パワハラ防止対策の取組ポイントを解説|導入事例もご紹介

専門家監修記事
近年、企業にとってパワーハラスメント防止対策を講じることは急務となっています。パワハラがきっかけで大事な人材を失う可能性がありますし、SNSの普及の影響で、会社の信用を失うこともあります。この記事では、パワハラ防止のための具体的な対策についてご紹介します。
弁護士法人浅野総合法律事務所
浅野 英之
監修記事
人事・労務

厚生労働省における平成30年3月「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」によると、職場のいじめや嫌がらせ等に関する相談が毎年増加傾向にあり、平成28年度は70,917件、これはすべての相談のうち実に22.8%を占めるといいます。

このことからも、企業内におけるパワーハラスメント対策は急務であり、これまでの社内ルールを抜本的に改善する必要があります。

ここでは、パワーハラスメントにおける防止対策や取り組みのポイント、さらに導入事例について詳しくご紹介します。

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パワハラ防止に関する関連法案整備について

パワーハラスメントの定義については、厚生労働省の委託事業として開設された「あかるい職場応援団」というWEBサイトにて以下のように記述されています。

職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいいます。

【引用:パワハラの定義|あかるい職場応援団

このように、職務上の地位や立場を利用し、業務の範囲を超えて、精神的あるいは身体的苦痛を与える行為とされています。

このパワハラについて厚生労働省の「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」によると、いじめや嫌がらせの相談件数は、年々増加しています。

また、本報告書にはパワーハラスメントの予防、解決に向けた取り組みを実施している企業は、全体の52.2%ほどと、以前よりは対策を講じる企業も増加しているものの、まだ十分な対策が浸透していないのが現状です。

これらパワハラ問題の背景を受けて、厚生労働省は、2018年11月6日に労働政策審議会の分科会を開き、企業にパワハラ防止措置を義務づける法整備案をあげました。

しかし、出席者からは「パワハラと業務上の指導における線引きが難しい」と慎重な意見が交わされ、具体的な対策は決まりませんでした。

ただ厚生労働省としても、今後パワハラの防止措置に関する法律を義務付ける方針のため、パワハラ対策を講じていない企業は、早急な対応が求められるでしょう。

パワハラ防止に関する対策のポイント

ここでは、パワハラ防止に関する対策のポイントを、厚生労働省の規定する「パワーハラスメント対策導入マニュアル」を参照しご紹介します。

なお、「パワーハラスメント対策導入マニュアル」については、以下からご覧になれます。

トップメッセージを発信する

ここでのトップメッセージとは、組織のトップがパワーハラスメントを重要な課題として捉えていることを全社員に向けて発信することです。

パワーハラスメントの防止がなぜ必要なのか、その理由についても詳しく説明する必要があります。

トップメッセージを発信することで、社員全体に「職場のパワーハラスメントは撲滅すべきである」という認識が広がりますし、相手の人格も尊重し合えるようになります。

このように、組織内のルールが明確になれば、一人ひとりの社員がパワハラに対して自覚を持つことができ、パワハラを事前に防止するとともに、労働環境の改善にもつながるのです。

トップメッセージの例

パワーハラスメントは、人権を著しく傷つける行為であり、職場環境の悪化を招く最大の要因になります。そのような行為は断じて許さず、社内規則により厳正に対処していきます。

パワハラに関するルールを決める

パワーハラスメントにおける社内ルールを設けます。具体的には、労使一体となり労働協約や労使協定などでルールを明確化するのが効果的です。

パワーハラスメントを行った者への罰則規定や適用する条件、さらには処分内容に至るまで明確に、そして社員にわかりやすい形で定めましょう。

ただし、就業規則等にパワーハラスメントのルールを盛り込む際は、労働組合や労働者の代表などと慎重な意見交換が必要です。

また、パワーハラスメントに関する規約は、その内容が明確に周知されるように従業員への説明会を開いたり、文書を配布したりしましょう。

パワーハラスメントの禁止規定を就業規則に定める例

【引用:職場のパワーハラスメント対策ハンドブック|公益財団法人21世紀職業財団

上記、厚生労働省委託事業「公益財団法人21世紀職業財団」の「職場のパワーハラスメント対策ハンドブック」には、パワーハラスメントを就業規則に明記する例や、労働協約等の労使協定の例についても掲載されています。

ぜひこちらも参考にしてください。

社内アンケートなどで実態を把握する

職場のパワーハラスメント防止対策を打ち出すにあたり、その実態を把握することも重要です。

そして、実態把握には「社内アンケート」を実施するとよいでしょう。

社内アンケートを実施するには、以下の点を留意して行う必要があります。

  1. アンケートの対象者が偏らないようにする
  2. より正確なパワハラの実態把握のため、アンケートは匿名にする
  3. アンケート以外の方法として、産業医によるカウンセリングや、個人面談の際に自己申告項目に入れるなどの工夫をする
  4. 全社員向けの相談窓口がある場合は、社員をその窓口へ案内する

なお、アンケートの調査手法には、インターネット上の問い合わせフォームを無料のプラットフォームで開設する方法や、紙媒体や電子ファイルなどを活用する方法があります。

さらに、アンケートは、パワーハラスメントの実態把握だけでなく、防止対策を講じた後においても、効果検証の際に活用することが望ましいです。

なるべく早期にアンケートを実施することで、防止対策への移行がスムーズに行えます。

厚生労働省の委託事業にて運営している以下の「あかるい職場応援団」では、パワーハラスメントのアンケート雛形も掲載されています。ぜひ参考にしてください。

教育をする

パワーハラスメントの防止対策を講じるにあたっては、未然に防ぐという意味で社内研修を積極的に実施する必要があります。

パワーハラスメントにおける社内研修は、防止対策のなかで最も重要な項目です。

社内研修の実施にあたっては、管理者向けと一般従業員向けで分けて実施するのが望ましいでしょう。

社会保険労務士等の専門家に講師を依頼する、社内研修資料を管理者向け、一般従業員向けに配布するなど工夫をこらしましょう。

なお、パワーハラスメントにおける社内研修は、1度で終わるのではなく定期的に行うことで、意識改革が進みます。

パワーハラスメントにおける研修資料については、以下のURLより雛形をダウンロードできますので、ぜひ活用してみましょう。

社内での周知・啓蒙

パワーハラスメントを撲滅、継続的に防止するためには、社内での周知・啓蒙活動が重要となります。

周知の仕方としては、単に社内ポスター等で訴えるのではなく、会社全体がしっかり取り組んでいることを示すことが大切。

相談窓口の案内や就業規則への明記、パソコンへデータを開示するなど、働く社員がわかりやすいよう周知しましょう。

周知の方法としては、会社のトップがパワーハラスメントの防止に向けて積極的に取り組む姿勢を明確にします。

役員や部長など、より経営人に近い立場の者は、半年に1回など定期的にパワーハラスメント撲滅・防止に向けた発言を行いましょう。

その上で、人事部門や組織長による具体的取組内容の説明会を実施します。

説明会では、「パワーハラスメントの定義や内容」、「具体的な事例」、「取組の意義や目的」などを周知しましょう。

その他にも相談窓口の利用方法を案内し、相談者が安心して利用できる窓口であることを説明したり、定期的に社内メールで案内したりするなどの工夫が必要です。

相談や解決の場を提供する

実際に社内で相談窓口を設けましょう。パワーハラスメント被害を訴える相談者が相談しやすい環境を作ることが大切です。

社員ができるだけ気軽に相談できる仕組みの構築とともに、相談窓口は「内部」に設置するのか「外部」に設置するのかを決定しましょう。

また、相談窓口の担当者は誰を選任するのかも重要です。

相談担当者の役割を、相談の受付のみにするのか、受付とパワハラ被害の事実確認まで行うのかなど、役割をしっかり決めておきましょう。

相談窓口の担当者や、実際の相談の流れは、社会保険労務士や弁護士事務所などと慎重に協議しておくことをおすすめします。

また、「パワーハラスメント社内相談窓口の設置と運用のポイント」について厚生労働省委託事業である「あかるい職場応援団」サイトより、ダウンロードできます。

再発防止のための取り組み

職場におけるパワーハラスメント問題の解決は、再発防止策とあわせて行う必要があります。

たとえば、パワーハラスメントを行った従業員を規定に則って処罰したとしても、その後被害を訴えた相談者が職場に居づらくなってしまっては根本的な職場環境の改善につながりません。

さらに、パワーハラスメントを行った従業員が再び、同様の問題を行うような職場環境も理想とは程遠いです。

これらを踏まえて、定期的にパワーハラスメントの防止対策を見直す、またはパワーハラスメントを行った従業員への再発防止研修の実施も視野に入れましょう。

再発防止策を進めるにあたり、内外問わず事例を用いて社員へ説明する、管理職登用の際に、部下と適切なコミュニケーションが取れる人材かどうかも条件に加えることで、再発防止に貢献します。

このように、考えられる有効な再発防止策を講じることが重要です。

パワハラ防止に関する企業取組事例について

ここでは、株式会社クオレ・シー・キューブに掲載されている「富士火災海上保険株式会社」のパワーハラスメント防止への取り組みを事例としてまとめたものをご紹介します。

役員や執行役にもパワハラに関する研修を徹底

富士火災海上保険株式会社では、社長によるパワーハラスメントを撲滅するというメッセージのもと、役員や執行役自身もパワーハラスメントの研修を受け、理解や知識を深めた上で、管理職への指導もできる状態にしているといいます。

行動規範にもパワハラ防止を明記する

富士火災海上保険株式会社では、社長によるセクシャルハラスメントやパワーハラスメント防止の意思表示を明確にしていますが、それだけでなく人権の尊重という観点から以下のようなメッセージを行動規範に盛り込んでいます。

人権の尊重

・富士火災の社員は、国籍、人種、皮膚の色、血統または民族的・部族的出身、同和問題、思想、信条、宗教、年齢、性別、婚姻の有無、障がいの有無、HIV感染者等による差別を行ってはいけません。

・富士火災の社員は、不当な差別やいやがらせのない健全な職場環境を維持しなければなりません。

【引用:ハラスメント対策の導入事例・実績一覧|株式会社クオレ・シー・キューブ

社外講師を招いた役員人権研修の実施

パワーハラスメントを防止または撲滅するためには、企業全体に人権意識を浸透させる必要があります。

富士火災海上保険株式会社では、年に1回90分間の役員研修を実施。「経営者としての人権学習」というテーマで、社外講師を招いて人権課題に取り組んでいます。

人権相談に関するホットラインの開設

人権問題の被害者が、所属する部署において事態の解決ができない場合に対応する人権相談に関するホットラインを開設しています。

窓口は、人事部健康管理室または人権推進部が担当し、通報内容を調査し、その調査結果を通報者、経営委員会、監査委員会に報告することを定めています。

富士火災海上保険株式会社では、相談者と人権推進部が連絡を取り、社外で会うことを原則とし、いつでも、どこでも、相談者の要望に応じて、丁寧な面談を心がけているそうです。

まとめ

近年、企業にとってパワーハラスメント防止対策を講じることは急務となっています。

人権問題に関わることから相談者を守る意味でも、健全な職場環境を育む上でも、さらに透明性のある会社経営を行うためにも、ぜひこの記事を参考に、パワーハラスメントの防止対策を導入しましょう。

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