電子契約のリスクとは?|リスクを減らし安全に電子契約を活用するための方法

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電子契約には便利な面が数多くある一方で、導入時に対処しなければならないリスクも存在します。電子契約に関するリスクの内容と、各リスクを最小化するための対処法などを中心に、弁護士の視点から解説します。
ゆら総合法律事務所
阿部由羅
執筆記事
取引・契約

電子契約は、業務効率の改善などの観点から非常に便利であり、最近多くの企業で導入が進んでいます。

 

しかし、非対面・デジタルを大きな特徴とする電子契約の性質上、導入時に対処しなければならないリスクも存在します。必要に応じて弁護士に相談しながら、リスクを最小限に抑えた形で、安全に電子契約を運用していきましょう。

 

この記事では、電子契約に関するリスクの内容と、各リスクを最小化するための対処法などを中心に、弁護士の視点から解説します。

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電子契約の運用で起こり得る4つのリスク

電子契約は、締結や管理などのプロセスを適切にマネジメントしなければ、思わぬリスクを生じてしまいます。電子契約を新規に導入する際には、以下に記載する主な想定リスクへの対処法を検討・実施することがきわめて重要です。

契約の有効性に関するリスク

電子契約は非対面・オンラインで締結するので、相手方がどのようにして締結処理を行ったかを確認するのが困難です。そのため、有効な契約締結権限に基づいて契約が締結されたかどうかの点で、紙の契約書に比べて疑義が生じやすいという問題があります。

契約内容が改ざんされるリスク

必ずしも電子契約に限った問題ではないですが、契約内容の改ざんにも注意が必要です。たとえば締結後にファイルの内容が書き換えられたり、締結の前にファイナル版が差し替えられたりして、電子契約の内容が改ざんされるおそれがあります。

情報漏洩に関するリスク

電子契約のファイル管理や情報セキュリティがおろそかになっていると、従業員による契約データの持ち出しや、サイバー攻撃などによる第三者への情報漏洩が発生するリスクがあります。

 

機密事項が含まれた契約内容が外部に流出してしまうと、自社がビジネス機会を逸してしまうおそれがあるほか、取引先からの信頼を失ってしまうことにも繋がりかねません。

書面化義務がある契約書を電子化してしまう

契約書類の中には、法律上(紙の)書面の作成が要求されているものがあります。(紙の)書面の作成が必要とされている契約書類の一例は、以下のとおりです。

 

・定期借地契約・定期建物賃貸借契約(借地借家法22条、38条1項)

・宅地建物売買等媒介契約(宅建業法34条の2第1項)

・マンション管理業務委託契約(マンション管理の適正化の推進に関する法律73条1項)

・労働者派遣契約(労働者派遣法26条1項、同施行規則21条3項)

 

法律上の規定を知らず、または無視してこれらの書面を電子上のみで作成した場合、法令違反の状態が生じてしまいます。法令違反に該当した場合、契約が無効となったり、監督官庁からの行政指導を受けたりするおそれがあるので注意が必要です。

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リスク対策①|電子契約の有効性を担保する方法は?

ここからは、上記で掲げた電子契約に関する各リスクへの対処法について解説します。まずは、電子契約締結の有効性を担保するための方法として考えられるものを見てみましょう。

電子署名を活用する

電子署名法に基づく電子署名を活用すれば、電子契約の真正な成立について推定効を及ぼすことができます(電子署名法※3条)。

※正式名称:電子署名及び認証業務に関する法律

 

第三条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。

引用元:電子署名法第3条

 

なお、推定効を生じるためには、電子署名が「これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る」という要件を満たすことが必要です。

 

電子署名が「本人だけが行うことができる」ものであることを示すための方法としては、認証局が発行する電子証明書を添付したり、電子署名を行う際に二段階認証を要求したりすることが考えられます。電子署名により電子契約の真正な成立が推定されれば、電子契約の有効性が覆される可能性はかなり低くなります

契約締結権限を確認できる資料の提出を求める

電子契約を締結する際も、紙の契約書の場合と同様、相手方の契約締結能力・権限を確認することが大切です。契約締結能力に関しては、会社に関する基本的な事項として、

 

・会社の存在

・代表権の存在

・代表者の同一性

などを確認することが一般的となっています。

 

これらを確認するためには、商業登記法に基づく電子認証制度を活用して、法務局が発行する電子証明書を取得するのが便利です(商業登記法12条の2)。法務局が発行する電子証明書は、1通で上記の事項を公的に証明してくれますので、相手方の基本的な契約締結能力をスムーズに確認することができます。

 

なお、電子証明書を用いない場合には、会社の現在事項証明書などにより代用します。

 

契約締結権限に関して確認すべきこと

・契約締結について社内的な意思決定が完了していること

・契約締結の名義人に締結権限の授権が行われていること

 

を確認する必要があります。

 

社内的な意思決定については、取締役決定書(または取締役会議事録)の内容についてリーガルチェックを行うことにより、法律上要求されている手続きを踏まえた有効な意思決定が行われたかを確認することが可能です。また、会社代表者や登記された支配人以外の者(〇〇部長など)が名義人となって契約を締結する場合は、会社からその者に対する契約締結権限の委任状を確認すべきでしょう。

契約締結前後の事情を証拠化しておく

電子署名法上の電子署名を活用せず、電子サインで済ませる場合には、電子契約の真正な成立が法律上推定されません。この場合、契約締結前後の事情を念のため証拠化し、後で契約の有効性が争われた際に間接事実として利用できるようにしておくのがよいでしょう。

 

たとえば、

・相手方代表者とのメール上のやり取りを保存する

・契約締結後、相手方が契約に従って行動していた事実を示す証拠を残しておく

などの方法をとっておくことが考えられます。

 

リスク対策②|電子契約の改ざんを防ぐ方法は?

電子契約の締結以後に契約内容が改ざんされることを防ぐ方法としては、タイムスタンプを活用することが考えられます。また、そもそも契約締結以前に契約書が改ざんされてしまうことを防ぐためには、バージョン管理と弁護士による最終チェックの徹底が重要です。

タイムスタンプを活用する

タイムスタンプは、タイムスタンプが施された日時以降、電子契約のファイルデータが改ざんされていないことを示すことができます。したがって、契約締結時点でタイムスタンプを施しておくことにより、事後的な改ざんを防ぐことが可能です。

契約書のバージョン管理を徹底する

契約締結以前に電子契約のファイルデータが改ざんされることを防ぐには、契約書のバージョン管理を徹底する必要があります。改ざんが発生するパターンとしては、

  1. ファイナル化されていないバージョンを用いて締結版が作成されている
  2. 意図的にファイナル化後のファイルが無断で改変されたりするケース

が考えられます。

 

このような事態が発生しないように、締結版として作成されたファイルの内容は、必ずファイナル版との間で機械比較などによる対照を行うことが肝要です。さらに、締結版の電子契約の内容については、複数の担当者によるダブルチェック・トリプルチェックを行うことが推奨されます。

弁護士に契約内容の最終チェックを依頼する

契約書のレビューを担当した弁護士に、ファイナル版・締結版として問題ないかの最終チェックを依頼することにより、ファイナル化・締結版作成段階での改変などは防げる可能性が高くなります。契約交渉の最終段階では、「内容にほとんど合意しているのだから、軽くチェックすればいいだろう」と考えてしまいがちです。

 

しかし、契約内容改ざんのリスクを防ぐためには、最終段階でのチェックこそ丁寧に行う必要があります。企業担当者としては、弁護士に「最終チェックを入念に行ってほしい」旨を念押しすると良いでしょう。

 

当然弁護士の側としても、契約交渉の最後の仕上げとして「画竜点睛を欠く」とならないように、自発的に入念なチェックを行うことが求められます。

【参考記事】弁護士が契約書のレビューをする際のチェックポイント|企業法務における基本業務を解説

 

リスク対策③|電子契約に関する情報漏洩を防ぐ方法は?

従業員の故意・過失や、サイバー攻撃などによる情報漏洩への対策も、電子契約を導入する際には重要な留意点の一つです。情報漏洩対策の具体的な方策としては、以下の例が考えられます。

ファイルにアクセス権・パスワードを設定する

アクセス権を適切に設定することにより、電子契約のファイルデータには、業務上必要な人しかアクセスできないようにしておきましょう。さらにファイルには破られにくいパスワードを付すことで、万が一ファイルが第三者に送信されたとしても、ファイルの開封を防ぐことができます。

 

このように、電子契約のファイルには二重以上のセキュリティを施しておくことにより、情報漏洩のリスクを最小化することが大切です。

情報管理に関する社内研修を徹底する

情報漏洩に対する従業員の危機感を一定以上に保つためには、定期的に社内研修を行うことが望ましいといえます。特に電子契約を最初に導入する際には、担当者に対するインプットはもちろんのこと、全従業員に対して電子契約の取扱い方針を周知して情報漏洩についての注意喚起を行うべきです。

 

情報セキュリティに関する社内研修は、弁護士による法律・コンプライアンスの観点からの講義や、IT担当者による技術的な側面からの講義などさまざまなパターンが考えられます。従業員の情報セキュリティに対する意識を啓蒙するためにも、幅広い内容の社内研修を提供することが求められます。

ウイルスに対するセキュリティを整備する

会社のシステムがサイバー攻撃に対して脆弱な状態のままでは、情報漏洩のリスクは高くなってしまいます。電子契約に関する情報漏洩対策を万全に行うためには、ウイルス対策ソフトを適切に機能させることに加え、システム上のセキュリティ不備がないかを一度網羅的にチェックすることが望ましいでしょう。

 

リスクを最小限に抑えながら電子契約を安全に導入するには

契約締結の有効性・内容の改ざん・情報漏洩などのリスクを最小限に抑えつつ、安全に電子契約を導入するには、

 

適切な電子契約システムを選択すること

法律、コンプライアンスの観点から問題がないかをチェックすること

 

の2点が重要になります。

電子契約システムの選び方

電子契約システムは、締結時に電子署名法上の要件を満たす電子署名を施す「電子署名型」と、より簡易な方法で済ませる「電子サイン型」の大きく2つに分かれます。すでに解説した「推定効」が認められるのは「電子署名型」のみですので、契約締結の有効性を確保するという観点からは、極力「電子署名型」の電子契約システムを選択すると良いでしょう。

 

また、システム上に保存された契約書が外部に流出するリスクを防ぐためには、電子契約システムが採用しているセキュリティが強固なものになっているかをチェックすることも大切です。

電子契約のリスクについて弁護士に相談

電子契約は最近になって活用例が増加した新しい仕組みなので、新規導入の際には、企業担当者も不慣れなことがほとんどでしょう。電子契約の仕組みや注意点をよく理解せずに漫然と導入したのでは、後からオペレーション上・法律上の問題が発生してしまう可能性があります。

 

そのため、新規導入時には事前に弁護士に相談することをお勧めいたします。電子契約に関する案件を積極的に取り扱っている弁護士に相談をすると、リスクや法律上のポイントを把握したうえで、適切なオペレーションを構築して対処することが可能です。

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まとめ

電子契約には高い利便性が認められる一方で、契約締結の有効性・契約内容の改ざん・情報漏洩などに関するリスクが存在することも事実です。企業が電子契約システムを新規に採用・導入する場合には、上記のリスクに関する分析を事前にしっかりと行い、適切な対策を実施しておくことが重要になります。

 

企業担当者が電子契約の導入に関する留意点を確認したいとき、電子契約の取扱いに関する社内研修を実施したいときなどには、一度弁護士にご相談ください。

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