
M&Aを検討中の経営者の方々は、弁護士の役割について理解を深めることが重要です。
本記事では、M&Aにおける弁護士の業務や果たす役割を詳しく解説します。
また、M&A弁護士の選び方、費用についても触れます。
M&Aにおける弁護士の重要性を理解し、弁護士と円滑なM&Aを進めましょう。
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M&Aにおける弁護士の役割
M&Aにおいて、弁護士は書類作成や手続きのサポート、法務アドバイザーとしての役割など、多岐にわたる重要な役割を担っています。
以下では、それぞれの役割について詳しく解説します。
法的サポートの提供
まず、M&Aにおける弁護士の主要な役割のひとつに、法的サポートの提供があります。
弁護士は、法律的な視点からリスクの洗い出しや問題の確認をおこないます。
これにより、潜在的な法的トラブルを事前に特定し、適切な対策を講じることができます。
具体的には、弁護士は法務デューデリジェンス(法務DD)を実施し、対象企業の法的リスクを評価します。
これには、契約関係、知的財産権、訴訟・紛争、規制遵守状況などの確認が含まれます。
弁護士は法的な専門知識を活かして、リスクの所在と影響度を分析し、依頼者に適切なアドバイスを提供します。
また、弁護士は金融商品取引法(旧証券取引法)や独占禁止法などM&Aに関連する各種法規制の遵守状況を確認します。
弁護士は、これらの法規制に照らしてM&A取引の適法性を確認し、必要な手続きや対応を助言します。
契約締結のサポート
M&Aにおいては、秘密保持契約(NDA)や最終契約(DA)など、さまざまな契約書の作成と締結が必要となります。
弁護士は、これらの契約書の法的確認とサポートをおこないます。
秘密保持契約とは、M&Aの初期段階で締結される重要な契約です。
この契約により、交渉過程で開示される機密情報の保護が図られます。
弁護士は、秘密保持契約の内容を法的な観点から確認し、依頼者の利益が適切に保護されるように助言します。
最終契約は、M&Aの条件や手続きを定める包括的な契約です。
弁護士は、最終契約の各条項を法的に問題がないかを確認し、依頼者に有利な条件を交渉します。
また、契約書の文言の解釈や、リスク分担などについても法的な観点から助言をおこないます。
書類作成と手続きのサポート
M&Aでは、会社法に基づくさまざまな手続きが必要となります。
弁護士は、これらの手続きが適正に実施されるよう書類作成と手続きのサポートをおこないます。
たとえば、株式の譲渡や合併などの手続きには株主総会の決議や債権者保護手続きなどが必要です。
弁護士は、これらの手続きに必要な書類の作成をサポートし、手続きの適法性を確認します。
また、公的機関への届出や登記なども、弁護士がおこなってくれます。
的確な書類の作成と適正な手続きの実施により、法的トラブルのリスクを最小限に抑えることができます。
法務アドバイザーとしての役割
弁護士はM&Aにおける法務アドバイザーとしての重要な役割も担います。
法務アドバイザーとは、M&Aの全体像から法的な観点で助言をおこなう専門家のことです。
弁護士は、M&Aの各段階において法的な問題点や留意点を指摘し、デューデリジェンスの結果を踏まえたうえでリスクの低減策や契約条件の調整など、適切な対応策を提案します。
また、交渉の局面では法的な観点から交渉戦略を立案し、依頼者の利益を最大化するためのサポートをおこないます。
さらに弁護士は、法務アドバイザーとしてM&A完了後の紛争予防や問題発生時の対応についても重要な役割を果たします。
M&A契約に基づく権利義務関係を踏まえ、紛争リスクを最小化するための方策を助言します。
万が一、問題が発生した場合には弁護士が法的な観点から適切な対応をおこないます。
このように、弁護士は法務アドバイザーとして、M&Aの全体像を法的な観点から統括し、依頼者の利益保護に尽力します。
なお、ケースによってはファイナンシャル・アドバイザーやM&A仲介業者を起用することもありますが、交渉の代理をおこなえるのは弁護士に限られています(弁護士法第72条)。
M&A弁護士の具体的な業務
M&Aにおいて弁護士の果たす役割は多岐にわたります。
ここでは、M&A弁護士がおこなう5つの主要な業務について詳しく解説します。
法務デューデリジェンス
法務デューデリジェンスとは、M&Aの対象となる企業の法的リスクを特定・評価する作業です。
弁護士は、対象企業の契約関係、訴訟リスク、許認可の状況、従業員関連の問題など、法令遵守や訴訟リスクをはじめ、法的問題の有無や障害の有無をあらゆる観点から精査します。
このとき、専門的な調査が必要となることから、弁護士や税理士といったさまざまな専門家の協力も求められます。
この過程で発見された法的な問題点は、買収価格の算定やM&Aの是非の判断に大きな影響を与えます。
弁護士の専門的な知見により、潜在的なリスクを早期に発見し、適切に対処することが可能になります。
たとえば、対象企業が重大な訴訟を抱えていたり、コンプライアンス違反を起こしていたりする場合、買収後に大きな負債や悪評や風評被害が広がることで経営に支障をきたす可能性があります(レピュテーションリスク)。
法務デューデリジェンスを通じて、弁護士であればそのようなリスクを事前に把握し、対策を講じることができます。
契約書の作成と確認
M&Aにおいては、秘密保持契約(NDA)や最終契約書(DA)などさまざまな契約書が交わされます。
契約書の文言一つひとつが、M&A後の企業運営に大きな影響を与える可能性があります。
弁護士は法律の専門家として、契約内容の法的な適正性を確認し、依頼者の利益を最大限に保護するよう尽力します。
たとえば、秘密保持契約において、守秘義務の範囲や期間を明確に定めることは極めて重要です。
また、最終契約書においては、買収価格の調整条項や表明保証条項など、細かな条項の内容が将来の紛争リスクを大きく左右しかねません。
弁護士の知見を活かすことで、これらのリスクを未然に防ぐことができるでしょう。
規制遵守の確認
M&Aは、金融商品取引法や独占禁止法など、さまざまな法規制の対象となります。
弁護士は、M&Aが関連法規に適合しているかを確認し、必要な手続きをサポートします。
たとえば、独占禁止法に抵触するようなM&Aは、公正取引委員会から排除措置命令などを受ける可能性があります。
また、インサイダー取引規制に違反すれば、刑事罰の対象となるおそれもあります。
これらの事態を防ぐためにも弁護士は、M&Aが規制に適合するよう、事前の調査と対策をおこないます。
また、海外企業とのM&Aの場合は、各国の法規制の違いにも注意が必要です。
国際的なM&Aにおいても弁護士は、各国の弁護士と連携しながら法的問題に対処します。
顧問業務
M&Aの成立後も、弁護士は企業の顧問として法的問題に関する助言をおこないます。
特に、M&A後の企業統合の過程では、買収した企業の従業員の処遇や契約関係の承継など、さまざまな法的問題が生じる可能性があります。
これらの問題に対して顧問弁護士は適切なアドバイスを提供します。
また、M&A後に予期せぬ訴訟が提起された場合など、緊急の法的対応が必要になることも想定されます。
顧問弁護士は、平時から企業の状況を把握しているため、迅速かつ的確な対応が可能です。
M&Aアドバイザー業務
弁護士は、法律の専門家としてM&Aの各段階でアドバイスを提供します。
具体的には、交渉の代理、企業価値の算定、契約書の作成など、M&Aの中核的な業務に関与します。
M&Aにおいては、法的な問題と経営上の問題が密接に関連しています。
弁護士は、M&Aを成功に導くための総合的なアドバイスを法とビジネスの両視点から提供します。
たとえば、買収価格の決定においては、法務デューデリジェンスの結果を踏まえたうえで、経営戦略に即した適切な価格設定を助言します。
また、交渉の局面では、法的な観点から相手方の主張の問題点を指摘し、依頼者にとってより有利な条件を引き出すことに尽力します。
このように、M&Aアドバイザーとしての弁護士の役割は、法的な側面にとどまらず、M&A全体の成功に大きく寄与するものといえるでしょう。
M&A弁護士の選び方
M&Aを成功に導くには、適切な弁護士選びが不可欠です。
ここでは、M&A案件の経験と専門性、コミュニケーション能力と対応力、報酬体系の透明性と妥当性という3つの観点から、M&A弁護士の選び方について解説します。
M&A案件の経験と専門性
M&A弁護士を選ぶ際に最も重要なのは、M&A案件の経験と専門性です。
M&Aは一般的な法律業務とは異なり、企業法務や契約法、金融法など幅広い知識が求められます。
候補となる弁護士が、過去にどのようなM&A案件を手がけてきたのかを法律事務所のWebサイトなどで確認しましょう。
案件の規模、業種、クロスボーダー取引の有無などを見ることで、その弁護士のM&Aにおける専門性を判断することができます。
また、所属する法律事務所のM&A業務の実績も重要な指標となります。
M&Aに特化した法律事務所や、M&A専門チームを有する大手法律事務所であれば、高度な専門性が期待できるでしょう。
コミュニケーション能力と対応力
M&Aは複雑な案件が多く、関係者も多岐にわたるため、弁護士には高いコミュニケーション能力と対応力が求められます。
初回面談の際は、弁護士が依頼者の要望を的確に理解し、わかりやすく説明してくれるかどうかを確かめましょう。
複雑な法律用語を平易な言葉で説明できる能力は、スムーズなコミュニケーションに不可欠です。
また、M&Aでは想定外の事態が発生することも珍しくありません。
そうした場面で、弁護士が冷静かつ迅速に対応できるかどうかも重要なポイントとなるでしょう。
ケースによっては、1日に何度も連絡を取り合うことがあるため、信頼できるかどうかはもちろん、人間的にも相性がよいと感じる弁護士を選ぶようにしましょう。
報酬体系の透明性と妥当性
M&A弁護士の報酬は、案件の規模や複雑さによって大きく異なります。
したがって、報酬体系の透明性と妥当性は、弁護士選びの重要な判断材料となります。
着手金、顧問料、成功報酬など、報酬の内訳を明確に提示してくれる弁護士を選ぶことが大切です。
特に成功報酬については、算定方法を事前に確認しておきましょう。
また、報酬金額が妥当かどうかを判断するには、ほかの法律事務所との比較が有効です。
いくつかの法律事務所に見積もりを依頼し、報酬の相場をある程度把握しておくことをおすすめします。
以上の3つの観点を踏まえ、自社のM&A案件に最適な弁護士を選ぶことが円滑なM&Aの実現につながります。
専門性、対応力、費用対効果のバランスを考慮し、慎重に検討しましょう。
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M&A弁護士に依頼する費用
M&Aにおいて弁護士に依頼する費用は、案件の規模や法律事務所の料金体系によって大きく異なります。
ここでは、M&A弁護士に依頼する際の代表的な費用項目である初回相談料、着手金、顧問手数料、契約書作成料とデューデリジェンス費用、成功報酬(レーマン方式など)について詳しく解説します。
初回相談料
法律相談料が発生する場合は、30分あたり5,000円〜1万円程度が一般的な相場です。
近年、初回相談料を無料で設定している法律事務所が増えているものの、M&Aのような専門性の高い法律相談の場合、無料で法律相談をおこなうケースは少ないようです。
初回相談では、依頼者のM&Aに関する問題や目的を弁護士が理解し、適切な法的アドバイスを提供します。
弁護士はこの段階で案件の概要を把握し、必要な法的サポートの内容や費用について説明します。
初回相談を経て、依頼者と弁護士の間で法的サポートの必要性と費用について合意がなされた場合、正式な依頼関係が開始されます。
着手金
M&A案件を正式に依頼する際には、着手金の支払いが必要となります。
着手金は、弁護士がM&A案件に着手する際に受け取る費用です。
着手金の金額は案件によって異なりますが、通常は200万円〜程度が相場です。
着手金は、弁護士がM&A案件に関する初期的な調査や分析をおこなう際の費用に充てられます。
なお、着手金は案件の進捗状況に応じて分割して支払う場合もあります。
また、着手金とは別に、弁護士費用の一部として事前に預託金を求められる場合もあります。
顧問手数料(リテイナーフィー)
M&Aにおいて、企業が弁護士と顧問契約(リテイナー契約)を結ぶ場合があります。
顧問契約を結ぶことで、M&Aに関する法的問題について随時弁護士に相談できるようになります。
顧問手数料(リテイナーフィー)は、月額または年額もしくはタイムチャージで設定されるのが一般的です。
金額は、ケースによって異なりますが、月額数万円から数十万円程度が相場です。
顧問契約を結ぶメリットとしては、M&Aに関する法的問題について迅速にアドバイスを得られること、案件に関する情報を弁護士と共有しやすいことなどが挙げられます。
契約書作成料とデューデリジェンス費用
M&Aにおいては、秘密保持契約(NDA)や最終契約書(DA)など、さまざまな契約書の作成が必要となります。
これらの契約書の作成を弁護士に依頼する場合、契約書作成料が発生します。
また、M&Aにおいては、対象企業の法的リスクを調査するデューデリジェンスが必要不可欠です。
デューデリジェンスを弁護士に依頼する場合、別途費用が発生します。
契約書作成料とデューデリジェンス費用は、案件によって大きく異なりますが、一般的には数十万~1,000万円程度が相場です。
成功報酬(レーマン方式など)
M&Aにおいては、案件が成立した場合に弁護士に成功報酬を支払うことが一般的です。
レーマン方式と呼ばれる成功報酬算出基準が用いられ、基準額の金額帯ごとに手数料率を個別に設定し、金額帯ごとに計算した結果を合算して手数料を算出します。
成功報酬の金額は、案件の規模や複雑性によって異なりますが、数百万円から数千万円程度が相場です。
レーマン方式のメリットとしては、案件が成立しなかった場合には成功報酬が発生しないため、依頼者の負担が軽減されることが挙げられます。
その一方で、案件が成立した場合には、高額な成功報酬が発生するリスクがある点には注意が必要です。
さいごに
M&Aにおいて弁護士は、法的サポートの提供、契約締結のサポート、法務アドバイザーとしての役割など、多岐にわたる重要な役割を担っています。
法務デューデリジェンスや契約書の作成・確認、規制遵守の確認など、M&Aを成功に導くうえで弁護士の専門的な知見は不可欠です。
さらに、弁護士の適切な関与により、法的トラブルを未然に防ぎ、相手企業との対等な取引を実現することができます。
これにより、M&Aの公正性と透明性が保証されるのです。
M&Aを検討中の経営者の方は、早い段階から弁護士に相談し、専門的なアドバイスを得ることをおすすめします。
その際は、M&A案件の経験と専門性、コミュニケーション能力と対応力、報酬体系の透明性と妥当性を重視しながら選ぶようにしましょう。
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