従業員不正に対する対処法について解説!損害賠償請求の対象条件も

専門家監修記事
企業における従業員不正は、「会社の金銭の着服」「商品や備品の横領」「機密情報の流出」など様々です。これらの違法行為は到底許されるものではありません。ここでは、従業員に不正の疑いがある場合の対応や不正が確定した場合の処分を説明します。
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤 康二
監修記事
人事・労務

企業における従業員不正は「会社の金銭の着服」や「商品や備品の横領」、「機密情報の流出」、「SNSへの誹謗中傷の書き込み」など多岐に渡ります。そのような違法行為は、決して許されるものではありません。

 

大手企業においては、これらの不正に対する明確な対策マニュアルがありますが、中小企業の場合は対応の規定があいまいで、不正にすら気づかないこともあります。

 

ここでは、従業員に不正の疑いがある場合の対処法や、不正が確定した場合の処分などについてご説明します。

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従業員の不正は多岐に渡る

従業員による不正の種類は、「会社の金銭の着服」や「商品や備品の横領」、「機密情報の流出」、「SNSへの誹謗中傷の書き込み」などがよく聞かれるものです。

 

昨今は情報社会となり、SNSなどを通して、会社の機密情報を流出させるといった事案も発生しています。

 

本記事では、このような従業員の不正・不祥事(本記事では併せて「不正」と表記します。)について簡単にご説明します。

不正が疑わしい場合の調査段階での対処法

まずは従業員に不正の疑いがあり、調査中である場合の対処法についてご紹介します。

 

大切なことは、「早期に社内で担当者を決めて迅速に調査する」ことです。そして調査を始める際は、不正の疑いがある従業員や他の従業員に動向を気づかれないよう、水面下で裏付けのための事実確認を行うことです。極めて慎重な対応が求められます。

 

それでは具体的な、不正が疑わしい場合の対処法についてみていきましょう。

社内対策チームを設立

会社内で従業員不正が疑われる事態が発生した場合には、迅速に担当者(対策チーム)を設置することが重要です。

 

また対策チームを編成する前段階では、不正事案に対し「5W1H」を明確にし、情報を整理しておきましょう。

 

不正に関する5W1H

  • いつ(When):不正はいつから行われているのか、継続中なのか
  • どこで(Where):不正はどこで行われているのか
  • 何を(What):どんな不正が行われているのか
  • なぜ(Why):どのような背景のもと不正が行われたのか
  • どのように(How):どのようなプロセスでどのようなスキームで行われたのか

 

担当メンバーをどのように選任するかについてですが、あまりメンバーを広げすぎると情報共有や意思決定が困難となってしまいますし、情報漏えいの危険も高まります。不正に関する社内対策チームは、必要最低限のメンバーで構成するべきです。

内部通報による不正事案の場合はヒヤリング

従業員の不正は、内部通報によって発覚する場合もあります。

この場合には、内部通報者のヒヤリングを実施し、どのような状況で、どのような理由から、どのような不正を認識したのかを慎重に調査する必要があります。また、内部通報者との接触は、不正調査の動きが社内に伝わらないよう、状況によっては社外で行うことも検討に値します。

 

内部通報にも大きく分けて「社外窓口からの通報」と「社内窓口からの通報」があります。このような通報は、社内であれ社外であれ匿名である場合も多いです。

 

この場合、内部通報者と不正対策チームとがコンタクトを取ることができませんので、社外窓口を担当する弁護士事務所に調査を依頼して、匿名性を保持したまま調査を進めるという方法もあります。ただ、匿名のままでは限界があるという場合は、その旨通報者に説明し、不利益がないことを理解してもらって、社内の人間も介入して調査を進めるのが望ましいでしょう。

 

匿名解除は、日頃から内部通報の社内窓口が信頼できるとの認識があってこそ可能です。日頃から安心して通報できる体制づくりが重要かもしれません。少なくとも、内部通報者の保護の観点から、事前にマニュアルやルールの整備・周知をしておくことは必要でしょう。

証拠保全

内部通報者や関係する人物からヒヤリングを行い、証拠物がある場合には保全措置を講じます。

 

証拠となり得る「伝票」や「帳票類」、「重要書類」等は、適切に保全措置を講じておかないと、不正を行ったとされる従業員によって改ざん・破棄される可能性があります。そのため、このような客観的証拠は迅速に保全する必要があります。

 

また、不祥事の証拠となるEmail、SNS上の書き込み、インターネットやデータへのアクセスログなども、早期に保全して押さえておきましょう。さらに、不祥事を行った当事者の業務用パソコンは証拠として価値が高いですので、適切なタイミングで回収して保全しておくのが大切です。

対策チームによる不正の検証

上記のとおり、保全した証拠に基づいて、社内対策チームにおいて不正に関する調査・検証を進めることになります。

 

不正の検証にあたっては、証拠保全を行ったパソコンの解析、社外関係者の取材調査、行動監視等の依頼も含めて行うため、社内対策チームだけでは対応できない場合も多いです。

 

このような場合は、早めに顧問弁護士や調査会社などの外部業者を活用して、迅速な調査を進めましょう。

不正が確定した従業員に対する対応

不正当事者とされている従業員に対しても、一定の配慮の下で適切な対応を行う必要があります。具体的には、調査処分のそれぞれの段階での対応があります。

従業員不正事実の調査

従業員に対して、不正をした証拠を示しながら、不正の有無、動機、弁解についてヒヤリングを行います。

 

従業員が不正を全て認めれば良いですが、その全部又は一部を否定することも十分あり得ます。したがって、事前の証拠検討は必須ですし、追加調査が必要となることもあります。なお、事情聴取にあたっては聞き取り役と記録役の2人体制で行うのが望ましいでしょう。

 

調査の実際としては、従業員から、不正について認める部分、知らない部分、否定する部分について詳細に聞き取りを行います。認めている部分についてはそのまま事実を認定することができますが、知らない又は否定の部分については別の証拠から認定の可否を判断することになります(場合によっては、認定の可否を判断するため、追加調査を行うこともあります。)。

 

このようにして、最終的に会社が認定した事実を確定することになります。

 

※ 自宅待機命令

会社の不正を行った従業員に対しては、さらなる不正や証拠隠滅などを防ぐために「自宅待機命令」を指示しておくこともあります。軽微な不正であれば必要ないかもしれませんが、重大な不正の場合には社内の秩序維持の観点から自宅待機を命じることは多いと思われます。

 

なお、自宅待機命令を指示している間の賃金については、原則として支給が必要です。しかし、就業規則の規定の内容や不正の内容によっては無給での自宅待機を命じることもできます。この点については、慎重な判断が必要ですので、顧問弁護士等の判断を仰ぎましょう。このように自宅待機を指示した場合、日時や場所を伝えて出社命令を出しながら、事情聴取などの調査を進めることになります。

 

なお、事情聴取を行う場合の質問事項は以下を参考にしてください。

 

不正事業聴取に関する質問事項>(一例)

  1. 不正事実を行ったことを認めるか
  2. 謝罪や反省、弁償に意思があるか
  3. 不正行為の時期とその金額は
  4. 不正行為をするにあたり持ち出した会社の物品の返還
  5. 不正の際に利用された書類の収集
  6. 筆跡や捺印などの本人痕跡が本人のものかどうか
  7. 他の従業員、取引先などの協力者がいるかどうか

 

事情聴取の際、供述が二転三転する場合も考えられます。

このように供述内容が変遷していることは、供述の信用性に大きく関わる事項ですので、変遷状況がわかるように、しっかり記録しておきましょう。

不正を行った社員の処分

従業員不正の調査の結果、不正の事実を認定するということであれば、これを前提に従業員を処分することになります。このような処分としては、以下のようなものが考えられます。

 

  • 会社での責任(懲戒解雇、懲戒処分、人事処分など)
  • 民意上の責任(損害賠償請求)
  • 刑事上の責任(業務上横領罪、背任罪など)

 

上記を参考に、関係機関や弁護士と相談の上決定してください。

不正を行った従業員に対する懲戒処分の種類

こでは、不正を行った従業員に対する懲戒処分の種類についてご紹介します。

①戒告・けん責

懲戒処分の中で最も軽い処分が「戒告」や「けん責」です。いずれも従業員に対する指導・警告を行い、改善を求める処分です。

 

不正が軽微な場合には、戒告・けん責の処分で決着させるということも十分ありえます。

②減給

減給とは、その名の通り「賃金減額」のことであり、賃金の一部を減額する処分です。

この点、減給は際限なく行えると誤解している方がいますが、減給の上限は法律により、一回の不正については1日の賃金額の50%、複数の不正でも減給合計額は賃金支払期間の10%と決まっています。減給処分はこの範囲内で行うようにしてください。

 

減給も戒告・けん責に次いで軽い処分であるため、不正が軽微であるが戒告等では軽すぎるという場合にこちらの処分を選択することになります。

③出勤停止

出勤停止とは、対象者について就労を一定期間禁止する処分です。

 

出勤停止期間中は無給となり、勤続年数にも算入されません。

 

出勤停止は、一定期間賃金が支給されなくなるため、ある程度重い懲戒処分とされています。そのため、不正が軽微である場合に出勤停止処分を行うと、処分の効力が争われる可能性は十分あります。不正内容と処分の均衡が取れているかは慎重に判断してください。

④降格

降格処分とは、社員の職責を剥奪したり、職位を下げることを意味します。

 

不正を働いたことにより、部長から課長に降格するなどが良い例です。

 

降格は将来的に影響を及ぼす懲戒処分であるため、かなり重い処分であると認識されています。そのため、この処分を選択する場合は、不正がかなり重大というケースに限られるでしょう。

⑤諭旨解雇・諭旨退職

諭旨解雇諭旨退職は、従業員に退職届の提出を促し、この届出がない場合には懲戒解雇とする処分です。下記のとおり、懲戒解雇が極めて重大かつ深刻な処分であることに鑑みて、これを回避するために自主退職を促す処分です。

 

自主退職しない場合は、結局、懲戒解雇処分となりますので、処分の重さとしては懲戒解雇と同程度と考えられています。

⑥懲戒解雇

懲戒処分の中で、もっとも重い処分が「懲戒解雇」です。

 

懲戒解雇は、横領・背任などの重大な犯罪的行為、重大な経歴詐称などの深刻な不正に対して科されるような、最も重い懲戒処分です。懲戒解雇は即時職を失うだけでなく、再就職にも重大な影響を及ぼす可能性があるため、その有効性は非常に慎重に判断されます。したがって、懲戒解雇以外の選択肢もあり得るのであれば、まずはそちらを検討するべきでしょう。

 

なお、誤解されている場合も多いのですが、懲戒解雇だからといって当然に解雇予告や解雇予告手当が不要となるわけではありません。これらの予告や予告手当は、懲戒解雇の場合も原則として必要です。但し、労基署から懲戒解雇について除外認定を受けた場合に限り、これら解雇予告や解雇予告手当を支払う必要がなくなります。実際のケースでは除外認定まで受けているケースは多くないと思われます(労基署が除外認定をしたからといって懲戒解雇が必ず有効になるというものでもない点も十分留意しましょう。)。

 

また、就業規則において懲戒解雇となった場合に退職金の全部又は一部の支払いを行わないと明記していた場合、事案の深刻度に応じて退職金が減額又は不払いとなることがあります。この点も、あくまで就業規則で明記していた場合に限りますので、懲戒解雇だから当然に退職金がゼロとなるものでもないことは十分留意しましょう。

こんなときは損害賠償請求を検討しよう

ここでは、従業員の不正に関して損害賠償を請求することが可能な状況をご案内します。あくまで目安ですので、詳しくは顧問弁護士等に問い合わせてみてください。

横領・窃盗

窃盗横領詐欺等は、財産犯罪であり、民事的にも不法行為として損害賠償請求の対象となります。そのため、行為者に対し、会社が被った被害について損害賠償請求を行うことができます。ここでいう被害とは、基本的には実害が出ているその部分であり、慰謝料等は通常含まれません。

誹謗中傷

ネット上での誹謗中傷事案は、特定の人物に対する名誉毀損となる行為や侮辱となる行為をインターネットを利用して行う行為です。

 

このような行為もやはり犯罪行為になり得るものとして、民事上は不法行為に該当します。そのため、被害を受けた会社は行為者に対して損害賠償請求を行うことも可能です。もっともネット上での誹謗中傷は、個人であればともかく、会社に対してどのような損害が生じるかは明確でないため、損害の認定は容易でないケースも多いと思われます。

不正アクセス等

会社のパソコン等に不正にアクセスする行為は「不正アクセス禁止法に違反しますし、そのような行為により会社の企業秘密を取得したり、漏洩したりする行為は「不正競争防止法に違反します。

 

従業員がこれら不正を行っていた場合、やはり犯罪行為として不法行為の対象となりますし、場合によっては刑事告訴を検討することにもなるでしょう。なお、不正競争防止法違反の場合、一定の行為について損害を推定する規定もありますので、通常の事案よりも損害賠償請求が容易であることもあります。

 

もっとも、不正競争防止法で保護の対象となる「営業秘密」は厳格な要件のもとで認められるものであるため、会社が機密情報と考えていても、「営業秘密」に該当しないこともありますので、留意してください。

従業員の不正を未然に防ぐには?

従業員の不正を未然に防ぐには、社内で不正に対する対応について明確なルールを定め、通報窓口や調査部署などの体制を整えること、このようなルール・体制を従業員に周知すること、不正が起こった場合はルールに則って速やかな調査を行い適切な処分を行うことです。

 

これに加えて、不正があった場合の、事案や処分の内容を周知するということも効果的である場合があります。また、定期的に第三者機関による監査を導入するなどの方法も検討に値します。

 

また、不正の起きやすい場面(例えば、会社の金銭管理や取引先の選定等)について明確なルールを策定し、ダブルチェックを行うなどの監査体制を整えるなどして、不正を起こしにくい土壌を地道に作り上げていくことが肝要です。

 

不正に詳しい弁護士であれば、このあたりも踏まえて不正の起きにくい業務内容かどうかも精査してくれます。

まとめ

従業員の不正はあってはいけない事態ですが、従業員不正が生じた場合には、即座に社内対策チームを設立し、社外顧問弁護士などと連携のもと、不正調査から解決まで動き出す必要があります。

 

そのためには、普段から不正に関する対策チームの設置条件などのマニュアルを整備しておきましょう。

 

不正は断固として許されるべきものではなりません、迅速な対応を心がけましょう。

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不正の被害に応じて損害賠償なども考えなくてはなりません。どのような処分をくだすかに関してしては弁護士と相談の上、慎重に判断しましょう。

 

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