から独立した立場で、公正な視点に基づいて調査・分析を行う必要があります。

候補となる専門家が、対象企業やその株主、取引先などとの間に、客観性を損なう可能性のある利害関係(過去の顧問契約、取引関係、個人的な関係など)を持っていないかを確認することが極めて重要です。

多くのファームでは、利益相反(コンフリクト・オブ・インタレスト)に関する内部規定やチェック体制を設けているため、その内容を確認するのも有効です。

依頼者の意向に過度に忖度することなく、プロフェッショナルとしての独立性を保ち、冷静な分析と評価を行える専門家を選ぶことが、最終的に依頼者の利益を守ることにつながります。

社内PJチームとの協働関係

社内にも法務部や経理財務部、人事部などのプロフェッショナルが存在する場合、外部専門家と連携しながら調査を進めることができます。

社内メンバーが自社の業務フローや企業文化を理解している点は大きな強みであり、外部専門家だけでは把握しきれない情報を補完できます。お互いの役割分担を明確にし、定期的なミーティングで情報共有を行うことで、スピーディーかつ的確なDDが実施しやすくなります。

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DDの費用・期間・スケジュール感の目安

デューデリジェンスにおいて、費用や所要期間などはどのくらいなのでしょうか。

デューデリジェンスにかかる一般的な費用例

デューデリジェンスにかかる費用は、対象企業の規模、事業の複雑さ、調査範囲、専門家チームの構成や人数によって大きく変動します。

中小規模の案件では数百万円から数千万円程度となることが多いですが、中規模以上の案件では数千万円から1億円を超えることもあります

特に大規模なクロスボーダー案件などでは、数億円に達するケースも存在します。

買い手企業側が大手の総合ファームに全面委託する場合と、中小の専門家や社内リソースを組み合わせる場合とでは、費用にも大きな差が出ます。

初期の段階で予算枠を設定し、どの範囲まで調査を行うか優先順位を決めることが重要です。

【関連記事】
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予算・リソース不足時の工夫

中小規模のM&Aやスタートアップ買収などでは、費用面でフルスケールのDDを実施するのが難しい場合があります。

その場合は、リスクの高い領域に調査を絞り込んだり、セルフDDを併用するなどの方法が考えられます。

外部専門家に対しても全面委託ではなく、スポットコンサルティングの形でポイントを押さえたアドバイスを受けることも効果的です。限られたリソースの中でも、最も重大なリスクを見落とさないための柔軟な工夫が必要となります。

デューデリジェンスの実務上の重点ポイントや近時のトピック

最後に、デューデリジェンスにおける実務上の重要ポイントや、最新のトレンドやトピックをご紹介します。

PMIにおける活用

PMI(Post Merger Integration)とは、M&A成立後の統合プロセスを指します。

DDで抽出したリスク情報や企業文化の違いなどを踏まえ、買収企業と被買収企業の組織・制度をどのように統合するかが、事後の成果に直結します。

たとえば財務システムの統合や人事評価制度の再設計などは、事前に十分なDDが行われていればスムーズに進む可能性が高まります。

逆に情報不足のままPMIに突入すると、想定外の問題が次々に顕在化し、統合プロセスの遅延や社員のモチベーション低下につながる恐れがあります。

クロスボーダーM&A

近時では、海外企業を対象とする『クロスボーダーM&A』も少なくありません。

クロスボーダーM&Aでは、言語や商習慣、法制度の違いからDDの難易度が飛躍的に高まります。

契約書や財務諸表が英語以外の言語で作成されている場合、翻訳が必要となります。また、対象国の法制度、税制、商習慣などを考慮する必要があるため、必要に応じて現地の専門家と連携することも検討されます。

税制や労働法制、環境規制なども国ごとに大きく異なるため、複数の法域にわたる調査を効率よく実施できる体制を整えることが求められます。

また為替リスクや政治リスクなど、国内案件とは異なる要素を加味しなければならない点も注意が必要です。

人権デューデリジェンス

近年、ESG投資や国際的な人権意識の高まりを背景に、サプライチェーン全体での人権侵害リスクを調査・監視する人権デューデリジェンスが注目されています。

具体的には、児童労働や強制労働、ハラスメント、ダイバーシティの確保など、多岐にわたるテーマをカバーする必要があります。

グローバル企業を買収する際には、国や地域ごとの法規制や文化的背景を踏まえた対応が欠かせません。今後は金融機関や投資家からの要請も増え、人権DDの重要性はさらに高まると予想されます。

【参考文献】
人権デューデリジェンスの実施 救済メカニズムの構築

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まとめ

デューデリジェンス(DD)は、M&Aの成否を大きく左右する重要なプロセスです財務、税務、法務、ビジネス、ITといった主要な分野に加え、必要に応じて人事などの多岐にわたる分野を多角的に調査することで、潜在的なリスクを可視化し、買収価格や契約条件、統合計画(PMI)の最適化に役立てることができます。

財務や税務、法務、ビジネス、IT、人事など多岐にわたる分野を多角的に調査することで、潜在的なリスクを可視化し、買収価格や契約条件、統合計画(PMI)の最適化に役立てることができます。

さらに、クロスボーダー案件ではグローバル視点の専門家ネットワークを活用し、人権デューデリジェンスなど新しい分野にも対応するなど、M&A実務はますます複雑化・高度化しているのが現状です。

売り手企業にとっても、DDのプロセスを通じて企業の状況を客観的に把握し、開示資料を整備しておくことは、買い手側との信頼関係を築くうえで重要なポイントです。

また、DDで明らかになった課題を早期に改善することで、将来的な企業価値向上にもつなげられます。たとえば、労務や内部統制に問題があれば、必要な是正措置をとることで経営体制を強化し、企業としての魅力をさらに高めることが可能です。

M&Aを成功に導くためには、DDの理解と実践が不可欠です。弁護士や会計士など外部専門家の協力を得ながら、社内チームとも緊密に連携し、ポイントをしっかり押さえたうえで準備・検討を進めましょう。十分な事前調査と適切な戦略立案があれば、M&Aは企業成長の大きな飛躍の機会となります。

補足として、デューデリジェンスは単なるリスク評価の手段にとどまらず、組織や事業の根本を見直すきっかけにもなります。

買い手・売り手双方にとって学びの場でもあるため、慎重さと柔軟性をあわせ持ったアプローチが求められます。今後さらに進むグローバル化や多様化した価値観への対応を考慮しながら、DDの知識と経験を積み重ねていくことが、企業の成長と持続可能性を支える重要な鍵となるでしょう。

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東京都渋谷区代々木1-47-9ザ・パークレックス代々木2階
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